追放された心当たりがありすぎるので、元凶の召喚獣とのんびり旅をします。   作:セパさん

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不気味で美しい僕の召喚獣

「君にはこのパーティーを抜けてもらいたい。」

 

 時は東西戦争真っただ中、東王国オリハルオンが魔王の手に墜ち、西大陸の諸国は連携し魔軍の侵攻を防ぎ、魔王の討伐を画策していた。中でも西王国イライズより選抜された勇者を筆頭とした魔術師・神官・召喚術師のパーティー。固い絆で結ばれたはずの4人に亀裂が入っていた。

 

 パーティーの離脱というこれ以上ない勧告を受けても召喚術師である栗色の髪をした少年、シオン=セレベックスは不満げに唇を尖らせ、リーダーである勇者を睨みつけているだけだ。

 

「……不満そうな顔をしているね。確かに先日の金色竜王3体との戦闘で勝利できたのは君の、より正確に言えば君の召喚獣の功績が大きい。」

 

「…………」

 

 うふふふふふふふふ

 

 緊迫した空間に、まるで鈴を転がしたような可憐で、そしてどこか不気味さを(はら)んだ笑い声が木霊する。

 

「だが金色竜王を混乱させるだけに留まらず、僕やウィーサやアデラまで混乱させて被害を悪戯に大きくさせたことに対し何か弁明はあるかね?」

 

「いや、そりゃ……。ないですけど……。」

 

「それだけじゃない。ステレイン王国で謁見をした際、ディアナ内親王陛下に幼児退行の呪いをかけ、解呪のため神官を総動員させたのだぞ!僕らでなければ死罪になっていたところだ!」

 

「あれはなんていうか……。マリーが暴走して……。なんかその、僕に色目を使ったのが気に入らないと言ってました。」

 

「挙句、昨日賭場で幻術を使いイカサマの容疑で今の今牢獄から出てきた君を、僕たちはどんな顔で迎え入れろというんだ。」

 

「最近出費がかさんで……。一発当てたかった……みたいなんですよね。欲しい装備もあったし。」

 

「正直に言わせてもらう!もう限界なんだよ!君の召喚獣……マリーに振り回されるのは!」

 

 勇者はシオンの後ろにいる、長身と豊かな胸を覆う桃色のドレスに、流れる宝石のような銀髪。……そして顔そのものを桃色のベールで隠した不気味な女性を思いっきり睨みつけた。

 

『 あなたたちは 大きな戦力を失う それでも構わなくて? 』

 

 マリーと呼ばれたおおよそ不気味な女性は直接脳内に響き渡るような声色で勇者に語り掛ける。

 

「それは何度も天秤にかけたさ!だが、このパーティーは新たな召喚術師を迎え入れ、再出発をする。魔王討伐のためとはいえ、君の力はあまりにも危険すぎる。」

 

『 二言はない? 』

 

「くどい!!」

 

「そう……ですよねぇ。今までお世話になりました。わたくし、シオン=セレベックスはこのパーティを離脱します。」

 

 シオンは大きくため息をつき、その後舌打ちをした。

 

 

 ●

 

 

 魔王群の脅威から最も近い西王国要塞都市エレア。魔軍の襲来に備え強固な城壁に囲まれており、住民の姿は少なく、軍に所属する兵士、腕自慢の冒険者といった面々が目立つ。明日の命に保証がないため、刹那的な快楽を求めるは人の(さが)か、賭場や酒場、娼館といった店立ち並んでいる。

 

 そこにおおよそ似合わぬ(よわい)12~3、整っているが精悍(せいかん)というよりもかわいらしい顔立ちをした少年と、桃色のドレスを身にまとった女性が並んで歩いていた。

 

 

「あーあ、いよいよ無職になっちゃたよマリー。」

 

 うふふふふふふふ

 

「なにが可笑しいんだよ。」

 

『 これで 主とわたしは二人きり 』

 

「……気持ち悪い。」

 

『 照れてる主も かわいい 』

 

「全然照れてない。……路銀は兎に角、昨日とっつかまるまでカジノで集めた(イカサマした)ものが、あれ?思ったより没収されてる、金貨で5枚くらいしかないや。いや~、36分の1を100回引き続けるのは流石にやりすぎたね。」

 

 シオンがマジックアイテムの一つであり、見た目よりも大きな荷物の入る小袋を探っていると、何やら壁のようなものにぶつかった。

 

「おっと!」

 

「ああん?」

 

「ああ、ごめんごめん。よそ見してたや、じゃ!」

 

「待ちなよ。人様にぶつかっておいて……。」

 

「うわ、(やから)か、お願い見逃して!君たちのためなんだ!」

 

「おいおい、こいつ今噂になってる勇者のパーティーを追放されたっていう召喚術師じゃねーか?」

 

「ははは!ざまぁねえな!今は娼婦引き連れて、傷心旅行かい。」

 

「……娼婦?」

 

「横にいる女だよ!流石金もってんなぁ!少し分けてくれよ。」

 

「……気が変わった。もうお前らなんてどうでもいいや。」

 

「ああ?……ぁ?」

 

 胸板の厚い荒くれの男たちが見たのは陽炎(かげろう)のように赤いオーラを(まと)わせ、麗しいい銀髪を逆立てている顔をベールで覆った女性だった。声を出そうにも声帯が痙攣し、逃げ出そうにもまるで魔獣に睨みつけられたかのように足が(すく)んで動けない。

 

『 おまえたちは 主を侮辱した 』

 

「ついでにマリーも侮辱されてるよ。」

 

『 そんなことはどうだっていい 』

 

「僕は結構どうでもよくないけど。」

 

『 恐慌幻視 不安性侵入思考 施行 』

 

「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 街そのものを(つんざ)くような絶叫が響いた。ごろつきの二人は腕をスピーディーに振るい、そのすべてが空を切る。そして絶叫は声帯が耐えかねたかのようにか細い蚊の鳴くような痙攣に代わり、汗は滝に打たれたかのように諾々(だくだく)と流れて止まらず、遂には失禁し、身体の穴という穴から分泌物と体液を垂れ流している。

 

「あーあー、聞こえますかー?」

 

 シオンの言葉にごろつきたちの反応はなく、眼球は上天し、瞳孔は拡大と収縮を繰り返していた。

 

「ねー。どうするのこれ?」

 

『 死ぬようにはしていない そのうち収まるでしょう 』

 

「そっか、ならいいや。じゃーねー。」

 

 シオンは今まさに地獄の渦中にいるごろつきたちに手を振りそのまま街を歩き始めた。町の皆も、警邏(けいら)(たまわ)った衛兵さえもあまりの異常事態に、その光景をただ茫然とみつめるしかなかった。

 

「これからどうしようか~。西の平和な街に戻るか、東に行って未知なる冒険を楽しむか。」

 

『 この街に家を構えて暮らしてもいい ここは居心地がいい 』

 

「正直さ、パーティーを追い出されたのはしょうがないと思ってるよ?でもね、悔しい気持ちがないわけではないんだ。マリーの実力を認めてるのに追い出すなんて理不尽だよ。」

 

『 わたしは構わない 』

 

「そこでさ……」

 

『 ? 』

 

「……僕らだけで魔王様をぶっ飛ばすなんてもの面白いと思うんだよね。」

 

 シオンは悪戯っ気たっぷりにマリーへ笑いかけた。

 

 うふふふふふふふ

 

「やめてマリー!抱き着くな!てか抱っこするな!」

 

『 照れて可愛い 』

 

「照れてない!」

 

 

 ●

 

 

 要塞都市エレアでも有数の宿泊施設、そこには精悍な顔立ちと隆々とした筋骨を持つ勇者ラルフと魔導士ウィーサ、神官のアデラが神妙な面持ちで椅子に座り円卓を囲んでいた。

 

「……そっか、シオン君いなくなっちゃたのか。」

 

「無断で決断したことは悪かったと思っている。だが、君たちを〝離脱会議〟なんていう危険に巻き込むわけにはいかなかったんだ。」

 

「あんな神の(ことわり)に反する魔物にも劣る存在など、このパーティーから消えて当然です!」

 

「前にシオン君の追放について会議したとき、マリーさんひどかったもんねぇ。アデラなんて服を脱ぎだしちゃってそりゃあもう……」

 

「思い出させないでください!」

 

 神官アデラは今生の不覚を悔いるように頭を搔きむしった。以前もこのパーティーではシオンの追放を会議したことがあったのだが、激怒したマリーが全員に状態異常をかけ、とくに【泥酔】の呪いをかけられたアデラは神をも恐れぬそれはもうひどい醜態を呈していた。

 

「そういうことでしばらくはこの要塞都市で新たな仲間を募る。このままでは後衛の回復と補助魔法はウィーサとアデラでいいとして、前衛の攻撃はわたしだけになる。」

 

「あれ?それいままでと一緒じゃない?」

 

「いやシオンの役割を考えれば……なんだったんだアレ?」

 

「敵が混乱しているか睡眠で動けない隙に我々が仕留める、魔法を扱う相手ならば沈黙させ詠唱の隙を与えない、敵の危機感地を麻痺させ狂戦士(バーサーカー)にさせこちらが討つ。最初はそのように立ち回っていたはずですが……。」

 

「なんか段々さぁ、マリーさんが敵を狂い殺しているのにわたしたちが巻き込まれている感じになったよねぇ。」

 

 皆が一様に沈黙する。あいつの代わりなんて見当たらないだろうと……。

 

「コホン、このまま3人で進むというのも手だが、やはり新たな仲間は欲しい。とくにウィーサは後衛に回らなくても前衛で攻撃魔法を駆使できる。召喚術師は便利であるが、レンジャーや回復魔法に長けた魔術師が仲間に欲しいところだ。」

 

「しかし我々のレベルに合わせるとなると、しばらく旅は停滞しますね。」

 

「仕方がない。すべては使命のため。悪しき魔軍から人類を守護するためだ。」

 

「では広告を作成し、公募しましょう。」

 

 重い空気を断ち切るように、神官アデラは席を立った。

 

 

 ●

 

 

『 強制催眠措置 施行 』

 

 鬱蒼(うっそう)と樹々が茂る森の中、竜を(かたど)った石造たちが光り輝く魔法陣の四つ角に並べられており、魔法陣の中央には宝箱が設置してあった。

 

「こうなるとガーゴイルもただの石造だね。」

 

 シオンは袋から金槌を取り出し、ガーゴイルを粉々に壊して回った。要塞都市を出発し、東へ向かったシオンとマリーは、宝箱と魔法陣を発見し、早速お宝を拝借することにした。

 

「よし!一丁あがり!さて、中身は……っと。ん?」

 

 確かにそれは宝であった、だが奇妙な代物でまるで焼き菓子を強引に二つへ割ったような形をしており、聖画のように女性が誰かに手を差し伸べている刻印が刻まれている。

 

「エレアに戻って売ろうか?でも東大陸で魔族たちが前線基地にしている要塞都市ももう少しなんだよなぁ。」

 

『 魔族たちの街へ行くならば 魔族たちの使う貨幣を手にするべき 売るならば手伝う 』

 

「そうだよねぇ。」

 

〝止まれ、人間よ。〟

 

 森の中から突如として重低音が響き渡る。途端、人間の10倍はあろうかという漆黒の武装をした巨人兵がどこからともなく舞い降りてきた。

 

〝その聖盤は竜族が人間と契りを結んだ古来より伝わる聖遺物。現四天王クリスティーン様が人間との決別のため封印したものである。〟

 

〝竜族に非ざるものが易々(やすやす)と手に取ってよいものではない。もし持ち去るというのであれば命を覚悟してもらう〟

 

「……だって、よくわかんないけど、お金にはならなさそうだ。でも四天王の一人が人間と決別ねぇ。なんか訳ありっぽいね。重要になるかも知れないからとっておこうか。」

 

 シオンは虚無に向かって話しかける巨人兵を無視し歩を進める。マリーの幻術に掛かった巨人兵はシオンとマリーが去った後も、脅しと聖盤にまつわる話を滔々(とうとう)と語り続けていた。

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