聖灰のヘクスター 〜これはある日出逢った二人がいつか神様になるまでの物語〜 作:気安田レイジ
『マジプラ!』
『ヒカリさーん! マジプラって知ってますかー?』
「あら、どんなお店なの?」
『これは万能ストアとネットカフェが一体になっちゃったまったく新しい店舗形態、”ストカフェ”っていうんですよー!』
「ストカフェ! 初めて見たわ!」
『全てのお部屋が鍵付完全個室で、なんと最大72時間も利用が可能!』
「長い! まるでホテルね!」
『ここの凄いところは、なんとすべてのお部屋に備え付けられたこの”マジックボックス”を使って、最初から最後まで部屋の中だけで完結するお買い物ができちゃうところ!』
「部屋の中で買い物? 通販とかじゃなくて?」
『実はお部屋のパソコンから注文した商品は、なんとすぐにこのマジックボックスの中から配達されちゃうんです!』
「本当に!? まるで魔法みたいだわ!」
『購入できる商品は
「ラインナップが充実してる! 思わず食べすぎちゃいそう!」
『そしてご利用中の商品の購入費用はチェックアウト時にまとめてお支払い! 現金・カード・電子決済の全てに対応しています!』
「わかりやすくて利用の敷居も低いわね!」
『マジプラは現在関東地区を中心に店舗を展開しており、最終的に全都道府県への展開を予定しております! おひとり様からご家族までぜひご利用ください!』
「私も行ってみたい!」
『マジックプラスカフェ。マジプラ!』
「んー……これリアクションがオーバー気味だったかしら?」
「これくらいちょっと大袈裟なくらいのほうがいいんじゃないかな」
「違う人みたいな喋り方……こわ……」
「にしても部屋に居たまま好きな食いもんをいくらでも買えるとはな。地球の技術はマジでおもしれぇ! 俺サマもいつか作ってやるぜ!」
※
《いいじゃん》
《CMっぽい演技うますぎで草》
《なんか謎のサービスあるけど何?》
《ほんとに地球の技術ですか?》
《イズっち怯えてて草》
「……いや、ちょっと待て……半日ほど出掛けていただけのはずなんだが、いったい何が起きているのか説明してくれ」
それはヒカリらがアーユグラから帰還して数日のこと。
ナツィラの店内でアダムが困惑の声を上げる。
その原因は彼の目の前で一箇所に集まったヒカリたちが、空中に浮かび上がるように現れる画面から再生される映像にあった。
ドゥナダスの北側近郊に出現した魔獣を討伐してきた帰りの彼にとって見知らぬ場所で見知らぬ女性がヒカリと話しながら謎の施設を紹介するという謎の光景は、一瞬理解を放棄して関わらないでおこうかという迷いが頭に
「あらアダム。あなたも見る? 父さんの会社が最近新しく始めた事業の宣伝に協力することになってね。さっき
「それはいいんだが、事業の宣伝なんてことをどうして君がやらなければならないんだ」
「父さんとしては、世界中で今最も注目されてるこの配信を関連付ければ新事業のスタートアップには最高の宣伝効果になるっていうのと、会社のいろんな広告に私が出演すれば今以上の幅広い層にこの配信の名を売ることもできるっていう考えがあるみたいなの」
「な、なるほど……その配信をする目的は世界の破滅に備えて地球の人々の意思を集めることだったな。この妙な演技がそのための助けになると……」
「ってことでこれからは父さんの会社がこの配信を世界に広めてくれるらしいから、この前のヘンテコ広告はもう必要ないらしいわよ」
※
《ノア:もう少しアレで世界中がイラついてるところを楽しみたかったんだけどな。そういうことだから今日から無しになったぞ》
《悪趣味で草》
《やったーーー!》
《邪魔だったけどいざ消えると名残惜しいジレンマ》
《あれ以上のクソ広告見せられる確率下がるから正直ありがたかったんだけどな》
この異世界の様子を映す配信が始まる一週間前から世界中で人々の目に留まってきた文字だけが浮かび上がる広告。
地球の人々がそれに向ける感情は様々だが、その代わりと言えるかどうか、入れ替わるように現れた先の動画がそうなのだとすれば、本気で初めの広告との離別を惜しむ人間はまったくと言っていいほど存在しなかった。
そしてアダムは彼女が積極的に地球側にいる家族と連絡を取っていることを考え、改めてその身が此処とは異なる世界から連れてこられた人間であり、本来この世界に存在するべきではない者なのだということを再認識する。
彼女がこの世界へ導かれた目的を考える限り、
※
《ノア:それにあたって今まで関係者の名前出したりは禁止してたが、さすがにもうほとんど周知の事実みたいなもんだからそっちも解禁でいいだろ。本人も問題ないって言ってたし》
《おお》
《いうてあんま変わらん》
《ノアきゅん変なところでリテラシーしっかりしてるよな》
《まあ普通に誘拐犯扱いされても文句言えない立場だし》
《初期の荒らしへの猛攻撃ガチでおもろかった》
「(預言者ほどの人物がこの世界の中に存在する全ての可能性を知り、それらによって導かれる無数の未来を考察しないはずはない。だとするなら本来ならこの世界は滅びを迎えることしかできない……それで預言者は外界へ救いの可能性を求め、彼女の存在に辿り着いた……俺では、届かないということなのか……?)」
先の一件での自分がどれほど活躍したかを考慮もせず一人で無力感に
それを見るヒカリは彼の心中を具体的に察せられはしないものの、どこか気分が落ちているように見える彼の両頬を手で挟んで強引に意識を向けさせる。
「そうだ! いっそのことアダムもこういうのやってみない?」
「むぐっ……にゃんだって?」
「改めて考えると私以外の人たちも、もっと地球で見てる人たちと積極的に交流すべきだと思ったの! あくまでも地球側からお邪魔してる立場の私ばっかり目立つよりずっとこの世界について知ってもらう機会が増えるでしょ? 知ることは共感に繋がるし、共感はつまり感情移入で、配信の目的を達成するのにはちょうどいいじゃない!」
「待ってくれ……交流をすること自体はともかく、さっきのような演技を俺にもやれと……?」
「だいじょーぶ! 最初は簡単なものから始めて少しづついろんなものに挑戦していけばいいから!」
「なぜやる前提で話を進める?」
※
《いいね》
《かしこい》
《パイセンアイドルになれ》
ヒカリの口からスラスラと出てくる説得の言葉は、アダムとしても不本意ながら理屈の通った話ではあった。
簡単に話を聞く限り彼女が元いた世界は、魔法や神性のような超常的な現象とはほぼ関わりがない程度には穏やかな世界らしい。
そんな地に住む人々がこれまでの常識を覆すような未知の存在を受け入れることは簡単ではないことは理解できる。
なぜか初めの時点でやたらと既存の知識に当てはまる世界であるかのように触れ合ってくる
ともかくそんな全く別の世界に生きる人々へ心からの共感を求めるには、まずこちら側の世界の文化を知ってもらい、そしてここが海を越えて辿り着く場所と同じような”隣り合わせの世界”であるように受け入れてもらうことが重要なのだ。
そんな大いなる橋渡しの役割を与えられた少女が望むのなら、地球の人々とより深く交流をしようというのもやぶさかな気分ではない……のだが、それによってやることが先に見た映像のような奇妙な芝居ごとだというのならその気勢も多少は削がれるというものだろう。
「まあまあヒカリちゃん。無愛想でお堅い雰囲気のアダムに宣伝活動を任せるのはまだ時期尚早じゃないかな? こういったものならしばらくはボクが付き合うから勘弁してあげておくれ」
「仕方ないわねー」
「俺サマお手製の発明品共も見せてやろうか!
「それは話がややこしくなるからまだだめ」
※
《ちっ》
《それはやめとけ》
《絶対ろくなことにならないぞ》
《USAだけなら問題ないだろ ジャックソンとの対談いつ?》
《↑いいわけねぇだろアメ公wwwww》
《現状日本より優先的に異世界と接触できる国ないやろ》
《日本が独占しようとしたら嬉々として攻めてきそうな国はいくつかあるけどね》
「(なるほど、人間が生態系の頂点に君臨して長い世界……当然そんな世界の人間にとって
アトリエルは視聴者たちの言動だけである程度地球側の文明が持つ正と負、両側面の特徴を理解し始めていた。
地球の人類はこちらのように魔獣という存在に脅かされてはいない。数ある国々の間が強大な敵や過酷な自然環境によってほぼ分断されてはいない状態だというではないか。
そんな世界では絶えず人間同士の争いが絶えず続く国もあれば、他国から見て不思議に思えるほど平和な、ヒカリの住むニホンという国もあったりするらしい。
そして各国は他国のどんなに些細な振る舞いでさえも目ざとく監視しており、もしニホンだけが一足早く異世界の技術輸入を始めるようなことがあれば、下手をすれば過激な国からの武力介入すらあり得るのではないかというところまでアトリエルの思考は至っていた。
とはいってもそれは彼女の頭の中だけでの話。
そんな彼女の考えを知る由もなく、アダムは今思い出したというように懐から数枚の書類を取り出して口を開いた。
「そういえば、ギルドにまた指名の依頼が届いていたぞ」
「あら、また私をご指名なの?」
「それが俺とアトリエルも含めた三人全員への指名なんだ。ノトホッスという港街から来ている」
「おや、国内とはいえわざわざ
「依頼人は”レミュディア漁業組合”の名義だな。内容は……
「へぇ、なんだか面白そうじゃない。もちろん断る理由はないわよね?」
「……そうだな」
※
《海だ》
《魚はいるのね》
《究極ってなんだ?》
《ラーメンじゃね》
《牛丼でしかない》
《TKGでFA》
今回も彼女たちの元に巡ってきた仕事は少しばかり妙な目的を持つ人間によるものらしい。
ヒカリとしてはその方が嬉しかった。ただ淡々と魔獣を倒せば終わりといったシンプルな仕事は、この世界での傭兵としての生活を始めたばかりの彼女にとってとてもつまらないものだ。
どうせなら方々を駆け回り様々な人々と触れ合い、世界中のあらゆる未知を味わい尽くしたいというのが今の彼女の最大の楽しみだった。
「期日は特に指定されてはいないが……出発は三日後にしよう。ノトホッスまで馬車で二日と少し、いつまでかかる仕事になるかわからないから、ギルドには無期限の外出として届け出ておく」
「そういえば、この三人が一斉に出かけるとドゥナダスが手薄になっちゃうんじゃない?」
「街に魔獣が乗り込んでくるといった事態はそう滅多に起こらないはずではあるが……念の為そこはヴァハヴァーゾに連絡を取る。あそこには
「”国境防衛線”の腕利きになら一人でも街を任せられそうだね」
「じゃあ私たちは特に
「そんなに大それた言い草になるような料理なら俺サマも興味あるぜ! 俺も同行して構わねぇよな!」
「もちろん! イズナもどうかしら?」
「私は……正直お荷物、じゃないですかね……」
「何言ってるの! そんなことより大事なのは私達みんなで究極の料理を食べることよ! だから一緒に行きましょう!」
「そ、そうですか……わかりました」
「では各自長期外泊の準備等をしたら三日後に馬車でノトホッスに向かうぞ。この人数なら二台用意するか……」