工房の大掃除をして、正月に食べる隣国の料理『おせち』と『餅』を通販で買って、正月の準備は万全。
年の終わりと年の初めをカウントダウンして、新年が始まって、……そんなお話。
本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』の二次創作です。
ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した世界観を使って記した二次創作です。
『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「機械屋」→「機械屋さん」
PC「少女」→「少女ちゃん」
等々となっています。
先に記しとく設定、
機械屋(主人公)と先輩は女性、
作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
と言うことで。
クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.
アタイは機械屋。いろいろとあった末に先輩の工房で働いてる。
先輩は変わり者だ。けど、その先輩はアタイのことを「面白そう」と言う。
つまり、先輩もアタイもちょっと変なのかもしれない。
先輩と一緒に作業をしてると楽しい。先輩には楽しい雰囲気を作る才能がある。間違いない。
今日は大晦日。
倉庫街はだいたいの倉庫が一昨日から正月休み。人通りはほとんどない。
唯一賑やかなのは通販の流通センター。24時間365日、施設が動いてる。
そのおかげで買い物に困らない。まったくもってありがたい。
工房も正月休み。新しい年を待ってる。
大掃除。一昨日、昨日と二日かけて工房の大掃除をした。
作業スペースは、雑然と置いてるコンテナとかをきちんとならべて、きれいに掃除した。
大型機械も油汚れを落として丁寧に磨いた。
精密作業室も念入りに。
事務室と食堂もきちんと掃除。
トイレと風呂も。
最後に先輩とアタイ、それぞれの部屋を掃除。
洗濯したシーツと毛布でベッドメイキング。真っ白なシーツとふかふかの毛布だ。
ぴかぴかの工房で新年を迎える。
昨日の夕方。
工房がきれいになったのだから、せっかくだ、正月休みの間は毎日風呂に入ろう。先輩に提案した。先輩はこの話に飛びついた。
これを機会に風呂に入るのにまっとうな石鹸、シャンプー、それにコンディショナーを買おう、となった。
倉庫街を出ていくらか歩く。住宅街の入り口にあるドラッグストアに来た。
店に入る。
先輩はノリノリだ。
「シャンプーとかは……、
あ、あそこか」
少し早足でシャンプーとかのコーナーに向かう。
アタイは先輩の背中を追う。
「んー、
シャンプーってこんなにいろいろあるんだねー。
この中から選ぶなんて、滅多にできない体験だよ」
ちょっとテンション上がり気味の先輩。
アタイも棚を見る。なるほど、いろんなのがならんでた。
この中から選ぶのか。もっと気楽に選べると思ってたが、なかなか難しそうだ。
自然と視線が向く高さの棚にならんでるのは、おそらくおすすめのか、人気のか、なんだろう。
値札を見る。
「え!?
シャンプーってこんなに高いのか!?」
素直に驚いた。
先輩も値札を見た。
「おー、すごいね。
でも、それだけ良いんだろねー」
視線を下げる。ひとつ下の棚。ちょっと安いのがならんでる。
もうひとつ視線を下げる。値段だけを見ると買いやすそう。
さらに下、いちばん下の棚、明らかに安いのがならんでた。
いちばん下の棚のは、いちばん目立ってる棚のシャンプーの半額くらい。
先輩も順に見ていく。
何かを考える。
「ね、機械屋ちゃん、
こんなチャンスなかなかないよ!
いちばん良いやつ買お!」
「だな、
せっかくだ、贅沢しよう」
先輩の考えとアタイの考えは一緒だった。
これ、と決めたシャンプーと同じブランドのコンディショナーを棚から取った。
次は石鹸、これもいちばん良さそうなボディソープを手にした。
レジで支払い。
先輩とアタイの感覚ではかなりの贅沢、それくらいを払った。
シャンプーとコンディショナー、加えてボディソープが入ったレジ袋を持って、先輩の足取りは軽やかだった。
工房に帰ってきた。
買ってきたのを早く試したい。先輩とアタイは同じ考え。
すぐに風呂の準備をする。
湯の量が十分になったのを知らせる電子音、いつもはすぐに鳴ると思う。それがやけに長いと感じる。
風呂に入るのはいつもアタイが先。
だけど今回は特別な風呂だ。先輩が先に入った方が良いかな? とも思う。
先輩に譲りたい。アタイは早く入りたい。
考えの天秤は初めは釣り合ったが、すぐに「アタイが先」に傾いた。
ピコピコ、ピコピコ
風呂の電子音が鳴った。
部屋で待っていたアタイは着替えを持って風呂へ急いだ。
脱衣場で手早く服を脱いで洗濯物のかごに投げ込む。
浴室に入った。
昨日、あの強力な洗剤で洗ってからはそれほど汚れてない。
かけ湯をしてすぐに湯船に飛び込みたい。
けど、アタイの後に先輩が入る。湯を汚さない方が良いだろう。
まず髪を洗おう。
シャワーで髪を濡らす。買ってきたシャンプーを手に出す。シャンプーを髪につける。
いつもの洗剤のぴりぴりする感じがぜんぜんない。
わしゃわしゃと泡立たせる。きめ細やかな泡のように感じる。
髪をしっかりと洗った後、シャワーで流す。
髪がきしんだ感じもない。
次はコンディショナー。手に出して髪につける。全体に馴染ませるように。
十分か、と思ったところでシャワーで流した。髪がするっとした気がした。
体を洗う。
ボディソープをタオルに出す。タオルを揉むと細かい泡が生まれた。そのタオルで体を洗う。
やっぱり、いつものぴりぴりな感じがない。
こんなので大丈夫なのか? と思ってしまう。すぐに思いを否定する。
いや、これで良いんだ。自分に言い聞かせる。
全身を洗い終えて、体を覆った泡をシャワーで洗い流した。
さて、いよいよ湯だ。
湯船に片足を入れた。じわっとした熱が足を包み込む。もう片方も湯船に。
思い切って体を湯に沈めた。じんわりとした熱さが体に入ってくる。
「あー」
自然と声が出た。気持ち良い。
何も考えられない。ただただ幸せに包み込まれる。
これが「無」ってやつか? アタイは宗教のことはぜんぜんわからない。けど、そんな気がした。
十分すぎるくらいに風呂を堪能した。名残惜しくもあったが湯から出た。
タオルで体を拭って脱衣場に出る。
バスタオルで体をしっかりと拭いた。
着替えの服を着る。
大満足で風呂を後にした。
「おさきー」
「んじゃ、交代ー」
アタイの声に先輩が答えた。
先輩とアタイがすれ違う。
少しして。
「うお、何これ!?」
とか、
「きもちいいー!」
とか、
「あー、これだめ」
とか、
先輩の声が聞こえた。
先輩が風呂に入ってる間に晩メシの用意をした。
明日は大晦日、明後日は正月。
だから、今夜は少し質素にした。
料理をしてる間に髪が乾いた。
触るとさらさらでつやつやになってた。
先輩が風呂から戻ってきた。
「あー、今日の風呂は最高だねー、
年の最後に年の最高だよ」
「やっぱ風呂は良いな」
先輩の声に答える。
「そうそう、風呂は最高だよ。
あ、もうメシできてるの?
機械屋ちゃんは料理上手いねー」
「ん? そうか?
アタイはいつもだいたいで作ってるけど?」
先輩に褒められるとやっぱり嬉しい。たぶん先輩に追いつきたいって思ってるからだろう。
この日はさっさとメシを済ませて、適当な時間までテレビを見て、部屋に戻ってベッドに横になった。
今日、大晦日。
仕事がないので朝から先輩と一緒に食堂でテレビを見る。
11時頃。
小さなドアがノックされる音がした。
慌ててドアに走る。
宅配便だった。小ぶりのダンボール箱ふたつを受け取った。
たぶん先輩が月の初めに注文したやつだ。
『正月用の料理』先輩はそう言ってた。
とりあえず先輩に渡すか、と思ってるところに先輩が来た。
「おー、届いたー。
楽しみだったんだよ」
「ん?
先輩、これ何なんだ?」
先輩はふたつのダンボール箱の荷札を見て言う。
「えっとね、こっちは『おせち』で、こっちが『餅』」
「何だそれ?」
アタイにはさっぱりわからない。
「んと、隣国の正月の料理、なんだって。
何か面白そうだから買ってみた」
「この『おせち』てのと『餅』てのがか」
何となくわかったような気がした。
「あ、おせちは保冷箱だよね。
寒いとこ……、ここで良いか」
先輩はおせちのダンボール箱を小さなドアを入ったところ、事務室の前に置いた。
「餅はそのままで良かったっけ」
アタイは餅の箱を先輩に渡した。
先輩とアタイは食堂に戻る。
「さて、餅だよ、餅」
先輩は餅のダンボール箱を開けた。
中には1kgと書かれた透明のポリ袋がふたつ。
それぞれの袋の中に、さらに透明の袋に入った『白くて丸くて平べったいもの』が入ってる。
これが餅か。
「ちょっと早いけど昼メシ! 餅を食おう!」
「え?
それ、正月に食うんじゃないのか?」
先輩の言葉に疑問が浮かぶ。
「えとね、おせちは正月に食うんだけど、
餅はフライングしても良いんだって」
「そうなのか」
先輩はどこからこんな話を仕入れてくるんだ?
さすがは先輩、か。
先輩は箱から餅を取り出した。
箱の中には餅の他に、紙が1枚、おそらく食べ方の説明と、黄色っぽい色の粉が入ってる『きなこ』と書かれた袋、が入ってた。
先輩は紙を読んだ。
「……なるほど、そっか」
読み終わるとアタイにくれた。
やっぱり食べ方の説明だった。オーブントースターか何かで焼いて食べるらしい。
オーブントースター、流し台の下に片付けてあったはずだ。
流し台の下の戸を開ける。奥の方にあった。取り出した。特に汚れてもいないし十分に使える。
「機械屋ちゃん、食おうよ食おうよ」
「あ、うん、そうするか」
オーブントースターを流し台に置いて使えるようにする。
説明書きの紙を見ながら準備をする。
オーブントースターの中に餅をふたつならべた。
焼く時間は……、特に何も書かれてなかった。
餅に焦げ目がついて膨らんだら食べ時、と書いてあった。
膨らむ? どう言うことだ?
良くわからないから、時間はとりあえず10分にした。
先輩とアタイ、ふたりならんでオーブントースターの中の餅をじっと見つめる。
膨らむ? のを待つ。
2分くらいか、餅がちょっと膨らんだようにも見える。
4分か5分か、餅が膨らみ始めた。焦げ目もつき始める。
焦げ目が濃いきつね色になった時、餅が一気に膨らんだ。
ぷわー、と言う感じだ。
「うお、膨らんだ!
先輩、皿だ、皿!」
「はい、皿!」
先輩から受け取った皿に餅を取り出した。
説明書きの続きを読む。
醤油をつけて食うか、きなこをつけて食うか、だそうだ。
きなこ、どんなもんなんだろう?
先輩もきなこが気になるようだ。
きなこを試すことにする。箱に入ってた袋を開けて、きなこを餅にかけた。
先輩と一緒にテーブルへ。
きなこをかけた餅が先輩の前とアタイの前に。
どんなものなのかちょっとわくわくしながら、餅を口に入れた。
淡く甘い。
噛み切りにくい、と言うか、噛み切れない。
餅がびろーん、と延びる。
これは面白い食べ物だ。
ある程度延びて、餅がちぎれた。
しっかりと噛んで飲み込んだ。
「先輩、これ面白い」
「うんうん、これは意外だよ」
でも、ひとつではもちろん物足りない。
先輩も同様だった。
もうひとつ食べることにする。
オーブントースターの中のふたつの餅をふたりで見つめて膨らむのを待つ。
少しずつ膨らみ始めて、焦げ目がついたところで、ぷわー、と膨らんだ。
今度は落ち着いて対処。餅を皿に取った。
ふたつめの餅は醤油を試してみることに。
流し台の下から醤油を取り出す。
醤油をつけた餅、醤油だ、味の予想はつく。
テーブルに着いて先輩と一緒に食う。
また噛み切れない。びろーんと延びた。
餅、面白い、これはくせになりそうだ。
昼メシの餅を終えて、またテレビを見た。
先輩と何となくの話をする。
3時頃か、腹が減ってきた。
先輩にそう言うと、先輩も腹が減ってる、と返ってきた。
今度は餅を四個焼いた。
先輩のがふたつとアタイのがふたつ。
ふたりして餅を食った。
そのあとはまたテレビ。
年末年始の買い物はもう済ましてるので、することがない。
先輩と何となく話をして、今度は1年を振り返る感じになった。
日が暮れて夜。
テレビは大晦日の特番ばかり。
少々飽きてくる。
腹が減ってきたように感じた。
「先輩、そろそろ晩メシにするか?」
先輩はちらりと時計を見る。
「そだね、
いい時間だ。
……やっぱりそば?」
「大晦日だからな、
年越しそばだ」
大きい鍋で湯を沸かす。小さい鍋でも湯を沸かす。
そばを茹でる鍋と、だしを作る鍋。
冷蔵庫から「そばセット」を取り出した。
そばを茹でて丼に入れて、だしを入れて、セットの具を乗せて完成、と言うやつだ。
小さい方の鍋が沸騰し始めた。
火を消して、濃縮スープを鍋に入れる。
ちょうど良い具合になってるはずだが、いちおう味見をする。
よし、良い具合だ。
大きい方の鍋も沸騰した。2人分のそばを投入。
時計を見て時間を計る。
そばを茹でてる間に丼を用意した。
すぐにそばが茹で上がった。
火を消す。そばを丼に移してだしを入れる。その上に具を乗せた。
できあがり。
「先輩、できたぞ」
そう言ってテーブルに丼ふたつを置いた。
先輩が箸を出してくれた。
ふたり向かい合って座る。
手を合わせて『いただきます』と言って、そばを食う。
「機械屋ちゃん、このそば贅沢だね」
「ん?」
先輩の言葉を聞いて箸が止まった。
「えびがふたつも入ってる」
「ああ、そばセット、ちょっと良いやつ買った」
先輩はちょっと感動してる。
「惣菜のてんぷらも買っときゃ良かったな。
そしたらもっとすごいそばが食えた」
先輩に同意してもらえると思った、が違った。
「だめだめ、
機械屋ちゃん、贅沢言ったらいくらでも上があるんだから。
これで十分、って思わなきゃ」
「んー、
確かにそうだな」
贅沢を言い出したらきりがない。先輩の言う通りだ。
そばを食った後、風呂に入った。
シャンプーも、コンディショナーも、ボディソープも。
今夜も今年最高の風呂だった。
もうすぐ8時半、それくらいの時刻に先輩とアタイは出掛ける用意を始めた。
ニューイヤーカウントダウン、とでも言うのか、に行く。
会場は先輩の行きつけのゲームセンター。
なんでも、ゲーセンは普段は10時までしか営業できないけど、大晦日は日がかわって2時まで営業しても良いんだそうだ。
どう言う理由でそうなってるのかわからないが、とにかくそう言うことらしい。
だからゲーセンでカウントダウンができる。
ちなみに、集まるのはもちろん、先輩を含めてゲーセンの常連の方々。
持って行くもの、大きいペットボトルのジュースを10本。レジ袋4つに分けて、先輩とアタイとで5本ずつ持つ。
持って行くものは集まる連中で事前に決めてたらしい。
加えて、予定に入ってなかったやつが何か持ってくるかもしれない。だから色々と豪華になるだろう。
外は寒いに違いない。
手袋とマフラーを装備。しっかりと防寒する。
工房を出る。やっぱり寒かった。
手袋とマフラーが大当たりだった。
小さいドアに鍵をかけて、念のため確かめる。
さて、ふたりでゲーセンに向かった。
9時ちょっとすぎ、ゲーセンに着いた。
「まいどー」
「こんばんはー」
カウンターの向こうにいた店長にあいさつする。
「おう、やっと来たか」
「え? まだ誰も来てないの?」
なるほど、店には店長と先輩とアタイだけだ。
「あ、ジュース、ここ置くね」
カウンターに先輩がジュースを置いた。アタイも置く。
「じゃあ、早速の腕試し!」
先輩は『カウボーイ・ショット3』に向かう。
100ダリル硬貨を投入口に入れる。
『ファーストステージ、3、2、1、ファイア!』
ゲームが始まった。
先輩の目つきが変わる。何かに立ち向かう、そんな感じの真剣な表情。いつものちょっと軽い感じの先輩じゃない。
ステージを次々とクリアしていく。
『ファイナルステージ、3、2、1、ファイア!』
このステージで最後。先輩の目が一段と真剣になる。何か冷たい表情のようにも見える。
先輩がこのゲームをするのは何度も見てる。
あと少しでクリアだ。
最後の敵、そいつが撃ってくるよりも一瞬早く、先輩が撃った。
最近はいつものこと、ノーミスでクリア。
スコアランキングの画面になった。5位だった。
先輩は「SNP」と入力した。「センパイ」だから「SNP」なのだそうだ。
このランキングは20位まで表示されるのだが、全部「SNP」だ。
「ふう」
ひと息ついて先輩はこっちを見た。先輩はいつもの表情に戻っていた。
「ね、店長、
カウボーイ・ショットできるやつ他にいないの?」
「あぁ?
けっこういるぞ」
当然だ、とばかりに店長が答える。
「でもさ、スコアランキング、私だけじゃん」
「先輩ちゃんが特別なんだよ」
店長はあきれつつそう言った。
先輩と店長のゆるい会話が続いた後、ゲーセンの常連が少しずつ集まってきた。
フライドチキンのでかいバスケットをふたつ持って。
ポテチでいっぱいのレジ袋を何個か持って。
他にも色々と。
食い物が増えていく。
カウントダウン用だ、と言って、大量のクラッカー、バズーカみたいな大きなクラッカーもいくつか、を持ってきたのも。
会場がゲーセン、そこに常連が集まるんだからもちろんゲームの話題になる。
格闘ゲーム、ゲーマーのひとりが、もうひとりを誘う。
「今年のファイナルバトル、行くぞ」
「やっぱ、勝って締めたいねー」
その対戦を見にまわりに集まる。
「まいどー」
常連のふたりが入ってきた。
「遅かったじゃん」
「何してたんだ?」
入ってきたふたりに声がかけられる。
「『西7』で取ってきた」
手にしていたコレクションフィギュアを見せてくれた。
「……え!?
『西7』攻略したのか?」
「すげぇ」
「『西7』包囲網できたな」
口々に賞賛されるが本人はあまり嬉しそうではない。
一緒に来たやつが言った。
「いやいや、攻略じゃねーよ。
金の力? だな」
「取れねーのはわかってるけど勝負してみたくってさ、
で、金注ぎ込んで意地で取った」
店内のみんなが「え!?」と言う顔になる。
「いくら入れたんだ?」
「……1万ダリル」
本人には明らかに失礼だが、店内が爆笑に包まれた。
「なんかさ、年のラストがこれってむなしいよな……」
フィギュアを持ったやつがうなだれる。
「でもさ、『西7』で取ったんだからすげーよ」
「良い終わり方だよな」
そんな感じで盛り上がる。
リリリン、リリリン
店の電話が鳴った。
店長が電話に出る。
「あぁ?
うん、うん、おう、
わかったよ」
話はすぐに終わった。
「店長、どうしたんだ?」
何人かが店長に尋ねる。
「ピザ頼んだから受け取っといてくれ、支払いは済んでる、
だとよ。
ったく、何でおまえらウチの住所と電話番号知ってんだよ」
場がどんどん盛り上がる。
ピザが届いた。LLサイズが3枚。
「温い系の食いもん、先に食った方が良いんじゃね?」
「だな、冷えると味落ちるし」
フライドチキンとピザ、他にもいくつか、冷めないうちに、と食い始めた。
もちろん先輩とアタイが持ってきたジュースを開ける。
「まいどー、
ピザ届いた?」
ピザを頼んだやつが到着した。
店長が言い切る。
「『まいどー』じゃねえ。
カウントダウンするってんだから今日は許すけどよ、
ウチにピザ届けさせるのは二度とするな。
出禁にするぞ!」
そんな感じの盛り上がりもあるうちに、11時半をすぎた。
盛り上がってた場が少しずつ落ち着いてくる。
11時50分をすぎる。
店の中が静まってくる。
クラッカーを配ってまわる音と、時計の音、それに少しの会話だけ。
みんなの視線が時計に向けられる。
11時55分。
11時58分をすぎて、
11時59分、みんなでカウントダウンを始める。
「「「50、49、48、47、46、……」」」
0時に近づく。
「「「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」」」
「「「ゼロ!!」」
パパパパパパパンッッッ!!
タイミングぴったりで、たくさんのクラッカーがいっせいに弾けた!
色とりどりの紙テープが宙を舞う。
「「「ハッピーニューイヤー!!」」」
新年を祝う。
店内は祝賀ムード一色に染まった。
先ほどまでの盛り上がりを取り戻す。
わいわいがやがやと明るい会話が弾む。
「新年一発目のバトルいくぞー!」
格ゲーの対戦が始まった。
持ち寄った食い物を食いつつ、飲み物を飲みつつ、盛り上がる。
そんな感じで盛り上がっているうち、あっという間に2時までもう少し、になった。
ゲーセンの閉店まであと少し。
集まってるみんなで後片付けを始めた。
きれいに片付いたところでちょうど2時になった。
ゲーセンは閉店。
店長にお礼を言って店を出た。
新年のお祝いはお開きになった。
解散、それぞれが家路につく。
先輩とアタイは工房へ帰る。
ついさっきまでの盛り上がりの余韻が残ってる。
だから、何となく寂しく感じる。
「あ、そだ、機械屋ちゃん、
今年もよろしくお願いします」
先輩がぺこりとおじぎした。
新年だ。
「今年もよろしくお願いします」
アタイも軽くおじぎをした。
視線が合った、何となく照れくさく感じた。
2時半のちょっと前、工房に帰ってきた。
朝は適当な時間に起きよう、
そう言って、先輩とアタイはそれぞれの部屋に入った。
元日。
8時すぎに目が覚めた。
食堂に行く。
先輩はもう起きていた。
それに食事の用意も整ってた。
テーブルの真ん中に、でん、と黒い箱が置かれてた。
「先輩、これなんだ?」
「ん、おせちだね」
ああ、ダンボール箱にこれが入ってたのか。
先輩の席とアタイの席に小皿と箸がならんでる。
「あ、先輩、ありがと」
「んじゃ、早く食お」
おせちの箱は三段になってた。
段を分けて3つをならべる。
それぞれの中に色鮮やかな料理が詰められてる。
いちばん上の段のふたに紙が乗ってた。
料理の紹介と、それぞれの料理の意味が書かれてた。
箱に詰まってる料理はそれぞれが縁起物なのだそうだ。
「「いただきます」」
おせちに箸を伸ばした。
今までに食ったことがない新鮮な味。
独特の味が、美味くて、美味くて、美味かった。
ふたりでおせちを存分に味わった。
腹いっぱいになっても、おせちは十分に残ってる。
これは昼メシと晩メシにしよう。
おせちを食い終えて、テレビを見ながら腹を落ち着かせた。
テレビは新春ムード。華やかな番組がいっぱい。
ちょっとばかり、ふたりでぼーっとした。
腹が落ち着いてきた。先輩もそうらしい。
よし、頃合か。
「先輩、初詣行こう!」
「お、いいねー」
初詣に行くことにした。
倉庫街の近くにある教会、倉庫街の氏神様だ。
王都でいちばんの教会にはとんでもない数の人が集まってるだろう。
こっちは、まあ、……そこそこだろう。
とは言え、倉庫街の氏神様だ。たぶん工房も護ってもらってる。
だから、しっかりと拝まなきゃならない。
倉庫街を出て少し歩く。
教会に着いた。
「うわー、けっこうならんでるねー」
先輩が言った。
教会の正面の扉から外へ、列ができている。
列のいちばんうしろにならんだ。
列が少しずつ進む。
扉をくぐった。先輩が先に、その後ろをアタイが。
少し進んだところで小さな白い花を授けてもらう。
建物のいちばん奥の祭壇まで列が続く。
少しずつ進んで祭壇に着いた。
祭壇の前に重厚なテーブルと賽銭箱がある。
テーブルには小さな花がたくさん。
授けてもらった小さな花をテーブルに捧げた。
次に賽銭箱に小銭をいくらか投げ込んだ。
一礼して今年の加護を祈る。
祭壇から扉に向かう途中で、「小さな紙」を授かった。
この紙には今年一年の運勢が書かれてる。
建物から出て、小さな紙を見た。
「あ、『良』だ」
「アタイは『中良』だ」
先輩もアタイも幸運な一年になるとのことだ。
ふと空を見上げた。雲ひとつない青空が広がってる。
『良い年になりますように』
いや、良くなるように努力しないと。
『良い年にできますように』
了