聖灰のヘクスター 〜これはある日出逢った二人がいつか神様になるまでの物語〜   作:気安田レイジ

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22話 VS『虐殺隊長バロンダルク』

 

「そゥれァ!!」

稲虎(いなどら)!!」

 

 山に座す街アーユグラの(ふもと)において二つの超怪力が衝突する。

 

 バロンダルクは金属質の体、その側面の突起から現れる液体金属を操り、拳のように固められた幾本ものそれを前方に殺到させる。

 

 対するオウガは鋼鉄の洪水と言えるそれに迷うことなく踏み込み、腰にある二本の金棒を掴み、同時に打ち払うように振り抜いて液体金属を弾き飛ばした。

 

 そこからバロンダルクの懐に飛び込み両手の金棒を思いっきり振り下ろすも、瞬時に形を変える液体金属によって、硬質ながら泥土(でいど)のような粘度で絡めとるように容易(たやす)く受け止められてしまった。

 

「ちャちな力自慢かァァ? くだらねェ!!」

「ッ!」

 

 バロンダルクは密着した状態のオウガに対して、長い首と鋭利な口吻(こうふん)によって音速にも迫る速度の刺突攻撃を連続で繰り出す。

 

 彼は頭を狙ったそれを冷静に(かわ)し続けるが、注意を頭部に集中させた隙に、バロンダルクの四つある足のうちの一つがオウガの腹部を蹴り抜いた。

 

「ウラォゥ!!」

「ぬ……ッ!!」

 

 触れるほどの距離で何トンもの火薬が一息に爆発したかのような衝撃を受けて彼は吹き飛ばされようとするも、自らの足を後ろの地面に叩きつけて踏ん張りなんとか止まることができた。

 

「腕力はそれなりみてェだが、それ以上の圧倒的なパワーを見せつけられてもいきなり絶望するんじャねえぞ!!」

「……こいつはなかなか、歯ごたえがありそうやなぁ……」

 

 体に(みなぎ)る力に(かげ)りはないものの、オウガは喉元から登ってきた少量の血反吐を吐き出す。

 

 どうやら蹴りを受けた時外傷は付かなかったが、強すぎる圧迫のせいでいくつかの内臓が損傷していたらしい。

 

 すると正面に立つバロンダルクが腰を落とし四つ足を踏みしめる。

 

 それはまるで相撲取りが立ち会いの最中に見せる蹲踞(そんきょ)の姿勢のようだった。

 

 その体勢が力を目一杯体に溜め込んでから、それを一気に解放させて前方に突撃するための構えだと、オウガにはすぐに察することができた。

 

「カカカッ……望むところや。かかってこんかい……」

 

 回避の体勢に移る時間は十分にあったが、オウガはその場から動かずにバロンダルクを正面から迎撃する構えをとった。

 

「ゴッハゴッハハァ!! てめェをバラバラのボロクズにして、そのままの勢いでてめェらの巣穴もまとめてぶッ飛ばしてやるぜ!!」

 

 先のような威力の蹴りを放てる力を備える四本の足で踏み出す突進。

 

 その威力は現状想像するに余りあるものだったが、常人がそれを受ければ間違いなく、体が部位を識別することもできなくなるほど粉微塵に破壊されてしまうことは容易に予想することができた。

 

 そしてついにバロンダルクが全身に溜めた力を爆発させようとするが––––––––。

 

 

 

 

 

「––––––––ッ撃神剣(クインスト)!!」

 

 

 

 

 その背後に現れたアダムが紫色に光り輝く大剣で異形の身体を一閃した。

 

「……あァん?」

 

 先の攻防で発生したオウガやバロンダルクの攻撃による”衝撃”や”損傷”といった概念そのもの。

 

 それを彼の固有魔術によって集約させ光の刃として物理的な破壊力に変換する秘剣。

 

 アダムが持つ手札の中でも、よほど必要に迫られることがない限り切ることはないとっておきの必殺技(ジョーカー)

 

 それを初撃に切るという時点で、彼がバロンダルクという存在をどれほど危険視しているかを表していた。

 

 そしてそんなアダムの秘剣を受けたバロンダルクはというと……。

 

 

 

「ズアァァァ……! 無傷!! 無血!! 無駄だ無駄無駄ァ!!」

 

 

 

 金属質の体には全く損傷した様子もなく、体勢を崩すことすらなくその場に立っていた。

 

「く……!」

 

「俺さまの外殻(がいかく)はマグデン星域最強のラ・幻三五天然合金と同じ硬度だ! てめェらみてえな雑魚のパワーとそんな原始的な武器の組み合わせじャあ五万年掛かっても傷一つ付かねェぜ!!」

 

 バロンダルクは自慢するように無傷の状態を保つ自らの身体を見せびらかしている。

 

 アダムは自身の最大の切り札が通用しなかったことに焦りを覚えるが、すぐに意識を切り替えて相手を倒す方法を考え始める。

 

「おもろいやないか。じゃあその五万年分の力ぁ、ワシが一気に食らわしたるわ……!!」

「(堅牢な鎧で身を守っているということは、その内側の生身に攻撃を受けることを恐れているということだ……どれだけ装甲が厚かろうと、それを無視して力を内部に伝えてしまえば関係ない……!)」

 

 立ち塞がる障壁を()(こう)から打ち破らんと(ふる)い立つオウガ。

 

 その壁を知恵と技術を()って乗り越える方法を模索(もさく)するアダム。

 

 二様の戦士はそれぞれが異なる矜持(きょうじ)を胸に共通の敵へ同時に挑みかかっていった。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 そうしてアダムたちが戦っている頃。

 

「なんだったんださっきの! かなり遠くだけどすごく大きな爆発だったよな!」

「ちょっ、落ち着けって! おい誰か手伝ってくれ! 馬たちがずっと暴れて逃げ出そうとしやがる……!」

 

「魔獣か!? 他国の襲撃か!?」

「外壁部へ向かって防備を固めろ!」

 

「カレスデルフの野郎どもが散々暴れてくれやがったかと思ったら今度はこれかよ!」

「やっぱアイツら災いを呼び寄せんだ……黒い樹の枝だったんだ……」

 

 アーユグラの街中では民間人や軍の兵士たち、傭兵に至るまでが今どのような事態になっているかを把握しかねて混乱状態に(おちい)っている。

 

 それに加えて()()()()続いている地鳴りがさらに人々の不安を助長しているようだった。

 

 そんな街中の中央広場にはカレスデルフの拠点から出てきたイズナやエラヴロたちの姿もあった。

 

「ヒカリさんたち、今魔獣と戦ってるのかな……アダムさんとオウガって人まで飛び出していっちゃったけど……」

「ま、まああの三人がいればさすがにアーユグラは安全なはずっスよ! ここにだって兵隊さんも傭兵も大勢いるわけだし!」

「だいじょーぶ! いざって時はギンくんも戦ってくれるから! ギンくんすっごく強いから心配ないよ! ねっギンくん☆」

「ああ……」

 

 弱音を吐露(とろ)するイズナたちをメリャンコラが(かげ)りを見せない笑顔と共に励ましている。

 

 しかしそんな彼女も震える手が示すように恐怖を堪えきれておらず、ウィギンズはその様子を静かに見つめていた。

 

 街の人々と同じように…いや、爆発が起こる直前にヒカリが何者かと交わしていたなんらかのやり取りと、そこから彼女らが肌を刺すような戦意を発しながら出ていったところを見ている分、その不安感もひとしおだろう。

 

「おぅアル、今集まれるメンツはこんだけかいな」

「そら仕事でおらんのやからしゃあないやんか、クゥーとルジーはテーナイ地方、グランはヴァハヴァーゾ、ソルは()()の定例集会出とるから帰んの来週になるわ」

「あなた方お二人がいるのですから、戦力の不足という事態には滅多になり得ないでしょう? まあお父様だけでも十分すぎるくらいですが」

「おしゃべりはそこまでだ……揺れが大きくなってきた。そろそろ来るぞ」

 

 イズナたちの近くではカレスデルフの傭兵、その中でも幹部だと思われるような風貌の者たちが四人ほど集まって会話している。

 

 赤い魔力を持つ小柄な男、ウガイハン・ゼユメス。

 

 青い魔力を持つ長身の男、オーレッヘ・ケニングハイ。

 

 橙色の髪の純人の女性、アレスドラ。

 

 赤紫の長髪の女性、オドルヴィア。

 

 前に襲撃までされた身としてイズナ等は、まさかヒカリたちがいない隙にすわまたかと心臓の音が聞こえそうなほど緊張していたのだが、今の彼らはそんなことには全く興味がないと言わんばかりに彼女らに目もくれていなかった。

 

 その他に幾人かの武装した傭兵を連れており、まるでこれから起こる大規模な戦闘に備えているかのようだった。

 

「(しかしさっきからずっと続くこの地鳴り……戦闘によるものだとしたら絶え間なさすぎる……原因は地中か……?)」

 

「よっしゃ来るでぇ! 気合い入れろやお前ら!!」

 

 ウィギンズが街全体を揺らす地鳴りに不自然さを覚えるのと同時に、突然オーレッヘがなんらかの合図らしき大声を上げる。

 

 何事かとその様子に注目が集まるが、それによってその広場にいる多くの人間が他方へ目を向けたことで、いつのまにか広場の外周へ向かうよう誘導され、円を描くように中央の噴水から離れていることに多くの人間が気付いたようだった。

 

 そうしてオーレッヘを始めとした武装した者たちは戦闘態勢を取りながら噴水を注視している。

 

 それにつられたその場の民衆たちも自然と噴水へ目を向け、一体何が起こるのかと不安を募らせていくが、良くも悪くもその時間は長く続かなかった。

 

 

 

『––––––––––––!!』

 

 

 

 ソレはまるで、次第に大きくなる揺れがついに地割れへと変化する臨界(りんかい)点を突破するように、石畳の下から噴水を破壊しながら現れた。

 

 それは大多数の人間が見たことはないものの、それが何かと問われれば()()以外の存在を思い付かないほどわかりやすいものだった。

 

「ま……魔獣だぁぁぁ!?」

「この揺れは魔獣の仕業だったのか!?」

「誰か早く倒してくれ!」

 

 ソレらは奇形の多い魔獣とは異なり、この世界はともかく地球の人々が目にすることの多い通常の()()と似たような姿形のものばかりだった。

 

 だが普通の生物を遥かに超える巨躯(きょく)のそれらは、共通して一様に白い植物質の体表を持っていた。

 

 不意の非常事態に人々はパニック状態に(おちい)り、怪物から逃れようと一斉に動き出し、兵士やギルドの傭兵はそんな市民の誘導に手一杯のようだった。

 

「はい始めェェ!!」

 

 そんな中怪物の群れに率先して突撃していったのはオーレッヘとウガイハンの二人だった。

 

 武器の一つも持たずに飛び込んでいった彼らは、並外れた膂力(りょりょく)や鍛え抜かれた技術によって怪物たちを相手に苛烈(かれつ)に攻め立てている。

 

 周囲にいる仲間たちも怪物を包囲して魔術や槍などの長物で攻撃を始める。

 

 包囲陣形によって数十匹の怪物を広場の中央部へ押し留めるような攻勢を展開している。

 

 そんなカレスデルフの傭兵たちが取った作戦は、よりにもよって街の中心地とも言える人の密集地に魔獣が現れるという最悪の一歩手前という状況から、未だに街の住民たちが怪物によって虐殺されるというその最後の一歩が踏み出されずにいる防波堤の役割を果たしていた。

 

「おお……この人たち、結構傭兵として優秀なのかな。ヒカリさんには勝てなかったけど」

「イズっち一言余計っスよ。でも実際カレスデルフの傭兵がここまで対魔獣用の戦術に習熟してるとは意外な気もするっスね」

 

 包囲網の外側から戦いを見物するイズナたちは、図太いからか感覚が麻痺(まひ)しているからか、こんな時に傭兵たちの仕事ぶりに寸評すら付け始めた。

 

「あんたら随分言うてくれはるなぁ。ま、恒影大兵団(ウチら)が一般大衆に評判よくないんはしゃあないことやけども」

 

 (くち)さがないというほどではないものの、今の彼らの働きを見たことで口から出る感想としては少々手厳しいその評価に、すぐ近くに立っていたアレスドラたちが言葉を返す。

 

「あれっ、聞こえてたっスか……? い、いやぁ〜、別にバカにしようとかって訳じゃないんスよ!? カレスデルフは魔獣の討伐依頼なんかは滅多に受けないって聞いてたもんで……」

「ご心配なさらず、特に気分を害したわけではありませんので……確かに私共の常日頃の仕事は、普遍(ふへん)的な社会に対して害となる危険な個人や組織の排除を主としていますが、そもそも魔獣という存在は根本的に人類という種の敵そのもの、それらを狩るための戦術を身につけておくのは、傭兵としては基礎中の基礎と言っていいですわ」

「(……金さえ積めば政治関係の暗殺も受けるって噂があるんだけど、言ったらタダじゃ済まなさそうだなぁ……)」

 

 そうして戦闘の渦中から聞こえる音がどこか少なくなったことには気付かず、イズナたちは漠然(ばくぜん)とした”なんとかなりそう”といった思いを抱えたまま傭兵たちの戦いを見物していた。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 その頃アーユグラを遠く見下ろす上空には––––––––。

 

 

 

「ぐ……っ! はぁ……はぁ……!」

 

「ファーッヒャッヒャッヒャーーー!! 弱ってきた弱ってきたァ!! いいぞいいぞォ! すぐに魔界に連れて帰ってェ、愛玩用にもんのやばい飼育してあげるからねェーーーーーーーー!!」

 ※

 《やっべえ》

 《いたそう》

 《こいつ強すぎじゃね?》

 

 

 

 無傷のまま高笑いをあげるガルムボーグを前に、全身に決して浅くない裂傷を無数に負い満身創痍(まんしんそうい)の状態となったヒカリの姿があった。

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