追放された心当たりがありすぎるので、元凶の召喚獣とのんびり旅をします。 作:セパさん
魔戦王ドラゴネスが統治する要塞都市ラミス、そこで幻術により魔族の姿となっているシオンは通信の魔石を切った。
「さぁ、ということでラルフのお兄さんを助けに行こうか。それにしてもストーカーさんの存在はマリーから聞いていたけれど、ラルフのお兄さんだったなんてね。マリーは気づいてた?」
『 ええ もちろん 』
「だったら言ってくれればよかったのに。」
シオンはプクっと頬を膨らませて素っ気ない態度をとった。そんな様子にマリーは うふふ と可憐に笑いシオンの髪を優しくなでた。シオンは子ども扱いが気に入らないのか余計に不機嫌となる。
通信魔石の痕跡を辿ると、裏路地で怯え竦んでいる気難しそうな青年が見つかった。
「やぁ、思ったより近くにいたね。シオン=セレベックス。一応召喚術師……?をやってます!よろしくお願いいたします!」
「あまり大声を出さないでくれ。ここは魔族に支配された旧東王国だぞ。衛兵に見つかったらどうするつもりだ。」
「ああ、これこれ。魔族に偽装する腕輪。これを付けていれば大丈夫だよ。」
勇者の兄、ラウン=アムシェルはあまりにも溌剌とした少年の能天気な発言に改めて怪訝な様子を覚える。年の頃およそ12,3であろうか。それにしても弟ラルフの元仲間としてはあまりにも精神年齢が幼い。弟の実力は王の勅命により魔軍討伐の【勇者】として送り出されたほど。
そこいらの胡散臭い冒険者ギルドに登録するゴロツキならまだしも、仮にも【勇者】の仲間となるにはあまりにも色々な能力が拙すぎる。……もっとも、〝いつの間にか仲間になっていた〟彼を分析する上で、より不気味さが増しただけだ。恐らくこの少年に異能はない。あるとすれば
「そちらのお嬢様にも感謝を。わたくし改めまして、勇者ラルフ=アムシエルの兄、ラウン=アムシェル。しがない探偵をしている者だ。」
『 ご丁寧にありがとう 自己紹介の必要はないでしょう? 』
この流れるような銀髪を持ち、顔を桃色のベールで覆った婦人だろう。その声は可憐でありながら、脳に直接響くような異様さを呈しており、魔族に襲われる恐怖とは次元の違う恐怖を植え付ける。後者の発言は、自分が探偵としてこのシオンという少年とマリーなるバケモノについて詳細に調べたという事実を〝知っているぞ〟という牽制だろう。身の毛がよだつ。
「ここで話すのもアレだから宿においでよ。ラルフに勇者を辞めさせたいんだよね。」
「ああ、確かにここでは話せない。場所を移そう。」
相変わらずどこに聞き耳が立っているかなど歯牙にもかけない様子に、内心危うさを覚えながらラウンは宿に招かれた。正直逃げ場のない密室に得体のしれない存在と共にするのは愚行の極みだが、マリーなるバケモノを見ていれば密室も大通りも危険度に大差は無いよう思えた。
「まず君たちの素性を精査していたことについて、非礼を詫びたい。」
「やめてやめて、マリーが怒り出したら困るから謝らないで!」
「いや、怒りがあるとすれば当然だ。そもそも勇者一行を密偵するなど、スパイ容疑を掛けられ首を吊るされても文句は言えないのだから。」
「それもこれもラルフに勇者を辞めさせたいからやったんでしょ?そこまでして死んでほしくないくらいラルフが大事だったんだから仕方ないじゃない。」
仮にもラルフの仲間として……【勇者一行】として旅をしていたとは思えない子供じみた感情論に、ますます怪訝な気持ちを深めていく。自分の思考を混乱させるため、わざとこのように振る舞っているのではないかと邪推してしまう。
「改めて……ラルフに勇者の道を断念させたい。それも五体満足・精神衛生が良好な状態でだ。」
「でも王様の命令だよ?マリー、勇者になって生きて帰ってきたことって今のところ無いんだよね。」
『 そう 東西戦争が始まって20年 【勇者】の称号を持つものは全員が絶命 または 所在不明 』
「ふぅん、手足がもげたり、失明しても?」
『 その程度ならば 勇者御用達の魔導士や神官がなんとでもする 治してしまう 』
「じゃあ死ぬか、自分の意志で辞めてもらうしかない訳だ。僕は多分無理だと思うんだけど、お兄さんはどう思う?」
「弟は使命感が強い。だからこそ勇者なんて下らない称号を手にしたのだろうが、自ら辞退するなど口が裂けても言わないだろう。」
「ふ~ん。因みに僕たちが抜けた後、ラルフたちはどうなっているの?」
「そもそもわたしは君たちが【勇者パーティ】から抜けたことを今日知った。君たちが言うには半月も前だという。しかしわたしにはその記憶がすっぽりと抜け落ちているんだ。そちらにいる……お嬢さんの仕業ではないかとわたしは考えているのだが。」
シオンとラウンの視線がマリーに向く、マリーは うふふ と笑った後、わたしは知らないとばかりにお道化た様子で手を振った。
「知らないって。」
「そうか、ならば仕方がないな。」
はぐらかされたという思いが胸を過るが、シオンはマリーの言動を心から信じている様子だった。
「しかし君たちが持つ能力がこの魔都においてさえ最もデタラメ極まるものであると、わたしは信じている。その力を以てして弟を救ってくれないだろうか。」
「僕はラルフに一泡吹かせてやりたいと思っていた程度なんだけれど、話が面倒になってきたなぁ……。ストーカーしてたことは黙っててあげるからさぁ、この話はなかったことにしてもいい?」
どこまでも子供じみた言い分だが、不思議と怒りも落胆も覚えなかった。悪魔と手を取る覚悟はしていたが、翻弄されるだけならばそれこそ悪魔の術中ではないか。
「……わかった。ではこの要塞都市から脱出する依頼だけでも受けてくれないだろうか?報酬は持ち合わせの魔石から払わせてもらう。」
「それならいいよ。マリーもそれでいい?」
『 その必要はない 』
「……?」
『 だって この男はもう死ぬから 』
「何を……馬鹿なことを。」
『 半月の記憶が無いのは 貴方が禁忌に触れたから わたしは何もしていない 』
「わたしが禁忌に触れたから……。そうだ、わたしは、わたしは……」
脳裏に蘇るのは御伽噺のようなお話。死を恐れぬ故犯した、禁則の地へ足を踏み入れた記憶。
――――妖精は恋をした、毎朝森へ来る少年に
――――妖精は嫉妬した、大人になっていく少年に
――――妖精は迎えに来た、街へ出ていく少年を
――――妖精は願いを叶えた、街へ出たいという少年の
――――妖精たちは激怒した、禁則の地を土足で犯した青年に
――――妖精たちは魔法をかけた、二度とこの地を訪れないように
――――妖精たちは慈悲深い、青年の記憶を消すだけにした
――――妖精たちは用心深い、もう一度妖精と関わるならば命を奪うことにした
「よう、せ……」
ラウンはそのまま地に伏し、二度と呼吸をしなかった。
「ねぇマリー!どうなっているの?」
『 呪いが掛けられていた どのような呪いであるかわからない 』
「……マリーは最初からわかっていたの?」
『 出会った瞬間に理解した でも手遅れだった 』
「ねぇ、このお兄さんはラルフを守りたかっただけなんだよ?禁忌に触れたからって、禁忌って何?」
『 わたしは主に死んでほしくない だから言えない 』
「どうしても?」
『 どうしても 』
「……蘇生させて、故郷に帰してあげようよ。ラルフに関する記憶も全部消して、慎ましく生きられるように。」
『 それは出来ない 理由は何度も話した通り 』
「……禁忌に触れたから。ねぇ、もし僕がその禁忌に触れそうになったなら、マリーはどうする?」
マリーには珍しく、逡巡した後答えた。
『 答えたくない 』