追放された心当たりがありすぎるので、元凶の召喚獣とのんびり旅をします。   作:セパさん

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死にたがりと死神

 東王国オリハルオン跡地に建設された魔族の前衛基地、要塞都市ラミス。魔族と人間との違いは【魔】の付く通り、魔族は人に非ざる魔物の力が宿る。ある者は竜族の強力な牙を、ある者は大蛇の毒をもった尻尾を、あるものは見たものを石化させる魔眼を……。そんな身体能力で遥かに人間族に勝る魔族が何故優勢を保てずにいるかというと、人間族と比べ、統率の取りにくさがひとつにある。

 

 個で遥かに優位ではあるが、それゆえに【集】となることが難しく、人間のように隊列を組んだ上意下達の攻防が難しい。2つ目に装備の問題がある。鎧よりも固い鱗を誇る魔族がいる一方で、蝙蝠並みの防御力しか持たない魔族もおり、これまた統一した武具・防具の作成が難しい。また魔法や魔力を武具に秘める技術は人間族の方が優れており、苦戦を強いられている要因だ。

 

 そして第3、これが一番深刻なのだが、魔族の気性にある。人間は危機に瀕した際その団結力たるや国と国が一つにまとまってしまうほどだ。まして共通の敵がいるとなれば、自らの命を捨てることも辞さない。

 

 だが魔族はそうではない。確かに魔族を統べる魔王はおり、その配下には主君の命令を絶対視するものもいるが、人間と比べ、あまりにも自分の実力を過信するふしがあり、心の何処かで〝人間ごとき〟と考えている魔族も少なくない。

 

 そうした【個】の強さが裏目に出た結果、魔族は東大陸の制圧こそ果たしたが、南大陸を攻めあぐねている。これは魔王にとって頭痛の種であり、同時に人間族を脅威に思う要因であった。

 

 

「…24の黒です。シオン様・ジーノ様・ミラン様・ユキ様・タナド様36倍付けです。おめでとうございます。」

 

 

「…24の黒です。シオン様・ジーノ様・ミラン様・ユキ様・タナド様36倍付けです。おめでとうございます。」

 

「……24の黒です。シオン様・ジーノ様・ミラン様・ユキ様・タナド様36倍付けです。おめでとうございます。」

 

「………24の黒です。シオン様・ジーノ様・ミラン様・ユキ様・タナド様36倍付けです。おめでとうございます。」

 

「…………24の黒です。シオン様・ジーノ様・ミラン様・ユキ様・タナド様36倍付けです。おめでとうございます。」

 

「……………に、24の黒です。シオン様・ジーノ様・ミラン様・ユキ様・タナド様36倍付けです。おめでとうございます。」

 

 シオンはマリーの幻術で魔族の姿に擬態し(どうやら一角獣の角が生えただけでしかないらしいが)、マリーはそのままでも十分魔族として通用しそうなのでそのままの姿で東大陸要塞都市へと入城した。どうやら明日なき兵士が刹那的な快楽を望むのは人間も魔族も変わらないらしく、カジノ・酒場・娼館が立ち並んでいるのは変わらず、シオンは軍資金集めのため、カジノでマリーの幻術(イカサマ)を使い、ルーレットでやりたい放題をやっていた。(途中で不思議に思ったのか便乗した客も大勝している)

 

「いや~、こんなに勝てるなんて本当にいい夜だ!」

 

 卓は高額を現すチップが山積みになっており、途中管理人のチェックも入ったがバレることはなかった。そろそろ潮時だろうと、換金を終え、要塞都市でも一番の宿に泊まる。

 

「魔族と疎通をとる首輪かぁ、これを持ってただけ、あのパーティーにいた甲斐があったってものだね。」

 

『 …… 』

 

「マリー、どうしたの?」

 

「やはりあなたは人間だったのね。何か不思議な気配がするのだもの」

 

 突然聞こえた声にシオンは臨戦態勢に入る。袋から短刀を取り出し、気配を探るが……

 

「残念、後ろ。」

 

「……!この!」

 

 しかしシオンの一閃は空を切り、黒いローブを羽織った女性がいた。

 

「マリー!」

 

『 敵意はない そして強い 様子を見る 』

 

 シオンは血の気が引く音を覚えた。マリーが相手を強いと認める敵を初めて見たからだ。敵軍の前線基地をあまりにも甘く見すぎただろうか。そんな後悔の念さえ湧いてくる。

 

「賭場ではありがとう。わたしも大儲け出来たわ。あれはディーラーに〝24の黒〟にボールを入れるよう強迫観念を与える呪いかしら?熟練のディーラーならばルーレットの球を自在に操れるもの、こうも鮮やかな呪いはみたことがない。あなたは何者かしら?銀髪のお嬢さん?」

 

『 …… 』

 

「まぁ沈黙するでしょうね。あなたは人間でも魔族でもない。ましてや魔物でもなければ、天使や悪魔の類とも違う。ふん、興味がそそられるけれど、詮索はしないわ。」

 

「お前こそ何者だ!僕らの命を取りに来たというなら……。」

 

「ああ、申し遅れたわね。わたしはタナド、死神よ。」

 

「し、死神?」

 

「そう、だから魔族ではないの。ただの旅人。……今はね。」

 

「何か含みのある言い方だな。」

 

「実はあなたたちの実力を見込んでお願いがあるの。わたしは命の番人として冥界より派遣された。とある人物の魂を刈り取るために。」

 

「それが、僕?」

 

「早とちりしないで、わたしが命ぜられたのはラミスの第一王子ガルド親王陛下。」

 

「それと僕らに何の関係が?」

 

「人間にも寿命があるように、魔族にも寿命があるの。死神といっても無暗やたらに命を刈り取る訳ではないわ。寿命が尽きたその瞬間、冥府へその魂を送り届ける存在、それがわたしなの。平々凡々とした世界ならば何の問題も無いのだけれど、急にこんな戦争が始まったでしょう?この度第一王子が王位継承の儀式と魔族への鼓舞のため前線で指揮をとることになったの。暗殺者が相手というならば護ってあげられるけれど、無数の矢玉に斃れることまでは避けられない。力不足だわ。」

 

「魔軍の攻勢……。人間の僕にそれを伝えてどうするつもりだ。人間側に情報が漏れればその第一王子様が死ぬ確率は高まるだけだぞ。」

 

「とても前線になんていけない状態にして欲しいのよ。精神が崩壊しようと、寿命がそのままならばわたしは構わないのですから。」

 

 何ともまぁ厄介な相手に魅入られたものだ。シオンは同情すると同時にどこか第一王子に親近感が湧いた。

 

 

 ●

 

「ああ、夜が明けてしまったか。」

 

 私は脊筋(せすじ)の凍る思いで(たもと)から(キナガシなる人間族の衣装で、気に入って着ている)催眠薬を瓶から取り出し錠菓(ラムネ)のように咀嚼した。そして煙草を一服という頃には、緋の絨毯に一定間隔で吊るされた魔法の光を放つシャンデリアという独り者には似合わぬ絢爛豪華な部屋が目に映る。

 

「〝(うる)わしくも(おそろ)しきは浮世なれ〟……とはよく言ったものであるが、(うつつ)の世のどこが美しいものか。」

 

 また死に損ねた。自分は小さい時から、実にしばしば、幸せ者だと他者に言われてきたが、自分ではいつも地獄の思いで生きてきた。魔族でも有力な貴族の第一子として生を受け、武人気質の父より受け継いだ岩を手づかみで粉砕する竜の腕を同じく授かり武術を習わされ育った。8歳で武術の指南役を秀でた頃より、自分を疑って生きてきた。

 

――本当に自分のやりたいことは、何なのか?――

 

 ただ連綿と受け継がれる魔族の営みに従って他者を蹴落とし蹂躙し、貴族位を継承し、豪華な食事をとり胸の大きな女性を(はべ)らせることが幸せなのか?

 

 わからない何もわかっていない。未知とはそのまま恐怖に直結する。自分の幸福と、世に生きる全ての者との幸福とに齟齬(そご)がある不安。いつしか武術の鍛錬も辞め、自室に引きこもることが多くなっていた。強力な催眠魔法が掛かった薬を過剰摂取し始めたのもそのころだ。転げまわり、嗚咽し、発狂しかけたこともある。

 

 そんなわたしに一縷の望みが握られたのは、父が何の気まぐれか土産に手帳と筆を買ってきた時だった。わたしは絶望の丈を文章に綴った。情熱の噴出するがままに、一心不乱に筆を振るった。そして出来上がったのは素人芸にも満たない駄文であったが、わたしの心から戦慄は消えて、まるで海の上を(すべ)っていく暗雲を見送るよう晴れ晴れとした気持ちを覚えた。

 

 わたしはそれから、自分の心情以外にも風景、他人の心情描写、幻想物語を綴るようになった。しかしその生活も長くは続かなかった。父上に将来について話したとき、わたしは作家になりたいと話した。その時見たものは今まで目にしたことのない憤怒に染まる異形の生物だった。

 

 途端、わたしは家禄を継ぎ武術を極めると父へ騙った。その変化ぶりから半信半疑だったのだろうわたしのもとから手帳と筆は没収された。そこからまた暗雲の日々が始まった。薬の過剰摂取も行った、毒杯も呷った。だがどれも屈強な私の肉体を死に至らしめることはなかった。

 

 そんな折、突如吉報が飛び込んできた。西大陸の先陣を切る一番槍。兵士を鼓舞する王子の必要性を説き、わたしはこの役目を手にした。もちろん人間族とてバカではない。むしろその生存本能と残虐性は称賛に値する。目の前にある首級を無駄にする真似などしないだろう。

 

 ああ、わたしは矢玉に斃れようやく生涯を終えられる。墓石には〝道化師ここに眠る〟と刻んでほしいものだ。

 

「若様、お目覚めですか。今日はすっきりとした顔をなさってますね。」

 

「ああ、最近調子がいいんだ。」

 

 この女性はおつきの女中、名をタナドという。

 

 

 

 

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