冒険と探検と日常と ~のびのびTRPG~   作:混沌野郎

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 空から落ちてきた女の子は「色々なことの『鍵』」になる少女だった。
 少女ちゃんの体を取り戻すために先輩さんと機械屋さんが冒険? する……、そんなお話。

 本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』のソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した二次創作です。

 『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「機械屋」→「機械屋さん」
PC「少女」→「少女ちゃん」
等々となっています。

先に記しとく設定、
 機械屋(主人公)と先輩は女性、
 作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
 と言うことで。

使った(引いた)カード
PC:機械屋

イントロダクション:空から女の子が!
シーン1:わずかな猶予
カード1:闇:ゴースト(NPC)
シーン2:希望への船出
カード2:光:パトロン(NPC)
シーン3:水晶宮殿のいざない
カード3:闇:暗い瞳
シーン4:爆走列車
カード4:闇:好奇心の塊
シーン5:暗黒街の主
カード5:闇:復讐者
クライマックス:科学の果てに

クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.



第3話 鍵の少女 (冒険回)

 アタイは機械屋、手先の器用さには自信があるけど、力はさっぱり。

 まあ、力は重力制動でどうにかなるから気にしない。

 アタイは今、倉庫街にある先輩の工房で助手をしてる。

 なんだかんだの顛末の末に、アタイはここに流れ着いた。

 先輩。『先輩』って言ってるけど、アタイは『先輩』の『後輩』じゃない。

 雇ってもらった時に『私のことは先輩って呼んで』と言われた。

 今までに一度も『先輩』と呼んでもらったことがなかったから、『先輩』って呼んでもらいたかったらしい。

 ちなみに先輩はアタイを『機械屋ちゃん』と呼ぶ。

 工房。アタイが働いてる工房は、倉庫を一棟借りて工房にしてる。

 正面から見て左側に事務室やら先輩の部屋やらアタイの部屋やら。

 奥の方は倉庫になってて、いちばん奥にトイレと風呂。

 正面から見て右側は作業スペース。元が倉庫だから工房としては十分に広い。

 上、梁からはクレーンがぶら下がってる。

 右側の壁際には大きな工作機械がならんでる。もちろんあの3Dプリンタも。

 ちょっと前に先輩が買った工業用の3Dプリンタ、届いた時にアタイは驚いた。

 横2メートル、奥行き2メートル、高さ3メートルくらいのでかい機械だった。

 プラスチックはもちろん、ちょっとした金属も扱えるヤツだ。

 まともに買ったら安くても500万ダリルはするだろう。それが30万ダリルだった。

 ノークレーム、ノーリターンとは言え先輩が飛びついたのには納得できた。

 もちろん届いた時は故障してたけど、先輩はさっくりと修理した。

 十分に使えるようになった今は、先輩のいいおもちゃになってる。

 工房の正面はシャッター。シャッターを閉めると左端に小さなドア。

 出かける時と夜はきちんと閉めるけど、それ以外の時は開けっ放し。

 

 明け方、3時頃か。アタイの部屋のドアが勢いよく開かれて、大声が響いた。

「私一人じゃ無理!

 機械屋ちゃん、手伝って!」

 徹夜覚悟で作業をしてた先輩が作業に行き詰ったらしい。

 そこから8時くらいまで、先輩に付き合わされた。

 先輩はまだ作業してたけど、アタイはそっと抜け出して朝メシを食った。

 先輩もついに限界がきたのか作業をやめて、今は朝メシを食ってる。

 「朝メシ食わない派」の先輩が食うとは珍しい。今日は何かありそうだ。

 半分くらいまで開いてたシャッターを全部開けた。

 外に出るとしっかりと日が昇ってた。

 

「うーん」

 と空を見上げて「のび」をした。

 雲ひとつない青空、どこまでも青く、広い。

 今日はいい一日になりそうだ。

 もう一度「のび」をした。

 空を見上げる。やっぱり清々しい青空。

 青空に「点」があった。さっきまではなかった、うん。

 何だ?

 「点」はちょっとずつ大きくなってくる。どんどん大きくなってきた。

 人のようにも見える。人だ! 間違いない!

 アタイは腰にあるクッションシールドのコントローラーを操作する。

 モードを転落者保護に、出力を全開にセットする。

 クッションシールドが伸び上がった。

 「人」がクッションシールドに触れると、衝撃が緩和されて少しずつ落下速度が落ちる。

 「人」はゆっくりと着地した。

 女の子だった。12才か13才か、それくらいの女の子。意識を失ってる。

 道端でどうこうしてる訳にもいかない。とりあえず女の子を抱き上げて工房に戻った。

 工房の中、食堂の前あたりに女の子を横たわらせた。

 こちらに気付いたのか、メシを食い終わらせたらしい先輩がやってきた。

「ん? 女の子?」

「空から落ちてきた」

 先輩の問いにはそうとしか答えられない。

「女の子? どゆこと?」

「だから、空から落ちてきた」

 他に言いようがない。

「空から女の子……」

 先輩は何かを考え始めた。

「基本は、誰かに追われてる、それか、狙われてる、あたりか……」

 先輩が言った。

「あって欲しくないな」

 アタイの声に反応したかのように、表が何か騒がしくなった。

「このあたりのはずだ!」

「探せ!」

「急ぐんだ!」

 男の声、五人か六人か、それくらいだろう。

 倉庫街は仕事が始まって活気づき始めてる。

 男たちは倉庫の中を一軒一軒チェックしてまわってた。時間の問題だろう。

 男の一人が工房の中にいる女の子に気づいた。

「いたぞ!」

 男たちが工房の前に集まった。グレーのスーツで身をかためた男が五人。

 そいつらの後ろに黒塗りの蒸気自動車が止まった。

 車内には運転手、後ろのシートには二人いるように見えた。

「あんたら、なにもんだ?」

 アタイの声に何も答えず、男たちは先輩とアタイに襲い掛かってきた。

 先輩は素早くハンマーを手にした。アタイはレンチ。

 手加減は一切しない。一方的に男たちを片付けた。

 でも油断はできない。車の中に誰がいるのか? 場合によっては一気に逆転される。

 案の定だった。

 黒塗りの車からグレーのスーツの男が出てきた。男の手には蒸気機関銃。

 さすがに勝てそうじゃない。

 男はすぐにこちらに機関銃を向けて、何も言わずに撃ち始めた。

 避けようがない。弾が次々と体に当たる。でも、ありがたいことに実弾じゃなかった。

 帯電ゴム弾。ゴム球に高電圧の電気を纏わせた弾。護身用のピストルによく使われる。

 一発二発ならちょっと痺れる程度だけど、ここまで当てられるとさすがに痛い、痛すぎる。

 先輩とアタイは床に倒れこんだ。

 襲ってきた男のうちの二人がなんとか立ち上がった。

 痛みに体を揺らしながら女の子を担ぎ上げて車に乗せた。車はすぐに走り去った。

 アタイは床から動けないながらに機関銃を手にした男を見た。男は機関銃に実弾を込めていた。

「3分だけ待ってやる。残りわずかな人生を存分に楽しむがいい」

 男はそう言ってにやり、と笑った。

「待ってくれるんだね」

 先輩が立ち上がった。先輩の手には銃のような何かがあった。

 男はすぐに引き金に手をかけた。でも撃ったのは先輩が先だった。

 パッ、パッ、パッ、と空気が弾ける音が続けざまに3回。撃ち出された何かが全部、男の銃を持つ手に命中する。男の手から銃が落ちた。

 先輩は容赦がなかった。引き金を引きっぱなし。つぎつぎと男に命中していく。

 パス、と力のない音を最後に弾? が打ち出せなくなった。

 男の体がどさっと崩れ落ちた。

 先輩が撃ってる間は倒れることすらできなかったらしい。ようやく倒れることができた。

「先輩、何使ったんだ?」

 かなりの威力があるのはわかるけど、それが何なのかわからない。

「ん?

 圧縮空気式くぎ打ち機、

 ちょっと改造してるけど」

 ったく、何を作るんだ、この人は。

「あと、耐電作業着を着てたのが幸運だったね」

 何も言えない。でも運が良かったのは確かだ。

 床に倒れているグレーの男が都合四人。

 機関銃を持ってた男には、くぎが軽く刺さってた。まったく、先輩は容赦がない。

 アタイは男たちを工房の外に放り出してシャッターを下ろした。

 色々と事情があって先輩とアタイは軍に見張られてる。もちろん工房も。

 工房の前に怪しげなのが倒れてたら、軍が回収してくれるだろう。

 シャッターを下ろすと工房の中が薄暗くなった。

 女の子が横たわっていた所に、かすかに女の子の姿が見えた。

 幻覚か? いや、見間違いじゃない。確かに見える。

 さっきまでは明るかったから気がつかなかった。

 先輩にも見えるらしい。

「ゴースト?」

「何だ? 『ゴースト』って?」

 先輩が説明してくれた。ゴーストってのは女の子の「精神」「気」「心」あるいは「魂」のようなもの、だそうだ。

 先輩も話に聞いたことはあったけど実際に見るのは初めて、とのことだ。

 加えて、ここまで透明になってると言うことは、相当に弱ってるらしい。

 先輩は急いで汎用救護用機器を持ってきた。

 女の子のゴーストの手首と足首をでかい洗濯ばさみみたいなクリップではさんだ。

 不思議なことにクリップは手首と足首をしっかりとはさんだ。

 透明なのにはさめる、てのは何か不思議だけどゴーストとはそう言うものなのだろう。

 先輩が機器を操作する。何でも「生体エネルギー」を注入してるらしい。

 かすかにしか見えなかった女の子のゴーストが少しずつはっきりと見えるようになってくる。

 15分くらい経ったか、女の子のゴーストはわずかに透けてるものの、はっきりと見えるようになった。

 女の子のゴーストが意識を取り戻した。

「水晶の……宮……殿……」

 そう呟いてすぐに意識を失った。

 このまま床に寝かせておくのは悪いだろう、と、アタイのベッドに寝かせた。なぜアタイのか? 先輩のベッドは荒れ果ててるからだ。

 

 昼過ぎに女の子のゴーストは目を覚ました。

 先輩とアタイはまずは、と自己紹介をした。女の子のゴーストも自己紹介をしようとした。でも、できなかった。自分の名前が「少女」である以外の記憶がないとのことだった。

 だけど「少女」と言う名前なのはわかった。だから、先輩の発案で「少女ちゃん」と呼ぶことになった。

 少女ちゃんが口にした『水晶の宮殿』。王都の東、100kmくらいにある遺跡だ。

 今わかってるのは、少女ちゃんは何者かに狙われてる、水晶の宮殿に何かがある、これだけだ。

 だからと言って何もしない訳にはいかない。

 まずは水晶の宮殿を目指すことにした。

 工房を出ると、表に放り出した男たちはいなくなってた。軍に回収されたのだろう。

 

 飛空挺が蒸気を上げて出航。水晶の宮殿を目指す。

 この飛空挺は軍に借りた。前に軍と絡んだときに、「謎の男」おそらくは軍の特殊部隊か何かの責任者、に連絡先を教えてもらった。

 軍の役所に出向いてその男につないでもらった。

 状況をざっくりと話して飛空挺の調達を頼んだら、すぐに貸してくれた。

 型落ちで「退役したことになってる」船らしい。

 つまり、この一件は軍にとっても悪い話じゃないみたいだ。

 

 30分くらい飛んだだろうか、水晶の宮殿に着いた。

 水晶の宮殿から少し離れたところに飛空挺を着陸させる。

 飛空挺から降りて水晶の宮殿へと向かった。 

 水晶の宮殿は「遺跡」と言うことで入り口の扉には鍵がかけられてる。

 その鍵ももちろん軍から借りてきた。

 でも鍵は必要なかった。扉は粉々に吹き飛ばされてた。「あいつら」の仕業か。

 水晶の宮殿に入った。全てが水晶でできてる。

 日の光を複雑に反射させてキラキラと美しく光ってる。

 宮殿の中央かと思われる所に、御神体、なのか、ひときわ輝く「光」があった。

『あなたを待っていました。さあ、こちらへおいでなさい……』

 アタイには確かに聞こえた。

 明らかに怪しい。不安しか感じられない。でも、体が言うことを聞かない。

 アタイは御神体らしき「光」に手をのばした。

「機械屋ちゃん! 触っちゃだめ!」

 先輩の声が聞こえたけど遅かった。

 アタイは「光」に触れた。その瞬間「光」が一瞬にして「闇」になった。

 アタイは意識を失った。

 

 機械屋ちゃんが倒れてすぐ、「闇」は「光」に戻った。

 私は慌てて機械屋ちゃんに走り寄る。機械屋ちゃんの瞳には光がなかった。

 単に意識を失ってるだけじゃなさそうだ。

 「光」から離れた場所に、機械屋ちゃんを横たわらせた。

 水晶の宮殿には「何かしら」を増幅させる力があるらしい、と聞いたことがある。

 機械屋ちゃんは「不安」か「恐怖」か、何かマイナスの感情で「光」を触ったのだろう。

 だとしたら、マイナスの感情が際限なく増幅される。

 場合によっては心が砕けてしまう、そんなことになるかもしれない……。

 助ける手段はと言うと、機械屋ちゃんの精神に介入してマイナスの感情を取り去る、あたりしか思いつかない。

 どうしたものか……。

 いや、できる。

「少女ちゃん、ちょっと力かしてくれる?」

「あ、はい、

 でも、何をすれば……?」

 少女ちゃんはOKしてくれた。非常にありがたい。

「少女ちゃんはゴースト、精神の存在。

 だから、少女ちゃんを通して私の精神を機械屋ちゃんにつなげられるはず。

 おねがい!」

「わかりました!」

 少女ちゃんは即答してくれた。

「じゃあ少女ちゃん、機械屋ちゃんの手を握って」

「はい」

 少女ちゃんが機械屋ちゃんの手を握った。

「次は私」

 私は床に横になって少女ちゃんの手を握った。

 目の前がふっと暗くなった。次にそれなりに明るく。

 たぶん私の「心の中」だ。

 機械屋ちゃんの「心」に向かう。少しずつ暗くなってくる。どんどん暗くなる。進めば進むほど闇が強くなる。

 深遠の闇の中に機械屋ちゃんを見つけた。

 機械屋ちゃん自体も光を失って暗くなり始めている。光がどんどん弱くなる。急がないと!

 

 気がつくとアタイは蒸気機関車の運転室にいた。

 運転席にはスピードメーターがあった。

 スピードメーターは、100キロ……110キロ……120キロ……、どんどん加速する。

 このままだと、脱線するかボイラーが爆発するか。

 とにかく怖い、怖くてスピードメーターを見てられない。アタイは床に伏せた。

 真っ暗な闇の中で、機関車がついに脱線した。激しく揺れる。

 アタイの体は運転室の中を弾かれまくった。アタイは意識を失った。

 気がつくとアタイはまた蒸気機関車の運転室にいた。また蒸気機関車がどんどん加速する。

 怖くてスピードメーターを見てられない。アタイは床に伏せた。

 今度はボイラーが爆発した。ボイラーに封じられてた高圧の蒸気がアタイを吹き飛ばした。

 ボイラーを形作ってた鋼鉄の破片がアタイを襲った。アタイはまた意識を失った。

 何度も何度も事故が繰り返される。

 アタイには恐怖しかない。しかも恐怖はどんどん強くなる。

 何も考えたくない、何も感じたくない。

 その一瞬あと、シュン、と先輩が現れた。

「機械屋ちゃん、落ち着いて」

 真っ暗だった闇がわずかに明るくなったようにも感じられた。

 先輩がいる、それだけでちょっと安心できる。アタイは先輩の脚にすがりついた。

 先輩は運転室をぐるりと見まわした。

「機械屋ちゃん、メーター何キロまで見た?」

「120まで……、それ以上は怖くて……」

 アタイは震えながら先輩に答えた。

「絶対に大丈夫!

 ちょっと乗り出して車体にある文字と数字、読んで!

 私に聞こえるように!」

 アタイは体を乗り出すのをためらった。でも先輩の言ったことだ、大丈夫に違いない。

 自分にそう言い聞かせて蒸気機関車の横手に体を乗り出した。

 文字と数字はすぐに見つかった。アタイは読んだ。

「……C!……6!……2!……1!……7!」

 アタイは体を運転室に戻した。正直怖かった、だから床にへたり込んだ。

「やっぱり!

 機械屋ちゃん! 絶対に間違いなく大丈夫!」

 先輩の言葉を聞くと、まわりの闇が更に弱まった。

 先輩は運転席に座ってた。操作を始める。

 スピードがどんどん落ちる。最後はブレーキ。蒸気機関車は完全に止まった。

 安心できた。まわりの闇がどんどん消えて、完全に消えた。

 

 アタイは目をひらいた。水晶の宮殿に戻ってた。

 少女ちゃんがアタイの手を握ってた。

「あ、機械屋さん、大丈夫……ですか?」

「ああ、大丈夫だ」

 少女ちゃんと手を離した。少女ちゃんの向こうに先輩がいた。

 先輩が起き上がった。

「もー、心配させないでよ」

「先輩、すまねぇ」

 アタイは先輩に少々縮こまった。

「でもよ、先輩、

 何で大丈夫ってわかったんだ?」

 いちばんの謎だ。

「C6217、

 C62形蒸気機関車17号機。

 余裕で129キロまで出せる。

 機械屋ちゃんは120キロで怖くなったみたいだけど、まだ余裕があった」

 先輩が説明してくれた。

 アタイは不思議に感じる。

「何でそんなこと知ってるんだ?」

「『レッツゴー!スチーム!』の隠しステージに出てくる」

 『レッツゴー!スチーム!』ちょっと前に流行った蒸気機関車運転シミュレーションゲーム。

 先輩は『カウボーイ・ショット』だけじゃなかったらしい。

「ゲームでそんなことまでわかるのか」

「何でも見て、聞いて、触って、体験は大事だし、役にも立つ」

 先輩はさらっと言った。

 けど……、水晶の宮殿では「あいつら」には追いつけなかった。

 これ以上ここにいてもどうにもならない。アタイたちは一旦、王都に戻ることにした。

 

 軍に飛空挺を返した。

 「あいつら」は何者なのか? なぜ水晶の宮殿に行ったのか? 「謎の男」に尋ねたけど、水晶の宮殿に行ったのは、水晶の宮殿の力を取りに行ったのではないか、それを使って「何か」を増幅するつもりなのではないか、それだけしかわからないらしい。

 アタイたちが既に知ってることだけだ。

 たぶんこの男は他にも色々と知ってるはずだ。でも表に出せるのはさっき言ったことだけ。

 裏にはもっとたくさんの情報を持ってるだろう。

 

 この日はここで終わりとした。

 工房に戻る。

 アタイはとりあえず晩メシを作った。

 先輩の分と、アタイの分、それに少女ちゃんの分、を作ったけど、少女ちゃんはメシを食わなくても問題ないらしい。と言うか、少女ちゃんは向こうが透けて見える存在だ。食える訳ないか。

 最終的に少女ちゃんの分は、先輩の胃袋に納まった。

 メシを済ませた後、明日の行動を確認した。

 先輩は難色を示したけど、アタイの意見を無理矢理通した。

 

 翌日。

 軍が裏を見せないつもりなら、こっちも裏から攻める。

 先輩、アタイと少女ちゃんで繁華街に来た。

 少女ちゃんは透けて見える存在だ。見られると厄介なので完全に姿を消してもらった。

 繁華街はちょうど賑わい始め、ざわざわと人通りが多くなりつつあった。

 

 表通りから裏通りに入る。

 裏通り、治安が良いとは言いがたい街だけど人通りはそれなりにある。

 若い男が三人、こっちにやってきた。早速だ。

「君たち、一緒に遊ばない?」

 定型文を口にしつつ更に近づいてくる。男たちがアタイらを囲んだ。

 アタイはそのうちの一人に近づく。

 何も言わずに男の腹にレンチをめり込ませた。

 一人目が道に倒れこんだ。

 アタイの後ろでは、先輩が一人に近づいていた。その男は先輩に抱きつこうとした。

 瞬間、先輩はしゃがみこんだ。すぐに立ち上がる。その勢いのままに男の股間に膝を入れた。

 先輩は容赦がない。二人目が倒れた。

 最後の一人は先輩を見ながら後ずさった。男の後ろにはアタイがいる。男は後ずされなかった。

「友達がいのないヤツだな」

 アタイはそいつの後頭部にレンチを入れた。あくまでも軽く。最後の一人、そいつも道に倒れこんだ。

 

 裏通りからさらに奥に進む。

 裏通りのさらに裏通り。ひとけはまばら。ここまで来るともう「治安」と言う概念がない。

 昼間でも薄暗い。薄汚れた建物が続く。

 さすがの先輩でも不安を感じてるみたいだけど、アタイはぜんぜん怖くない。

 薄汚れた建物の目立たないドアのひとつにアタイは向かった。

 先輩はアタイのすぐ後ろをついてきた。

 少女ちゃんも怖がってるだろうけど、姿が見えないのでわからない。

 二人に悪いことをしたかな、と思った。

 ドアの前に男が二人いた。アタイは入れて欲しいと伝えた。もちろん入れてくれるわけなんかない。

 インフォメーション端末の表示をちらりと見せる。男の一人が建物に入った。

 少しの間をおいて戻ってきた。

「入れ」

 男は一言だけ言った。

 ドアをくぐるとすぐに下りの階段だった。アタイらは階段を下りる。下りきった先には重厚なドアがあった。

 ドアを開けて中に入った。

 ドアの先はそれなりに広い部屋だった。

 部屋の奥に、革張りのソファに身をうずめた男、王都の裏世界のボス、がいた。

 他には部下と思われる男たちがそれなりの人数、それに下っ端らしい男が何人か。

 ボスが言った。

「何の用か聞かせてもらおう」

「ブラスト盗賊団につないで欲しい」

 と、アタイ。

 インフォメーション端末のデータのひとつを表示させてボスに見せた。

「なるほど」

 アタイが見せたのは、ブラスト盗賊団のエンブレム。ブラスト盗賊団の団員である証だ。

 できればこの手は使いたくなかったけど、「裏」を使うには仕方がない、自分にそう言い聞かせた。

 ボスは手下に指示を出す。アタイたちはそいつについていけ、とのことだった。

 行った先は通信室らしい部屋だった。

 ブラスト盗賊団の飛空挺、ビッグブラストに通信を入れてもらう。

 すぐに通信がつながった。

「おう、久しぶりだな、お嬢、

 今日はどうした?」

 おやっさん、ブラスト盗賊団の団長、の陽気だけど重い声。

 アタイはだいたいのところをおやっさんに話した。

 おやっさんは、すぐに王都に向かう、と言って合流場所と時刻を言ってくれた。

 その言葉を確認して、アタイらはボスのアジトを後にした。

「……機械屋ちゃん、すごい人だったんだね」

 先輩がぽかんとして呟いた。

 

 昼前、街外れの森の上にビッグブラストがやって来た。

 超低空飛行と超静音飛行。これなら軍に見つからないだろう。

 先輩とアタイ、それに姿を現した少女ちゃんでビッグブラストに乗り込んだ。

 少女ちゃん、ゴーストを見て、百戦錬磨のつわもの、おやっさんもさすがに驚いた。

 だけど、説明をしたらすぐに納得してもらえた。さすがはおやっさんだ。

 おやっさんはすぐに船を南へ向けて飛び始めた。

 帝国の兵器実験場の跡地ではないか、それがおやっさんの読みだった。

 帝国は解体されたものの、そのどさくさでタチの悪い連中がそれなりの人数、姿を消したらしい。

 そのうちの一人が実験場あたりで不穏な動きをしているとのことだ。

 少女ちゃんの体を返してもらう。それに、やられた分はしっかりやり返させてもらう。

 

 山脈、帝国との国境線を越えて帝国領に入る。ビッグブラストはさらに飛び続けた。

「そろそろ実験場だ」

 おやっさんが言った。

 正面に何かが見えてきた。

 近づいていく。

 「それ」はとにかくでかい建物だった。

 おやっさんは少し距離をとってビッグブラストを止めた。

「すまねぇ、これ以上は近づけねぇ。

 俺たちはここで待ってる」

「いや、おやっさん、ありがと」

 アタイはおやっさんに礼を言った。

 先輩とアタイと少女ちゃんのゴースト、三人で地上に降りた。

 そこからは歩いて「巨大な建物」へと進んだ。

 

 近づいて行くと「建物」の頂上に誰かがいた。

 そいつは何かを言い始めた。ご丁寧にマイクとスピーカーを使って大きな音で。

「見よ! 科学の長き歴史の果てにたどり着いた究極の蒸気要塞を!

 小娘の体は手に入れたが、ゴーストを忘れるとはうかつだった。

 しかし、そちらから連れて来てくれたか」

 その言葉とともに蒸気要塞なるものが動き出した。

 要塞のあちこちから、シュー、プシュー、と蒸気が吹き出す。

「機械屋ちゃん! 見て!」

 先輩が指さした先、蒸気要塞の中心部に少女ちゃんの体が固定されてた。

 そのすぐ上には何かの結晶らしきものが輝いてる。たぶん水晶の宮殿から取ってきたものだ。

 蒸気要塞から突き出した八本の鉄塔に高圧プラズマが宿った。

「小娘のゴーストなどなくてもこの力!

 ゴーストを手に入れて世界を焼き尽くそう!」

 アタイでもわかる、これが放たれたら地上は焼き尽くされる。

 そいつはさらに蒸気要塞のすばらしさを語り続ける。

 先輩は何も言わずに蒸気要塞をじっくりと見ていた。

「よし!」

 そう言って圧縮空気式くぎ打ち機を取り出した。

 いくらかの距離の先の地面を這っているケーブルの一本に狙いをさだめた。

 パッ、と破裂音を鳴らしてくぎが一本、撃ち出された。

 くぎがケーブルを打ち抜いた。

 ケーブルが断線すると要塞が力を失い始めた。

 どうやら先輩が撃ったケーブルが蒸気要塞の命綱だったらしい。

 要塞の頂上にいた「そいつ」は突然のことに驚き、おろおろするしかないようだった。

「だらだらしゃべってたのが命取りだね」

 先輩はそう言ってくぎ打ち機を納めた。

 先輩、アタイと少女ちゃんのゴーストは、少女ちゃんの体を目指して要塞を駆け上った。

 少女ちゃんの体にたどり着いてすぐに、少女ちゃんのゴーストを少女ちゃんの体に戻らせた。

 体にゴーストが重なった。わずかな時間のあと、少女ちゃんが目を覚ました。

 少女ちゃんを蒸気要塞から下ろす。

「急ぐよ!」

 少女ちゃんを蒸気要塞の要から取り外したのだ、要塞が暴走してもおかしくない。

 先輩は来た道を走り始めた。対して少女ちゃんの足取りはひどく頼りない。体とゴーストが離れてた影響だろう。だけど急がなくちゃならない。

 アタイは少女ちゃんを背負って先輩の後を追った。

 要塞を駆け下りて、そのままの勢いで要塞から距離をとった。

 

 運が良かったのか要塞は暴走しなかった。少しずつ力を失って最後は沈黙した。

 ひと安心できた、と思ったけど、そうそう上手くは行かなかった。

 北の方から黒い飛空挺が飛んでくる。軍の特殊部隊の船、間違いない。

 そいつはビッグブラストに向けて砲撃を始めた。でも一発も当たらない。

『悪い、お嬢、こんなとこだ。

 俺らは撤収する』

 おやっさんの声が聞こえた。

 ビッグブラストはスピードを上げて飛び去る。

 特殊部隊の飛空挺は砲撃を続けるけど、やっぱり一発も当たらない。

 要は、特殊部隊としては『交戦したが逃げられた』と言うことにしたいのだろう。

 アタイらの上空で特殊部隊の船が止まった。船からは次々と隊員が降りてきた。

 要塞の頂上にいた「そいつ」はあっけなく捕縛された。

 「そいつ」が連れていかれた後、「謎の男」が現れた。男はことの顛末を話してくれた。

 帝国の実験場跡地で何かをたくらんでいるやつがいる。

 帝国は解体されたものの一応は帝国の領地、うかつには手を出せなかった、とのことだ。

 結局のところ、先輩とアタイは今回もまたこの男に良いように使われた、と言うことだ。

 男は話を続けた。

 少女ちゃんは軍の保護下に入れる手はずになっている。

 少女ちゃんは様々なことがらの『鍵』となる特別な存在なのだそうだ。

 アタイには納得できなかった。

「あんたらが少女ちゃんを利用するつもりか?」

「いや、純粋に保護だ。

 王国に『鍵』があるとわかったら、まわりの国はそうそう王国には手出しできないだろう」

 男はさらに言葉を続けた。

「それに、我々が少女を利用する、となれば、

 君たちが止めるだろう、絶対に」

 確かに男の言う通りだ。

 先輩とアタイは絶対に動く、軍が相手でも。

 少女ちゃんはと言うと、軍に保護してもらう、と言うことにすぐに納得した。

 「そうすれば私は安心できるから」

 少女ちゃんなりの考えがあったのだろう。

 

 アタイたちは軍の飛空挺で王都に帰ってきた。

 

 帰りの道中で男が言った。

「今回の報酬だ」

 先輩のインフォメーション端末に10万ダリルが入金された。

 

「先輩、どうする?」

「焼肉は当分食いたくない」

「だな」

 

 そんな話をしているうちに王都に着いた。

 別れ際に少女ちゃんが言った。

「先輩さん、機械屋さん、

 ありがとうございます!」

 ぺこり、とお辞儀をした。

 顔を上げたとき、少女ちゃんは全開の笑顔だった。

 

 

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