聖灰のヘクスター 〜これはある日出逢った二人がいつか神様になるまでの物語〜   作:気安田レイジ

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20話 謳我一家と襲来の宙

 

「それで? 要するにウチのもんがこっちで受けた仕事でそちらさんを襲いおったが、まんまと返り討ちにあった後帰ってきたアーユグラ(ここ)で、あんさんらに見苦しく噛みついて恥晒しとるっちゅうわけかい」

 

 オウガと名乗る巨漢と邂逅(かいこう)したヒカリたち。

 

 アーユグラにいるカレスデルフの傭兵を代表していると言うその男と腰を落ち着けて話し合いをするため、彼女らは男たちの本拠点である大きな高層建築の中にある料理店の席についていた。

 

 円卓の一角に座すヒカリたち一行の対面にオウガが座り、その両脇に二人の男たちが控え、店内には他にもカレスデルフの一員であろう人間が、彼女らを牽制でもするかのように大勢待機していた。

 

 カレスデルフの拠点だということで、ドゥナダスから同行している者をはじめとしたギルドの人間はさすがに介入が難しく、今回のことは黙認せざるを得ないという状況になっているようだった。

 

「端的に言うとそうなるわね!」

「ちょっとヒカリさん! 今のに同意すると挑発みたいになっちゃうっスよ!」

粗相(そそう)をした子分の不始末の責任を取るのも親分の仕事の一つよ。ここでケジメもつけさせないで誤魔化される方が彼らにとっては恥の上塗(うわぬ)りじゃないかしら」

「お嬢ちゃん、若い身空でよお分かっとるやないか。せや、ワシらぁこないな場面でオノレの非を認めんなんちゅう小狡(こずる)い真似ができる立場やない。暴れてばっかりの阿呆やないってところを内外に示してかな、上に立つもんとしての()を保てんからなぁ」

 ※

 《ノンデリで草》

 《実際二人の行動が目に余るのはそうだし》

 《なんでヤクザ的な価値観知ってるん?w》

 《めっちゃ飲むやん》

 《なんかもう若干苦労人の気配してるぞこいつ》

 

 オウガは最初席に着くなりいきなり酒を豪快に飲み干してしまった。

 

 それからも安くはなさそうな酒瓶(さかびん)を次々と空けていき、そのせいか少しづつ酔いが回り舌もよく回るようになっているようだった。

 

 さらにそれは一方的に被害を受けた立場にも(かかわ)らず、自分たちの流儀に理解を示し歩み寄ってくれるヒカリの姿勢に気を良くしたこともあるのだろう。

 

「それにしても、これは私たちの問題なんだからわざわざついて来なくてもよかったのに」

 

 そしてヒカリが目を向けた先には、すぐ近くの席に座るメリャンコラとウィギンズの姿があった。

 

「まーまーいーでしょ! 友達が大変そうなら放っておけないし! なんだか面白くなるかもって気がしたからね☆」

「まったく、とんだお転婆(てんば)娘ね。もしもの時はちゃんと守ってあげるのよ、ギンくん?」

「おまえに言われるまでもない……あとその呼び方はやめろ」

 ※

 《図太くて草》

 《物怖じしない子だなー》

 《お転婆はヒカリちゃんが言えた口じゃ…》

 《ギンくん!》

 《ギンくんかわいい》

 

 メリャンコラは予想もしていなかった展開に驚きと期待感が渦巻いているかのようにはしゃいだ様子だった。

 

 そしてウィギンズはそんな彼女へ万が一のことがないようにか、周囲の人間たちの動きへ睨み付けるように目を光らせているようだった。

 

「壊れた建物はウチのもんに直し行かしとるでぇ、明日には元通りになっとるやろ。で、今回の迷惑掛けた分の詫びの話やが……なんぼ欲しいか言うてみぃ」

「はん! 他人からお金をせびるなんてよほど生活に困窮(こんきゅう)してなければしちゃダメなのよ! あんたたちだって金で解決できることとそうでないことの区別くらい付くでしょ。つまりこれまでのことを反省してるっていう誠意を伝えられるかが重要なのよ!」

 

 オウガは自分たちの面子(メンツ)のため、迷惑料で多少吹っかけられてもよっぽど法外な量でなければくれてやろうというつもりでいた。

 

 しかしヒカリは金がどれだけ手に入るかなどまったく興味がなく、ただ自分や仲間たちが命を狙われたこと、それにアーユグラに住む住人たちの平和を脅かしたことに対しての、心からの反省をさせることが重要だと考えていた。

 

「といっても、こいつらからじゃあ金以外に大して有益なものは(むし)り取れないだろう。ありきたりだがある程度は金貨を受け取っておくのが最低限の落とし所といったところか」

「むむむ……しょうがないわね。じゃあ金貨を十……いえ、五枚で手を打ってあげるわ!」

「なんやたったそれだけか? 即物的なもんはいらんっちゅうわけかい。しゃあないのぉ……せやったらこの先いっぺんだけ好きな時にワシらの力貸したるわ。よっぽど手ぇ焼きそうな面倒ごとに()うたら呼んだらええ、そん時はこの謳我(オウガ)一家総出で行ったるさかい、このバカ息子どももこき使ったらええわ」

 ※

 《いやパイセン辛辣すぎて草》

 《普通に暴言よそれ》

 《五枚って多いの?》

 《単純に金としてならすごい価値あるけど》

 《でた貸し1、最終決戦で使うことになるやつやん》

 《これまでの旅で出会ったやつらが全員集合するあれね 今から楽しみになってきた》

 

 余計な面倒ごとを呼び込まないようヒカリに助言をするアダム。

 

 あまり話が後を引くほど(こじ)れないようにしたいという彼の意図を()んだヒカリは、あくまでも納得したという形だけは示すような値を提示する。

 

 オウガとしても当然そういった思惑はよくわかっていたが、彼女らがこれ一度きりの関係で終わると確信できるほど存在感の薄い人間ではないこともあり、少しばかり出し過ぎではないかと思われかねないほどの条件を追加で差し出した。

 

 それが彼女らとの繋がりを僅かでも太く確立しておこうという彼なりの社交辞令のようなものだったのだが、それに気付けた人間はこの場にはほとんど存在しなかった。

 

「ふぅん、まあなんでもいいけど……じゃ、そもそもなんであんたらは三日前私たちを襲ったのかって話を聞かせてもらいましょうか。その男は()()()頼まれた仕事だって言ってたけど?」

「せやなぁ……ワシらぁ闇組織やら盗賊なんかを狩るのが普段の仕事なんやが、ギルドの傭兵を襲うなんちゅう依頼はいつもやったら金貨をなんぼ積まれても受けへん。せやけど今回は()()()()直々の命令やさかい、ワシらには受けんっちゅう道を選ぶ権利はないんや」

「あのお人? それってあんた達の頭の軍神とか呼ばれてる奴のこと?」

 

 ヒカリはとうとう彼女が一番はっきりさせておきたかった話を切り出す。

 

 なぜ彼女らは襲撃されなければならなかったのか、初めからイズナなどの戦えない子供を含めた皆殺しを前提とした、今オウガが普段は受けることなどないと明言したような非道な仕事を何故。

 

 その理由をその理由を知っておかなければ彼らに抱いた怒りの感情がすっきりすることはできない、故にどうしてもそこだけは知っておきたいというのが彼女の心境だった。

 

「ちゃう。ワシらカレスデルフそのものの()()()みたいなもんの人間や……とは言っても、ワシもそれ以上のことはなんも知らん、そいつ自身のことも、そいつがいるらしい組織のこともなぁ……陽の光から照らし出される影の姿を捉えられても、夜空に浮かぶ暗闇を捉える術がないように、デカすぎて逆になんもかんも見えてこおへんのや」

「へぇ、巨大な組織っていうならそれこそわからないわけないって気もするけど」

「俺に覚えはないな。つまりギルドはそういう存在の影も掴んでいないということになる」

 ※

 《はえー》

 《ラスボスきちゃーー》

 《そんなん絶対黒幕やんけ》

 《影のフィクサーって感じか》

 《こういう敵組織の存在が明かされるシーンすき》

 《↑それな》

 《ってことはこいつらも敵じゃね?》

 

 オウガの話には特に嘘やごまかしの意図が含まれた違和感などは覚えられなかった。

 

 自分たちを襲う理由のある人間は、彼らカレスデルフを傘下に収めるような形で世界を股にかける巨大な組織にいる者らしい。

 

 そんなものに命を狙われる(いわ)れといえば、ヒカリやアダムとイズナなど、もちろんエラヴロにもあるはずがなかった。

 

 理由を聞き出そうにもその命令を下した人間がどこにいるかなどわかるわけもなく、目の前の実行犯たちも全く情報が(おろ)されないようになっているらしく、これ以上の情報は持っていないことは確かなようだった。

 

「しかたないわねぇ。さすがにトップともなるとなにか情報を握ってるでしょうし、とりあえずいつかは軍神とやらからそいつのことを聞き出してやりましょう……」

 ※

 《ノア:御山さん、いきなりで悪いがすぐに外に出て上空に向かってくれ》

 

「か……の、ノア? どうしたのよ(やぶ)から棒に」

 ※

 《ノア:預言者から急に指示が飛んできた。今すぐ対処しなきゃアーユグラが丸ごと滅ぶような危機が迫ってるらしい》

 《!?》

 《ゑ?》

 《なになにに!?》

 《いきなりすぎー!!》

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「さァて、そろそろこの世界の知的生命体に挨拶の仕方ッてやつを教えてあげようかなァ?」

 

 そこはアーユグラをはるか下方に見る超高度の空の上。

 

 空間にあいた歪んだ八の字、メビウスの輪を描く穴を背に街の景色を見下ろす存在がいた。

 

「やりすぎんなよガルムボーグ! 今回はただの偵察なんだからよ。あの知的生物の巣を一つ消し飛ばすくらいで済ませとこうぜ!」

「わかッてるよバロンダルク! そう焦るなッて! それにしてもなかなか大量の魔力を持った反応を数匹分感じる……もし生き残っていたら追加で少しくらい遊んでもいいよなー!」

 

 その二体はどちらも生身のようでありながらおよそ人間からはかけ離れた異形の姿をしており、その言動から滲み出る狂気性故に精神構造も人間とはおよそ似つかないものだと察せられる。

 

 そして二体いるうちの一体が前に出てアーユグラを正面に見据え、体内の異質な魔力を膨れ上がらせていった。

 

 

「景気付けに派手なやついくぜィ! ヴォームペンチ・ダスト!! ニギョォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

 口元に膨大な魔力を集めたソレは超圧縮させた魔力の球塊(きゅうかい)を射出し、真っ直ぐにアーユグラへと向かっていく。

 

 その魔力塊に込められた破壊力を正しく測ることができれば、それが直撃したアーユグラの末路がどうなるかは明白だった。

 

 しかしその魔力塊の直線上、街の方からある存在が空を飛んで向かってきていた。

 

「ッアレね!!」

 

 ノアを介した預言者の指示通りに上空へと向かったヒカリはこの存在と、ソレが放った魔力塊を見つけた。

 

 彼女はそれがアーユグラへと落ちて被害が出るのを防ぐため、己の足へ堅牢(けんろう)な鎧を着せるように強力な魔力を纏わせ、魔力塊へ渾身の蹴りを放った。

 

 

龍鞭脚(りゅうべんきゃく)!!」

 

「アァン!?」

 

 

 振り抜かれた蹴打(しゅうだ)は魔力塊の芯を捉え、硬球をバットで打ち上げるように弾かれて軌道を逸らした。

 

 蹴り飛ばされた魔力塊はずっと遠くの場所にある山の方へ飛んでいく。

 

 そうして数秒して地上に落ちた魔力塊は、その山をまるで(もろ)い砂山のようにあっさりと吹き飛ばしてしまうほどの大爆発を起こした。

 

 空も街もヒカリもその爆発の光に照らされ、彼女は一瞬それを放った存在への警戒をも忘れて愕然(がくぜん)としてしまっていた。

 

「なァ……ッ!?」

 ※

 《!?》

 《えええええ!!?》

 《やばすぎだろwwww》

 《初手全滅させにくるのはえぐい》

 《てか誰だよ宇宙人か?》

 《預言者の誘導なかったら全員死んでたくねこれ》

 

 何か一つでも掛け違えていればアーユグラは滅び、自分も友人たちも、街の住民も一人残らず死んでしまっていたかもしれない。

 

 そんな最悪のもしもを幻想してしまったヒカリは全身が総毛立ち、次第に沸々(ふつふつ)とマグマのような怒りが湧き起こってくるのを自覚した。

 

 そして当の魔力塊を放った存在は自分の一撃を妨害されたことに驚愕しているようだった。

 

「こりャあおッたまげだァ! こんなにあッさりオレ様の怪光術(かいこうじゅつ)を防いじまう生き物が現れるなんてよォ!」

「ゴッハゴッハ!! だから前も言ッたじャねェかガルムボーグ! そんな地殻も(えぐ)れねえ見てくれだけの技は大したことねェッてよ!!」

「クヌンフヌヌヌヌゥゥ……!! そういうおめェさんはあの巣を消すことができるのかいねええ? どうやらまだ戦える生き物がいるみたいだぜェ?」

「しャあねェな! そんじャあ先にあの巣を消した方にプージャ獣の脳ケーキを(おご)るッてのはどうだ!?」

「いいでしョう! お前は地上から! 俺は空からいくぞ!」

 

 二体の異形の生物はヒカリの存在をまったく脅威とは見なしていないかのように平然と会話をしていた。

 

 そんな態度になおさら怒りを助長されたヒカリはすぐさま先制攻撃を仕掛けようとする。

 

 しかし次の瞬間二体のうちの片方が宙に浮かんでいる状態を解除して地上へ向かって自然落下を始めた。

 

 彼女はそれを追おうとするが、その空間に留まっているもう一体の意識がこちらへ向いたのを察知し動きを止めざるを得なかった。

 

「ファーッヒャッヒャッヒャッ!! では原住民に滅亡へのカウントダウンを知らせる合図はァ? そこのおめェさんを引きちぎッて降らせる血の雨としようかなーーーーーーー!!!」

 

「上等じゃない……人類に喧嘩を売ったこと、後悔させてあげるわッ!!」

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