聖灰のヘクスター 〜これはある日出逢った二人がいつか神様になるまでの物語〜   作:気安田レイジ

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26話 織りし光と三つ編みの希望

 

 雲を突くほど巨大化したバロンダルクとヒカリが相対している間。

 アーユグラの内部までやってきたアダムは、街の騒ぎの声を断片的に聞き取ることで街の中に魔獣が現れたことを察した。

 

 瞬時に人々の移動方向と注意を向ける方角からの逆算で問題の渦中の場所を察知し、中央広場へとすぐさま駆け付ける。

 

 そこには予想通り複数の魔獣が現れていたが、円陣を組む傭兵たちに包囲された空間にある魔獣たちは大半が既に倒されている。

 その包囲網の中で二人のカレスデルフの傭兵、オウガの手下である男たちが魔獣を蹂躙しており、包囲網の外ではギルド所属の傭兵らしき多数の人間が立っていた。

 

「イズナ、全員無事だったか」

「アダムさん! 私たちは問題ないですけど……」

「いやーいきなり魔獣が出てきた時はどうなることかと思ったっスけど、カレスデルフの方々がいてくれたおかげでなんとか特別被害なしで済みそうっスよ……ってそんなことより! あのバカでかいバケモノなんなんスか!? あんなのアーユグラが丸ごと踏み潰されそうな勢いでデカいんスけど!!」

 

 魔獣の方は問題なくすぐにでも傭兵たちが片付けるだろうと判断したアダムは、その近くであの巨大な異形を見上げているイズナたちのもとに駆け寄る。

 

 二人は彼の姿を認めると安堵の表情を浮かべるが、すぐに意識が街の中からでもはっきりとわかるほど大きな姿の異形へと向き直された。

 

「あれは……正直なところ俺に正体はわからん、ヒカリが突然飛び出していったことに関係があるとは思うが……」

「ほんとにすっごくおっきいねー! ご飯を食べる量もとっても多いんだろうなー! ね、ギンくん!」

「そういう問題じゃないだろう……」

「あんなデカい魔獣見んのは初めてやなぁ、親父はあんなんと戦うとるんか」

「お父さまならば身の心配をする必要はないでしょうが、その前にこの街が巻き込まれては大変ですわね……」

 

 イズナたちの他にも周囲にいる多くの人間がバロンダルクの存在感を受けて呆気に取られているようだった。

 

 カレスデルフの傭兵たちは、ここにいる魔獣が相手なら容易く対処できる程度には場数を踏んでいるらしい。

 しかし今までにここまで規格外な力を有する敵を目にすることがなかったのか、並外れた力を持つオウガへ絶対的な信頼を置いていようともどこか不安を拭いきれない様子だった。

 

「あんなの、倒せるんですか……?」

「方法はある。イズナ、話したことがあったな。俺の魔術の()()()使()()()

「え、あ……アレですか……! でもあの魔獣すぐここに来そうだし間に合いますか……!?」

「んんん? ちょっとちょっとなんの話っスか!? 二人だけで通じ合ってないで教えてくださいよぅ!」

 

 どうやらイズナはアダムが行おうとしている最後の手段に心当たりがあるらしい。

 エラヴロなどは当然覚えのない話なため、二人の間だけで進む会話に焦って詳細を知りたがるが、両人ともあまり気にしていないようだった。

 

「そこで、俺に教えてくれた()()()()のことを思い出した」

「……あー、たしかになんとかなるかも。でもアーユグラは広いし、全員ってことなら……たぶん五分ぐらい掛かると思います」

「わかった。すぐに始めてくれ!」

「えーなになに? 二人ともなにするの!?」

 

 一秒の隙間も惜しいと言うように手短に会話を終わらせてその場を離れるアダム。

 彼は疑問符を浮かべるばかりの周囲に構わずまた加速魔術で街の正門前に向かい、一度深呼吸をしてから静かに頭上へ剣を(かか)げる。

 

 それと同時に浮遊魔術によって体を空に浮き上がらせていく。

 彼は飛行するための魔術を不得手としてはいるが、彼の血筋を由来とする魔術の使い方は感覚として身体に染み付いているため、ただ浮かぶだけの使い方ならそれと両立させることもそう難しくないようだった。

 

「(あとは彼女がどれだけ食い止めてくれるか、だが……)」

 

 アダムが打てる中で理論上最も強大な攻撃。

 それを実現するために必要な最後の条件は時間、準備が完全に整うまで自分やこの街に住む人々が無事でいるための時間稼ぎこそが肝要。

 

 彼は遙か空の上にて巨大な異形と対峙しているだろう人物に最後の望みをかける。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

『ほう! ガルムボーグを()ッたのはてめェだな!! どうやッたかは知らねェが、一応ついでに仇は取ッとくとするか!!』

 

「さっきいたもう一匹か、見ないうちに大きくなったわねぇ」

 ※

 《でけえええええ》

 《親戚のおっちゃんか》

 《ついで扱いされるガルくんぇ》

 

 なんとかガルムボーグを始末したヒカリは、その直後に巨大化したもう一体の異形の前に立ち塞がるように陣取る。

 バロンダルクも目の前にいるのが自身と同格の存在を倒した者だと理解しており、街を壊すよりも彼女を打ち倒して捕獲することこそが、自らに与えられた指令を達成する以上の報酬を約束する功績だろうと考え付いたようだ。

 

『ゴッハゴッハゴッハ!! あのヤロウは間抜けだがおもしれェことには気付いたみてェだな! てめェを利用すればもう一つのまだ()()()の影響も受けてねェ世界が手に入るッてわけだ! それがわかッた時点でこの情報は既にサガボディス様に伝わッている! これから闇の軍勢がてめェを捕まえるため無尽蔵に刺客を送り込んでくるぜ! 逃げ場はどこにもねェぞ!!』

 

「ペラペラとよく回る口ねぇ……私は逃げも隠れもしないし、その刺客ってのがあんたみたいに戦いの最中に勝つこと以外のことを考えるような素人だっていうのなら、百万年掛かっても私は捕まえられないわよ」

 

『……おれ様が戦いに勝つために知恵を振り絞らなきャならねェ脆弱な下等生物と同じだと思ッてやがるバカが言ッてなきャあ正しいセリフだッたかもなァァァァァ!!』

 

 両者互いに微塵も負ける気がしていないが故の挑発の応酬。

 そこからバロンダルクは増大した身体に合わせて同じ規格にまで膨れ上がった液体金属の触腕を無数に分裂させ、ヒカリの体をすり潰すそうと四方八方からの攻撃を始めた。

 

 ヒカリはそれを身に纏った風の鎧によって空気の壁を突き抜けて、目にも止まらぬ速度で飛行してすり抜けていく。

 

 さらに常人が一生のうちに使用する総量を遥かに超える莫大な魔力を手の中に集め、先ほどの流星のような光弾として幾つも打ち出した。

 

「(あの外殻の上から有効打を与えるには、力を解放する方向を一点に集中させて、直接的な攻撃ではなく衝撃を内部に浸透させる……結局のところ発勁(はっけい)な訳だけど、魔法でやれるかしら)」

 

 彼女は触腕を避けて飛びながら魔術の形状・性質を維持する理論の構築とそれによって行う攻撃の計算をしていた。

 

 同じように飛び回る幾つもの光弾は次の瞬間、バロンダルクの口吻(こうふん)部へあらゆる方向から同時に命中した。

 

『ぬぐォ!?』

 

 標的に衝突した光弾は本来ならただ爆発するはずだが、ヒカリが特殊な理論を組み込んだそれはその通りにはならず、拡散するはずだったエネルギーをある一点の方向にのみ放出する。

 それは命中した標的の接触面、それ以外の方向へ爆発が逃げないよう魔力の障壁によって限定された発射口から、魔力が炸裂してバロンダルクの外殻とその内側にまで絶大な衝撃と圧力を掛けていった。

 

 しかしそれでも外殻に傷を付けるまでは届かなかった。

 

「案外上手くいくものね」

 ※

 《うおおお!》

 《なにかわからんがいいぞ!》

 《早すぎてなんか光ったとしか》

 《翼をはためかせるヒカリ様がふつくしい》

 《殻は割れないけど中身にダメージは入ってるっぽい》

 

『ぐォォォ……!! ふざけやがッてェェェ!! てめェごときにおれ様の外殻を破れるわけねェだろうがァァァァァァ!!!』

 

 完全な遠隔操作状態の魔術による発勁の再現。

 本来人体の挙動から発生する力を利用する技術を魔法によって行うという常軌を逸した発想。

 一度目の試みにしてはそれなりの成果を得られたと言っていいだろうとヒカリは満足していた。

 

 そしてそんな実験まがいの攻撃で外殻に傷一つ付かずとも()()()と思わされるほどの猛攻を受けたバロンダルクは、絶対の自信を持っていた己の外殻の防御力をほんの少しでも疑うことになってしまった屈辱とそこから来る激しい怒りによって、あたりの空や大地を震わせるほどの怒号を響かせながらその口吻を、大きさに対して驚異的な速度で目の前の敵対者へ突き出してきた。

 

 ヒカリはそれに対して避ける素振りも見せずに、綺麗に揃えた両足を前に向ける。

 

 

「飛んで火に入るなんとやらってね。煌燠(こうおう)星穿道(せいせんどう)!!」

 

 

 そして背後に二枚を重ねた魔法陣を四つ作り出し、遠目からでも目が眩むような爆炎を噴射し音速の壁を力任せに突破するほどの勢いで、バロンダルクの攻撃を正面から迎え打った。

 

 大きな衝撃波と轟音が地上にまで響き渡り、四つの足で踏ん張るバロンダルクの足下で大地に裂傷が生まれ、徐々に広がるそれは底の見えない谷間を作り出していった。

 

 ヒカリの攻撃は足裏から放出する魔力を高速で回転させて威力を増したことで、相手側から向かってくる力を分散させつつ接触面に対して多大な損傷を与えるようになっている。

 強大な力を互いにぶつけ合う衝突の中、ヒカリは自分の足の骨が(きし)み始める感覚を覚えたが、圧倒的な硬さと今や鋭利な先端でさえ広い壁のように巨大な口吻にも、ほんの少しづつ(ひび)が入っていくのが見えてきた。

 

『なッ、なんだとォ……!? あ……ありえねェェ!! こんなちッぽけな生き物にィィィィィ!!』

 

「ハァァァァァァァ!!」

 ※

 《おお!》

 《いけるぞ!殺ってしまえ!》

 《なんかこの子フィジカル強すぎん?w》

 《おそらく中国拳法の仕業だ》

 

 初めは拮抗(きっこう)していたこの衝突も、技術の差という嘘偽りなく戦士としての”格”を表すそれによって明確に優劣が見え始める。

 その事実を理解できてしまったが故に、バロンダルクは精神的な支柱が崩れ余計に力を発揮できなくなってしまう。

 そんなものも己の能力であれば覆せるはずだと、究極膨張によってさらに身体を大きくしていくが、何をしても外殻に刻まれた傷は消えず、どれだけ巨大化しようともそれは失ったプライドの隙間を覆い隠そうとする虚しい逃避にしかならなかった。

 

 そうして口吻に入ったヒビが根元にまで達したという時、ヒカリは地上からこちらへ一直線に何かが飛んでくるのを察知した。

 

 

 

「––––––––雷成(かみな)らし!!!」

 

 

 

 飛行魔術を使わず()()()()()ここまで跳躍してきたオウガは、両手に持つ二つの金棒を交差させるように構え、全身の筋肉を振り絞って渾身の一撃をバロンダルクの口吻に叩き込んだ。

 

『ぐゥごあァァァァァァァ!!?』

 

 ただでさえ壊れかけるほどの力を掛け続けられていたところに、凄まじい膂力(りょりょく)による攻撃を受けたその外殻は、まるで戦士としての誇りを打ち砕かれたバロンダルクの心情を表すかのように完全に破壊されてしまった。

 

「思い知ったか、これが人間の力じゃ!!」

 ※

 《おおおお!?》

 《なんかきたーーー》

 《さっきのデカすぎエルフやんけ》

 《つっっっよ》

 《ほんまに人間か?》

 

 決定的な一撃を決めたオウガは得意げな笑みを浮かべて苦しみ悶えるバロンダルクを見やる。

 それを見届けたヒカリは彼の体に魔術の光を纏わせた。

 

「ぬお!?」

「あんたもなかなかやるじゃない。ま、あとは私に任せなさい」

 

 それを引っ張るようにしてオウガを背後の街並みに向けて飛ばしてしまう。

 

 彼は街に近づくにつれて速度を落としながら、彼の子分たちのいる中央広場に降ろされた。

 

「あら、お父さま!」

「なんや親父、いつのまにそないに空飛ぶん上手くなったんや?」

「……やかましぃ」

 

 

 オウガを街まで飛ばしたヒカリは未だに痛みに悶えるバロンダルクへ向き直る。

 どうやらこの異形は絶対的な防御力を誇る鎧に身を守られていたせいか、戦士としてなくてはならない苦痛や恐怖を乗り越えるための強さを持ち合わせていなかったようだ。

 

「さぁて、ここからはいつまでやれば終わるかって感じだけど……もういい加減にしてほしいのよね! こっちはメリィの歌を聴きに来てるだけだっていうのに、なんでこんな時にわざわざあんた達の相手なんてしなくちゃいけないのかしら!」

 ※

 《草》

 《それはそう》

 《プンプンかわいい》

 《そういえばよく考えたら最悪のタイミングで草》

 《これさすがに中止か?》

 《まだ気合いでなんとかなる》

 

 エラヴロをはじめ自分たちの元々の目的であるメリャンコラの公演が下手をすれば取りやめになる可能性があるとなれば、その元凶である侵略者たちに不満をぶつけることになるのは当然の心境だろう。

 

『おッ、おまえは……いッたい、なんなんだァァァ……!!』

 

「はあ……御山光纚(みやまひかり)。この世界の全てを守る人類の代表……といったところかしら? 以後ヨロシク」

 

 その名乗りは目の前の異形というより、バロンダルク等を介して起こっているこの出来事を観測しているのだろう上位存在に向けてのものだった。

 

 それを最後にヒカリは純粋な魔力の放出によって異形の巨大な身体を押し出し、傷の痛みもあり踏ん張ることができないバロンダルクはそのまま見事に地に背をつけることになった。

 

「今すぐ手っ取り早く終わらせるには……っと?」

 

 できる限り勝負を急ぎたいヒカリがこの大物を可能なだけ早く仕留める方法を考え始めた時、彼女の心身に魔術的な干渉と共になにやら自分のものとは違う誰かの感情が流れ込んできた。

 

 

 

『––––––––皆んなで心を合わせて……()に希望を託して……私達の想いが、どんな困難も乗り越える大きな力になるから––––––––』

 

 

 

 そんな声が聞こえてきたわけではなかった。

 しかしヒカリは確かに聴いた。それは己の心の内側から溢れ出てきた情感の震えによって生まれた声だった。

 

 その魔術の出所を探れば発されているのはアーユグラの中央部、伝わってくる魔力と感情からその正体をすぐに察したヒカリは、決意を胸に笑みを浮かべて街に向かって飛んでいく。

 

 

 

「な、なんスかこの気持ち!? 頭の中でモヤモヤしてた不安が吹き飛ぶくらいでっかい感情が湧いてきたっス!」

「私もだよラブちゃん! 勇気と希望、それとズバッと一直線に走るとっても一途な愛がギュイーンっと伝わってきちゃった!」

 

「これは……そこの嬢ちゃんの魔術か、どうもド派手なこと企んでるみたいやなぁ」

 

 

 それは祈るように両手を組んで目を(つむ)るイズナの魔術によるものだった。

 血筋にも理論にも由来しない、彼女自身の生まれついての素質を形にしたような魔術。

 

 ––––“伝わる”魔法、”伝える”魔術––––。

 

 イズナが抱く感情や思考が彼女を中心に人から人へ、隣の人の手を取る繋がり合いを連綿(れんめん)と繰り返すように伝播(でんぱ)していくそれは、ついに一千万を超えるアーユグラの住人全員の心を一つにするという偉業を成し遂げていた。

 

 そんなとてつもない所業をやってみせたイズナが皆に求めることは、遠くに見える強大な敵を打ち倒すため、乾坤一擲(けんこんいってき)の最終攻撃を準備するアダムの元へすべての人々の魔力を始め、勇気や希望、愛などの彼が力へと換えることができるあらゆる概念を集めさせることだった。

 

 そうしてイズナの魔術によって本能的に状況を理解した住人達は空へ手を掲げ、先述の感情と自分たちが保有する魔力の半分ほどがアダムの魔術によって集められていった。

 

 

「(……来た! 本格的に使うのが初めてだったからわからなかったが、想定を大きく超える総量だ……! 威力としては十分過ぎる、しかし俺一人では制御が……!)」

 

 

 空高くに上昇した彼が振り上げる剣へと集っていく光を放つ魔力は、彼自身が計算していた課題点を超過するほどに集まっていた。

 だがアダムはその魔力があまりにも多過ぎたが故に、嵐のように荒れ狂う力の集積を上手く操ることができずにいた。

 

 このまま攻撃をしたところで解放された力は四方八方に分散し、理論上出せるはずの威力の半分のダメージも敵に対して与えることはできないだろう。

 

 それを避けるためには魔力を放出する方向を絞るために集まったすべての力を完全に制御する必要がある。

 だが周囲の人々に影響を与える関係上そう易々(やすやす)と使っていい魔術ではないこともあり、彼は自分の魔術のこういった使い方についてほとんど訓練を積むことができなかった。

 

 故に未熟。幼い頃彼が父親から聞かされた代々に渡って受け継がれてきた血脈に刻まれた歴史、その象徴たる秘剣を扱う資格を自分は未だ持っていないのかという焦燥と迷いのせいかさらに力の収束は解けていくと思われたが…。

 

 

 

「へぇ、いつの間にか面白そうなことしてるじゃない」

「っ……!」

 

 

 

 目を閉じて集中しようとしていた時、突然聞こえてきた声に顔を上げると、手を伸ばせば触れられるほどの距離に身体を浮かせるヒカリが面白そうな表情を浮かべて剣を持つアダムの手に触れていた。

 

「ここまで頑張った私を差し置いて最後に美味しいところを持っていくつもり? だーめ、私も一枚噛ませなさい」

 ※

 《きたーーー》

 《なんかパイセン光り散らしてない?》

 《必殺技の時間って感じじゃない?》

 《声えっっっ》

 《江戸時代定期》

 

 彼女はアダムが返答を口にする暇も与えず、素早く背後に回り込むとその差に自分の体を重ね合わせ、剣を持つ彼の手の上から自らの手を重ねて握りしめた。

 

 それからすぐに彼が行使する魔術に変化が訪れる。

 集められた莫大な魔力が今にも逃げていこうかというところが、突然その動きが緩慢(かんまん)かつ滑らかで一体感のある統率の取れた流れとなり、アダムの剣へと収束されていく。

 

 彼はその変化を感じて、それが今身体を重ねている彼女の仕業なのだと瞬時に悟った。

 

「ほんとに面白い魔術ね……こんなに強力な技は今の私にはまだ使えないわ。それでこそ私の運命」

「(これは……この僅かな間に俺の魔術の性質と理論を把握したのか……さらに外部から補助する形でこれほど強大な魔力をこうも容易(たやす)く制御している……魔法に触れて一月も経っていない今これほどとは、人間離れした素質……)」

 

 自分の魔術の中で行われている行動であるため否が応でもその技術の高度さを理解せざるを得ない。

 なにより本来魔法という概念が存在しないはずの異色な世界からやってきた人間にしては、ただ才能という言葉で片付けてはいけない何らかの違和感を彼に覚えさせたようだった。

 

「もうだいぶ減っちゃってるけど、残ってる私の魔力も注ぎ込んでおいたわ。せっかくなら最高に最強な一撃で決着をつけましょうか!」

「……ああ……いくぞ!」

 

 しかしそんな畏怖(いふ)に近い感情も、ピタリと重ねられた手や身体から伝わってくる純然たる愛と勇気の前に、凍り付き固まった心が解きほぐされるように霧散していく。

 アダムは改めて胸に刻んだ仲間への信頼を燃料に身体中へ活力を巡らせ、守るべき人々の営みを背に、打ち倒すべき強大な敵を迷いなく見据えた。

 

 

 

『ち……ぢくじョう……!! おれが、こ……こんなことにィィィ……!!』

 

 

 

 そして広大な平原の上で倒れるバロンダルクは、外殻を打ち破られたショックと重傷を負わされた激痛によって既にほとんど心が折れた状態だった。

 

『て、撤退だ……! 帰還する! おれを、回収しろォォ……!!』

 

 だが時間さえ経てば外殻は復活する。力も磨き直して必ず逆襲するチャンスは巡ってくるはず。

 そんな小賢しい計算の上で異形は外界への撤退を選択する。

 倒れた自分のちょうど真上に位置する空高くに存在する漆黒のメビウスの帯という形状の穴に向けて声を張り上げるバロンダルクだが、その穴はそこから異形の敗北を悟り見限ったかのように少しづつ消えていく。

 

『お、おいィ……!! 待で! おいてぐな!! おれも連れでいげェェェ!! おォォォォォいィ!!』

 

 必死に呼び(すが)るも穴は無常にパッと消えてしまい、バロンダルクは失意のどん底に堕ちようとしていたが、最後の最後に戦士としての意地を振り絞り、触腕で強引に身体を起こしてアーユグラに向かって突進を始めた。

 

『ぐゥがァァァァァァァァァ!!!』

 

 

 

「……秘剣––––––––」

 

 

 

 しかしそんな異形の悲壮を知ることもなく、アダムとヒカリの二人が持つ剣に宿る人々の想いと力の結晶である秘剣は完成した。

 

 あまりにも大き過ぎる力を手にしている状態とは裏腹に不思議と冷静さを保つ心を奮わせて、アダムはその秘剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 

すべての生(オムニハート)命の名の下に捧ぐ光(・ヴェル・セイヴァー)ァァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 前へ向けられた剣身から爆発のように放出された魔力は、陽の光をも塗り潰す巨大な力となってバロンダルクのいる方向へ突き進んでいく。

 

 

『……ぎひっ––––』

 

 

 雲を()くほどの自らの巨体をも呑み込むような膨大な魔力を前に、バロンダルクの己の武力に置いていた絶対的な信頼は、その力が身体に達するよりも先に今度こそ粉々に砕け散ってしまった。

 

 そうして目の前に迫る死に抗う気力も失った哀れな異形は、ちっぽけな生き物と思っていた人間たちが心を一つにして作り上げた大いなる秘剣の光に呑み込まれていった。

 

 

 

『––––サガボディスさま!! 闇の父祖さまァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

 

 

 異形の立っていた地表、その背後に広がる平原、さらにその向こう側に(そび)える山々すら消し飛ばしながら遥か遠くまで破壊の限りを尽くす魔砲。

 イズナの魔術によって集められた人々の魔力が底を尽きてそれが消えた頃には、バロンダルクという名の生物が存在した痕跡は欠片のひとつも残らず、その一撃のあまりの威力を示す、簡単に消えることはないだろう破壊痕が大地へと刻まれた景色だけが広がっていた。

 

 

 

「あらら、ちょっとだけやりすぎちゃったかしら?」

「……そうらしい、な……」

 ※

 《えぇ……》

 《すげええええ!!》

 《環境破壊しすぎで草w》

 《こいつは威力がありすぎる!()》

 《うっかりさんでかわいいです》

 《↑無敵か?》

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