聖灰のヘクスター 〜これはある日出逢った二人がいつか神様になるまでの物語〜   作:気安田レイジ

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17話 強獣たちと世界の広さ

 

「人間の戦い方を思い知らせてあげるわ!」

 

 ヒカリは二門あるレールガンのうち一つを捨て置いて急加速し、巨大な魔獣の周囲を飛び回るようにしながら出力を抑えた砲弾を連射していく。

 一見するとただ大きいことだけが厄介な相手にも思われたこの魔獣だが、実は卓越した魔術の腕前によって技巧(ぎこう)的な戦法を得意としていたことで、生半可なやり方では仕留めることはできないと認識を改めざるを得なかった。

 

 レールガンは連射するために出力の低下と共に必然として砲弾の威力も下がってしまっており、全てが先ほどと同じ圧縮した土石によって簡単に防がれてしまってはいるが、ヒカリは取り乱すことなく頭の中に思い浮かべた作戦を着実に進めていった。

 

「角度おっけー……出力最大……準備完了!」

 ※

 《なんだ?》

 《何を狙ってるのかな?》

 《これなに教えてエロい人!》

 《えー長年の研究の結果よくわかりませんでした》

 《的永クオリティ》

 

 初めと同じように出力を上げられるだけ上げて発射準備を整える。

 魔獣の防御を突破するというよりも、どの方向に撃つかというところをとても重視しているように見られる彼女の様子に、ほとんどの視聴者たちはその目的を(はか)りかねていた。

 

「よーし……()ーーーッ!!」

 

 そうして高出力の砲弾が射出され、とてつもない速度で飛翔するそれは再び魔獣が作り出す土石の盾によって威力を弱められていく。

 しかし先ほどと同じような結果に終わると思われたその砲弾は、魔獣の体に命中することすらなくそのすぐ横をすり抜けていった。

 

「(そこッ!)」

 

 一瞬すら長いと言えるその間に起きたことを認識できた人間はヒカリ以外にほぼ存在しなかった。

 砲弾が外れたという事実をその光景を眺める者たちが認識するよりも前に、彼らや魔獣自身にとっても意識外だった方向から発射された砲弾がその体を貫いた。

 

『ギシャアアアア!?』

 

「大当たり!」

 ※

 《??!》

 《あれ》

 《なに当たったん?》

 《あーなるほどね。中々やるじゃん》

 《わからんわからん、どうゆうこと》

 

 弾頭の発射から着弾までは本当に刹那の出来事、それを見て正しく何が起こったかを理解できずとも仕方のないことだろう。

 さらにヒカリは間髪入れず手元のレールガンからもう一発の砲弾を撃ち出し、今度は外すことなく痛みと驚愕に動きを止めていた魔獣の体を貫いてしまった。

 

「簡単よ。撃った砲弾をあえて外して脇を通り抜けるように飛ばし、さっき捨てたように見せかけたもう一つのレールガンにその弾頭を装填してもう一度発射する。そうすれば外れたと思った砲弾が後ろから飛んでくる手品の完成ってわけ」

 ※

 《???》

 《つまりなに?》

 《レーザーなんかを鏡で反射する感じでイメージすればわかりやすいかな》

 《あー完璧にわかった 鏡を反射でレールガンしたってことね》

 《↑頭の中大混乱してて草》

 《あの一瞬で思い付いて実行できるとか脳の性能違いすぎやん》

 

 本人の説明通り、一発目の砲弾は魔獣ではなくその後ろにある、捨てたようで実はその砲口を魔獣に合わせて発射準備を進めていたもう一つのレールガンへ向かって飛んでいた。

 魔術で防御されることも計算に織り込んで、勢いの衰えた砲弾が魔獣の脇を通って、ちょうどもう一つのレールガンの砲口へと装填されるよう誘導し、あとは一瞬のうちに電磁力を最大出力まで高めて発射するだけだった。

 

「二の矢の発射位置を相手に知られていないことが前提になる奇襲だから二度目はないでしょうけどね……ッと!」

 

『ギシャアアアアアア!!』

 

 ヒカリは魔獣が土石の塊を滅多矢鱈(めったやたら)に飛ばしてくるのを飛翔して回避する。

 レールガンによって体に風穴が開くというのは巨大な魔獣にとってもタダでは済まない傷であり、そんな穴が既に四本も開けられてしまっている。

 故に本格的に生命の危機が迫っているのを実感したのか、魔獣も体を振り乱し死に物狂いで脅威を排除しようとしているのが感じ取れた。

 

「さて、ここからどうやって詰めていこうかしら……ん……?」

 

 ヒカリとしてはこれ以上倒すのに時間をかけてしまうと三日後に控えるメリャンコラのライブに間に合わなくなってしまう可能性があることから、できるだけ早く勝負を決してしまおうという思いで威力の高いレールガンを使用したという側面もあるのだが、まさか魔術を用いてここまで有効な対策をしてくるとは予想しておらず、どうすれば一刻も早くこの戦闘を終わらせることができるかと次々に思考を巡らせていた。

 

『ギ、ギギシャア、ァァァァ……!』

 ※

 《お?》

 《くるしそう》

 《効いてて草》

 《今のでどこか重要な内臓器官が損傷したのかな?この巨体でもさすがに生物ってわけか》

 

 しかしそんな最中に魔獣へ変化が起こる。

 土石流に乗って空中を移動し、ヒカリと一定の距離を保ちながら彼女を撃ち落とそうと攻撃し続けていた魔獣だが、突然その動きが(にぶ)って痙攣(けいれん)を起こし魔術で操る土石までもがガタガタに崩れ落ち、それらが支えていた巨体も地面に墜落し始めているようだった。

 

「(いきなり苦しみ始めた……? 奴の知性を考えるとかなりリスクは高いけどこういった罠を張る可能性はある。けどいい加減これ以上足止めされると時間がマズいのよね……やっぱりできるだけ早く決着を付けるには、こっちもそれくらいのリスクは負わないとね!)」

 

 そう意を決したヒカリは地面に落ちていく魔獣を追いかけるように急降下を始める。

 速度を上げて徐々に魔獣へと近づいていくと、その接近にようやく気付いた魔獣はなんとか対応をしようとしているかのように、土石をまとめた防壁でせめて彼我(ひが)の間に隔たりを作ろうという、余裕のない時にできるなけなしの抵抗とでも言えるような動きを見せていた。

 

 しかしそんな動きも再びどこか苦しむような素振りを見せたかと思えば、途端にそれら土石の挙動も操り糸が切れたかのように一斉に崩れて隙間が空いてしまった。

 

「(これは……本当にあともう一押しのところと考えてよさそうね。次の攻撃で確実に仕留める!)」

 

 今こそが絶好のチャンスと見たヒカリは、先ほど地上でやったようなロケット加速で一気に距離を詰めながら、(かたわら)に浮かぶレールガンと全く同じものを五つほど複製した。

 そうして計六つのレールガンの発射準備を整えて、彼女は魔獣の胸部の芯を捉えるように狙いを定め、手を伸ばせば触れられそうなほどに密接するとその魔弾を解き放った。

 

 

煌燠千雷弾(こうおうせんらいだん)ッ!!」

 

 

 その六発の円錐弾は目も開けていられないほどの雷光を発しながら魔獣の体をたやすく貫き通り、限界に迫るほど削り取られていたその命に終止符を打ったのだった。

 魔獣は生命活動が停止したことを表すように、体から力が抜けて手足や頭が投げ出されるままに地面へと墜落する。

 ヒカリは地鳴りを起こしながらひっくり返った体勢で倒れ込んだその正面に降り立ち、少しの間様子を見て本当に死んだのかどうかを確かめようとしていたが、当の死骸の口元からなにかが動いているのを発見した。

 

「……? あれは、まさか……!」

 

 初めはそれが何かわからなかったが、魔獣の口の中から這い出てくるソレが赤と青の魔力を垂れ流していたことで、すぐにその正体が思い当たった。

 

 

「やあっと死によったかぁ! ブンブンと暴れくさりよってからにこのデカブツ! 丸呑みはあんま(いと)おないから()っきゃないんじゃボケ!!」

「ケッ、俺がいなきゃいつまで経ってもコイツの腹ん中だったくせにギャーギャー騒ぐな……クソが、腹が減ってきたな……」

 ※

 《!??》

 《うそやん》

 《そこは死んどけよ人としてwww》

 《時間がやばいーーー》

 《もしかして本気出したらさっきの魔獣よりこの2人のほうが強いって可能性ある?》

 

 初めにこの場所で戦いを挑んできた末に魔獣の胃の中へ収まったはずの二人の傭兵が五体満足の姿でそこに立っていた。

 大量の土石に押し潰されながら呑み込まれた姿を目の当たりにしたことで、ほとんどの人間が生きてはいないだろうと思い込んでしまっていたが故に驚愕と恐れの混じる反応が多かった。

 

「おっ! そこにおったか嬢ちゃん! 途中で邪魔が入ったおかげでやきもきしとったよなぁ。さっきのえらい勢いで通り抜けていきよった攻撃は嬢ちゃんのやろ? いやぁほんの一瞬やったけど、あれは今日んところでは格別に気持ちよかったでぇ!」

「フン、この程度の魔獣に殺されるほど底の浅い人間ではなかったようだな……喰いがいがありそうだ」

 

 そんな男たちは近くに立つ彼女の存在に気付いて殺気立った反応を見せる。

 ヒカリはそれに威嚇を返すように傍に浮かぶ六基のレールガンへ弾頭を装填し、いつでも発射できるよう目に見えるほど電流を溜め込み始めた。

 

「……私たちもこれ以上あんた達に構ってる暇はないの。まだやるっていうなら、ここからは死なないようにする手加減はできないわよ?」

「ホンマかいな。さっきよりもっと気持ちよぉしてくれるっちゅうん……」

「待て()()

 

 警告のつもりで発した言葉は(かえ)って青い魔力を放つ長身の男の興奮に火をつけてしまったらしく、今にもなんの躊躇もなく飛びかかってきそうな体勢になっていたが、それを止めたのは赤い魔力を放つ小柄な男だった。

 

「あァ? なんで止めんねや()()! ようやっと嬢ちゃんとお互い本気で()り合えるんやで!? こっからがおもろいところやないか!」

「忘れたか? “二人掛かりでなお全力を出す必要がある場合撤退せよ”。上からの指令にそう書いてあっただろうが」

「あー……そういえばそんなんもあったかもしれんなぁ……せやったらもうとっくに潮時っちゅうことかい。久々に歯応えのありそうな獲物に巡り会えたっちゅうのになぁ」

 

 二人はなにやら自分たちだけにわかる会話の中で結論を出したのか、懐からキューブらしきものを取り出して掲げると、それは一瞬の発光の後、翼長3メートルはあるグライダーに近い造形の装置が現れた。

 男たちはそのおそらく風の魔術を利用しているのだろうそのグライダーに乗って飛び去ろうとしていた。

 

「じゃあな嬢ちゃん! 次戦う時が来たら今度こそどっちかが死ぬまでたっぷり遊ぼやないか!!」

 ※

 《こわ》

 《逃げんの?》

 《威勢だけ良くてトンズラは草》

 《もういい加減アーユグラに向かわないとだし好都合でしょ》

 

 ヒカリとしてはこちらに背を向けて飛んでいく二人をレールガンで撃ち落とすのは容易(たやす)いことだった。

 しかし再三のことだがメリャンコラのための時間にもう余裕がないが故に、黙って去ってくれるのならわざわざ余計な行動をする必要がないと考え、勝負は一旦未決ということで見逃すことにしたのだった。

 

「……ふぅ、やっと面倒ごとが片付いたわね」

 

 飛び立った男たちが視界から消えるほど遠かったところで、ヒカリはようやく肩の力を抜いて息を吐いた。

 そうしてゆっくりと空は浮かび上がって、遠くに待機しているアダムたちの馬車の元に向かっていった。

 

「お帰りなさいっス〜! いやあ本当にお強いっスね……」

「ヒカリさん! け、ケガとかしてないですか……!?」

「えぇ、見ての通りピンピンしてるわよ」

「〜〜〜! よ、よかった……!」

 

 エラヴロなどは彼女の活躍を讃えながら出迎えてくれたが、イズナはなによりもまずヒカリの身に大事ないかどうかをとても案じているようだった。

 彼女がそんな心配をしているだろう他の人間も含めて安心させようと衣服に全く損傷がないところを見せると、イズナは緊張で詰まっていた息を吐き出すのと同時に、安堵で感極まったのか自らの体で直接無事を確かめるように彼女へ抱きついた。

 

「あらあら……街でのこともあるし。イズナには怖い思いばかりさせちゃってるわね」

「その代わりと言ってはなんだが、アーユグラに着いてからのことが少しでも思い出に残るような時間になればいいがな」

「きっと後悔はしないっスよ!」

 ※

 《てぇてぇ》

 《あら^〜》

 《泣いてんのに鬼畜すぎだろお前ら》

 《そういえばこの前はイズっちも死にかけてたな》

 《子供に掛けていいストレスの量じゃないぞ…》

 《これで美味しいものいっぱい食べてね》

 《↑スパチャ非表示だし金額も出ないぞ》

 《そもそも地球の金使えないだろ》

 

 そうして一連の騒動が一段落して各々が落ち着いてきたところで、彼女らは早速アーユグラへと向かう馬車の足を再開させることとなった。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

恒影大兵団(カレスデルフ)は我らがギルドとは多くの相違点があります。例えばギルド側は傭兵の階級を上げる場合、その実力以外にも様々な適性を確認してから昇級を許可するのですが……あちらではそんなものは関係なく、ただ純粋に強い者が上へ上へと登っていくことになる、力だけが物を言う世界なのだそうです」

「へぇ……そんな組織で頂点に立ってる人間は、当然カレスデルフの中で最強ってことなのよね?」

「あそこの“総団長”は人間なのに()()なんて呼ばれるくらいのバケモノだって昔から噂なんスよね。実際に戦ってるところが記録に残ってるわけじゃないらしいんスけど、(ちまた)じゃ“世界最強の人間”の有力候補だってよく話の種になってたりするっスね」

「なるほどね。なら今回イズナが怖がらされた分の借りは、いつかその団長とやらに払ってもらおうかしら。組織の全員が私たちに逆らえなくなるくらいこてんぱんにしてやるわ!」

「ほ、ほどほどで大丈夫、ですよ……?」

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