ユウカお姉ちゃんって、ロリコンさんなの?   作:ユウカの太腿に初恋を捧げた者

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妄想話。求。覚悟準備完了を!



1.[When she runs away,]

 早瀬(ハヤセ)ユウカと私の姉は似ていない。共通点は一切ない。瞳、髪、声、背丈、趣向、気質。何一つ同じものはない。

 あえて探すなら、種族的な【ヒト】という点だけ。それでさえも地球とキヴォトスという異世界で、同等だと言えるかどうかは判らない。結論、【早瀬ユウカ】を【姉】と定義する事は間違いなのだ。

 

 ならば、問うべき問題がある。

 目の前にいる少女は誰だ?

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 今更の事で君達にはどうでもよい話かもしれない。こんな一般通過TS転生幼女の言葉なんて無意味でくだらないと思うかもしれない。しかし、それでも、聞いてほしい。

 

 今、私は、追われている。

 

「クッソ! あのガキ、どこ行った!?」

「あんま足早くなかった! ここらにいるのは明らかだ!」

 

 その通り(Exactly)。目の前にいる。路地裏のゴミ箱。その中。カチカチ鳴る歯。ドクドク打つ心臓。恐怖で叫びたい。必死に喉を殺す。臭い、臭い、臭い、生ゴミの臭い。生暖かい空気。吐き気。両手で抑える鼻と口。早く出たい。お風呂に入りたい。

 

 ざっと1年前、私は突然この世界に生えた。

 原因不明。金銭無。衣服無。住居無。幼女全裸案件。

 白髪オッドアイ(左右黄緑)。頭上に水色の四角。四辺から銀色のヒゲ。輝く光輪。所謂天使の輪っか。

【挿絵表示】

 

 廃ビル5階の研究室っぽい所で目が覚め、ウロウロして、これまた休憩室っぽい所の汚れてカビ臭い白カーテンを引き千切って、穴を開け縛って服みたいに着たのが最初の作業。端からボロボロ崩れる。今でも裸足。

 外に出ると廃都市。ロボットかオートマタか知らないが人型の機械。徘徊する凶器。見つかると来た。逃げると追われた。銃を撃ってきた。痛かった。しかし、死ななかった。どうもこの身体はコンクリぶち抜く銃弾くらいでは壊れないらしい。それでも怖かった。走った。

 

 ふらりと意識が現実に戻る。不良どもの足音が近付く。ゴミ箱の前で止まる。

 

「ん? なんかこのゴミ箱、動かなかったか?」

 

 冷水を浴びる気持ち。ピタリと震えが止まる。恐怖が一周回って、動きが静かになる。背筋が凍る。

 

「そうか? 気のせいじゃないのか?」

「いや、確かに動いた気が……」

 

 そう言って不良の一人が、カタッ、と蓋に手を置く。蓋が半ば開けられた。

 そこで第三者の足音。不良の手が止まる。

 

「お前達! あのガキは見つかったか!?」

「リーダー! いえ、まだです!」

 

 蓋が再び閉じられた。話し出す不良3人。先程見た赤髪のリーダーの声。全員ヘルメットを被っていた。

 

「まったく、どこ行った? このままじゃあたし達のバイト代が……」

「店長、万引きにあったら、バイトから天引きっていってましたよね……」

「やっぱり私達も強盗の方がいいんじゃないですか?」

「アホ! それはなしだ! それは最終手段だ! ヴァルキューレから逃げてきたのに、ミレニアムでも騒ぎは起こしたくない」

 

 向こうも事情があるようだ。不良達も好きで不良になっている訳ではない。その事実に心が苦しくなる。私が窃盗を繰り返す事で彼女達に迷惑がかかる。最悪な気分。

 

「……って、どうした? そんな所で突っ立って?」

「いや、その……このゴミ箱が動いた気がして……もしかしたらあのガキかもです。中に隠れているかもしれません」

 

 目を固く閉じた。これはバレる。見つかってしまう。

 リーダーが口を開く。

 

「え。お前、ゴミ箱ん中見んのか? 虫が飛び出てきたらどうするんだよ!?」

「え、いや、でも、ガキだった場合は……」

「あたしは嫌だからな!? ゴミ箱覗くの!? 飛び出てきたのが、ご、ご、ご、……だったらお前達! どう責任取るんだ!? 見るならお前達だけで見ろ!?」

「り、リーダーがそう言うのなら……」

 

 蓋から手が離された。足音が遠ざかる。ゴミ箱の壁に耳を当てる。声が聴こえない。反響音も僅か。蓋を持ち上げ隙間を覗く。右、誰もいない。左、誰もいない。ホッとする。蓋を開けて、臭い、汚い、狭い、落ち着かない、芥溜から這い出る。野菜の切り屑、魚の骨、ぶよぶよした肉片。数日放置された生ゴミ。小蝿が集る。それらを払う。懐に隠していたホットドックを取り出す。

 

 万引き、窃盗、泥棒。身寄りのない私にはこれしか食い扶持を稼ぐ方法を思い付けなかった。

 

 廃都市のロボットから逃げて、人が住んでいる街へと出た。最初に役所みたいな所に行った。対応するロボットに名前を名乗ろうとして頓挫。ここで前世の名前を覚えていない事を知った。焦って逃げて、どうするか検討。冷静になって再び赴いて事情を話したが、「こちらでは対応しておりませんのでお引き取りください」と返ってきた。

 身分を問われない場所で働こうと思った。工事現場へ行った。しかし、「ガキは戦力にならん」「幼すぎて扱いきれない」「せめて身なりを綺麗にしてくれ」とあちこちで言われ追い出された。

 そんなこんなで1ヶ月踏ん張った。公園の飲み水や雑草で飢えを凌いだ。川で身体を洗った。段ボールで寝た。時々、通り過ぎる人に金銭か衣食を求めた。当然無視された。

 そんな中、ホットドック屋の露店。美味しそうな香り。温かい風。花咲く客の笑顔。気がついたら客から盗んでいた。前世含め初の犯罪らしい犯罪。それから済し崩し的に窃盗を働いた。時に追われ、時に捕まり、時に殴られ蹴られ撃たれ、身も心もボロボロになった。それでも続けた。乞食生活も並行して行ったが、窃盗の方がはるかに実入りがよかった。涙が出た。自分の状況よりも罪悪感が減る事、これが一番悲しかった。しかし、死ぬ訳にもいかなかった。

 

 ゆらりと意識が現実に戻る。最近集中力が低下した。朦朧とする事が増えた。そろそろ限界かもしれない。それでも生きなければならない。

 早速と、ホットドックの包装を破く。固い。力を込める。勢い余った。中身が飛び出た。慌ててキャッチ。が、滑り落ちて地面にベチャリ。ソーセージがコロリ。

 拾う。土と泥と砂と埃。それとよくわからない白濁の液体。涙があふれた。

 

『男の子だから、泣きなさんな。生きてたらまた会えるから』

 

 うそ。それでも涙を拭く。ソーセージを拾い砂を払いパンに挟む。意を決して口へ運ぶ。しかし

 

「見つけた! やっぱりだ! これでも喰らいやがれ!」

 

 不良少女のアサルトライフル。地面のゴミが舞う。コンクリに這って迫る銃痕。目の前に広がる弾幕。赤髪少女のショットガン。身体が後ろに飛ぶ。ノックバック。ゴミ箱の中身を蹴散らし転がる。ボロ服が蜂の巣に。ホットドックが粉々に。

 

「あっ!?」

 

 今日の昼飯。127回目の窃盗。こいつらの仕事先から盗んだとはいえ、かなりのショック。銃弾が飛ぶ。当たっても痛みは少ない。前世の節分で豆を思いっ切りぶつけられた程度。この世界の住人は銃弾くらいじゃ死なない。この身体もこの世界の住人と一緒。

 

「コイツ!? 全然効いていないぞ!?」

「撃て! 撃ち続ければ流石に堪えるだろう!」

 

 事実、何度も当たった場所が痛い。赤く腫れ上がっていく。どうして、なんで、私がこんな目にあわなくてはならないのか? ただ、生きて、生きて、生き続けたいだけなのに。絶望とともに、怒りがわいてきた。私はなにも考えずに叫び、少女たちに向かって行った。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 早瀬ユウカは近くのファミレスに寄っていた。お昼時。少しお腹が空いていたが、ウキウキと心が弾んでいた。

 ミレニアムサイエンススクール。そこは科学技術に力を入れた学校自治区。ゲヘナ学園やトリニティ総合学園と肩を並べる影響力。新興の勢力にして、最先端を行く学校。

 そのため、ファミリーレストランもロボットが配膳し、料理をしている。一人だけロボット人間が店番とクレーム対応をするだけ。

 ついでに、ロボットとロボット人間はキヴォトスでは違うものと扱われる。常識。

 

 待ち合わせのファミレスに入ると、こっちだよ、と手を挙げる男の大人がいた。ユウカは笑顔で近付き、対面に座る。

 

「お久し振りです、先生。ミレニアムはどうですか?」

〝うん。凄い所だね。歩道を歩けば掃除ロボットや配送ロボットが行き交うなんて近未来的で感動したよ。SFの世界みたい!〟

「そう言って頂けて幸いです」

 ユウカは微笑んだ。

 目の前の大人は、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの顧問、先生。行方不明の連邦生徒会長が直接指名した大人で、各学園の問題を相談・解決するために働いている。ユウカの情報ではアビドス高等学校の問題をひとまず解決したばかりとか。

 ユウカは先生が赴任されて初めて力を合わせて戦った生徒の一人。不良生徒の制圧で、先生が行う指揮の的確さにユウカは驚いたのであった。

 飲み物だけを頼んで、ユウカは本題を切り出した。

 

「今日はどうして呼んだんですか? 二人だけで話したい事があるとか?」

〝うん。最近、生徒から相談が来ていてね〟

「相談?」

〝何やら万引きを頻繁に行っている生徒がいるらしんだ〟

「万引き? どこからの情報ですか?」

〝うーん……とあるミレニアム生からだね。詳しくは生徒の情報だから教えられないよ〟

 

 子供っぽい所があったり、抜けている所があったりするが、こういった所はしっかりしている。ユウカは失礼ながら思った。

 

「それで、セミナー所属の私を呼んだ理由はなんでしょうか?」

〝うん。万引きが行われている地域がミレニアム自治区なんだ〟

 

 ユウカは渋い顔をした。今更、万引き、とは思わない。確かにキヴォトスでは万引き窃盗は当たり前。日常である。それでもユウカの正義感から逸脱しているのも事実。それが自校管轄地での出来事なら尚更。

 しかし、連邦生徒会長が失踪した事で、ミレニアムサイエンススクールも手一杯になり、端々まで治世が届かない事が多い。仕方ないとはいえ、歯痒い思いをユウカはしていた。

 

「それはミレニアムの問題ですね。先生にご迷惑をお掛けして申し訳ありません。すぐに対応します」

〝いや、まだ話はあってね……〟

「?」

 

 首を傾げるユウカ。先生が続ける。

 

〝その生徒を監視カメラで見つけたんだけど……〟

「え、ハッキングしたんですか? ミレニアムの監視カメラを?」

 

 聞き捨てならない情報だ。ミレニアムの監視カメラはセキュリティが万全だ。民家の監視カメラなら素人ハッカーでも入れるかもしれないが、都市部やコンビニなどの企業カメラはセキュリティが強い。ヴェリタスの副部長・各務(カガミ)チヒロが直接監視しているのだ。彼女からの報告はまだない。彼女に気付かれずハッキングしたという事だ。それは驚異的である。先生が頭を掻く。

 

〝まぁ、そこは大人の力でどうにかしたよ。あまり追求しないでもらえると助かるかな〟

「ま、まぁ、先生の事ですし、信じていますけど……あまり危ない事はしないで下さいね?」

〝善処するよ〟

 

 ユウカは溜息を吐く。先生の困ったような顔を見ると、追求しにくくなる。それが先生の謎な所。ユウカはもやもやした気持ちを抑えてお礼を言う。

 

「万引きした生徒が見つかっているのなら、こちらで捕縛します。情報提供ありがとうございます」

〝いや、捕まえるのは今の所できない。なぜなら、すでに監視カメラの場所を把握されているらしく、最近の映像ではコンビニでの数件しか映っていない。どこにいるかは不明だよ〟

「じゃあ、顔は? どの生徒か分かればこちらもセミナーの力を行使できますが」

〝実はそれが難しくて……〟

 

 ユウカはピンと来た。

 

「もしかして、ミレニアム以外の生徒だった、という事ですか?」

〝正確には、どこ所属かは今でも不明だよ。顔写真がある全ての学校の生徒名簿を調べたけど、一致する顔がなかったんだ〟

 

 また聞き捨てならない台詞。シャーレの権限がどこまでかは知らないが、少なくともセントラルネットワークへ接続しないと生徒名簿を調べられないはず。しかし、ユウカは一旦聞かなかった事にした。

 

「じゃあ、ミレニアムは違いますね。ミレニアムの学生証は顔写真とともに登録しないといけませんから」

〝うん。ついでに、トリニティやゲヘナでもない。本当にどこか不明なんだ〟

 

 それと、とタブレットを操作する先生。そうして画面を見せる。ユウカはタブレットを覗き込む。

 

「この……娘が万引き犯ですか? 小学生くらいですけど……」

〝それに見て。着ているものが酷いよね。破れかぶれを着ている。繕ってすらいない。羽織って巻いてどうにかしている。それに〟

「それに?」

〝上手く説明できないけど、どうも進んで万引きをしているようではない感じなんだ。罪悪感を覚えているような……〟

 

 つまり、とユウカが呟く。先生は頷く。

 

〝彼女を保護した方がいい〟

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 ヤンキーみたいな不良少女から銃を奪った。奪えた。奪ってしまった。

 

「いてぇえ……!?」

「こいつぅ……!?」

 

 倒れて蹲る3人。ただ体当たりしただけで3人共この有り様。本当に特別な事はしていない。我武者羅に何も考えず怒りに任せただけの行動。恥ずべき稚拙さ。

 暴力。窃盗に続いて暴力まで振るった事になる。そうなるとは思わなかった。ただでさえ空腹。身体も弱々しい。力が出ない。よろよろとぶつかっただけ。なのに、弾かれて転んだのは私ではなく、不良娘3人。なぜ、こんな事になっているのだろうか?

 

「そういえば、あの時も……」

 

 廃墟群から抜け出す時、ロボットから逃げる途中、高い所から跳び下りたり、逆に高い所へ跳び乗ったりできた。あの時は逃げるのに必死で考えていなかったが、もしかしたらこの身体は身体能力が高いのだろうか?

 転生特典。よく『小説家になろう』や『ハーメルン』などで扱われる概念。転生時に何かしらの恩恵を貰えるという意味。正確には、自分の事象が転生なのか、憑依なのか、そこら辺はわかっていない。ここでは元の持ち主がいないと考える。そこまで考えると、責任が持てない。この人格の人生を背負う或いは消し去った事実は重い。

 何にしろ今は自分の現状。転生特典。それが超越的な存在から受け渡されたモノか、この体の持ち主から奪ったモノか、もともと隠されていた力が発現したモノか、それともたまたま授かったモノか。色々とパターンがある。その多くで共通するのは、普通ではあり得ない能力が備わっている事。

 

 詰まる所、力があるという事、それが問題である。

 

 ちらりと不良共を見る。ビクリと怯える3人。先程まで私を偉そうに追っていた者共の顔ではない。怪我をした小鳥のように怯えていた。

 前世、学生の頃、思い出すのは、巣から落ちた雛を助けようとして近付いたら、通り過ぎた車に潰された。その瞬間を見た。なぜか、その光景を思い出した。

 

 ゆっくりと震えながらだが、3人は起き上がる。私は油断なく銃を向けた。

 

「ま、待ってくれ! あたし達が悪かった! ここは見逃してくれ!」

 

 命乞い。必死の形相。

 しかし、見当違いだ。悪いのは私。見逃して欲しいのも私。万引きして逃げたのだ。追う者の方が正しい。正当な権利。間違っているのは全て私。

 銃を下ろしかける。チラリと見る。ハッと気が付く。リーダーがこちらに話し掛けている間、もう二人が陰で装弾していた。撃つ気だ。襲う気だ。痛い目に遭わせる気だ。痛いのはもう嫌だ!

 

 私は、引き金を引いた。

 

「いたたたたぁっグハッ!?」

「ちょたんまぁあグハッ!?」

「弾が落ちたぁあグハッ!?」

 

 打ちどころが悪かったのか、3人共気絶。静になる路地。誰も通り過ぎる事もなく、前世なら惨劇となるはずの事件。それが終わった。この世界でなかったら、私は人殺しだ。そう、人を殺したのと変わらない。

 

「……………………………………………………………………………………………………へ、へ、へ」

 

 天啓。そうだ。そうなんだ。この世界では銃を撃っても誰も死なないのだ。前世での犯罪はここでの犯罪ではない。そうでなければ、浮浪者とはいえ私に銃を放つ事はないだろう。

 もちろん全ての犯罪が許される訳ではないだろう。文明社会が構築されている街並み。人々の服装。それでも前世より閾値が低いだろう。

 

 つまり、生きるためなら、銃を撃つのも已むを得ない。

 

 毎回追われた。逃げた。蹴られた。殴られた。銃で撃たれた。怖い思いをした。無抵抗のまま、襲われた。野宿も不安で、落ち着いて過ごせなかった。それが、安心安全に暮らせる可能性が見えてきた。

 それだけではない。万引きや窃盗も好き放題できる。これで衣食が確保できる。衣食足りて礼節を知る。せめて服装がちゃんと綺麗であれば、仕事もさせて貰えるかもしれない。そうすれば金を稼げる。金を稼いだ後で、盗んだ所へ返せば善い。生きるためだ。仕方ないよね。大丈夫。追われても抵抗すれば諦めて帰って行く。果敢に攻めてくるなら、気絶させれば善いだけ。生きるためだ。仕方ないんだ。

 そもそもコンビニで働けるなんて贅沢だ。私なんて戸籍もない。幼い見た目で働かせて貰えない。家もない。水も食料も買えない。服も買えない。ゴミを漁り、残飯を啜り、それもなければ盗む生活。

 

 なんだ? この最低な生き方は? お前達は恵まれているんだよ!?

 

 銃を抱き締める。不良共を見下ろす。動かない。まるで屍。怖くなって確認。息がある。脈もある。安心。

 服を漁る。前世男の良心が傷んだ。しかし、探す。あった。財布。銃弾。手に入ったのは3人分の財布、自動小銃(アサルトライフル)2挺、ショットガン1挺、マガジン1本。財布を覗いたが知らない硬貨。何かしら食えるだろう。おそらく……

 

「これで………………当分は生きられる」

 

 噛み締める。惨めな生活とも今日でお別れ。私は生まれ変わってやる。暴力で脅し、暴力で盗み、暴力で倒す。暴力、暴力

 追われる事、逃げる事、隠れる事もなく、見つけられる恐怖に怯えなくても良い。お金と銃さえあれば生きられる。そう。安心安全な生活が保証されるんだ。

 

 ついでとばかりに服も不良から剥ぎ取った。しかし、ダボダボ。縛ったが動き辛い。結局脱ぎ捨てて今まで通りの服を着る。カーテン服を下着に、ゴミ箱を漁って手に入れた子供服。それらを切って結んで何とか着ている。黒いパーカー。フードを被る。顔を見られてはいけない。監視カメラの存在に怯えるようになった。警察権力があるかどうかはまだ判らない。しかしいるだろう。捕まった方が楽かもしれない。しかし、捕まった後、どうなるかは知らない。やはりこのままではいけない。

 

 暴力と窃盗は生きるためだ。弱者は虐げられるだけ。強くあらねばならない。暴力と窃盗は生き残るためだ。死んでは意味がないんだ。生き残らなければ道は開けない。

 

 呪文のように唱える。「生きるため」。なんて素晴らしい魔法の言葉。それでも今回はどうも快くない。気が付いたら息が荒い。動悸がする。冷や汗もある。暴力と窃盗を正当化するのが怖い。自分が嫌いになる。

 でも、お腹空いた。何か食べたい。寒い。温まりたい。気持ち悪い。お風呂入りたい。寝たい。心安らかに休みたい。

 

 ふと、不良を見た。下着だけの姿で伸びている。私がひん剥いたから下着とヘルメットのみの姿。全裸に近い。春の気候とはいえ、まだ寒い。

 私は3人に元通り服を着せた。そのまま路地裏を出た。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

「保護、ですか…………」

〝何かしら、窃盗を繰り返さないといけない理由があると思うんだ〟

「しかし、ない場合は? 愉快犯である可能性は?」

〝それはない〟

 

 断言する先生。根拠は盗む時に誰にも暴力・暴言を行っていない点を挙げる。ユウカは難しい顔をした。

 

「先生の話は可能性としてわかります。何かしら犯罪に手を染める理由がこの娘にある。その証拠は、服装が汚い所からある程度想像できます。そこらのスケバンでも身綺麗にしますから」

〝うん。それに、彼女の真剣な目から、追い詰められているのも判る〟

 

 しかし、とユウカは黙る。保護と捕縛は違う。捕縛はそのまま学校を調べ、正式な手続きの下、矯正局なりに受け渡す事になる。しかし、保護はこの場合セミナーが万引き少女を世話するという事になる。ただでさえ仕事が多い。負担が大きくなる。他の業務へ支障が出る。それがわかっているのか、先生が頭を下げる。

 

〝保護はシャーレで行う。協力だけしてくれればいいんだ〟

「ですが」

〝今はアビドスの問題が終わったばかり。できたばかりのシャーレに求心力はない。頼れる人が少ないんだ。土地勘のある人がいれば心強い〟

「…………はぁ、わかりました、先生」

〝!? ありがとう、ユウカ!〟

「べ、別に、先生のお手伝いがしたい訳じゃないですから。この生徒はミレニアムで主に活動しているらしいので、セミナーとして黙っている事ができないだけです。勘違いしないで下さいね」

〝はは、わかっているよ〟

 

 ユウカは少し、む、とする。だが、抑える。

 

「そういえば、その生徒を保護する手伝いだけなら電話だけでもよかったのに、何でミレニアムに直接来られたんですか?」

〝先生として、不確定な情報を電波に乗せたくなかったのと、純粋にお願いするのだから直接言いたかったんだ。それとユウカにも会いたかったし〟

「ッ~~!?」

 

 ユウカは頬を噛んだ。自分がノロケ顔を晒しそうになったからだ。先生の事は好ましく思っている。しかし、自分の立ち場と矜持から表に出さなかった。

 

 しかし、それはそれとして、先生に可愛い所は見せたいとも思っている。

 

〝とりあえず、何か頼んでいいよ。お昼でしょ? おごるよ〟

「いいんですか? 確かにお腹が空いていますけど、先生の事だから、散財しているんじゃないかと心配していたんですが…………」

〝そ、そんな事、ないよ?〟

「そうですか? ……今度、お邪魔してもよろしいでしょうか?」

〝……お手柔らかに〟

 

 そういえば、と先生が慌てて話を逸らす。ユウカは余裕そうにメニュー表を開く。

 

〝前におすすめしたゲームはどう?〟

「ああ、あのいかがわしい名前のゲームですね」

〝『クラブ・ふわりん』だよ!?〟

「初見の方は多分いかがわしいと判断すると思います」

〝つまり、やってないんだね?〟

「いえ、やりました。興味深かったですね。特にこの娘は私の心に刺さりました」

 

 そう言って、ユウカはスマホを取り出して、画面を開く。ゲームのチーム編成状態を示す。

 

「……こういった表現はあまり好きではないんですが、一目惚れ、ですね」

 

 画面の中のリーダーを指すユウカ。銀髪オッドアイ(左右黄緑)の少女がいた。編成にいた娘はどの娘も年齢が低い見た目。待ち受け画面に戻ると、一目惚れと言ったその娘が画面一杯にユウカの名前を呼んでくる。

 ユウカはうっとり。先生が一言。

 

〝ユウカって、ロリコンなの?〟

「違います!?」

 

 注文した飲み物が来た。珈琲。白い湯気が渦を巻き、深いブラウンの飲み物と調和している。落ち着かせるようにユウカは珈琲を飲む。

 確かに先生の言う通り、小さい娘が好きなのだろう。しかし、ロリコンではない。ゲーム開発部とか後輩とか色々幼い見た目の娘をついつい甘やかしてしまいそうになるが、正常な範囲だろう。そもそも小さい娘を嫌う者は基本的にいない。あえて嫌いだと言うのは何かしら拗らせている。

 ユウカは頭の中でそのような言い訳を述べた。

 カップをソーサーに置く。先生がメニューを見ている間、ユウカは窓の外を見る。お昼休憩の生徒が談笑しながら惣菜パンなどを頬張り通り過ぎていく。平和な光景。

 そこで銃声が聴こえた。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 路地裏を出た。最初に目に付いたのはコンビニ。近くにファミリーレストランもあるが、盗むならコンビニ一択。そもそもファミレスはこの汚い格好で入ろうとすれば門前払いだ。

 服の下に銃を隠す。落ちないように千切れかけのベルトで縛る。そのまま入店。いらっしゃいませ~、との声に萎縮。店員さんと目が合う。金髪で空色の瞳をした少女。私の格好を見て、驚いている。無視して、商品棚の奥へ。他の店員も客もいない。

 

 ホットドックがあった。前世から好んでいた。コンビニのホットドック。ここらでも一番安く腹が膨れる商品。私は迷わず3つ掴みカウンターへ。

 

「…………これ、下さい」

「…………へ? あ、はい…………294円となります」

 

 円だった。日本円だ。しかし、硬貨は見た事がない柄だった。おそらく未来の日本なのか、日本に近い文明の異世界なのだろう。そう言えば、商品にも『円』と書いていた。なぜ気付かなかった?

 不良から奪った財布1つをひっくり返す。チャリンチャリン。……少ない。変な沈黙が訪れる。もう1つひっくり返す。チャリンチャリン。……足りない。居た堪れない。最後のをひっくり返す。チャリンチャリン。……合計で97円。当然足りなかった。

 

「…………えっと?」

 

 スッと銃を向けた。店員さんはスッと両手を挙げた。手慣れている。やはりこの世界は窃盗が常識なのだろう。

 

「ごごめ、…………いや、私、……いや俺はな、手持ちがこれだけしかなくてな…………」

「えっと、つまり、ホットドック1つにする、という事でしょうか?」

「いや、1つでも1円足りない」

「……ホントですね……あははは………………」

 

 おでこの広い目の前の娘は目をグルグルさせる。気が弱いのだろうか? 手慣れていた割には、冷静さが足りない。気の毒に思ってしまう。申し訳ない。しかし、こちらも生きるためだ。仕方ない。

 焦る。早くしないと人が来る。折角人がいないタイミング。銃口をズラし後ろの商品棚を撃つ。連射になっており、予想以上の物音に驚く。

 

「ひゃうぅっ!?」

「ひゃうぅっ!? ……っ!? ささささささささぁあさっとしろ!? そ、それ! そこの商品!? その商品にその袋を詰めろ!? それと、つつつつつつつついでに、レジの金!? 金入れろ! ありったけの金を掻き集めろ!?」

 

 吃った。誤魔化す。手当たり次第に発砲。カウンター奥の商品棚もグチャグチャ。私の頭もグチャグチャ。

 銀行強盗ってこんな感じなのかな? この後何すればいいんだ? もっと何かした方がいいのか? そもそもこれって銀行強盗なのか? ここ、コンビニだぞ?

 とりあえず、銃撃を止める。店員さんは恐怖で蹲っている。罪悪感。それでもこちらも必死。早くしろ、とカウンターを撃つ、余計に萎縮。ひぃと頭を抱えた。

 どうする? 何する? 自分でホットドックと金を入れるべきか? いや、金はこの際どうでも良い。今必要なのはホットドック。いや、どうなんだ? ええいっ! 頭が回らん!?

 と悩んでいると、入店を知らせる特徴的なBGM。今この時に関して言えば間抜けな音。

 

「そこ! 大人しくしなさい!」

 

 大声の警告。横を見る。すると、すみれ色の少女がいた。

 

 ツーサイドアップの長髪。同色の瞳に赤い瞳孔が開いている。ブレザータイプの黒制服。水色のネクタイ。白ジャケットに名札。腰には白ベルトとマガジン。サブマシンガンを2挺構えている。

 

「聞いてる? 武器を下ろしなさい! さもないと撃つわよ!」

 

 姉に似ていた。面影が重なる。

 いや、見た目は全然似ていない。容姿や姿形、何もかも違う。なのに既視感。懐かしさ。寂寥感。涙が出る。なぜ姉と雰囲気が似ている少女に今出会ってしまったのだろうか? よりにもよって犯罪者姿を晒す事になったのだろうか? なんでだろうか?

 姉との類似点を自然と探してしまう。しかし、結局見つからない。見つからない事で、ゆったりと現実に戻される。

 他の客が来てしまった。それも正義感のある人。銃口を向けてきている。何か対策を考えないといけない。最悪戦闘。嫌だ。

 

「お姉t……お嬢ちゃん、下ろすのはそっちだよ?」

「年下の娘に『お嬢ちゃん』呼びされたのは初めてね」

 

 確かに背が低い。小学生くらいか。胸もぺちゃんこ。痩せ細っている。幼い容姿。ロリコン歓喜。だが

 

「こっちは、20歳だ」

「あら? 年上だったのね。ごめんなさい」

「別に」

「でも、20歳にもなって犯罪に手を染めるなんて、常識が欠如しているのね?」

「…………この世には悪い奴らばかりだ。わt……俺だけじゃない。他の奴らだってしている事。俺だけじゃない」

「だからって、して善い訳じゃないわ。そもそもデータ的に考えて、人口から犯罪者数を引いた数の方が多いわ」

「…………うるさいなぁ。じゃあ、あなたんんあんたは飢えて死にそうな奴に盗みは駄目だからと言って飢えさせるのかよ!?」

 

 少女と向かい合う。銃を向ける。互いに撃たない。一瞬の間の後、真剣な声で少女が言う。

 

「誰も飢えさせないわ」

「つまり、盗んでも善い訳だ」

「盗ませないわ」

「矛盾しているよ」

「矛盾してはいないわ。だって」

 

 すみれ色の少女が笑った。不覚にもドキリとした。

 

「私は困っている人の力になりたいから、セミナーに入ったの」

〝ユウカ!〟

 

 男の声。視線をずらす。大人が店員さんを避難させていた。ハッと少女を見る。時間稼ぎか!? 少女が引き金を引く。

 

 2挺のサブマシンガンが火を噴く。顔面以外に着弾。痛い! 躱すように転がる。すぐにフロアの商品棚に隠れる。少女もまた大人の指示で陰に隠れる。

 服を捲った。赤くなっている。数発でこの威力。今までとどんな違いがあるのか? 武器の威力? それとも特殊な力が宿っている? それは今どうでも良い。必要なのは、今までで一番強い威力だという事実。何発まで耐えられるか不明。

 ビンビン危機感が鳴り響く。逃げるべきだ。

 

 商品棚の隙間からフロアを見渡す。コンビニの入口は少女がいる方向。敵に身を晒さなければならない。バックヤードはこちら側だが、裏口があるか不明。トイレは入口側の上に小窓しかないだろう。どこをとってもリスク。

 商品棚から飛び出る。アサルトライフルをフルオートで連射。突撃。しかし

 

「痛!?」

 

 脛に銃弾がヒット。思わず止まる。そこにサブマシンガンの弾幕。撤退。もう一度商品棚の陰へ。逆に迫る少女。一つこちらの商品棚へ。隙間から銃撃。商品棚が倒壊。私は後ろの商品棚へ。

 強行突破は不可。ならバックヤード。一か八か。勝機はゼロではない。しかし、今度は少女が突撃。バックヤードがあるカウンターを背に弾幕。痛い! 私は後退。銃弾を適当にばら撒く。飲み物置き場で行き止まり。商品棚を背にペットボトル陳列棚を睨む。

 

「さぁ、降参しなさい!」

「だ、誰がするか!?」

「でも、弾はないでしょ? さっきから撃ってないし」

 

 その通りで、アサルトライフル2挺の弾が尽きた。引き金を引いてもガチャガチャとしか鳴らない。ショットガンは使っていなかったが、弾が最初から1発しかない。ほぼ詰み。全くのお荷物状態。

 仕方ない。肉弾戦に持ち込む。自身の身体能力を信じ活路を見出す。

 

 物陰から飛び出す。弾幕が飛んで来る。痛い! 我慢。ショットガンを背中から取り出す。少女が驚いた顔。隠していた事に焦りが見える。そのまま狙いを定めて1発。商品棚が破裂。少女が弾き飛ばされる。ノックバック成功!

 

「クッ!?」

〝ユウカ!?〟

 

 弾幕が止む。今! 走る。迫る。少女はすぐさま立ち上がる。私は商品を蹴った。ホットドック。滑って少女の足下へ。少女が踏み潰す。転ぶ。私は飛び掛かる。仰向けに馬乗り。両腕を膝で抑える。これで撃てないはず。少女は身動きが取れない。私はショットガンを掲げる。銃弾はない。これで殴るしかない。

 

 そう、殴れ。殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ。

 

 殴り続ければ勝利だ! 気絶するまで殴れ! 殴れ! 顔が赤く腫れ上がるまで殴れ! 赦しを請うても殴れ! 目を赤く泣き腫らしても殴れ! 殴れ! 女だからと油断するな! 手心を加えるな! 先に撃ってきたのはこいつだ! 意識を刈り取るまで殴り続けろ! ここで殺らなければ殺られる! 生きなければならない! 生きるためだ! 死にたくない! もう永遠の別れは嫌だ! お腹が空いた! 惨めは嫌だ! 早く殴れ!?

 

 

 

 しかし、できなかった。

 

 

 

「なんで…………」

 

 不良共の意識は奪えた。やはり銃でやらなければ抵抗感があるのだろうか? 少女のサブマシンガンに手を伸ばす。乱暴に奪う。少女に照準。引き金に手を置く。おでこに銃口を押し付ける。

 しかし、撃てない。指が固い。撃てない。震える。……やはり撃てない。撃てなかった。

 

 少女がソロッと目を開ける。やはり姉に面影が重なった。肉付きが良い少女と痩せ細った姉。明らかに違う、それなのに目の前の少女が姉に思えて仕方がない。

 少女の頬に水滴が落ちた。

 

「あなた…………」

「…………なんでする。あんで邪魔すんだよ。……放っておいえよ」

 

 いつの間にか目が滲んでいた。涙が止め処なく溢れる。

 

「わ、私だってしあくないよ。こんあこと……ででも、しないと、生きあれない。もう死いたくない。死にたくないよ……。生きてお姉ちゃんに会いたい。嫌だよ……でもさ、助けを呼んでも、誰も助けてくれなくてさ、みみんあ敵に見えて、さ。どうしようもなくて……どうすればよかったの?」

 

 少女は目をパチクリさせる。私は目を擦る。しかし、涙は止まらない。両手で抑える。サブマシンガンが滑って落ちる、ガタンと音。どうしようもない。戦意が完全に燃え尽きた。

 

 少女が手を挙げる、ビクッと震えてしまう。しかし、頭に置かれた手は温かかった。優しい手つき。柔らかい手で、なでてくれた。

 

「安心して。大丈夫よ。ここにあなたの敵はいないわ。死ぬ事はない」

 

 我慢できなかった。私は少女にしがみついて、哭いた。大泣きした。大の大人がみっともなく泣くが、姿形は子供のそれ。ただ、何も考えずに泣く。

 そのまま、意識がなくなるまで、少女の胸を借りた。

 




閲覧、ありがとうございます

挿絵機能を使うのが初めてなので、表示されていなければ仰ってください。対応します
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