紫煙の射手   作:社亜種


原作:ブルーアーカイブ
タグ:オリ主
銃火器が基本装備のキヴォトスで、弓矢を使う変わり者。
ヤニカス、サボり魔とダメ人間の要素を抱えた一般幹部風紀委員のお話

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紫煙の射手

 火を灯す。

 

「……ふー………」

 

 ゆっくりと吸い込んだ毒の煙を空へと吐き出して、五煙草(ごたばこ)エンラは屋上の手すりへと身体を預けて眼下を見下ろした。

 紺色のブレザーに赤いネクタイ。チェック柄のズボン。学生である筈の彼の右手の指の間には、その身分では手を出してはいけない毒物(火のついたタバコ)が挟まれていた。

 彼の傍ら。鉄格子の手すりへと立て掛けられているのは、黒い特殊カーボン製の弓。弦は既に張られており、直ぐに扱える。

 唇で摘まむように吸い口を咥え、ゆっくりと煙を吸い込む。

 吐き出された紫煙。同時に、彼のくすんだ金髪が風に揺れた。

 

『――――エンラ』

 

 不意に、彼の右耳に付けられたイヤホンから声が聞こえる。

 

『対象がルートに入りました。180秒後、射線に通ります』

「はいよー」

 

 気の抜ける返事と共に、彼は傍らに立て掛けた弓を手に取った。

 軽く弦を引いて張り具合を確認し、左手に。反対に空いた右手は腰の後ろへと回された。

 提げられていたのは、矢筒。そこから抜き出すのは黒い一本の矢。

 半身になり、スタンスを取って弦へと矢を番え、引き絞る。

 半月の様であった弓は、満月の様な形となって不吉な軋みを上げていた。

 細められる鷹の目。褐色のその瞳が捉えるのは、遥か先の道路。

 

「…………」

 

 口に咥えられた煙草からくゆりと紫煙が立ち込めて、鷹の目が対象を捉えた。

 風、対象の速度、タイミング。全てが一瞬の間に揃えられ、放たれる一矢。

 空を切り裂き、羽による僅かな螺旋回転を刻みながら鏃は一直線に突き進み、対象である車両のボンネットを、その内側の納められたエンジンを正確に射貫いた。

 心臓部が破壊されて、急速に力を失う車両。

 程なくして止まり、乗っていた者達が転げ出てその眉間へと一人一本ずつ矢が的中。

 

「はーい、状況終了ー。お疲れ様ー」

 

 仕事は終わった。エンラはそう言わんばかりに弓を下すと軽くジャブをするようにして左手を動かした。

 すると、ピンと張られた弦が一気に巻き取られて収納され、更に弓自体も上下それぞれ二つ折りとなり元の大きさの半分ほどに折りたたまれた。

 小さくなった弓を矢筒の上部に固定して、エンラは改めて口に咥えた煙草を指で挟んで取ると煙を吐き出した。

 ゲヘナ学園、風紀委員会所属の二年生。煙のように掴み処の無い、変わり者(喫煙者)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青い空に紫煙()を吐く。

 

「良い天気だねぇ」

 

 火のついた煙草を咥えて、エンラは一人屋上に寝転がっていた。

 自由と混沌に塗りつぶされたゲヘナ学園。真面目に授業を受ける者も居るには居るが、大多数は己の欲求のままに暴れ回るチンピラばかり。

 エンラは後者。面倒くさがりの彼は、よくサボっては屋上で寝転がっていた。因みに雨が降ったら手近な空き教室に入り浸っている。

 そんなエンラだが、彼の立ち位置は本来治安維持側だ。

 ただ、その理由は高尚なものではない。単に、追われる側と追う側でどちらが良いのか天秤にかけただけ。

 目を閉じて、組んだ両手を枕に風を感じる。

 そんな彼の閉じた視界に影が差した。

 

「…………ん?」

「イイ()()分ですね、エンラ?」

「よぉー、行政官。何か用事か?」

「用事か?じゃありません!!全く!連絡が取れないからと、態々探しに来てみればまた煙草ですか!?」

「へっへ、いやーヤニカスなもんでね」

「とにかく!仕事なんですから、速くしてください!」

「えぇー?スナイパーなら、銀鏡が居るじゃん。俺、今日、お休み」

「ダ・メ・で・す!!ヒナ委員長のご指名なんですから!」

「あだっ!ちょ、脇腹蹴るのは反則……」

 

 行政官という事務メインでありながら、中々の威力と鋭さの蹴りを受けて渋々上体を起こしたエンラ。

 天雨アコ。ゲヘナ風紀委員会の行政官であり、事務方のトップ。組織のナンバー2でもある。

 そんなアコは、のっそりと立ち上がった背中をジッと見ていた。

 

 くすんだ金髪に、その上に揺れる白い煙が円を描いたようなヘイロー。比較的長身なアコよりも、更に頭一つは大きな上背と、服の上からも分かる相応の体格。

 銃も扱えるが好んで弓矢という前時代的な武器を使う変わり者。

 何より、校則違反者(喫煙者)だった。

 

 三分の二が燃え尽きた煙草を腰の左前に提げた小型携帯灰皿にねじ込んで、エンラは腰の右側へと手を伸ばした。

 そこに提げられているのは、掌に収まる程度の円筒形のケース。ワンタッチでふたが開かれ、顔を覗かせるのは数十本の煙草の束。

 一本取り出し蓋を閉めて、口に咥えて火をつける。

 耐衝撃、防水、防火、防塵の特別性煙草ケース。態々、ミレニアムサイエンススクールの方で依頼して造ってもらった代物。

 紫煙を燻らせるエンラ。そんな彼にアコのジト目が刺さる。

 

「よくもまあ、堂々と(風紀委員)の前で煙草を吸えますね」

「へっへ、俺もその一員だぜ?」

「貴方に実力が無ければ、直ぐにでも首にして牢屋に放り込んでます。それと、余り近付かないように。ニオイが付きますから」

「へいへい」

 

 颯爽と踵を返して歩き出すアコ。その背を追って、若干猫背になりながらついていくエンラ。

 割と、ゲヘナではよく見られる光景だ。迎えに来る人間が違うだけで。

 

「そういや、今日はどんな山なんだ?俺、要らなくね?」

「温泉開発部と美食研究会、それから便利屋がそれぞれと、後は不良がチラホラ」

「いつも通りじゃねぇか……え、やっぱり要らないだろ」

「ヒナ委員長の負担を減らす為です。そもそも、エンラ。貴方も幹部の一人なんですから働いてください」

「はいはい……」

 

 咥えた煙草をぷらぷら揺らして、エンラは目を淀ませる。

 彼としては、幹部などといった高い地位は無用の長物。平の一般隊員として適当に時間を潰せればそれで良かったのだ。

 それがいつの間にやら幹部の一人。主に、現場での後方支援を担当する事になった。

 テロリスト(問題児)側へと寝返ってやろうかと考えたことも一度や二度ではない。それでも彼が風紀委員に籍を置き続けるのは偏に、

 

「――――やっと来たわね」

「よぉ、お嬢」

 

 この風紀委員長を放っておけないからだろうか。

 空崎ヒナ。豊かな白い髪に、小柄な体格。立派な角と悪魔の翼が印象的などちらかといえば儚い印象を与える少女だ。

 その肩書は風紀委員長にして、ゲヘナ最強。彼女一人でゲヘナの治安を半分は担っているとまことしやかに囁かれる始末。

 事実、彼女が居なければゲヘナの治安は自由と混沌から戦国時代へとクラスチェンジを起こす事だろう。

 補足をすると、五煙草エンラは空崎ヒナに対する恋愛感情を持っている訳ではない。彼の好みは、もっと垂涎物のプロポーションの持ち主であるので。

 彼女を見捨てられないのは、死人のような顔色で仕事をしている姿を見た事があったから。

 ヤニカスでサボり魔のエンラではあるが、それでも一定の善性は持ち合わせている。少なくとも、死人のような土気色の顔色で働く姿など見ていたくない。

 アコがヒナの斜め後ろへと控えて、エンラも適当な場所へ――――

 

「お前はこっちだ」

 

 行こうとすると、褐色の銀髪ツインテールの少女に引っ張られた。

 銀鏡イオリ。風紀委員会の特攻隊長であり、常に最前線を駆け抜ける。

 

「ほら、コレ」

「お?はいどーも」

 

 イオリに渡されるのは、弓とそれから矢筒。

 それらを受け取って腰の後ろに提げたエンラは、咥えていた煙草を携帯灰皿へとねじ込んだ。

 

「全員揃ったわね。それじゃあ、アコ」

「はい、委員長。対象は、主に三つ。最も数の多い温泉開発部には委員長自らお願いします。続いて、給食部を拉致した美食研究会には、イオリ。貴女と、それから機動隊を編成。車で逃げ切られる前に確保を。こちらでも検問を張りますから、そちらへと誘導を御願いします。そして、エンラ。貴方には、便利屋を抑えてもらいます。隊員が必要なら、その都度応援要請を」

 

 てきぱきと指示を飛ばすアコ。その姿は、行政官としての出来る女、という様子。

 もっとも、彼女もしばらく前はもっとヒステリーで且つ狂信者のような有様だったのだが、今は置いておこう。

 副官の指示を聞き、ヒナは前を向く。

 

「それじゃあ、各員行動開始。連絡は密にお願いね」

 

 彼女の言葉と共に、各員一斉に動き出す。

 

 これぞゲヘナ風紀委員会の日常だった。


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