追放された心当たりがありすぎるので、元凶の召喚獣とのんびり旅をします。   作:セパさん

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死にたがりと死神 ②

「あの酒・煙草・薬に耽溺(たんでき)した愚息が、一番槍を望むとはな。」

 

 玉座で頬杖をつき不敵に笑うのは、竜族の牙と腕を加護として授かった魔族であり、要塞都市ラミスの管轄を仰せつかっている。魔戦王と讃えられた百戦錬磨の強者ドラゴネス。魔王からの信頼も厚く前線基地の防城を預かり、その磨かれた武術と竜族の爪をもつ手足は数多の侵入者、勇者という名の暗殺者集団を屠ってきた。

 

 だがそんなドラゴネスにも悩みの種はある。一人息子ドラゴネス=ガルドのことだ。自分と同じ竜族の牙と爪を加護として受け取っており、武術の才能も配下に比肩するもの無し。だがその生き様はドラゴネスと大きく異なっていた。童の頃より外で遊ぶよりも、部屋で読書することを好み、磨かれた武芸の腕を振るう機会は極めて少なく、挙句家禄を継ぐ話を出したとき「自分は作家になりたいので部下の誰かにしてくれ」などと(のたま)う始末。

 

 強き者との闘いに生き甲斐を見出すドラゴネスとあまりにも価値観が異なりすぎ、母亡き今、父親としてどのように躾を施してよいものか悪戦苦闘していた。ドラゴネスは優れた武術家故、手合わせした相手のおおよそを把握することができる。息子と手合わせした際に感じたものは〝悪寒〟であり、堕落し破滅することを望んでいるようにも見えた。

 

 その見立ては正しく、息子は煙草と酒に溺れ、催眠作用のある強力な薬を過剰摂取(オーバードーズ)しては日々思索に(ふけ)っている。もはやこの防城のお荷物としかなっていない息子をいっそこの手で始末しようかなんて思考が過ったのも一度や二度ではない。

 

 そんな折、西大陸に対し大規模攻勢を仕掛ける立案がなされ、その大将を決める際、息子から〝自分が大将を務める〟という吉報が飛び出した。父親としてこれほど誇らしいことはない。

 

 どんな心情の変化があったかは知らないが、ようやく自分の愚かさに気が付く契機が訪れたのであろう。ドラゴネスは満面に喜悦の色を浮かべ、酒を一杯呷った。

 

 

 ●

 

 

 死神を名乗るタナドなる女性が去り、僕とマリーは受けた依頼をどうしたものかと悩みあぐねていた。死神から〝取り憑いている相手の命を救ってほしい〟など、聞いたことがない。

 

「いやー、要塞都市の王子様でしょ?僕らにどうしろっていうんだよ。」

 

『 あら 謁見を申し出ればよいのでなくて 』

 

「マリーの力を侮っているわけじゃない。魔戦王だか知らないけれど、そいつをぶっ飛ばすってだけなら僕も悩まないさ。問題はあの死神。……本物なんだろう?」

 

『 間違いなく 』

 

「だいたい取引やお願い事なんて謝礼があってこそだろう。何も言わず去っていくなんて無礼じゃないか。」

 

『 西大陸への大規模攻勢が止まる または〝彼女自身が止める〟 それが報酬のつもりなのでしょう 』

 

「勝手が過ぎるねぇ……。それにしても死神に魅入られた王子様ねぇ、親近感が湧くよ。」

 

 うふふふふふふふ

 

「……はぁ。しょうがない、マリー。一仕事してもらうよ。」

 

『 喜んで 』

 

 

 ●

 

 

「ご主人様、お召し物を失礼いたします。」

 

 わたしの専属使用人(メイド)であるタナドは叮嚀(ていねい)過ぎるくらい繊細に、それでいて迅速にあれよあれよと寝間着姿のわたしを普段着に変えていく。着替えくらいは自分で出来ると云ったこともあるのだが、よほど衝撃(ショック)を受けたのか、丸一日部屋に塞ぎ込んでしまったことがあり、こうして着せ替え人形になるのが日課になっていた。

 

「ありがとうタナド。では、僕は行くよ。」

 

「お供させていただきます。」

 

 本当は一人になりたいのだが……。恐らくタナドは父からわたしの監視も仰せつかっているのだろう。ならば無下にもできない。向かった先は天井の高い白ペンキ塗の天井裏から、薄白い塵埃(ほこり)に覆われた裸の電球が一つブラ下がっているだけの、青黒い混凝土(コンクリート)の壁で囲まれた牢獄のような個室。

 

 だがわたしにとっては〝ドラゴネスの後継者〟として(しつら)えられたあの部屋のほうがよほど牢獄に感じる。燦然と煌めく宝石の類も地獄に堕ちた亡者を見るように、赤や、緑色や、紫色に光って見えて来る。

 

「ご主人様はいつものものを?」

 

「ああ、珈琲にミルクを少し。砂糖はいらない。」

 

 凛と佇立していたタナドは一礼して一度退室し……、事前に準備していたのだろう。わたしの好物である飲み物を用意し、傍に置いた。

 

「ご主人様、此度の西大陸への大規模攻勢。前線で指揮を執ると耳にしましたが……。」

 

「ああ、本当のことだよ。偉大なる父親に追いつくだめ、わたしもそろそろ経験を積まないといけないからね。」

 

「嘘ですね。」

 

「……。なんでかな?」

 

「そこで沈黙しては嘘だと白状しているようなものではありませんか。」

 

「はは……、これは一本取られた。わたしはね、戦場で華々しく散るなんて馬鹿らしいと思っていたのだが、後腐れ無くこの世を去る数少ない方法であることにも同時に気が付いた。」

 

「何故そこまで死を望むのです?怖くはないのですか?」

 

「怖いよ。当然のように恐ろしい。幽瞑(あのよ)が極楽浄土とは思っていないし、確かめる術なんてない。未知とはそのまま恐怖だ。だがね、今まさにわたしは地獄の渦中にいるのだよ。わたしはこの年まで生きて、魔族の営みというものが未だにわからない。わたしを幸せ者と讃える人々のほうが余程安楽に思える。どう生きるのが正解か、わたしは試行錯誤したが五里霧中。ただただ漫然と過ぎていく日々が死ぬよりも恐ろしいんだ。」

 

「……本当、思い通りにならない素敵なお方。」

 

「……?何か言ったかね?」

 

「何でもありません。ご主人様、最早死を望む貴方様を否定いたしません。ですがその前に、会ってほしい人物がいるのです。」

 

「ほぅ、誰かね?」

 

「西大陸の勇者……いえ、その追放者がラミスに潜入しております。恐らくは幻術使いであり、その実力は未だ衛兵に確認されていないことからもかなりのものかと。」

 

「ふむ、興味のある話だね。だがラミスの衛兵でさえ見抜けない幻術をどうして君は見抜いたんだい?」

 

「ご存じのようにわたくしには魔族として看破の魔眼が宿っております、それで……」

 

「嘘だね。」

 

「……。」

 

「そこで沈黙しては嘘と認めるようなものではないか。君がさっき教えてくれたことだね。」

 

「ご主人様に嘘など畏れ多い真似……」

 

「実は常々君に興味が湧いていたんだ。君はあまりにも完璧な使用人(メイド)なのに、父上から監視を頼まれているにしては隙がありすぎる。僕は毎回死を望み、そして叶わない。そんな時皆呆れるか慌てふためく中、君だけは悲しい目をしてくれるんだ。」

 

「主人が自ら命を絶とうとしたのです。悲しまない使用人など何処にいるでしょう。」

 

「僕の世話をする使用人は君だけじゃない。皆〝またか〟といった顔をするものだ。……ほらその瞳だ、父上でさえそんな目を見せてはくれない。君にとって、僕とは何者なんだい?」

 

「この……」

 

「……?」

 

「この!鈍感男!!もういい、丁度いい能力者も見つかった!今すぐこんな仄暗い部屋引きずりだして、死ぬ気なんて一生思えなくしてやる!」

 

「何をするのかね?ちょ、君の何処にこんな力が……。」

 

 異様な光景だ。先ほどまでメイド服姿だったタナドの姿が漆黒の外套(ローブ)を羽織った異形の姿になった。本来であれば禍々しいと思うべきなのであろうが、わたしにはその姿がひどく美しく見えた。

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