冒険をしたい王女さん。
その先にはとんでもない危機が待ち受けていて。
危機に立ち向かうふたりの運命は……、そんなお話。
本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』の二次創作です。
ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した二次創作です。
『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「飛行士」→「飛行士さん」
PC「機械屋」→「機械屋さん」
等々となっています。
先に記しとく設定、
飛行士(主人公)は男性、
作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
と言うことで。
使った(引いた)カード
キャラクター:飛行士
イントロダクション:鍵から始まる冒険譚
シーン1:お忍びの王女様
カード1:光:世渡り上手
シーン2:スリにあう
カード2:光:天才
シーン3:とどろく雷鳴
カード3:闇:賞金首
シーン4:がれきの下の希望
カード4:光:秘めた血筋
シーン5:死者の目覚め
カード5:闇:都会っ子
クライマックス:赤い凶星
クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.
おいらは飛行士。航空輸送業の会社、「スピーダー特急便」の社長だ。
まあ、社長って言ってるけど、社員はおいら一人。
おいらの飛行機械、名前は「ディケイドスピーダー」。
「機械屋」って言うものすごいエンジニアが作った飛行機械。
「エントロピージェネレーター」で飛んだ世界初の飛行機械。
その名前をもらった。
おいらのディケイドスピーダーは、輸送業をするにはいちばん小さいサイズの機体。
いちばん小さい標準コンテナをひとつだけ積める。
それと、複座だから一人だけなら人も運べる。
それなりに前のこと。
おいらの初めての仕事。
すごく刺激的だった。仕事って言うよりもちょっとした冒険だった。
仕事が終わった後、かなりの額の報酬が手に入った。
加えて、右手の甲に「泉の女神」、左手の甲に「炎をまとった岩の女神」、それぞれの紋様を刻んでもらえた。
「神の紋様」の持ち主は「神の加護」を受けられる。
紋様を持ってるってのはすごいことらしい。
おいらにはそれが二つ、滅多にないとてつもない幸運だ。
おいらの拠点は共和国の地方の空港だ。
会社を立ち上げる前、格安で買ったボロボロの飛行機械、後のディケイドスピーダーを修理してたときからの馴染みの空港だ。
初めての仕事の後、空港でいちばんの輸送会社の大将に尋ねられた。
『航空輸送業ギルドには入ってるな?』
おいらには何のことだか分からなかった。とりあえず、入ってないのは確かだ。
だから『入ってない』と答えた。
大将が言うには、毎月いくらか会費をはらえば、燃料が少し安くなったり、空港使用料がそこそこ安くなったり、ギルドを通して仕事を請け負うと儲けが少し多くなったり、等々、いろいろと良いことがある、とのことだ。
おいらはすぐにギルドに行って入会した。
紋様については、古い付き合いの友達に神話なんかの研究をしてるやつがいたんで、そいつに見てもらった。
右手の甲、「泉の女神」、水の眷属の神。神の中ではそれなりにメジャーだそうだ。
左手の甲、「炎をまとった岩の女神」を見てそいつは驚いた。
火の眷属でもあり大地の眷属でもある。ふたつの力を持っている。滅多にない紋様らしい。
そいつから手の甲だけを隠すハンドカバーをもらった。
古傷の痛み止め、とでも言って紋様を隠せ、と言われた。
私利私欲のために「神の紋様」を欲しがっているやつはいくらでもいる。
中には手の甲の紋様が手に入れば、と考え違いをしてるやつもそれなりの数いる。
そんな連中は、紋様が刻まれた手を切り落とせば……、と無茶なことをする。
そもそも紋様は人の魂と神の力がリンクしてる証にすぎない。だから「手」を手に入れたところで神の力は手に入らない、のだが、考え違いをしてるやつがそれなりにいるとのことだ。
だから、厄介ごとを避けるために紋様を隠しておけ、だそうだ。
その話を聞いておいらはすぐにハンドカバーで手の甲を隠した。
それと仕事。
「女神の加護」のおかげなのか、仕事はすぐに軌道に乗った。
二日か三日かにひとつくらい、仕事が安定して入ってくるようになった。毎回それなりの報酬が手に入る。
仕事の次の日はディケイドスピーダーの整備をした。
正直、不安のある機体なんで、空港で待機してるときはできるだけ整備をしてる。
そんなある日。
この日は朝から首都空港にコンテナを運んだ。
荷物を降ろしてすぐに戻ってきたから、夕方までまだ十分な時間があった。
航空輸送業ギルドに次の仕事を見に行ったが、おいらにできる仕事はなかった。
日が暮れる頃、家に帰った。
おいらは一人暮らし。空港関連の仕事をしてる人向けのアパートに住んでる。
郵便受けを確かめると、分厚い封筒が入っていた。
部屋の鍵を開けて部屋に入りつつ、封筒を確かめた。
当たり前だがおいら宛。
驚いたことに差出人は父ちゃんだった。
父ちゃんは10年くらい前に家を出て、そのまま行方不明になってる。
「一人前になる」との書き置きと、5年くらいは十分な家族の生活費を置いていった。
おいらの家は両親と妹とおいら。
母ちゃんもがっつり働いてたから、生活には困らなかった。
しかしこの封筒、差出人は父ちゃんだが父ちゃんの住所は書かれてなかった。
封筒を開けると、クッションで包まれた「何か」が入ってた。
封筒の中にはそれだけ、他には何も入ってなかった。
包みを開けると金色の鍵が出てきた。立派な意匠の鍵だった。
「鍵」の部分は当たり前の鍵のかたちだ。けど、手に持つ方がえらく立派な造りだった。
龍をイメージしたデザイン。龍の瞳には宝石のようなものが埋め込まれてた。
いったい何の鍵なのか?
父ちゃんが送り主。それ以外は何もわからない。
だけど、いずれわかるだろう。
おいらは鍵の類はだいたいいつもズボンのポケットに入れてる。だから特に考えずにポケットに入れた。
翌日。
おいらは空港のロビーを歩いてた。まだ朝が始まったばかり。深夜便と早朝便がぽつぽつと到着するが、ロビーに人はまばら。もうすぐすると大きい船が一度に何隻か着く。そこからが空港の朝の始まり。
ぼーっと歩いてた。相手もまわりを見てなかったのだろう。おいらは「だれか」とぶつかった。
相手は女の子だった。
女の子が持っていたかばんから何かが落ちた。ロビーの床でカチッと音をたてた。ティアラだった。
「あ、申し訳ない」
おいらは床に落ちたティアラを拾い上げて女の子に渡した。
女の子はティアラを半ば奪うようにしておいらの手から取った。
そうしてから、おいらを上から下まで見た。
「あなた、空港の人?」
そう尋ねられた。
首から空港のIDカードをぶら下げてるのを見たらしい。
「ああ、そうだけど……」
おいらがそう言うと、女の子はおいらの手をつかんでロビーの壁際まで引っ張った。
女の子は言った。
「ちょっといいかしら、
私はこの国の王女、
でも私、あなたたちのように冒険がしたい。
宮殿暮らしは退屈なの」
だそうだ。
女の子は「この国の王女」と言ってるがここは共和国だ。
これはもしかすると……。
「もしかして、あんた連合王国から来たのか?」
「当たり前でしょ、冒険がしたいの!」
女の子と少し話をした。女の子は本当に王女だった。
問題はなぜこの空港にいるのか、だ。
乗る飛行機械を間違えたんだ。
この街と一字違いの名前の街へ行くつもりだった。
王女が行きたかったのは、連合王国にある冒険っぽいアトラクションで有名なテーマパークのある街だ。
この空港では時々ある間違いだ、と言われている。が、おいらは間違えた人に会うのは初めてだった。
どうしようもない。喫茶店にでも入ってゆっくり話をしよう。
おいらと王女は喫茶店を目指した。
大型船が到着し始めた。ロビーがちょっとした人混みになる。
おいらの横を王女がならんで歩く。おいらはちらりちらりと王女を見ながら歩いた。
王女の向こう側を子供? が歩いている。
王女に着かず離れず。スリをするつもりだ。狙いは王女。おいらでもわかる。
子供の手が王女のかばんに伸びた。
その子の手がかばんに入ったところでおいらはその子の手をつかんだ。
「くそっ、離せよ! 見逃せよー!」
その子はじたばたと暴れた。
年端もいかない女の子だった。
空港警察に引き渡せばそれで済む。だけど、何となくそんな気にならなかった。
おいらと王女と女の子、三人で喫茶店に入った。
女の子に事情を聞いた。
スリをしようとした理由は簡単すぎた。
友達に『スリをしてこい』と言われた、それだけだった。
おいらも王女もあきれ返った。
そんなことを言うのは友達じゃない。悪いことは悪いとはっきりと言え。そんな感じにきつく言った。
女の子はおいらと王女の言葉をうつむいて聞いていた。
だけど、おいらと王女の話が終わると顔をあげた。きりっとした覚悟を決めた表情だった。
「友達」はバスターミナルのはずれにいると言った。
喫茶店を出た。
おいらと王女は着いて行こうか? と聞いたが、女の子は一人で大丈夫、と言った。
女の子はロビーから出た。大丈夫、と言ったが気になる。
おいらと王女は後をつけた。
女の子が言った通り、バスターミナルのはずれに子供が何人かいた。
おいらと王女は建物のかげから女の子を見守った。
その子供たちに女の子が言い始めた。
女の子は言い切った。悪いことは悪い。間違ってることは間違ってる。じゃあお前が行ってこい。等々。
もちろん子供たちも聞きっぱなしではない。でも女の子は子供たちの言葉に上手く反論する。子供たちは何も言えなくなった。
女の子は最後に「仲直り」を提案した。それで丸く収まった。
不安だったが、心配しなくても大丈夫だった。
王女が言うには、あの子は言い方が上手い、頭の良い子、もう大丈夫、だそうだ。
「空港にいても仕方がない」
王女が言った。
おいらたちはバスターミナルにいる。繁華街へのバスに乗った。
繁華街について、王女の一声は、
「大した街じゃないわね」
だった。
そりゃそうだ。連合王国の首都と共和国の地方都市。街の格が違う。
そう言いながらも、王女はあちらの店へこちらの店へ、いろいろと見てまわる。
案外「街なみ」は見ているが「街の中」は見慣れてないのかもしれない。
ふわり、と水が頬を撫でた。そんな感じがした。
空を見る。曇ってはいるが、ところどころには青空が見えなくもない。
もう一度、水が頬を撫でた。
おいらは王女にカフェに入ろうと誘った。
「どうして?」
が王女の答え。
上手く言えないがとにかく入ろう、ちょっと強く言った。
「そうね、少し疲れたわ」
王女は納得してくれた。
カフェに入って、2分か3分。
急に暗雲が立ち込めた。
ぽつぽつと雨が降り出した。雨はどんどん強くなる。土砂降りの大雨。雷鳴がとどろいた。
「あなた、もしかして雨が降るのがわかってたの?」
そう聞かれた。嘘は言えない。
「雨の気配を感じた。……訳ありでね」
雨が降るのがわかったのは女神、「泉の女神」の力だ。おいらに水の気配を教えてくれる。
外はまだ大粒の雨だが水の気配は去ろうとしている。
「もうすぐやむよ」
「まさか、こんなに降ってるのに?」
じきに雨が弱まって、やんだ。
「すごい……、本当にわかるのね」
「おいらの特技、……かな」
雨が上がってからいくらかの時間、話をした。
王女は宮殿での生活にあきあきしてるそうだ。
「毎日毎日、儀式の連続。
いろんなところのお偉いさんの謁見。
もううんざり」
心底嫌そうな言い方だった。
「だけど、みんな心配してるんじゃ……」
「大丈夫、行き先は書いてきたから」
!
それは大丈夫じゃない。王女が書いたのはテーマパークのある街だ。この街じゃない。
すぐに王女に言った。
「あ、あら、どうしましょう。
でも、どうにかなりますわ」
大丈夫だとは思えないが王女がそう言ってるんだ。大丈夫だと思うことにしよう。自分に言い聞かせた。
カフェを出た。
「待っていたぞ」
マントを羽織った男がいた。
王女は偶然この街に来てしまった。だから王女を待っていたのではない。
待ってられたのはおいらだ。「紋様」を狙ってるんだろう。
その男がマントから手を出した。手には拳銃。こいつは紋様のことをわかってないやつだ。
おいらは王女の手を引いて走り出した。男が追いかけてくる。ときおり、銃弾が体をかすめた。
通りから路地に入る。男はまだ追いかけてきている。
銃弾が飛んでこなくなった。弾切れか、これでいくらか楽になる。
と思ったが、考えは甘かった。
おいらと王女の上を何かが飛び越えた。目の前に落ちた。爆弾だった。
王女を守るように地面に伏せた。
直後に大爆発。
まわりの建物を巻き込んで地面が崩れ落ちた。もちろんおいらと王女も地下へ落ちた。
地下のかなり深いところまで落ちたようだった。
この街の地下には遺跡がある。だから時々、遺跡にまで崩れ落ちることがある。
運が良かったのか、瓦礫の下敷きにならずに済んだ。
いや、運が良かったんじゃない。
おいらの隣に倒れていた王女の右手の甲に金色の紋様が光っていた。たぶんこれの力だ。
「おい、大丈夫か?」
王女はすぐに答えた。
「ええ、大丈夫よ」
まずは安心した。
紋様が気になったので王女に尋ねた。
王女ははっとして紋様を隠そうとした。
安心させよう。
おいらは両手のハンドカバーをはずした。右手に青い紋様、左手に赤い紋様。
王女に見せた。
「あなたにも紋様があるの?」
「ちょっと前に女神にもらった」
王女は心が少し楽になったようだった。
隠していた右手を出した。金色の紋様は消えていた。
王女が言うには、
「私が危険になったときに守ってくれる」
だそうだ。
「実際に今までに何度も助かったことがある。
そんなときにはいつも紋様が光っていた」
とも言った。
王家の血筋で力がある者だけに現れる、らしい。
まずは助かった。
けど、これからどうしよう……。
街に戻るには瓦礫をよじ登る必要がある。それもかなりの高さを。
加えて、上にはまだあの男がいるかもしれない。
ズボンのポケットのひとつに手を入れた。小さい懐中電灯が入ってるはずだ。案の定入ってた。
まわりをぐるりと照らした。ひとつの方向にトンネル、あるいは通路と言うべきか、がのびていた。
そっちに行くしかない。
おいらと王女はトンネルを進んだ。
どれくらいか進むと広間に出た。床も壁も天井も石造りの広間だった。
広間にはこれまた石造りの棺がたくさんならんでいる。
おいらには嫌な予感しかなかった。
それは王女も同じだった。
広間の反対側にもトンネルがある。
つまり、広間を抜ければどうにかなる、と信じたい。
「さて、行くか」
「ええ」
おいらと王女は石の棺の間を進む。
ずずず、と石をこすらせるような音。
音の方は見たくない、が見た。
棺のふたが開きミイラが出てきた。
棺は次から次へと開く。その数だけミイラが出てくる。
たくさんのミイラから距離をとっているうちに、おいらと王女は広間の端に追い詰められた。
どうしよう? どうしようもない。
ミイラが近付いてくる。
ミイラの手がおいらの手をつかんだ。別のミイラが王女の手をつかんだ。
その瞬間、王女の手に金色の紋様が浮かび上がった。
紋様からとてつもなく強烈な光がほとばしり、広場のすべてを照らした。
光がおさまると、広間にいたミイラのすべてが固まっていた。
おいらの手をつかんでいたミイラ、おいらが手を動かすとミイラの手が砂のように崩れ落ちた。
手が崩れるとそれにつられてか、ミイラの全身が崩れ落ちた。
王女も同じだった。
おいらと王女はミイラに囲まれている。
固まっているミイラを崩しながら、目指すトンネルへと向かう。
トンネルにたどり着いた。もうミイラは大丈夫だろう。
またトンネルを進んだ。
先の方に光が見えた。進むにつれて光は強くなる。懐中電灯がいらなくなった。
早足で光へと進んだ。
トンネルの出口だった。けど、鉄格子が鍵で固定されていた。
「もうっ、ここまで来たのに出られないのっ!」
王女はイライラを言葉にした。
「いや、これなら簡単だ」
おいらは鍵を見て言った。
この鍵は簡単にはずせる。『鍵をしている』との言い訳に使う程度の鍵だ。
おいらはポケットをさぐる。針金を二本、取り出した。
針金で鍵穴を探る。
かちゃり、鍵はすぐにはずれた。
出た先は工業区画だった。
おいらと王女は地上に戻れた。
一息つきたかったけど、街の様子が明らかに変だった。
街中が大騒ぎ。パニック状態になっている。
おいらと王女が地下にいた間に何があったんだ?
異様な雰囲気の街を王女と歩く。
ちょっとしたパブの店先にあったテレビが伝えていた。
「エーテルの狭間から血のように赤い星が現れ、降ってくる」
らしい。
落下するのは夕方の少し前。場所はこの街からはそれなりに離れている。のだが、この街も無事ではない。
テレビが伝えるには「どうしようもない」、「軍が出ても何もできない」。
アナウンサーの声は悲痛だった。
落下する時間と場所がわかってるなら……。
「どうにもならない」なら「どうにかする」。
「あんた、一緒に来てくれ!」
「どうして私が!」
王女にはぴったりかもしれない。
「あんたの力を貸して欲しい。
それに、とっておきの冒険だ!」
少しの間をおいて。
「冒険ね、わかりましたわ!」
おいらの手にあるふたつの紋様。加えて王女の手にある金色の紋様。
どうにかできる気がした。
おいらと王女は空港へ急いだ。
道の端にとまってる自動車を見ながら急ぐ。
「ちょっと待って!」
王女を呼び止めた。
ありがたい自動車があった。エンジンがかけっぱなしだ。
そこから先は自動車で急いだ。
空港に着いた。
空港の正面玄関は大混乱だった。街の住人が押し寄せている。
おいらと王女は空港の裏口、関係者用の出入り口からこっそりと空港に入った。
ディケイドスピーダーに急ぐ。
いつでも飛べるように準備してたのが良かった。
フロントシートに王女に乗ってもらう。おいらはリアシートに。
管制塔に離陸許可を求めたが、管制塔も大騒ぎになってた。
離陸許可はあてにならない。
無許可でディケイドスピーダーを離陸させた。垂直離着陸機のありがたさだ。
十分な高度まで上がった後、一気に加速した。
落下予測地点まで、1時間ちょっと飛んだ。
海沿いの丘だった。
赤い星はまだぜんぜん見えない。
でもわかる。左手の紋様、「炎をまとった岩の女神」の紋様がびりびりと震えた。
左手の赤い紋様は緩やかに明滅してる。右手の青い紋様は淡く光ってる。
王女の手の紋様は激しく光ってた。
おいらの左手がいちばんびりびりする方へ、王女と一緒に手をのばした。
空の彼方から、赤い光の糸が赤い紋様に吸い込まれ始めた。
「熱」だ。紋様がわずかに熱を持ち始めた。
青い紋様から出た涼気がおいらを包んだ。
王女の紋様からまばゆい光が空へとのびた。
赤い星が「かすかな点」に見えた。
紋様に吸い込まれる「熱」はどんどん強く、大きくなった。
赤い星が「しっかりした点」になった。
吸い込まれる熱で左手が熱い。
青い紋様の涼気が熱さを弱めてくれてるはずだ。
だけど熱い。
熱さが体を包み込む。左手が燃えているように感じる。
熱さに耐えられない。でも耐えるしかない。
隣にいる王女をちらりと見た。紋様からあふれ出すまばゆい光の奔流に耐えてた。
じゃあおいらも耐えないと。女神の力を使ってるんだ。
だけど限界が来そうだ。でも、女神を信じる!
パリンッと何かが弾ける音がおいらの体を駆け巡った。
おいらを包んでた高熱が消え去った。
何が起きたんだ?
王女をちらりと見る。王女の表情が和らいでた。
はっとした。背後に強烈な力を感じた。振り向いて、……見上げた。
「炎をまとった岩の女神」と「泉の女神」がいた。
その姿には驚くしかなかった。巨大、人間の10倍くらいか、それくらい大きかった。
王女の後ろには巨大な金色の戦士がいた。
これは……?
『我は勇敢なる覇王』
おいらの心に重い声が響いた。
王女の手の紋様の主のようだ。
おいらと王女の背後には三柱の神たちだけじゃなかった。
次々といろいろな女神や神が現れた。
赤い星はもうはっきりと見えてる。
たくさんの神々の力が、次から次へと赤い星に向かう。
赤い星はどんどん力を失っていく。
空の神の力、風の女神の力、が赤い星の勢いを削いでいた。
赤い星はゆらゆらと動くだけになった。
「僭越ながら私が」
泉の女神がゆっくりと右手を上げた。その手に呼応して、海面から水でできた巨大な手が現れた。
手を上げていくと巨大な手が海面からのびた。
巨大な手が赤い星に迫った。
泉の女神は手を握った。巨大な手が赤い星をつかんだ。
徐々に手を下ろす。赤い星をつかんだ手がゆっくりと海面へと下りて、そのまま海中へ引き込まれた。
「では、私の役割だな」
力強い声。質素な衣を身に着け、青く光る頑強な神、「海の神」だそうだ、が声を上げた。
海の神の体が激しく光った。二度、三度と光った。
「星の力は失せた。
海の底深くで永遠に眠ってもらおう」
赤い星はどうにかなったようだった。
体から力が抜けた。王女も同様だった。
女神や神たちに感謝した。
人の力ではどうにもならなかった。神々の力があったから助かった。
もう一度、二度、神々に感謝した。
女神や神たちの姿が人間と同じくらいの大きさになった。
「炎をまとった岩の女神」が神々を代表してか、おいらと王女に話しかけた。
「そなたらの女神への真の願いが力となった。
我らの力ではない」
「そ、そうなのか?」
おいらと王女の願いは間違いなく本物だった。
でも、神々を動かすほどの力だったのか……。
女神はさらに続けた。
「赤い星の脅威は去った。
我々はそれぞれの居所に戻る。
しかし、その前にそなたらに神の力を授けよう」
おいらと王女にさらなる紋様をくれるらしい。
すごく嬉しいし、ありがたい話だ。
だけどおいらは辞退した。
おいらには紋様がもうふたつもある。これ以上はもらえない。
女神にそう言った。
「欲を持たぬ心、素晴らしいことだ」
次に王女にも紋様を授けよう、と言った。
王女も辞退した。
「王と神がつながると国が滅ぶと聞いております。
ですので、私は頂けません」
「なるほど、国を思う心、大したものだ。
では、神の力でなければ良いな?」
女神は王女に尋ねる。
「それは……」
王女はこたえに困った。
女神が助け舟をだした。
「案ずることはない。
国を太平にする力だ」
「……では、頂きます」
少しためらった後、王女は言った。
「では、手を前へ」
女神にうながされて王女は左手を差し出した。
集ってた神々から少しずつ銀色の光が空に上がった。
ひとつひとつは小さな光だが、ひとつに集まるとまばゆく輝いた。
その光がふわり、と王女の下へ動き、手の甲に吸い込まれた。
王女の左手の甲に銀色の紋様が刻まれた。
女神が言うには『祝福と幸運』の紋様とのことだ。
「神の力ではない、案ずるな」
王女は神々に感謝を述べた。
紋様は王女の手の甲にとけこむようにそのかたちを消した。
「では、我らは戻ろう」
神々の姿がひとつ、またひとつと消えていく。
「そなたたちの行く先に幸せがあらんことを」
そう言い残して、神々の最後に、炎をまとった岩の女神と、泉の女神の姿が消えた。
残ったのは『勇敢なる覇王』。
勇敢なる覇王は王女に語りかけた。
「我には強大な力がある。
されど使い方を違えれば破滅を呼ぶ。
それを常に心に持て」
「はい、道を違えぬよう心得ます」
王女は落ち着いた声で勇敢なる覇王にこたえた。
「では我も戻ろう」
勇敢なる覇王は王女の右手の紋様に吸い込まれ、紋様は王女の手にとけこんだ。
おいらの両手の紋様はもとどおりに刻まれていた。
だから忘れないうちに、とハンドカバーを着けた。
おいらは気持ちを切り替えた。
「さて、街に帰るか」
「そうですわね」
ディケイドスピーダーのフロントシートに王女が乗って、リアシートにおいらが座って、機体を上昇させた。
街への道中、王女と冒険の話をした。
「こんな冒険はどうだった?」
「これも冒険でしたの?」
王女は質問に質問でこたえた。
「ああ、立派な冒険だ」
「でしたら大きな経験になりました」
王女は心の奥底からそう感じているようだった。
少し無言が続いた。
「……でさ、あんた、帰りはどうするんだ?」
おいらが沈黙を破った。
「そうですね……、明日の朝、帰りましょう。
そう、あなたは運送業をしているのですね?」
ディケイドスピーダーには『スピーダー特急便』と大きく書いてある。
だからすぐにわかる。
「私を連合王国まで運んで頂けないかしら?」
「ああ、もちろんOKだ」
明日の仕事が決まった。
その後は何気ない話をしながら空港まで飛んだ。
空港に戻ると大変なことになってた。
赤い星が大丈夫になったのでパニックは治まった。
空港に押し寄せていた人たちは落ち着いて街へ帰ったそうだ。
ロビーは閑散としていた。
大変なことになってたのはおいらだ。
管制塔の許可なく離陸したことから始まって、違法行為のオンパレードだった。
本来ならおいらがもってる資格と免許は全部取り消し。会社も廃業しなければならない。
それくらいのことをやらかしていた。
だけど、赤い星の落下を食い止めた、と言うことで、全部不問にしてもらえた。
おいらはギルドの人に連れられて、空港のあちこちの部署に頭を下げてまわった。
行った先々の人たちが「気にするな」と言ってくれたのが救いだった。
部署を全部まわった後、ギルドに戻った。
これで終わりかと思ったがそうそう上手くは行かない。
ギルドの人から散々叱られた。
おいらはとにかく反省の言葉を口にして、とにかく頭を下げた。
今度こそ全部終わった。
十分に夜になってた。
明日は朝いちばんで連合王国に飛ぶ。
だからしっかり休んでおきたい。
アパートに着いた。
郵便受けを確かめたが何も入ってなかった。
ポケットから鍵を取り出す。
部屋の鍵を開けた。
部屋に入ったところで手にしていた鍵に違和感を覚えた。
鍵を見る。
おいらの手にあったのは父ちゃんから届いた金色の鍵だった。
あわてて部屋から出て鍵を確かめた。何度試しても父ちゃんの鍵は問題なく使えた。ぴったりの鍵だった。
父ちゃんは何でおいらの部屋の鍵を作れたのか?
いや、父ちゃんは何をしたいのか?
けど、父ちゃんらしい、そう思った。
後日、父ちゃんからまた手紙が届いた。
今度の封筒には父ちゃんの住所がちゃんと書いてあった。
この封筒には当たり前だが手紙が入ってた。
「この前の封筒には手紙を入れ忘れてた。申し訳ない。
送った鍵はお前の部屋の鍵だ」
と書かれていた。
手紙の最後に、
「一人前の鍵職人になれた。
だから近々家に帰る。
そのあたりを母ちゃんに上手く言っておいてくれ」
とあった。
父ちゃんが帰ってきたら、なんだかんだ言っても母ちゃんはまずは喜ぶだろう。
おいらは急いで母ちゃんに電話をした。
了