ユウカお姉ちゃんって、ロリコンさんなの?   作:ユウカの太腿に初恋を捧げた者

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4.[As if Yuuka were my sister,]

 私は駆け出していた。後ろからの静止の声にも足は止まらず、走る。こんな時、身体能力の高さが恨めしい。無理矢理に捕まえられる事が少ない。ない訳ではないが、今回は追ってくるのが困難だろう。路地裏を精巧に逃げ、大通りを駆け抜け、壁を攀じ登る。追える方がおかしい。それも先生を連れては無理だ。

 

 いつの間にか知らない空き地にいた。

 座る。叢の上。機関銃を抱えたまま。

 戻る気はなかった。そもそも戻り方を覚えていなかった。所謂迷子。

 

「………………何、やってんだろ」

 

 これに尽きる。駄々を捏ね、我儘を言い、逃げた。現実から。

 知っている。姉はいないし、お姉ちゃんもいない。彼女はお姉ちゃんではない。

 じゃあ、彼女は誰だ? 知っている。【早瀬ユウカ】だ。姉でもないし、お姉ちゃんでもない。自分が姉の代わりに作り上げようとした偶像だ。アイドル。

 

 これじゃ完全に厄介オタクのそれじゃないか。

 

 溜息。人の声がする。風の囁きがある。街の喧騒が聴こえてくる。

 

「あ゛!? お前!?」

 

 大声に顔を上げる。ヘルメットを被った三人娘。どこかで見たことがある。

 

「てめぇーは万引きしたガキじゃねーか!?」

 

 そこで思い出した。私が先生に拾われる前に万引きを行ったお店のバイト。そういえば、お店に謝罪をする時いなかった。辞めたと聞いた。どこかで会えたらシャーレに送った銃器やお金を返そうと思っていたのだ。

 リーダーらしき赤髪の少女が前に出る。

 

「てめぇー!? あの後ひどかったんだぞ!? 財布は盗まれているわ、バイト先から給料天引かれるわ! 銃もないし、他の不良共に襲われるわで!」

「ご、ごめんなさい」

「謝って済む話じゃねぇ!?」

 

 バコンと地面が弾けた。銃弾。真横を撃たれた。

 

「ちょうど、新しい銃を買ったばかりだ。試し打ちと行こうか。なぁ! お前達!?」

「「おう!」」

 

 私は慌てて立ち上がって、機関銃を構える。今は対抗する手段がある。逃げるだけじゃない。引き金を引いた。

 

 無音。

 

 何度も引き金を引く。カチャカチャとは鳴る。しかし、弾が発射されない。

 

「お前……それってマシンガンだろ?」

「そ、それが、なにか?」

「見た感じ、ベルト給弾の銃みたいだな。一発も弾が入っていないようだが」

「そ、そうなんですか?」

「いや、お前の銃だろ?」

 

 知らないものは知らない。

 走る。逃げる。が、脛を撃たれて転ぶ。痛い。

 

「まぁ、いい。とりあえず、腹癒せができてこっちは嬉しいぜ」

 

 ゆっくりと迫る三人。リーダーらしき人物のショットガンが額に照準される。

 

「まぁ、一撃で終わるなよ?」

 

 引き金が動いた。銃声。しかし、私の身体には当たらなかった。ちょっと離れた場所が蜂の巣になっていた。一発も当たらなかった。

 

「誰だ!?」

 

 建物の陰から出てきたのは、一人の少女だった。赤髪。二本一対の角を生やした少女。春の気候とはいえ、暑そうな分厚いコート。見知らぬ制服を着ている。

 

「まったく、三人で寄って集って、恥ずかしくないの?」

「う゛。確かに、そんな気もするが、外野は黙ってろ!」

「そうだそうだ! これはこいつとあたし達の話だ!?」

 

 はぁ、と少女が溜息。色気がある大人の女性みたいな雰囲気がある。

 

「そう言っているようだけど、あなたはどうなのかしら?」

 

 威厳のある言い方。コートを翻して斜め上に顔を向ける。そして目線だけこちら。黄金の瞳が射抜く。

 

「……助けて欲しいです」

「対価は?」

「た、対価……」

「そうよ。無償で助けるなんて割に合わない事はしないわ。助けて欲しいのなら、それだけ自分が有用である事を示しなさい」

 

 冷静になる。どこかでしたような遣り取り。先程までの甘えた考えがどこかに行く。それが心地良かった。

 

「私はフラッシュ暗算ができます」

「ふらっ!? ……んん!? なるほどね。でも、私の課長ならそれぐらいできると思うわ……できたかしら?

「それでしたら記憶力が良いです。特に遺伝性疾患の症例はほとんど網羅しています」

「いでっ!? ……そ、そう。かなり優秀なようだけど、私が必要とする人材ではないわ」

「ならば、ハッキングができます。まだ基本的な事しかできませんが、将来性はあると思います」

「ハッキング!? 凄いわね、あなた! ……ハッ!? んんっ!? ま、まぁなかなかやるじゃない」

「えっと、ありがとうございます」

「ちょっと待ちなさいよ!? 何あたし達放っておいて、勝手に話すんな!?」

「「そうだそうだ!?」」

 

 煩いわね、と少女が呟く。すっと少女の脇からもう一人少女が現れた。紫色を基調とした少女。まるで軍服を纏っている軍人少女。帽子もドイツ陸軍を想像する。

 

「アル様、消しましょうか?」

「そうね……そこの子供の有益性は示されたわ。ハルカ、やってしまいなさい」

「! はい、アル様!」

「何をごちゃごちゃ――――ぶべらっ!?」

「死んでください死んでください死んでください!」

「な、なんだこいつ!?」

「リ、リーダー逃げましょう!? こいつ怖い!」

「た、ただで引けるかぁ!? このまま尻尾巻いて逃げたら今後一切ナメられてしまう!?」

 

 そう言って私を無理矢理立たせて、銃口を押し当てる。

 

「おい!? 撃つの止めろ!? こいつの柔肌に、赤い痣ができてもしらないぞ!?」

「クッ! なんて卑怯な!」

 

 卑怯なのか? 痣ができるくらいなんとも思わないのだが。前世なら死ぬような行為でもこちらで死ぬことはない。まぁ、痛いのは嫌なので、それを配慮してもらえたと思えばいいのかもしれないが。

 

 すると、カラン、と手榴弾みたいな物が転がってきた。いや、もしかして手榴弾!? 咄嗟に目を瞑る。鼓膜を守るために耳も塞ぐ。衝撃に備える。が、痛みは訪れなかった。逆に拘束が外れた。

 目を開け、辺りを見渡す。不良少女三人が目や耳を押さえていた。そこでスタングレネードだったと思い当たった。

 

「おおぅ! すごいね、キミ! あの状況で咄嗟に目も耳も防げるなんて! 判断が早い!」

 

 気付いたら、もう二人少女が増えていた。愛想の良い可愛らしい少女と、目付きの怖いイヤリングをした少女。前者は白い長髪を左サイドテールにしている赤目で、後者は白髪に黒い前髪。

 

「カヨコ課長、そちらはどうだったかしら?」

「全然。見当たらなかったよ」

「それよりアルちゃん、この娘だれ?」

 

 ムツキ! 外では社長と呼びなさい、とアル。ムツキは素知らぬ振り。不良少女三人は、おぼえてろ、と逃げた。よろよろとしていた。哀れな逃げ方に、こちらが悪かったのに申し訳ない、と思う。

 

「その娘は、先程の三人に襲われていたのよ」

「助けたんだ?」

「たす!? いいえ、有益な人材だから、一時的に雇おうかと思っていただけよ」

「有益?」

「雇うって、うちは人を雇えるほどお金はないよ、社長」

「グッ!?」

 

 アルが膝を折った。私はとりあえず落ちていた機関銃を抱え、お辞儀をする。

 

「ありがとうございました。助けていただいて」

「だから、助けた訳じゃないのよ。あなたのハッキングの力が必要なの」

 

 怖気付く。ハッキングと言っても、初歩しかできない。監視カメラの映像を取ってくるくらいだ。それもセキュリティレベルが高ければ無理。精々、民家の防犯用のみだ。

 そう説明するが、アルは余計に笑みを深めた。ムツキも嬉しそうな顔。カヨコも驚いたような表情。

 

「社長にしてはナイス判断だね」

「アルちゃん、珍しいファインプレーだよ」

「流石アル様です」

「ちょっと普段はできない娘呼ばわりは止めて!?」

「え、えっと、あの、その!」

 

 私が声を張り上げる。みんなが注目する。

 

「えっと、とりあえず、自己紹介しませんか?」

 

 そうして自己紹介をする。自分は帰村カナタ。社長の陸八魔アル。室長の浅黄ムツキ。課長の鬼方カヨコ。平社員の伊草ハルカ。この四人で構成する会社・便利屋68。どんな依頼も金さえ払えば遂行する凄腕のアウトロー。まるでハードボイルド映画の設定みたいだ。実在するとは。格好良い!

 

「そ、それで、私は何をすればいいのでしょうか?」

「ここら一帯の監視カメラをハッキングして欲しいの」

「一帯って、どのくらいですか?」

「……猫が行動できる範囲、くらいかしら?」

「猫?」

「カナタちゃん。今回の依頼は、迷い猫の捜索なんだ」

 

 ハードボイルドとは? アウトローとは? 金さえ払えばどんな依頼も遂行する、というのはそういう……

 

「ちょっと! 呆れた顔で見ないでよ! こっちとら、借金で火の車なのよ! 少しでも足しになるような仕事を熟さないといけないのよ!」

「い、いえ、別に呆れては……みんな大変なんだな、と」

「とにかく、手伝うの? 手伝わないの?」

「手伝いたいのは山々なんですが、私は手持ちのPCがなくて……」

「PCがあればできるの?」

 

 そう言って、ムツキが荷物から型落ちのPCを取り出した。表面は剥がれ落ちて金属が顕になっている。大きく壁にでも擦ったように塗料が付いている。電源入れた途端、爆発しないか不安。

 

「中身を見ないとわかりませんし、PCが最新式でも、猫が見つかるかどうかは……」

「と、とりあえず、試してみてよ! お願いだから!!」

 

 立ち場がいつの間にか逆転している気がする。助けてもらう立場から、助ける立場に……。世の中不思議だ。

 

 

 

 PCは型落ちだった。電源は盗電して起動し、中身を確認するとUNIX系っぽい。シェルはbashに似ている。コマンドはほとんどが同じで助かる。なぜか初期化されパスワードもこちらで設定した。これならある程度はできそうである。

 とはいえ、広範囲のハッキングは無理である。

 

「できて、家一軒を一つずつ回らないと意味ないですよ?」

「いいのよ。今までは手掛かりもなく闇雲に探していたの。ある程度過去を遡れるのなら嬉しいことはないわ」

 

 詳しく訊くと、猫は1ヶ月帰っていないらしい。便利屋は3週間探して手掛かりすら掴めていない。そんな中で、私に出会ったという。

 幸い、雇い主は期限を設定していないため、他の仕事と並行しながら、進めているらしいが、この仕事は難易度の割に払いがいいという。だから、絶対に猫を探したいと。他の仕事もほとんど依頼がこないらしいし。

 

「切実ですね」

「う、煩いわね!」

 

 十数件目をハッキングして、手掛かりなしであった。民家の路地裏。自転車の防犯用。などなどを近くに行ってハッキングして、防犯記録を確認する。今は少し無理して、マンションのカメラをハッキングしている。ミレニアムでは郊外だから防犯意識も低い。ハッキングできそうだ。

 

 暇な時間ができた。

 

 今頃、おね、……ユウカさんはどうしているのだろうか。先生も心配しているかもしれない。いやしているだろう。あれだけ親切にしてもらっていたのに、それを裏切る形になっている。情けない。

 

「カナタ?」

「……あ、はい、なんでしょうか?」

「えっと、急に浮かない顔をしているから、どうしたのかなと思っただけよ」

 

 アルが困惑顔で言う。今日会ったばかりの人。お節介な人。

 そう言えばユウカさんも会ってから2日しか経っていない。そう思えないほど、依存しきっていた。恥ずべき事だ。親切にされているからと言って甘え過ぎてはいけない。当然の事実に今更気が付く。

 

「ちょっと、ありまして」

 

 PCがハッキングをしている間、私はアルと話す。ムツキとハルカとカヨコは別行動。今は二人だけ。

 

「友達と喧嘩でもしたのかしら?」

「喧嘩、と言えるのでしょうか?」

「ああ、そういった事あるわよね」

「私の場合は、自分で自分がわからなくなって、逃げてきた感じですね」

「それで、あそこにいた訳ね」

「はい」

 

 ハッキングが完了した。これからストレージに溜まっている映像を一から見る作業。早送りだから、ある程度は時短できる。映像を流す。話を続ける。アルは一所懸命に見ているが、私は滑るように目で追う。

 

「私、その相手の事を他の人と重ねて、しまって」

「重ねる?」

「はい。亡くなった人と生きている人を重ねて、その人に依存してしまったんです」

「な、なるほど……思ったより重い話だったわ……」

「それで、その事実に気が付いて、自分でもどうしたいのかわからなくなって、逃げてきたんです」

 

 今度の監視カメラは結構なボリュームがあった。まだまだ続く。

 

「私は、どうすればよかったんでしょうか?」

「そ、そうね……」

 

 うーん、とアルは唸る。しまった、と思う。初対面でして良い話ではなかったと思い直す。

 

「ご、ごめんなさい。今のは聞かなかったこ――――」

「ストップ!?」

 

 急にアルが叫ぶ。びっくりして監視カメラの映像を止めてしまった。

 

「ど、どうしたんですか? 急に」

「巻き戻って!」

「え?」

「映像よ!」

 

 言われた通り、映像を巻き戻す。そこでとある所に来て、アルがストップと言う。アルが懐から写真を取り出す。

 

「猫よ! 猫! 見つけたわ!」

「あ、本当ですね。良かったです」

「あなたのおかげよ! 助かったわ! とりあえず、みんなを呼びましょう! これで手掛かりが掴めたわ!」

 

 アルはウキウキ顔。私は不完全燃焼。どこか心がまだ離れている感じ。

 

「あ、そうそう。カナタ」

「? はい?」

「ウジウジ考えているくらいなら、一度当たって砕けた方がいいわ」

「当たって砕ける……」

「ええ、それくらいが、ちょうどよいのよ」

 

 アルのその言葉がどこか心に沁みた。

 

 

 

 猫は見つかった。日が暮れる前でよかったとはみんなの総意。雇い主は大喜びで、予定の金額の倍くれたらしい。便利屋68にとっては久し振りの大金ではしゃいでいるとか。ムツキ談。

 

 私はこれからどうしようか、と思っていると、アルが呼んだ。

 

「カナタ、これ」

「?」

 

 手を差し伸べられたので、受け取ると、お札があった。60万円とある。

 

「えっと、これは?」

「今回の報酬よ! 一番の功績はカナタだから、稼ぎの半分をあげるわ」

「え、でも、これって貴重なお金なんじゃ……」

「いいのよ。これで好きなものでも買いなさい」

 

 アルは後ろを向いた。ムツキは、あはは、と笑う。

 

「アルちゃん、無理してる顔!」

「う、煩いわね」

「でも、他の方は了解しているんですか?」

「心配しなくても、社長から相談されているよ。私達も了承している」

「アルちゃん、こういった所、社員想いなんだ」

「アル様は懐が広いんです」

 

 でも、と固辞する私に、アルが溜息。

 

「それはあなたが勝ち取ったお金。遠慮はいらないわ」

「……わかりました。このお金は私の行った罪に対する償いに使います」

「真面目ね。子供なんだから、好きに使いなさい」

 

 本当は中身成人男性です、とは言えなかった。言ってもよいが、混乱させるかもしれないので、言わなかった。

 

「それに、カナタの迎えも来ているようだしね」

 

 そう言われて、カナタぁー、と呼ぶ声がした。ユウカの声だ。先生の声もする。強い想いが流れてくるような呼びかけ。申し訳なくなった。

 

「最後に、言っておくけど」

 

 アルが、顔を見合わせる。私は控えめに目を合わせる。

 

「信頼は、これから作ればいいのよ。今はない、と思うのなら尚更、ね」

 

 そう言って、便利屋は歩き出した。ムツキが笑い、カヨコが溜息を吐き、ハルカが目をキラキラさせ、そして、アルが格好良く、立ち去った。その後ろ姿が印象的だった。

 




閲覧、ありがとうございます

猫探しの代金は探偵業から考えて計算しました

いよいよ次でラストです
ここまで読んでいただき、感謝です
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