冒険と探検と日常と ~のびのびTRPG~   作:混沌野郎

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 機械屋さんは毎日が冒険とか探検とか他にもイベントとか、もちろんそんなのじゃなくて。
 日常の時間がすぎることの方が多い訳で。
 機械屋さんの何気ない1日の風景は……、そんなお話。 

 本作は、文章の書き方を前作以前の書き方から変えてみた「実験回」です。
 「実験」の要素が強いため、淡々と1日がすぎるだけの話です。
 ですので「盛り上がり」的なパートは皆無な旨、ご了承いただけると幸いです。

 本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』の二次創作です。
 ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した世界観を使って記した二次創作です。

 『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「機械屋」→「機械屋さん」
PC「少女」→「少女ちゃん」
等々となっています。

先に記しとく設定、
 機械屋(主人公)と先輩は女性、
 作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
 と言うことで。

クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.


第28話 機械屋さんのとある日 (実験回)

 こんちは、アタイは機械屋。今は先輩の工房で働いてる。

 工房には大きな目標がある。

 『エントロピージェネレーターの完成』だ。

 厳密には逆の言い方をした方が良いかもしんねぇ。

 つまり、『エントロピージェネレーターを完成させるために工房がある』だ。

 『エントロピージェネレーター』ってのは先輩が提唱した『エントロピージェネレーター理論』に基づく機械だ。

 具体的には「エントロピーの増大からエネルギーを取り出す」機械。

 簡単に言えば「永久機関」だ。

 初めて先輩から話を聞いたときはもちろん「ありえねぇ」って思った。

 けど、先輩に理論の基礎から教えてもらって、何回も教えてもらって、何回も何回も教えてもらって、何とか理解できた。

 『エントロピージェネレーター理論』は完璧な理論だ。だから十分にありえる。理解して、そう確信した。

 工房の仕事。

 いちばんの目標は「エントロピージェネレーターを作る」だけど、そのためには金が要る。

 だから工房は『何でも屋』をしてる。

 蒸気自動車のメンテナンス、ボイラーの修理、図面の作成、ほかにもいろいろで、テレビの修理なんかもする。

 先輩とアタイとでできる仕事は何でも引き受ける。

 だから『何でも屋』だ。

 先輩。

 『先輩』って呼んでるけど、アタイは先輩の『後輩』じゃない。

 雇ってもらったときに「私のことは『先輩』って呼んで」そんな感じのことを言われた。

 今までに一度も『先輩』って呼んでもらったことがなかったから、呼んでもらいたかったらしい。

 先輩は工房長でアタイの上司、ってことになるけど、上司と部下な感じはぜんぜんない。

 そもそも工房には先輩とアタイだけだし、話し方にしても先輩は変に丁寧に話されるよりもタメ口の方が楽で、アタイもタメ口の方が楽だ。

 だからお互いタメ口で話してる。

 先輩はそんなのだけど、一流の理論屋で一流の技術屋だ。

 一流の理論屋なのはエントロピージェネレーター理論を読めば一目瞭然。とんでもない理論屋だ。

 一流の技術屋なのは工房で作業してるのを見ればこれも一目瞭然。

 工房にはいろんな機械がある。専門の職人でないと扱えない機械もある。

 そんな機械を先輩は当たり前に使いこなしてる。

 だから技術屋としても一流だ。

 先輩とアタイの毎日。

 エントロピージェネレーターの作業はもちろんするけど、請け負った仕事の方が明らかに多い。

 けど、仕事を入れてくれるってのは、工房を信頼してくれてるってことだから嬉しいことだ。

 そんな毎日のとある日。

 

 ピロリンピロリン、ピロリンピロリン、

 目覚まし時計の音で意識が眠りから浮かび上がる。

 けどまだ眠たい。

 毛布に包まったままで腕を伸ばす。

 枕元を探って……、あった。目覚まし時計の感触。

 時計の音を止める。

 音がなくなって、体の動きが止まる。

 「もう少し寝ていたい」と、「起きなきゃなんねぇ」が、天秤に乗る。

 少しずつ「起きなきゃなんねぇ」に傾く。

 十分に傾いて、体を起こした。

 ふあー、と大きなあくびが出る。

 両腕を上に、ぐーっと伸ばして体を目覚めさせる。

 部屋の外、作業スペースに目をやる。

 作業スペースには朝の光が入ってる。

 工房の屋根の強化パネル、半分は半透明だ。

 だから天気が良いと十分な光が入る。

 ベッドから足を下ろして靴をはく。もちろん安全靴だ。

 立ち上がって。

 着替えは大丈夫だ。

 昨日は作業着のままで寝た。だから着替えは必要ない。

 作業スペースの光が部屋に入ってきてる。明るい。

 ふと思った。部屋の奥の窓。

 そっちを向く。窓があって、けど光はない。「黒」だ。

 ……たまには開けてみるか。

 窓の前に立って、鍵は……、かかってない。無用心だなと思う。

 窓に手をやって横に引く。

 ガラッ、とは開かない。どころか動かない。

 両手をまどにやって、手にも腕にも思いっきり力を入れる。

 ガコッ、と少し動いて少し開いた。

 もう1回。ガコッ、と動いてさらに開いた。

 けど外を見るにはまだ十分には開いてない。

 もう1回。ガコッ、と動いて、頭を出せる程度まで開いた。

 窓の外、すぐ前に隣の倉庫の壁。

 光が入る訳がない。

 頭を出してみる。

 工房の正面側、光の線が見える。工房と隣の倉庫との隙間だ。

 反対側、工房の裏の方を見る。正面側よりも遠くに光の線が見えた。裏にある倉庫とその隣の倉庫の隙間。

 上を見るとやっぱり光の線がある。工房の屋根と隣の倉庫の屋根の隙間だ。

 最後に下。部屋からの光があるから地面が見えた。じめっとした感じだ。

 頭を戻す。

 この窓は何のためにあるんだ?

 光は入らないし、空気の動きもないから換気にもならない。

 けど、ある。不思議だ。

 窓を閉める。

 だろうな、と思ってた通り、窓は動かない。

 腕に力を入れて、ガコッ、と動いた。さらに力を入れて、ガコッ、ガコッ、と動いて閉まった。

 鍵をかけて、と思ったけど、鍵も動かなかった。なるほど、かかってなかった訳だ。

 窓に納得できた。

 部屋を出る。ドアを開けて作業スペースに出る。食堂に向かう。

 食堂はふたつ隣の部屋で、アタイの部屋と食堂の間の部屋は先輩の部屋。

 先輩の部屋は暗い。いつもと同じで先輩はまだ寝てる。

 先輩の部屋のもうひとつ先、食堂ももちろん暗い。

 ドアを開けて中に入って、すぐのところにある明かりのスイッチを押す。部屋が明るくなる。

 さて、朝メシだ。

 まず小さなポットに水を入れる。量はマグカップ2杯分より少し少ない量。アタイの分と先輩の分。1杯分がアタイので、1杯分より少し少ないのが先輩の分だ。

 ポットをコンロに置いてコンロに火を入れる。

 棚から食パンを1枚出してトースターにセット。スイッチを入れる。

 次は、湯が沸いてパンが焼けるまでの作業。

 棚から皿、小鉢、マグカップ、スプーンを取り出す。

 同じく棚からインスタントコーヒーを出してマグカップにひとさじ。インスタントコーヒーを元の場所に戻す。

 冷蔵庫からヨーグルトとジャムを取り出す。

 パンが焦げ始めて香ばしい匂いが漂う。毎日のことだけど美味そうな匂いだ。

 ヨーグルトを小鉢に取る。残りは冷蔵庫に戻す。

 ポットのふたがカタカタ鳴った。湯が沸いた。

 マグカップに湯を注ぐとコーヒーの匂いが広がる。これも美味そうな匂いだ。

 すぐに後、パンが焼き上がったのをトースターが知らせてくれた。

 トーストを皿に取る。

 ジャムをヨーグルトにひとさじトッピングして、トーストに塗って、冷蔵庫に戻す。

 それぞれをテーブルに置いて、テーブルにトーストとヨーグルトとコーヒーがならぶ。

 テーブルに向かって座って、手を合わせて「いただきます」。朝メシを食いにかかる。

 まずはトースト、表面はカリカリで中はふわふわで、ジャムの強い甘味とトーストのほのかな甘味が美味い。

 トーストを置いてヨーグルトに手を伸ばす。今度はヨーグルトの酸味とジャムの甘味が混ざる。これも美味い。

 コーヒーを口にする。苦味が味覚をリセットしてくれる。

 またトーストに戻って……。

 メシを食い終えた。今日も良い朝メシだった。

 後片付け。皿と小鉢をシンクに移す。マグカップはまだコーヒーが入ってるからテーブルの上のままで。

 スポンジに洗剤を含ませて皿と小鉢を洗う。

 泡に包まれたのを水ですすいでふきんで拭いて棚に戻した。

 さて、そろそろだ。

 そう思ってから1分もしないで先輩が食堂に入ってきた。

 先輩は毎朝、同じ時間に起きてくる。

「おはよー」

「おはよ」

 先輩のまだ眠気が抜けてない朝の挨拶にアタイが挨拶を返す。

 先輩が、ふあー、っと大きなあくびをする。

「また夜更かしか?」

「だね、

 寝る前に本読むのは良くないね」

 やっぱりだ。先輩の夜更かし、原因のほとんど全部は読書だ。

「きりの良いとこでやめる、とかしないのか?」

「そう思うんだけど、

 きりの良いとこちょうどすぎたとこで、きりの良いとこで、ってなっちゃうんだよね」

 なるほど、きりの良いとこでは終わってるのか。

「けど、何で毎日、一緒の時間に起きれるんだ?

 夜更かししてもしなくても」

「んー、何でだろね。

 朝って眠たくても起きちゃうんだよ。

 不思議だね」

 そう答えてくれた。

 本当に不思議だ。先輩は目覚まし時計とかは使ってない。けど、毎日、同じ時間に起きる。

 夜更かししてもしなくても目覚まし時計必須のアタイとは正反対だ。

「さて、今日も朝だよ」

 先輩は棚からマグカップとスプーン、それにインスタントコーヒーと砂糖の小びんを取り出す。

 マグカップにインスタントコーヒーをひとさじと砂糖を3さじ。

 インスタントコーヒーと砂糖の小びんを棚に戻して、コンロに向かう。

 ポットからマグカップの半分まで湯を入れる。

 ポットの湯は冷めてぬるくなってるけど、先輩にはその方が都合が良いらしい。だから沸かし直さない。

 次は冷蔵庫へ。牛乳を出してマグカップの残り半分に入れる。

 牛乳を冷蔵庫に戻して、マグカップの中身をスプーンで混ぜて、混ぜ終わったスプーンをシンクへ。

 先輩はそのまま棚へ移動。棚の上にあるテレビのスイッチを入れる。

 最後のニュースが始まったところだった。このニュースが終わると次は天気予報だ。

 先輩はよほどのことがない限り、天気予報までにテレビをつけてる。やっぱり不思議だ。

 今朝の最後のニュース、子供によるスリが多い、とのことだ。

 王都は治安は良いけど子供のスリだけは何故か多い。これも不思議だ。

 ニュースが終わって天気予報が始まった。

 キャスターが天気を解説してくれる。その後に王都地方の天気予報。今日も王都は良い天気だそうだ。

 天気予報が終わって、先輩はテレビを見続ける。先輩のテンションの上げ方だ。

 アタイは食堂から出て工房の正面に向かう。

 インフォメーション端末を取り出して正面のシャッターを開ける。

 シャッターが、ガラガラと巻き上げられて、巻き上げられた分だけ工房にしっかりした朝の光が差し込む。

 シャッターを半分まで開けて外に出た。

 外に出るとまだ人はちらほら。倉庫街が動き始めるまではまだ時間がある。

「おはようございますー」

 近所の倉庫の兄ちゃんが工房の前を通りつつ声をかけてくれた。

「おはようです」

 挨拶を返す。

 通りの様子を見てると、知った顔のおっちゃんが歩いてきた。隣の倉庫のおっちゃんだ。

 いくらかまで近づいて。

「おはようです」

 挨拶の言葉。

「ああ、おはよう。

 いやいや、機械屋さんの元気な声は清々しいね」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

 おっちゃんの声にこたえる。

 おっちゃんはインフォメーション端末を操作してシャッターを開ける。いくらか開いたところで中に入った。

 空を見上げると青空が広がって、その中を小さな雲が流れてる。なるほど、良い天気だ。天気予報に納得した。

 体操、ほどじゃなくて、軽く体を動かした。

 体の調子がぐん、と上がる。アタイの調子の上げ方だ。

 十分に調子を上げて、工房を向いてシャッターを全部開けた。朝の光が工房を満たした。

 工房の中に戻って事務室に入る。

 カウンターの上の据え置き端末の前に立つ。

 端末を操作してメッセージを確認する。メッセージは何も届いてなかった。

 朝いちばんの事務室はこれで良し。

 事務室から作業スペースに出る。

 すぐに先輩が食堂から出てきた。

 アタイと向き合う。

「それじゃ、今日の仕事ね」

 先輩の声、今日の仕事を確認する。

「私は融合炉の修理で、機械屋ちゃんはボイラーのオーバーホール。

 納期は融合炉は明後日で、ボイラーは明日中。

 なんだけど、できればどっちも今日中に終わらせたいね」

「了解」

 と言ってからひとつ気になること。

「融合炉、アタイがした方が早くねぇか?」

 もちろんすぐに先輩から言葉が返ってくる。

「なんだけどね。

 このところ融合炉は全部、機械屋ちゃんにおねがいしてるから、私も融合炉扱っとかないと感覚が鈍っちゃうからね」

「なるほど、そう言うことか。

 了解だ」

 先輩の言葉に納得して声を返した。

 次は仕事を始める合図の言葉。

「それじゃ、ご安全に!」

「ご安全に!」

 先輩の凛とした声にアタイも凛とした声。

 作業スタートだ。

 先輩は作業スペースの奥で融合炉を向く。

 アタイは正面側でボイラーを向く。

 工房の前の通り、行き交う人が増えてる。トラックも走り出してる。

 倉庫街の朝が始まって、街が動き始めてる。

 先輩とアタイ、ふたりで作業にとりかかる。

 今日の仕事、先輩の融合炉とアタイのボイラー。

 どっちも難しい作業じゃない。

 これくらいの作業だったら先輩と軽く話をしながら、なのが多い。

 けど、今はお互い何も話さずに作業に集中する。

 理由は、仕事がどれくらいかかるか見通せないから。

 先輩の融合炉は故障してるのは分かってるから、バラして、壊れてるとこを修理して、組み立て。

 なんだけど、先輩のことだ修理だけじゃなくって全部バラしてメンテナンスもするだろう。

 アタイのボイラーは全部バラして、バラしたパーツを掃除して、問題がなければ組み直して終わり。

 だけど問題があったら修理が要る。

 ボイラーの分解。

 小型の汎用ボイラーだ。扱いは体が覚えてる。だから何も考えずにパーツを外していく。

「あ、これか」

 先輩の声。手を止めて先輩を向く。

「故障の原因、分かったのか?」

「うん、ピストンにひび入ってる」

 アタイの言葉に先輩が答えてくれる。

 その声にアタイが返す。

「ピストンにひび?

 珍しい壊れ方だな」

 ピストンにひびが入る。

 ひびが入っても不思議はないけど、なかなか出会わない壊れ方だ。

「替えのピストンってあったかな?」

「ちょっと待ってくれ」

 先輩に答えてからインフォメーション端末を取り出す。

 工房の在庫管理の画面を表示させる。

「型番たのむ」

「おけ、言うね、

 YGR-P01-3、だね」

 先輩の声を聞きながらインフォメーション端末に入力する。

「YGR-P01-3、と」

 画面が切り替わって『YGR-P01-3』がふたつ表示された。

 画面を操作してふたつの詳細を見る。

「これか……」

 あったけど微妙だ。

「あるかな?」

 先輩に尋ねられる。

「ふたつあるけど……、どっちも微妙だな」

「微妙?」

 アタイの言葉に先輩の言葉が返ってきて、その声にアタイが返す。

「ふたつともジャンクだ。

 ひとつはチェックはしてて問題ない、ってことになってる。

 もうひとつはチェックも何もしてない。完全にジャンクだ」

「そっか」

 そう言って先輩は考え込む。

 考えてから言った。

「中古ってどれくらいするかな?」

「中古? 純正の中古か?」

 先輩の質問に質問で答える。

「うん、そう」

 返ってきた言葉に今度はアタイが考える。

「純正の中古か……」

 考えて答えが出た。

「15,000ダリルくらいじゃねぇかな。

 けど、純正の中古使うんだったら、互換の新品使った方が良いぞ。

 値段もそんなに変わんねぇし」

「そっか」

 先輩はまた考える。

 考えて、

「15,000ダリルか……、

 よし、とりあえずジャンクで試してみる」

 結論が出た。

「OK、取ってくる」

 工房にあるパーツの類、アタイはほとんど全部把握してるけど、先輩はある程度しか把握してない。だからアタイが取りにいく。

 パーツとかは2階にある。

 先輩が作業してるまだ奥、2階に上がるためのリフトがある。大きい物の上げ下ろしもできるしっかりしたリフトだ。

 リフトに乗って、リフトの端にある「↑」と「↓」ふたつのボタン。もちろん「↑」を押す。

 カコン、と揺れてからリフトが動き始める。

 ゆっくりと上がって2階まで上がる。

 カコン、と揺れてリフトが止まった。

 2階のフロアに移る。

 2階には大概いろんな物がある。融合炉絡みのはそのいちばん奥にある。

 だから、いろんな物の間を通って2階のいちばん奥へ。

 融合炉のパーツ、大きい物はそのまま置いていて、小さい物はコンテナに入れて積んである。

 インフォメーション端末を見て『YGR-P01-3』の詳細を確認する。

 ひとつは「3」のコンテナに、もうひとつは「5」のコンテナに入ってるらしい。

 積んであるコンテナには番号を書いたテープを貼ってある。

 まず「3」を探す。

 あった。

 積んであるコンテナのいちばん上にあった。

 中を見て……、いろいろと入ってる。

 ピストンを探して……、見つかった。

 コンテナから取り出して型番を確認する。

 『YGR-P01-3』、間違いない。

 これは特に汚れとかはなくて、チェックして問題ないってことになってるやつだ。

 床に置いて、次は「5」を探す。

 少し探して、あった。上からふたつめだ。

 上にあるコンテナを降ろして、「5」の中を見る。

 やっぱりいろいろと入ってる中にピストンがあった。

 取り出す。

 オイルとグリスでベタベタになったところにほこりが付きまくって大変なことになってる。

 型番を見る。『YGR-P01-3』、これだ。

 状態から見ても、完全にジャンクなやつ、で間違いない。

 汚れきってるピストンを一旦床に置いて、床に降ろしてたコンテナを元の場所に戻した。

 床に置いたピストンふたつを持ってリフトに戻る。

 リフトに乗って「↓」のボタンを押す。

 カコンと揺れてリフトが降り始める。すぐに1階について、カコンと揺れて止まった。

「あったかな?」

 先輩に尋ねられる。

「ああ、あった。

 これだ」

 リフトから作業スペースに降りながら答える。

 2階から持ってきたピストンふたつを先輩に見てもらう。

 チェックして問題ないやつと、完全にジャンクなやつ。

「こっちはたぶん大丈夫だけど、こいつは正体不明だ」

 ふたつを先輩に渡す。

「やっぱりこっちから試した方が良いね」

 大丈夫そうなやつに視線を向けて先輩が言う。

「だな」

 アタイが答えて、

「ありがと」

 先輩が言ってくれて、

「かまわないって」

 アタイが答えた。

 先輩はピストンの確認を始める。

 アタイはボイラーに戻って分解を再開する。

 ふたりで黙々と作業を続けて、作業がいくらか進んだところで時計を見た。

 昼前になってた。そろそろ昼メシの準備だ。

 けど、あとふたつ外したらきりが良い。だからパーツをふたつ外した。

 これでアタイの午前の作業は終わりだ。

「昼メシ作るぞ」

 先輩に声をかける。

「おけ、おねがい」

 先輩はアタイを向いて答えてくれた。

 メシを作るのはアタイの仕事だ。

 先輩が言うには、先輩のメシよりもアタイのメシの方が美味い、らしい。

 アタイは先輩のも良いと思うけど、先輩はそう言ってくれてる。

 だからアタイが作る。

 食堂に向かって、入って、まずはシンクへ。

 シンクで手を洗う。

 オイルとかで汚れてるから洗剤をたっぷり使って丁寧に洗う。

 きれいに洗ってシンクに引っかけてるタオルで手を拭く。

 次は食材の確認。

 冷蔵庫を開けて、野菜がいくらかある。棚を見て、缶詰がある。

 昼メシには十分だ。けど、晩メシには淋しい。

 夕方にマーケットに行こう。そう決めた。

 昼メシを作りにかかる。

 材料は冷蔵庫にあった野菜と棚にあった魚の缶詰。適当に炒めることにした。

 冷蔵庫から野菜を出して、棚から魚の缶詰をふたつ取り出して、調理台に置く。

 まな板と包丁を出して野菜を洗って荒く切る。

 調理台の下からフライパンを取り出してコンロに置く。

 コンロに火を入れて、油を入れてフライパンに馴染ませる。

 良い温度になってるはずのところに野菜を入れる。

 ジュウッ、と野菜の水気が油にはねる。

 フライパンを揺らして野菜を混ぜて火を通す。

 十分に火が通ったところに缶詰の魚を入れる。

 またフライパンを揺らして火を通しながら野菜と魚を馴染ませる。

 しっかりと馴染んだら味付けだ。

 味付けには塩とスパイスを使う。

 塩とスパイス、だいたいこれくらいか、の量を入れる。

 フライパンを揺らして味を行き渡らせる。

 スパイス。

 棚にはスパイスとハーブがたくさんある。

 アタイが工房に来る前の一時期、先輩はスパイスとハーブに熱中してたらしい。

 熱が冷めてからはほとんど使ってなかったけど、せっかくあるんだからアタイがメシ作るのに使って、買い足して使ってる。

 だからスパイスとハーブは今もたくさんある。

 そろそろか、味を見て、ピリ辛が弱い。

 スパイスを追加して、フライパンを揺らして、もう1回味見する。味のバランスが悪くなった。

 味を修正する。味見をして、まずまず良い感じになった。

 これでできあがりだ。

 棚から皿を4枚、大きいのを2枚と中くらいのを2枚、取り出す。

 大きい皿は調理台に、中くらいの皿はテーブルに置く。

 大きい皿に炒めた野菜&魚を取り分ける。

 取り分けた皿をテーブルに移す。

 棚、テレビがある方に先輩のを、その向かいにアタイのを置く。

 中くらいの皿を大きい皿の横に。

 棚からロールパンを取り出してその上に置く。

 先輩はひとつでアタイはふたつだ。

 最後に棚からフォークを出してそれぞれのメシの前に置く。

 メシの用意ができた。

 用意ができて、ちょうど昼の昼メシにいちばん良い時間。

「はらへったー」

 先輩が食堂に入ってきた。

 入ってきてすぐ、

「おー、美味そうな匂いだー」

 メシの匂いに反応して言う。

「機械屋ちゃんのおかげで美味いメシが食える。

 ありがたいことだね」

「そう言ってもらえると嬉しい」

 先輩に言葉を返す。

 先輩とアタイ、それぞれの席に座ってメシを前にする。

 「いただきます」をしてメシを食いにかかる。

 食いながら仕事の話になる。

「融合炉、どうだったんだ?」

 先輩に尋ねる。

「全部バラして、壊れてるのはピストンだけでね、

 昼から組み立てて、今日中にできあがるね。

 機械屋ちゃんは?」

「午前中で8割くらいバラして、今のところ問題なし。

 故障してる訳じゃないから残りもたぶん大丈夫だ。

 アタイも今日中になんとかなる」

 先輩の問いに作業の状況を話す。

 その後も仕事の話をしながらメシを食って、食い終わった。

 メシを食い終わって後片付けを始める。

 ふたり分の食器をシンクに移す。

 先輩はテレビのスイッチを入れる。

 テレビの音がBGMになる。

 小さいポットに水を入れてコンロに置いて火をつける。

 次は食器、スポンジに洗剤を含ませて皿とフォークを洗う。

 しっかりと洗って、泡を水で流して、ふきんで拭く。

 食器を片付ける棚は先輩の向こうだ。

 だから、

「先輩、頼む」

 先輩に食器を渡す。

「おけ」

 先輩が棚に片付けてくれた。

 後はフライパン。これもしっかり洗ってふきんで拭いて、調理台の下に片付けた。

 片付けが終わって、いつも通りのタイミングでポットに湯が沸いた。火を止める。

 マグカップふたつにインスタントコーヒーをひとさじずつ。

 先輩のには加えて砂糖を3さじ。

 湯を入れる。アタイのは十分な量で先輩のはマグカップに半分だけ。

 冷蔵庫から牛乳を取り出して先輩のマグカップの残り半分を満たす。

 マグカップふたつをテーブルに移す。ひとつはアタイの席に、もうひとつは先輩の前に置く。

「ありがと」

 アタイを見て先輩が言ってくれた。

 テレビ、昼の情報番組を見る。見ながらコーヒーを飲んで腹を落ち着かせる。

 コーヒーを全部飲んで、腹が落ち着いて、そろそろ昼からの仕事の時間だ。

 先輩がテレビのスイッチを切って、ふたりで作業スペースに出た。

 先輩は融合炉の組み立てに取り掛かる。アタイはボイラーの分解の続きだ。

 作業の見通しが立った、だから話が出る。

「ここんとこ、少女ちゃん来てないね」

 先輩が言う。

「だな。

 東通りに遊びに行くとかしてりゃ良いけど、

 じゃなかったら、そろそろ『謎の男』に休めって言われるな」

 少女ちゃんによくあることだ。

 先輩から言葉が出る。

「その前に遊びに来てもらった方が良いね」

「適当に仕事空けて、少女ちゃん、だな」

 先輩と話をしながら手はしっかりと動かしてて、ボイラーを全部バラした。

 問題は何もなかった。だから組み立てにかかる。

「あ、そうだ、

 夕方にマーケット、行ってくる」

 今度はアタイから言う。

「マーケット?」

「ああ、食い物が淋しい。

 何か買ってくるもの、あるか?」

 返ってきた先輩の声に質問を返す。

「んと、

 今日はないね」

「了解だ」

 先輩の言葉に答えた。

 先輩は融合炉を組み立てて、アタイはボイラーを組み立てて、時間がすぎる。

 もうすぐ夕方、先輩の融合炉ができあがった。

 先輩は後片付けに取り掛かる。アタイのボイラーもあと少しだ。

 その、あと少し、が終わって、ボイラーが組み上がった。作業終了だ。

「終わったー」

 今日の仕事が終わった。体から力が抜ける。

 けど今日はもうひとつある。

「機械屋ちゃん、マーケット行くんだよね?」

「だな、片付けて行ってくる」

 先輩に答える。

「片付けは私がしとくから、機械屋ちゃんはマーケット行ってきて」

 先輩が言ってくれた。ありがたい。

「それじゃ、頼む」

 そう言ってから食堂に向かう。

 食堂に入ってまずシンクへ。汚れてる手をしっかり洗う。シンクに引っかけてあるタオルで手を拭く。

 買うものを確認する。

 冷蔵庫を開けて中を見る。野菜は淋しくて、肉系はない。

 棚を開ける。缶詰のストックが欲しい。パンも残り少ない。

 そのあたりを買ってこよう。

 食堂から出る。

「それじゃ、行ってくる」

 後片付けをしてる先輩に言葉をかける。

「おけ、行ってきて」

 先輩の声が返ってきた。

 工房を出る。

 倉庫街は仕事が終わり始める時間だ。

 通りの人が減り始めてて、通りを走るトラックも少なくなってる。

 マーケットは住宅街の近くにある。だから少し歩く。倉庫街から近くじゃないけど遠くでもない。

 晩メシを考えながら歩く。

 アタイが作るメシはフライパン系、「焼く」と「炒める」が多い。昼も「炒める」だった。

 だから晩メシは鍋を使おう。ひとつ決まった。

 考えごとをしながら歩いてるうちにマーケットに着いた。

 マーケット、出入り口に積まれてるかごをひとつ持って中に入る。

 入ってすぐの野菜のコーナー。

 先輩の好みの野菜とアタイの好みの野菜をいくつかずつかごに取る。

 次は肉系。肉にするか、魚も悪くない。今日は……、肉にしよう。

 肉のコーナー。

 肉と言ってももちろんいろいろある。少し考えて、いつもよりも少し良い肉をかごに入れる。

 缶詰のコーナーに移動する。

 缶詰は多めに買っておこう。

 野菜の缶詰をふたつ、魚のもふたつ、肉のは4つ、かごに取った。

 最後にパンのコーナー。

 いつもの食パンの袋をひとつと、いつものロールパンの袋をふたつ、かごに入れた。

 これで買うのは全部だけど……。考えてから菓子パンをふたつ、かごに足した。

 重たくなったかごを持ってレジに向かう。

 レジで払いを計算してもらう。インフォメーション端末をレジの機械に同期させて支払いをした。

 レジを通った先のテーブルで、レジでもらった袋ふたつに買ったもの、野菜、肉、缶詰とパンを分けて入れた。

 かごを返して、それなりに重たい袋ふたつを持ってマーケットを出た。

 倉庫街に向かって夕暮れの街を歩く。

 晩メシの段取りを考えながら歩いて、倉庫街に入った。

 倉庫街は今日の仕事、今日の街、が終わりつつある。

 通りに人は少ないし、トラックもほとんど走ってない。加えてシャッターが閉まってる倉庫が多い。

 倉庫街を歩いて工房に着いた。

 工房のシャッターも閉まってた。シャッターの横の小さなドアから中に入る。入ってドアの鍵をかけた。

 作業スペースはきれいに片付いてた。

 食堂に向かって、食堂に入る。

 先輩がテレビを見てた。もちろんすぐにアタイに気づいてくれる。

「おかえりー」

「ただいま」

 言葉を交わす。

「悪いな、片付けしてもらって」

「マーケットに行ってくれたんだからお互いさまだよ」

 先輩はアタイの言葉にそう言ってくれた。

 袋ふたつをテーブルに置いて、買ってきたものを一旦テーブルに取り出す。

 晩メシに使う分の野菜と肉を調理台に移して、残りを冷蔵庫と棚に入れる。

 棚に入れる分はもちろん先輩に渡して入れてもらう。

 買ってきたものがそれぞれの場所に片付いた。

 よし、晩メシを作ろう。

 調理台の下から鍋を取り出して水を入れる。

 コンロに置いて火をつける。湯を沸かす。

 包丁とまな板を出して、野菜を洗って荒く切って、肉も荒く切る。

 ちょうど沸騰し始めた鍋に野菜と肉を入れる。

 テレビを見てる先輩に声をかけて棚からハーブをいくつか取ってもらう。

 一旦沸騰が治まってた鍋がまた沸騰を始める。

 弱火にして、ハーブを入れて、ふたをして、煮込みにかかる。

 これで後はいくらか煮込めば良い。

 テーブル、先輩の向かいに座る。

 先輩がこっちを向いて、仕事の話をする。

「私の融合炉も機械屋ちゃんのボイラーも終わって、予定通りだね」

「だな、

 ボイラーは午前中に取りに来てもらうんだよな?」

 先輩の言葉にアタイが続ける。

「うん、電話入れて取りに来てもらう、だね」

「OK、朝いちばんに電話だな」

 先輩の言葉を確認する。

「それで融合炉は、朝いちばんで持ってくんだけど……、

 これは私が良いかな」

「ああ、頼む」

 先輩の言葉にアタイが返事する。

「それじゃ、朝からトラック借りてきて届ける、ってことで」

 明日の予定がふたつ決まった。

 そろそろか。

 イスから立ち上がってコンロへ、鍋の様子を見に行く。

 ふたを取ると野菜にも肉にも十分に火が通ってる。

 料理の続き、味付けをする。

 塩を適当に入れる。先輩にスパイスをいくつか取ってもらってそれらしい量を入れる。

 味見をして、スパイスのバランスが悪い。

 味を整える。もう1回味見をして、こんな感じで良いか。

 できあがりだ。

 底の深い皿と中くらいの皿、それぞれ2枚を先輩に棚から出してもらう。

 中くらいの皿はテーブルに置いて底の深い皿を受け取る。

 できあがった料理を盛り付けてテーブル、先輩の前とその向かいに置く。

 その間に先輩が中くらいの皿にロールパンを置いてくれる。

 やっぱり先輩はひとつでアタイはふたつだ。

 最後に先輩がフォークを置いてくれた。

 テーブルを向いてる先輩の向かいに座る。

 「いただきます」をしてメシを食いにかかる。

 食いながら仕事の話の続きをする。

「明日は蒸気自動車のメンテと、図面作る、だよな?」

「だね、

 機械屋ちゃんは蒸気自動車の方が良いよね」

 アタイだってもちろん図面は作れる。

 けど、できれば機械を扱う仕事の方がありがたい。

 だから、

「ああ、そうしてもらえると嬉しい」

「それじゃ決まりだね。

 機械屋ちゃんは蒸気自動車で私は図面」

 分担が決まった。

 仕事の中身の話になる。

「蒸気自動車のメンテって定期点検だよな?」

「うん、定期点検で、走る分には何も問題ないって」

 ひとつ確認。

「ってことは、ひと通りチェックして、後はオイルとグリス、全部交換だな」

「だね、

 ……せっかくだから冷却水も換えた方が良いかな」

 先輩からひとつ追加。

「了解、冷却水も交換だな」

 ふたつめを確認。

「後は特にないな」

「うん、大丈夫だね」

 アタイの仕事の話は終わり。次は先輩の仕事の話だ。

「図面、明日中にどうにかなるのか?」

 先輩に尋ねる。

「シート見た感じだと明日中に終われそうだけど、始めてみないと分からないね。

 明日で終わったら嬉しいんだけど……」

「そうか」

 先輩が1日で終わらないかもしれない図面、アタイだったらしっかり2日要る。間違いない。

 だからアタイはやっぱり蒸気自動車が良い。

 仕事の話はここまで。次の話題、2階にあるものの話を始める。

「先輩は2階のもの、どれくらい分かってるんだ?」

「そだね、

 大きいものはだいたい分かってるけど、小さいのはほとんど分かってないね」

 やっぱりか、思ってた通りだ。

「機械屋ちゃんは分かってるんだよね?」

 そう聞かれる。

「分かってるって言うか、リストにして管理してるけど頼りなくなってきてるな」

「頼りないって?」

 もう一度聞かれる。

「ああ、2階に持って行ったのにリストに入れてなかったり、

 取って来たのにリストから消してなかったり、

 そんなのがそれなりにある」

「そっか」

 アタイの言葉に先輩は納得してくれて、それからひとこと。

「近いうちに整理だね」

「だな」

 2階の話も終わった。

 その後も話をしながら食って、食い終わった。

 メシを食い終えて、ふたり分の食器をシンクに移す。

 アタイは後片付けを始めて、先輩はまたテレビを見る。

 スポンジに洗剤を含ませて皿を洗う。皿を包んだ泡を水で流す。

 ふきんで拭いて先輩に渡す。先輩に棚に片付けてもらう。

 メシを作るのに使った鍋、これも洗って水ですすぐ。

 ふきんで拭いて調理台の下に片付けた。

 後片付けが終わってアタイもテレビを見る。

 夜のニュースが終わって天気予報が始まってた。

 王都は明日も晴れ。明日も良い日になりそうだ。

 テレビ、バラエティ番組が始まった。先輩と話をしながら見る。

 なんてことのない話をしながら見てるうちに番組が終わった。

 そろそろ部屋に戻るか。

 先輩に部屋に戻ると言って食堂を出た。

 食堂からふたつ隣、アタイの部屋に入る。

 メシを食って、テレビをひとつ見て、それでもまだ夜は始まったところだ。

 どうするか……。

 思いついた、シャワーだ。

 シャワー、昨日は浴びてない。一昨日も浴びてない。その前は……。そろそろ浴びた方が良いか。

 おやっさんに世話になってたときはずっと飛行機械に乗ってた。

 もちろん水は貴重。だからシャワーはそうそう浴びなかった。風呂は話題にもならなかった。

 工房で働くことになって、毎日シャワーを使えることに驚いた。

 それどころか毎日風呂でも構わないのにはもっと驚いた。

 初めは嬉しくて毎日風呂に入ってたけど、少しずついいかげんになってきて、シャワーが多くなって、そのシャワーも減ってきて、今に至ってる。

 アタイくらいの歳の女だと毎日風呂かシャワーが普通らしい。けどアタイはアタイだ。自分の価値観を大事にしたい。

 今夜のシャワー、せっかくだから風呂にしよう。そう思いついた。予定変更で決まりだ。

 部屋を出て食堂に向かう。

 食堂、先輩がテレビを見てる。

「先輩、ちょっと良いか?」

 そう声をかける。先輩はすぐにこっちを見てくれる。

「ん? 何かな?」

「風呂するけど、先輩はどうする?」

 そう尋ねる。

「おけ、私も入る」

 言葉が返ってきて、

「了解だ」

 アタイが返した。

 先輩に確認して食堂を後にする。

 今度はアタイの部屋を通りすぎて工房の奥に向かう。

 工房のいちばん奥に風呂がある。

 明かりをつけて浴室に入る。

 風呂の掃除は済ませてある。

 だから、湯船に栓をして、ふたをして、スイッチを押す。後は自動で湯を張ってくれる。

 着替えを取りに部屋に戻る。

 部屋に入ってタンスから作業着を取り出そうとして止まった。

 風呂上りに作業着を着る必要はない。楽な服を着れば良いから……、ゆるいシャツとゆるいズボンを出した。下着は特にこだわらない。適当に取り出した。

 ピコピコ、ピコピコ、

 風呂の湯が十分になったのを知らせる音が聞こえた。

 着替えを持って風呂に行く。

 脱衣場で服、作業着を脱ぐ。脱いだ作業着を見る。汚れきってる。近いうちにコインランドリーに行く必要もある。

 作業着を洗濯物のかごに入れて、アンダーウェアと下着も脱いでかごに入れる。

 棚からタオルを取って浴室に入る。

 浴室に入ってからの手順はいつもの通り。

 湯船のふたを開ける。

 小さないすに座ってシャワーの湯で体を軽く流す。

 髪を洗う。

 年末に買ったシャンプーはずっと前になくなった。だから浴室の端にあるペール缶、工業用洗剤の缶、から計量カップで洗剤をすくう。

 計量カップですくうけど、量はそれらしい量で良い。

 髪にかけてわしゃわしゃする。

 肌がピリピリする。

 しっかりとわしゃわしゃして、今日は1回目で泡立ってくれた。

 シャワーの湯で髪を流す。

 コンディショナーもずっと前になくなってるから髪のケアはできない。だから髪は乾いたらパサパサだろう。

 体を洗う。

 ボディソープももちろんなくなってる。

 大きめのスポンジを手にしてペール缶の洗剤を含ませる。

 スポンジを何回か軽く握って泡立たせる。

 泡だったスポンジで体を洗う。やっぱり肌がピリピリする。

 体中をしっかりと洗って、シャワーで体を流す。

 次は湯船に移動。だけど、床を確認する。

 オイルも洗剤も床にはない。だから大丈夫だ。

 スポンジを洗って元の場所に戻す。

 これでようやく湯に浸かれる。けど、足下に注意だ。滑らないように気をつけながら立ち上がる。

 湯船に入る。

 まず足を湯の熱が包む。

 体を湯に沈める。

 じんわりと温かい湯の熱が体に入り込んでくる。

 体中の力が抜けて、

「あー」

 と声が出た。

 心地良い温かさの湯が体を温める。

 力が抜けて、魂も抜けてしまいそうだ。それくらい気持ち良い。

 髪を洗って、体を洗って、さっぱりして、湯船で湯に包まれて、力が抜けて、贅沢だ。とてつもない贅沢をしてると思う。

 温かい湯の中で何も考えない時間がすぎる。

 体が十分に温まってもまだ出たくない、そう思うけど体には限界がある。このままだとのぼせてしまう。だから名残惜しいけど湯から出た。

 タオルで体を拭いて浴室から脱衣場に出る。

 棚からバスタオルを取って体をしっかりと拭く。

 持って来ていた服、ゆるいシャツを着て、ゆるいズボンをはいた。

 タオルとバスタオルを洗濯物のかごに入れて風呂を後にした。

 風呂から食堂に向かう。

 食堂、やっぱり先輩がテレビを見てる。

「風呂、終わったぞ」

 先輩に伝える。

 先輩はアタイを向いて、

「おけ、じゃあ私だね」

 そう答えてくれた。

 言うことを言って自分の部屋に戻る。

 部屋に入ってデスクに目をやる。

 本が1冊、『溶接技術』、金属の溶接を解説してる分厚い本、先輩から借りてる。

 先輩に言われた。

「機械屋ちゃんのスキルは経験で身に着けたのが多いから、理論もあった方が良いね」

 その通りだ。

 だから本を借りて勉強してる。

 デスクに向かって座る。『溶接技術』を手に取る。しおりのページを開いて昨日の続きを読む。

 技能の説明、 How to は簡単に分かる。1回読んだら理解できる。

 けど理論はぜんぜん分からない。

 読んで、読み直して、もう1回読み直して、5回目でなんとか分かった気になれた。

 技能と理論、ふたつずつ読んで今日は終わり、にした。

 しおりを挟んで本を閉じてデスクに置いた。

 時計を見るとそれなりの夜になってた。

 まだ寝るにはちょっと早いけど……、早い日があっても良いよな。

 寝ることにした。

 ベッドの枕元、目覚まし時計をセットする。

 部屋の明かりを消してベッドに上がる。

 毛布に包まれる。

 今日も良い1日だった。

 今日のできごとを振り返って、充実してた。

 明日も良い1日になって欲しい。

 そう思って願ってるうちに、ゆっくりと眠りの中に沈み始めた。

 

了




 と言うことで、機械屋さんの1日が終わりました。
 冒険とか探検とかじゃない日はこんな感じですぎてるのかな、みたいな話です。

 「実験回」との立ち位置で書いてみて、作者なりには8割がた納得できました。
 今回の成果を次回作以降に生かせれば嬉しい次第です。

 では、今後ともご贔屓のほどよろしくお願い致します。
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