聖灰のヘクスター 〜これはある日出逢った二人がいつか神様になるまでの物語〜   作:気安田レイジ

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16話 戦のこだわりと思わぬ脅威

 

 それは突然地面を大きく引き裂きながら姿を現した。

 

『ギシャアアアア!!』

 

「まさか、野生の魔獣……!? こんな時に……」

 ※

 《でけええええ!》

 《ご立派ぁ!》

 《対人戦だけでお腹いっぱいよもう》

 

 その生物は螺旋(らせん)状の大きな口を目一杯開きながら地中から這い出てきた。

 それはまるで芽を出した植物の(つぼみ)から花びらが開くかのような光景にも見えた。

 

「むゥ……!?」

「なんじゃこりゃァ!!?」

 

 そして下から飛び出してきたことで魔獣の口には多くの土や岩が乗っているのだが、その中にヒカリとの戦いを再開しようとしていた二人の男がいるのが見えた。

 彼らはなんとかその場から離脱しようとするが、不規則に揺れ崩れ続ける足場に身動きを封じられ、魔獣が口を閉じることで、()り上がってきた土などに包み込まれるような形で魔獣の口腔内へと消えていってしまった。

 

「ひええ……く、喰われちまったっス……メチャ強かったあの二人があっという間にー!」

「あ、頭だけでも一カフル(83メートル)近くあるかも……! 魔獣ってこんなのばっかなんですか!?」

「いや、ここまで大きい個体はそう簡単に現れるものじゃない……はずだ」

 ※

 《くわれたー!》

 《え、あいつらマジで食われたの?》

 《最後があっけなさすぎる…》

 《いやデカすぎんだろ》

 《こんなのどこから来たんだろ?揺れとか直前までなかったけど》

 《ちょうどここに住んでたとかじゃね》

 

 決して低くはない水準の力を有していたはずの二人の傭兵が、こうもあっさりと魔獣の腹の中に収まってしまうなど誰も想像もしておらず、エラヴロや視聴者たちはその無情とも言えるやるかやられるかという世界の有様に戦々恐々という様子だった。

 そしてそんな二人を呑み込んでしまった魔獣は、地中から飛び出した頭部だけでも横幅で数十メートルもの大きさがあった。

 その毒々しい紫色の鱗を生やした体表を見る限り、常人の知識からかけ離れているとはいえ、どことなく爬虫類に近い特徴を備えているように見えた。

 

「あれほどに巨大な魔獣の接近に直前まで気付けないはずは……元々ここら辺りに住み着いていたとしたら、アーユグラまでの通り道でもあるこの近辺で過去に目撃されていないわけがない……この魔獣、あの巨体での移動を外敵に悟らせないようにできるほど高度な魔術等を使える可能性がありますぞ!」

「なるほど、図体ばかりの木偶(でく)の坊だと思ってかかると痛い目を見ることになりそうね……上等じゃない!」

 

 魔獣はその体を(ひね)って見る見るうちに地上へ這い出してくる。

 地中から次第に姿を見せる体は蛇に近い構造のようで、非常に大きい頭と同等の胴に土などをより多く書き出すのに特化したスコップのような形の鉤爪(かぎつめ)が乱雑に生えた数本の腕でその巨体を引っ張るように移動しているようだった。

 おおかた全体像が見えてきたというところでこの魔獣を見ると、これがもしドゥナダス等に現れでもすれば、有無を言う暇もなく街の全てが溶岩に沈むことになるだろうと思わせるほどの存在感を放っていた。

 

「私が注意を引きつけるわ! 馬車を走らせてこの地帯を脱出して!」

「了解しました!」

「分が悪くなったら合図しろ! 必ず俺が行く!」

「ヒカリさん! 大丈夫なの!?」

「心配しないで! 私に任せなさい!」

 ※

 《これはナイス》

 《避難させる判断早いね》

 《まあイズナたちを守りながらだと戦いにくいし妥当》

 《アダムは剣士タイプだからデカい敵とは相性悪いよなぁ》

 《↑前に街で戦った時ド派手なビームカリバーやってたじゃろ》

 

 ここまで巨大な相手と戦うとなるとこちらも大規模な魔術を使うべきであり、それに(ともな)って周囲にもたらす影響も小さくないものになる。

 故にヒカリは馬車に乗る非戦闘員を巻き込まないよう、魔獣を避けつつ先行して戦闘に巻き込まれない位置にまで移動させることにした。

 彼女の指示を受けた御者が即座に手綱を弾いて馬たちを制御し素早くその場から離れていくのを見届けて、ヒカリは背中に光の翼を作り出して空へと飛び上がっていった。

 

「あの巨体に有効打を与えるのに必要なのは、大きさと貫通力……作るのは初めてだけど、()()にしてみようかしら」

 

 ヒカリは自らの(そば)に作り出した即席の合金等であるものを形造り始める。

 それはとても長大な長方形の装置らしきものであり、変形して前方へ向けて口を開けているかのようなコの字の形になっていく。

 そのコの字の内側にまるで歯のように無数の突起が並べられ、次第にその造形はなんらかの砲口のような輪郭になっていった。

 

「あれって……」

「なにかの……武器、なのかな……?」

 

 それは配信を見ている地球の住人の多くに心当たりのある見た目であり、ヒカリが作っているものがなにかを察した視聴者たちは目に見えるほど盛り上がり始めた。

 

「せっかく軍服を着てるんだし、軍隊っぽく大砲で戦っちゃうわよ!」

 ※

 《おおおお!!!》

 《レールガンじゃねぇか!》

 《きたーーーーー》

 《大砲っていうか超電磁砲ですがww》

 《ファンサも抜かりないねぇ》

 

 レールガン、電磁力から得られる加速によって金属を圧倒的な速度で打ち出す技術、それを利用して作られる強力な発射装置である。

 そんな兵器が二門、ヒカリの(かたわ)らに付随して浮かんでいた。

 それは素晴らしい衣装を用意してくれたスポンサーへの、彼女なりのささやかな返礼代わりも兼ねての作戦だった。

 

「名付けるなら電弓(でんきゅう)号ってとこかしら……さて、地球人の叡智が魔獣にどこまで通用するか、試させてもらうわよ!」

 

『ギシャアアアアアア!!』

 

 ヒカリはレールガンの内側に並べられた電極に電流を通し、コの字砲口の中で磁場を形成し発射準備を整える。

 そして砲口の最も内側となる場所に鋼鉄製で円錐(えんすい)状の鋭い砲弾を作り出し、それを高速で回転させてより着弾時に期待できる貫通力を高めていく。

 

 電磁投射砲(でんじとうしゃほう)とは、磁場の中で金属が磁力の強い場所から弱い場所へ向かって押し出される原理を利用する兵器だが、彼女は砲口の最内側に発生する磁力をさらに強くして弾頭を射出する速度を極限まで上げようとする。

 さらに過剰な電磁力によって超高熱に晒されることで砲弾が蒸発・プラズマ化するのを防ぐために、砲弾そのものの耐熱性も可能な限り高めていった。

 

 これは魔力という概念にある、“消費することで現象や性質を発生させるための原理や()()を無視できる”という特徴によって可能となる芸当であり、彼女が持つ魔術の才能や豊かな想像力、さらには無尽蔵とも言える魔力量が揃うことで初めて実現することができる力技だった。

 

「電弓号発射準備! 一番砲よし! 二番砲よし! 目標十二時方向! 照準よし! 超螺旋電磁徹甲砲弾・怒雷(いかづち)! ッ()ーーー!!」

 

 そうしてヒカリは追加のファンサービスとして少し軍人っぽい掛け声を織り交ぜながら、ついに魔獣へ向けて二門のレールガンを発射した。

 電磁投射砲の弾頭は地球既存の技術によって打ち出す場合、音速は秒速340メートルだが、その二十倍となるマッハ20、毎秒約7キロメートルもの速度で射出される。

 しかし彼女が作ったこの電弓号に込められた電磁力は、通常の人間と同程度という最低限にまで抑えられた大きさの装置としては桁外れの量であった。

 

 落雷が弾けたのかと思わされるほどの轟音が鳴り響くと共に、彼女自身にすら視認できないほどの速度で高速回転する円錐の砲弾が二発、山が動いているかのように巨大な魔獣の肉体へ飛んでいき––––––––。

 

 

 ––––––––なぜか拍子抜けすらしてしまうほどあっさりその巨体を貫いて地面へと突き刺さった。

 

 

『ギシャアアアアアアアアア!!?』

 

「あらあら、ちょっと気合い入れすぎちゃったかも。これだけの魔力を消費するまでもない相手だったみたいね!」

 ※

 《うおおおお!》

 《強すぎるwww》

 《普通にやりすぎたやつかもねこれは》

 《レーザーかってくらい綺麗に通り抜けてて草》

 《M/D:かっこええ!!最高ですありがとうございます!!》

 

 どれだけ大きさに差があったとしても、物体が己の肉を裂いて通り抜けるというのは激痛を避けられないことであり、魔獣もその例に漏れず予想だにもしない攻撃を受けて身をよじり(もだ)え非常に動揺しているようだった。

 しかし魔獣がすぐに攻撃の出所であるヒカリの存在を認識したからか、突如として()()()()()()が流動的に形を変えて、まるで意思を持っているかのように宙を舞うヒカリへと襲い掛かってきた。

 

「これは……土石を操ってるのかしら、それもここまで大規模な……なるほど、これは私くらいでなきゃ骨が折れる相手だったでしょうね」

 ※

 《すご》

 《うわやばいな》

 《もう存在が災害じゃん》

 《街中だったら地獄絵図だなこれ…》

 

 ただでさえ雷雲が荒れ狂う空で無警戒に飛ぶことができない状況、大量の土石流が()()()()()光景は天変地異とすら表現できるだろう。

 それでもヒカリはそれらの攻撃を巧みに(かわ)しながら大空を縦横無尽(じゅうおうむじん)に飛び回り、再びレールガンを撃つ準備を整えていった。

 

「次弾装填よし! 今度は頭部あたりを目標に……()ーーー!!」

 

 彼女はさすがに頭部を貫通すれば致命傷を与えられるだろうと考え、目眩(めくらま)しのつもりか、自身の周囲へ砂埃(すなぼこり)のように散りばめられた土石の上から狙いを定め、魔獣の頭部へと二発の円錐弾を打ち込んだ。

 硬いものが弾ける音を響かせながら飛翔する弾頭が、一つは口元にほど近い位置へ、一つは頭の重要な器官が存在してもおかしくない芯の部分へ向けて着弾し––––––––。

 

 

 ––––––––その表面の鱗を削り取る程度に終わった。

 

 

『ギシャアアアア!!』

 

「な……ッ!?」

 ※

 《!?》

 《ええ?》

 《なん…だと…!?》

 

 先ほどは普通の紙を針で刺すかのように容易(たやす)く突き破ったはずのその鱗を、圧倒的な威力を誇るはずのレールガンの弾頭が今度は表面部分を砕いて焼け焦げさせる程度の被害に抑えられた。

 そんな事実を信じがたい視聴者たちは何が起こったのか理解しかねているようだったが、ヒカリ自身の目は一度目と二度目との間にある確かな異変を捉えていた。

 

「今の、土石を割り込ませて……いや、それだけじゃない。圧縮し密度を上げて鋼鉄より硬くなった土石の塊をいくつも盾にして砲弾の威力を大幅に低減したってことみたいね」

 ※

 《まじ?》

 《えぇ…》

 《そんな頭いいのこいつ!?》

 《さすがに撃たれてからは無理だよな?》

 《速度とか方法考えると見てからは不可能 弾道予測完璧でピンポイントに一瞬で盾作ればいける》

 《無理ってことやん》

 

 一部の人間が察している通り先ほどの防御法は生半可な腕では再現できない芸当であり、この魔獣が見た目からはとても想像できないほどの技巧派(ぎこうは)であることを表していた。

 ただでさえこれほどの巨体を持っているというだけで厄介な存在が、ここまで魔術を使いこなすという事態に多くの人間がある種の理不尽さすら感じ始めている中、ヒカリは(つと)めて冷静にこの防衛網の攻略法を考えていた。

 

 しかしそんな暇は与えないと言わんばかりに魔獣が螺旋状の口を大きく開き、一息に丸呑みにしてしまおうと()()()()()彼女へと勢いよく()()()()()()

 

「ッこれは!?」

 

 さすがのヒカリも突然の急接近に度肝(どぎも)を抜かれるように驚いたが、すぐさま前方に飛行し魔獣の口の隙間をすり抜けるように突撃から離脱することができた。

 

「まさかあの巨体が空を飛ぶなんてことは……あれって……」

 ※

 《どわ!?》

 《ぎゃあああ》

 《なんでいきなり飛んでくんねん!!》

 《いきなりバケモンの顔ドアップはきついて》

 《空でも飛んだか?それかジャンプしたとか?》

 

 彼女は魔獣から距離をとりながら、今の出来事にどんなカラクリがあるのかと奴の全体像を見渡してみる。

 すると、とてつもなく大きな魔獣の体を支えていたはずの雄大な()()()()()()が動き、魔獣の体を支えながら空へと躍り出ているのがわかった。

 

「本当に器用なやつね。獲物が空に逃げても関係ないってわけか……ちょっと燃えてきたじゃない!」

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