聖灰のヘクスター 〜これはある日出逢った二人がいつか神様になるまでの物語〜   作:気安田レイジ

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19話 メリャンコラと恒影の巨傑

 

「まさかヒカリさんたちが私の歌を聴きに来てくれてたなんてねー! いやー私も有名になっちゃったなー!」

「私もまさかこうもあっさり貴女に会えるとは思ってなかったわ。やっぱり日頃の行いがいいからでしょうね」

「…………」

 

 ヒカリたちは偶然にもこのアーユグラに来た大元の目的であるメリャンコラに出会うことができてから見晴らしのいい高台から移動し、街の中でも比較的中心部に近い大きな食事店を探して道を歩いていた。

 

 ヒカリはエラヴロに彼女を引き合わせるという副目的を早速果たすことができて満足そうにしており、メリャンコラも彼女らと巡り会えた歓喜を最大限表すような笑顔を浮かべていた。

 

「気軽にメリィって読んでね☆ こんなに遠くまで歌いにくるのを決めた時はヒカリさんみたいな綺麗でかっこいい人と、イズナちゃんみたいなかわいい子に会えるなんて思ってなかったよー! それともう一人のお友達とも仲良くしたいな!」

「あ、そうそう。そういえばエラヴロったらさっきから一言も喋ってないじゃない。あのメリィが目の前にいるのにどうしたのよ?」

「憧れの人が目の前にいて気安く口開けるわけないでしょーが!! 有名人といきなり出くわしてそんな肩の力抜けてるヒカリさんの肝が()わりすぎなんス!!」

「急に声大きくなった……」

 ※

 《草》

 《それはそう》

 《まあこっちが正常な反応だわ》

 《俺はなんとなく察してたけどな》

 《内弁慶がよ》

 《お近づきになりたいとか言ってたくせにいざ会ったらこれは典型的なオタク気質すぎて草も生えん》

 

 突然大きな思いを向ける相手が目の前に現れたことである種のショック症状を起こしたエラヴロは、彼女を意識している間は一言も声を発せないというのに、ヒカリに揶揄(からか)われた際には激情的に反論するという挙動が不審な状態になっていた。

 

「気にしないで、緊張のし過ぎで一時的におかしくなっちゃってるだけだから。メリィの歌が大好きなんですって」

「ほんとに!? ありがとー! えへへ……じゃあエラヴロ、さん? も! 私とお友達になってくれると嬉しいな☆」

「ひゅっ……あっ、ハイ……コチラコソオ願イシタイス……」

 ※

 《草》

 《腹から声出せ》

 《もう一周回って恐怖の対象だろこれwww》

 

 しかしメリャンコラ自身はこういった人間の対応には慣れているのかどうか、そんなエラヴロの態度に気分を害した様子は全くなかった。

 そしてヒカリはある程度メリャンコラと信仰を深められたかというところで、彼女がフードを取って頭を外気に晒した時から目に付き気になっていたことを質問することにしようだ。

 

「ところで聞いてもいいかしら、貴女の身体から出てる()()って貴女だけの特徴ってことなの?」

「んー? あー! これのことー?」

 

 その疑問を耳にしたメリャンコラはほんの一拍(いっぱく)の間なんのことかと理解が及ばなかったようだが、直ぐに見当をつけたものを指してヒカリの同意を得た。

 

「ヒカリさん知らないの? これは“体火(たいか)”って言ってねー、私が炎人族(ヤナーガ)っていう種族だから出るんだよ! 私みたいに活発で情熱的な人ばっかりって種族なの! どう? キレイでしょ☆」

「ええ、(きら)びやかなくらい……私もまだまだ勉強不足ね」

 ※

 《ほーん》

 《確かに綺麗み深げじゃない?》

 《また亜人種か》

 《なんか自分でアイドルっぽい演出してんのかと思ってた》

 《燃えてるから熱いやつばっかりなん?w》

 

 それはメリャンコラの身体から漏れ出すように姿を見せる()のことだった。

 

 手と頬の一部や耳の裏、そして髪の隙間など、身体の至る所から時折噴き出すそれは、彼女の髪と同じ桃色と瞳と同じ空色が混ざり合い、彼女の体を燃やすことなくまるでその姿を彩る装飾の一つであるかのように自然と存在していた。

 

「口から吹くこともできるんだー! ヒカリさんが触っても熱くないよ! はい! ふーっ☆」

「あら、ふふっ……たしかに熱くないけど、なんだかくすぐったいわね」

 ※

 《てぇてぇ》

 《たまんねーな》

 《目が生き返るわほんと》

 

 メリャンコラはまるでステージ上でのパフォーマンスのように、ヒカリの顔辺りに手を添えて(すぼ)めた口から体火を吹き掛けた。

 

 彼女の言葉通りその炎は勢いも緩やかで何を焼くこともない様子であり、精々メリャンコラの体温と同じ程度の熱しか持っていないようだった。

 

 そしてそのやりとりを横目に眺めていたエラヴロは、突然顔面を殴られたかのような驚愕の表情を浮かべていた。

 

「んぶふぉっ!? び、美少女同士のイチャイチャ……っ!! これは刺激が強すぎるっス……ぐはっ!!」

「えぇ……」

 ※

 《総理至急キマシタワーの建設を開始してもよろしいでしょうか?》

 《草》

 《えぇ…》

 《ベタだなおいw》

 《だいぶきしょめではあるよ》

 

 ヒカリとメリャンコラのはしゃぐ姿を目撃したエラヴロは、あまりに多すぎる栄養素にオーバードーズを起こして鼻血を噴き出しながら倒れ込んでしまった。

 

「あはは! それ地元でいろんな人がよくやってる! みんな面白いなー! あれ?」

 

 そんな奇行にイズナが奇妙な生物を見るような反応をする中、突然(わき)から伸びてきた手がメリャンコラの腕を掴み、ヒカリたちから引き離す形で移動させ代わりに彼女を庇うように一人の男が立ち塞がった。

 

「メリィ、こんなところに居たのか……コイツらはなんだ」

 

 そうして現れたのは少し青みがかった黒髪に翡翠(ひすい)色の瞳、そして三日月が二つ重なった耳飾りを身に付けており、標準的な傭兵の装備に近い“戦闘に適した”服装の男だった。

 

 そしてその体の中で最も特徴的と言えるのが、側頭部や首筋などから生える瞳と同じ色の“()()だった。

 

 それは一部の動物が頭等から骨組織を露出させるように自然な形で体から生えており、それが今しがた見たメリャンコラの体火と似たような別の種族としての特徴なのだと察するのは容易だった。

 

 男はメリャンコラを自分の背後へ隠すように立って警戒心を剥き出しにしてヒカリたちを睨みつけてくる。

 

 それによってイズナなどが男から感じる威圧感は無意識に冷や汗をかいてしまうほど重いものだったが、ヒカリにとってはそれがまるで野良の母猫が子供を必死に守ろうと威嚇をしているような姿に思われていた。

 

「いきなりなんだとは失礼ね。私は包み隠すことなんて何一つない潔白の身よ。そちらこそ突然身分を明かさないまま割り入ってくるのは不審な言動じゃないかしら?」

「……」

 ※

 《なんだなんだ》

 《あれもしや》

 《かなり強火なやつかこれ?》

 《顔がいいストーカー的な感じな可能性》

 《私はイケメンでも許さんぞ》

 

 彼女としては自分にやましいところは全くないために、なんとなく正体に見当がついているその男を少しばかり揶揄(からか)ってやろうと軽く挑発し始めた。

 

「(へぇ、中々腕が立ちそうじゃない。興味があるわね……)」

 

「(……コイツ、底が見えない……立ち姿に隙も見つからん。一体何者だ……?)」

 

 互いに出方を(うかが)う間相手を観察している二人だが、ヒカリは男が目で見て感じ取れる部分だけでもかなりの実力を持ち合わせていることを見極めていた。

 

 男側は、特に隠されてもおらず探知できる状態の彼女の魔力が総量を測りきれないほどの莫大(ばくだい)さであること。

 

 そしてなんらかの武術を修めているだろう細かな所作から察せられる腕前から、ヒカリに対して内心では出来れば敵に回したくはないと考えさせられるような認識になりつつあった。

 

 故に男は背後の彼女を巻き込む可能性も考慮した上で自分からは手を出せず。

 

 ヒカリはただ一時の(たわむ)れのつもりで揶揄っているだけであり、元々事をおっ(ぱじ)めるつもりは更々ないのだった。

 

「ちょっとちょっとー! 二人ともなんだか物騒だよー!? もーどっちも私の友達なんだから仲良くしようよー!」

 

 そこでようやく状況を理解できたのか慌てた様子でメリャンコラが二人の間に割り込んでくる。

 

 彼女は剣呑(けんのん)とした空気をなんとか吹き飛ばしてやろうと明るい調子で両者を(なだ)め始めた。

 

「あはは、そう心配しないで? ごめんなさいね。彼の友人を守ろうとする姿があんまり健気なものだから、ちょっと意地悪してみたくなっちゃったの」

「……」

「そーなの!? なんだー、それならそう言ってくれればいいのに! あっそうだ! ねえねえギンくん! さっき落としたあの絵! 実はヒカリさんが見つけてくれたんだよ! いやー絵を拾ったヒカリさんが私がいるところまで来るなんてすごい偶然だよね!」

「……そうか」

 ※

 《趣味わるw》

 《わたわたメリーかわよ》

 《こいつギンくんなんかい》

 《お茶目さんなのいい、俺も煽られたい》

 《街中で喧嘩でも始めんのかと思ったわw》

 

 メリャンコラが彼女に親しげに接しているところを改めて見たからか、男はようやく警戒心を(やわ)らげたようだった。

 

 それでもその自分の警戒が半分遊びのようなつもりで相手にされていたことに気付いたようで。

 

 ヒカリに対して直感的にどうにも気に食わない相手だと感じたのか、仏頂面から表情を変えないまま顔を逸らしてしまった。

 

「ほらギンくんからもお礼しなきゃ! 私たちの思い出の絵を救出してくれたんだよ!」

「……迷惑を掛けたな」

「いいのよ、観光のついでだから」

「ふん……ウィギンズだ」

「ヒカリよ。後ろにいるのは……」

 

 メリャンコラの勢いに負けたのか、それとも邪険にすることもない相手だと思われたのかどうか。

 

 ウィギンズというその男は、人によっては全く変わっていないとも思える態度で無愛想に自己紹介を済ませた。

 

 そうして新しく加わった彼も加えて会話を再開する。

 

 ところで突如として街中の遠くから連続した破壊音、激しい戦闘の音が鳴り響いてきた。

 

「わっ! なになに!?」

「この音……生半可な小競(こぜ)り合いじゃない、退がってろメリィ」

「も、もしかして、また……!?」

「この音って……」

 ※

 《!?》

 《今度はなによ》

 《まさかまーた魔獣じゃないよねー》

 

 各々が何事かとその後の正体を探ろうとする。

 

 しかし次の瞬間、目の前の建物の壁が砕けて瓦礫(がれき)が降るのと同時に、彼女らの前にその()()()()()が降り立った。

 

「あっ、アダムさん……!」

「やっぱりあなたか。敵は魔獣か人かどっちかしら?」

「人間だ……正確には、三日前の連中だ」

 ※

 《おお》

 《パイセン!!》

 《ちょっと暴れすぎなんちゃう?》

 

 図らずもアダムと合流することになった一行は、彼が戦っていた存在が通りの奥から向かってくるのを見つけた。

 

 イズナや元に戻ったエラヴロは近くの物陰に身を隠し、ウィギンズはメリャンコラを守るためか彼女を連れて少しづつ後ろに下がっていく。

 

 ヒカリは剣を手に持つアダムに並び立ち、二度目の対峙となるその()()を堂々とした体勢で出迎えた。

 

「三日ぶりじゃない。まさかあなた達までこの街にいるとはね」

「おぉ! こないだのゴツい嬢ちゃんやないかぁ! やっぱりお前もおったかぁ! こらおもろなってきよったでぇ!」

「ちょうどいい。目障(めざわ)りな傭兵を効率よくまとめて始末できそうだ……」

 ※

 《やっぱり…》

 《またお前らかい!》

 《パイセンもいるしさすがに楽勝やろ》

 

 それはこのアーユグラにやってくるまでの道中に突然彼女たちを襲撃した、傭兵組織カレスデルフの人間である赤い魔力の小柄な男と青い魔力の長身の男の二人だった。

 

 男たちはヒカリの存在を認識した途端より一層濃密な殺気を放ち始める。

 

 それを受けるヒカリ外面上はは涼しい顔をしていながら決して油断することなく、できる限り街に被害が出ないよう迅速に男たちを制圧できるように戦闘体勢を整えていく。

 

「私たちを追ってきたって訳でもなさそうだけど、どうしてこの街にいるのかしら」

「あん? そんなんワシらがココに住んどるからに決まっとるやないか!」

「あ、そうなの、自分が住んでる街を壊してるけどいいのかしら……まあ、(しつけ)のなってない()()らしい行動ではあるけれど」

「テメェ……その安い挑発の代償は高くつくぞ……!」

 ※

 《いやここ住みかーい》

 《地元の街で暴れるのヤバすぎ》

 《あれ怒った?》

 《効いてて草www》

 

 それは相手の冷静さを欠かせるためというよりは、半分ほど思わず漏れたというような言葉のこぼし方だった。

 

 しかしそれが男たちのどこかしらの琴線に触れたのか、青筋を浮かべながら魔力を激しく放出し、今にも爆発するかの如く空気が張り詰めていくのをその場の誰もが感じ取っていた。

 

「ん? 住んでる……? ちょっと待てよ。アーユグラを根城にしてるカレスデルフの傭兵って、まさか……」

「な、なにか知ってるんですか?」

 

 物陰から男たちの言葉を遠目に聞いたエラヴロは、己の記憶を探ってある人物の情報を思い出していた。

 

 

 

「確かにワシの躾がよお身に染みとらんのかもしれんのぉ。こないなとこで暴れ出すとは、最近ちょいと甘やかしすぎとったツケが回ってきよったっちゅうことかいな」

 

「む……」

「おぁ!?」

「……っ」

 

 そうしていつ死闘が始まってもおかしくないというその場に、突然そこにいる誰でもない第三者の声が響き渡った。

 

 それを聞いた男たちは、先ほどまでの激情もすっかり忘れて目に見えるほど動揺しているようだった。

 

「あっ! やっぱり! とんでもない大物が出てきちまったっスよこれは……!」

「うわぁ……そ、そんなにすごい人なんですか?」

 ※

 《!?》

 《でっっっか》

 《いつの間に出てきた?》

 《デカすぎんだろ…》

 《鬼きたー!!!》

 

 その人物は男たちの背後から歩いてきた。

 

 まず目につくのはその身長。

 いや、身長が高いというよりも、その男は()()()()()()が巨大であり、そもそもそれほど大きな()()を元に生まれたかのようだった。

 

 その肌は紫色で耳は尖っており、それはヒカリが知る仙人族(ティオラ)の特徴と同じ。

 

 だがさらに男の額からは黒い骨のような硬質の突起物が三本生えてきており、それは彼女の知識にもある()という存在として表現するのが相応しいように思われた。

 

 和服に近い派手な柄の衣服を着崩して半裸の状態であり、その恵まれた体格でなお器がはち切れんばかりに筋肉が詰め込まれた上半身を誇るように晒している。

 

 腰元にはヒカリの身長以上とすぐにわかるほど大きな金棒(かなぼう)が二本()げられている。

 

 そんな世が世なら妖怪として認識されていただろうと言えるほど、珍妙な風貌(ふうぼう)美丈夫(びじょうぶ)がそこに立っていた。

 

「あ、あれは……現在ではカレスデルフの幹部の一人とも言われており……! 赤翼(せきよく)大陸の人間の中では一番の腕っぷしを誇るという逸話が何百年も前から囁かれている伝説の男っス……!」

「で、伝説……! なんかすごそう……!」

 

 

 

「オウガ・ヤマトガミじゃ。この街で喧嘩する時はワシを通してもらおか」

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