ユウカお姉ちゃんって、ロリコンさんなの? 作:ユウカの太腿に初恋を捧げた者
便利屋68が去って、私は路地裏に残された。ユウカと先生の声が近付いてくる。切実な叫びだった。
「カナタ!」
路地裏を曲がって現れたユウカに抱きつかれた。
「ホント、バカ! 心配したのよ!」
「ごめんなさい、おn、……ユウカさん」
そこでハッとするユウカ。寂しそうに身体を離す。先生も追いついて、息を切らしている。おそらくスマホの電波発信から見つけてもらったのだろう。本当に頭が上がらない。
〝とりあえず、安心したよ。見つかって〟
「ごめんなさい」
〝大丈夫。帰ろっか〟
「そうですね。それじゃ、カナタ、行きましょ」
「………………………………………………………………待ってください」
二人が首を傾げる。私は動かない。ここでホイホイと付いて行くようでは、また二人に甘えてしまう。それがわかってしまう。だから、ここで決定的に何かを変えなければならない。それが何かは全くわからないが……。
「カナタ?」
〝……〟
ユウカさんは不安そうに、先生は静観して、待ってくれる。焦らず、どうすれば良いのかを考える。こういった時、私は普段どうしていたのかを思い出せ。
そう、リオ会長やアル社長相手に、私はどうした? 自分の長所を提示した。なら、ここでするべきことは? 長所を並べる事? いや、それは必要人材であると示すために言うべきことだ。今回は違う。今回は認めて欲しいために言うべき事だ。
認める。認めるとは、何か。それは、きっと短所をゆるすことだと思う。だから、私は身の上話を始めた。
~~~~~
先生、ユウカさん、聞いて頂けますか? 私の話。
…………はは、二人なら頷いてくれると思ってました。すみません。ただの身の上話です。聞き苦しい所もあると思いますが、最後まで聞いて頂けると幸いです。聞きたくなければ言って下さい。止めますので
……姉は病気で苦しみました。私が物心付く頃に、発症して、20歳の時に亡くなりました。享年23歳です。平均寿命が男性10歳、女性16歳の病気で生きた方だと思います。死に目に会えませんでしたが…………
病名は伏せておきますね。ここでは名前は重要ではないので…………
ただ、遺伝性の病気であったという事だけ言っておきます。家族歴は母方の叔父と、私が生まれる前に亡くなった兄、両親、そして姉です。
私も発症するかもしれない。と思って恐怖したこともあります。しかし、20歳になるまで健康体でした。ちょびっとだけでも姉から分けてあげられたら良かったのですが、そうはいきません。そこにホッとする自分もいて、自己嫌悪を抱きました。
私はほぼ毎日姉に会いに行きました。どうして? 感覚的なものですが、好きでした。初恋の相手と同じですね……。まぁその後家族では結婚できないと知って泣きましたが、良い思い出です。所謂シスコンです。自覚はしていましたし、結婚できないと知っても、好きなのは変わりませんでした。
毎日通って、日に日に弱る姉を見ました。痩せ細って行き、時に吐き、時に泣く姿。その時に私は医者を目指しました。
一所懸命に勉強して、努力して、近くの大学の講義も小学生の時に聴講しました。私の青春は勉強に費やされました。
姉の余命が宣告されました。13歳の時です。姉は16歳。もう潮時だと。私は医者を罵りました。ヤブ医者、とか言って、そこから死ぬ気で勉強して、大検。医学部に入りました。それも最高学府。
でも、医学は私が思っていたより進んでいなかったのです。
その病気は、複数の病気を併発させるものでした。その病気自体が直接の原因で死ぬことはなく、糖尿病とか癌とかを誘発・多発させ、じわじわと殺す。
併発する病気への対処はできます。しかし、それだけです。それを誘引させるものはなくならない。そこまでの治療は現段階では出来ない。遺伝性のものなので、医学の限界を感じました。
そこで出会ったのが放射線。遺伝子を傷つけて癌を起こす電磁波ですね。これを特定の遺伝子に、具体的にはDNAのアミノ酸配列に浴びせて、遺伝子を個体が生きながらに変える方法に縋ったんです。
実現性? そんなのありません。一種の宗教のようなものですね。信じれば救われる。そんな感じ。そこで私は医学部から放射線医療の研究に移り、そこでも限界を感じて、そもそも放射線とは何かの研究・理論物理学の道に進みました。こんな感じ。滑稽ですよね?
道は全く開きませんでした。奇跡は起きないのです。
そうして無駄に時間とお金を消費して――まぁお金は書籍代と授業料くらいですけど――心では姉を助けたいと想いながら無駄な事ばかりする自分に嫌気が差して、私の20回目の誕生日。
そうそう、姉からは毎年プレゼントをもらっていました。看護師さんにお願いして買ってきてもらっていたようです。調子が良い時は付き添ってもらって私がいない間に、こっそりと、サプライズ感も出したかったのでしょう。
……嬉しかったです。毎年楽しみにしていました。まぁ、有用性のないものばかりでしたが。たとえば、ミニカーとか、少女雑誌とか、思春期の男子にプレゼントしますか? 子供扱いし過ぎです。…………でも、文句を言いつつも、本当に、嬉しかった。
最後のプレゼントは、日記でした。それも姉の書いた日記。今までの闘病記録。死ぬ前に死を悟っていました。突然現実に戻された気分でした。私は初めて姉と喧嘩し、病院を出ました。
日記を渡す時、姉はこう言いました。「もう書くこともないから」とね。流石にそれは怒るでしょ。でも、姉の気持ちも今ならわからなくもないんです。治る見込みのない病気。医学的な統計でも、理論でも、絶望感漂う内容。
その時、適当に街をブラブラとしていました。病院に戻るのも嫌だったんです。しかし、電話がかかり、姉が苦しみだした事を知りました。急いで帰ったのですが、緊急治療中で、会えませんでした。会わせてもらえませんでした。最初はまた会えると思っていたのです。いつも通り手術後は麻酔のかかった寝顔を迎えるんだと、思っていました。しかし、迎えてくれたのは死に顔でした。最後、お別れができなかった。さようならを言えなかった。ごめんなさいを言えなかった。
放心状態がしばらく続きました。死亡届とかその他の手続は記憶にありません。たぶん、放心中に勝手に身体が動いていたんでしょう。家で我に返ったのが、1週間後。日記の存在を思い出しました。
日記を読みました。
書いている事は、私のことばかり。苦しいとか辛いとか一切ない。会えて嬉しいだの、悩んでいそうで心配だの、今日はテンションが高めだの…………
私は愛されていたんです、姉から。私も愛していました。無性に姉に会いたくなりました。その時は、どうすれば会えるかわかりませんでした。何もできないまま、引きこもりになって、部屋に閉じこもり、何もしない生活が続きました。
それで3ヶ月近く経ちました。身体は衰え、ほとんど何も食べなかったため、餓死直前。涙すら出ない。そこで思い出したんです。
『男の子だから、泣きなさんな。生きてたらまた会えるから』
姉が泣く私に言った言葉です。私が姉の病気に不安を感じて泣いた日、そんな言葉をもらったんです。
それを思い出して、生きる気力が湧きました。どうにかして、生きよう、と。それでまず、食べ物を食べるために外に出ました。家になかったので、コンビニかどこかで高カロリーのものを摂取しようと。
しかし、よろよろの身体では、危ない。結局、ふらふらとして、車に撥ね飛ばされて、死にました。救急車でも呼べばよかったのに、思い付かなかったですね。
これが私の前世です。
~~~~~
「愚かでした。もっと早くに気が付いていれば、死ぬ事もなかったでしょう。ただし、結果は変えられません」
二人は黙った。私も黙った。路地裏外の喧騒が響く。もう日も暮れて、辺りは視界が悪い。空がすみれ色に染まっている。
私は、この際、一気に語ろうと思った。
「私はそのため、生き続ける事にしました」
〝……それは、この世界で、ってこと?〟
「違うに決まっているじゃないですか」
ユウカが顔を上げる。驚いたような、裏切られたような顔。心が締め付けられる感覚。
「この世界は夢です。だって、そうでしょ? 転生するとか、憑依するとか。銃弾に当たっても死なないとか。小説か漫画の世界です。そんなのあり得っこありません。リアルに近い夢。痛みを伴う夢です。私は現実世界で生きているんです」
「カナタ…………」
ユウカが苦しそうな泣き出しそうな顔をしていた。こんな顔にさせたのは誰か。私だ。こんな顔を見たくかった。それなのに、させてしまった。
〝ここは夢じゃないよ〟
先生が言った。私は笑った。
「じゃあ、死後の世界? 実際に姉はいないのですから、違う世界なのでしょう。『生きてたらまた会えるから』という言葉が真なら、この世界は死後の世界です。死んだのだから会えない。会えないのだから死んでいる。永遠に」
〝……〟
「姉は死んだのに、死後の世界で会えないなんて、会わせてくれないなんて。酷い話です。おとぎ話なら、最後会ったりするんでしょうが、ここは現実の死後の世界」
〝死後の世界でもないよ。ここは生きている者だけの世界だ〟
「じゃあ、矛盾しているじゃないですか? 姉の言葉と」
〝お姉さんだって、嘘くらいは吐く〟
「それは、生きている内だけです。死後に嘘を吐く訳じゃありません」
〝カナタ、冷静になって。言っていることがめちゃくちゃだよ〟
「めちゃくちゃでいいんですよ! 実際、この世界、めちゃくちゃじゃないですか!? 銃で撃たれてなぜ平気なの? 獣人やロボット人間がいるの何? 他にも学生が政治を担っているっておかしいでしょ!? 普通じゃあり得ないことが起きている。なら、私だっておかしいことくらいわかっていますよ!」
黙る二人。続ける一人。
「夢なら、まだ会えていない、って思える。探せばいい。死後の世界なら、二度と会えないから証明になる。諦めもつく」
「……」
〝……カナタには、この世界で姉がいるでしょ?〟
「ユウカさんのことですか? ユウカさんは姉じゃない。自分が勝手に作り上げた、姉もどきです」
「ッ!?」
ユウカが傷ついた顔をする。気付かない振りをする。先生が首を振る。
〝いや、ユウカは、カナタの姉だ〟
「じゃあ、この世界は、夢で、私は生き続けている、ということでしょうか? 植物状態とかで?」
〝いや。キミは確かに死んだよ。そういう意味ではここは死後の世界だ。生きている者だけがいる、死後の世界〟
「矛盾してます」
〝矛盾していない。前世のキミは死んだ。そして、新たに帰村カナタとして生まれ変わった〟
「……」
意味はわかった。けれど、認めたくない自分もいて、それでも認めたい自分もいる。よくわからない。
〝前世のキミからすれば、ここは死後の世界だし、帰村カナタとしては生き続けている。何もおかしくない〟
「……こじつけです」
〝お互いさまだね〟
「……」
「……カナタ」
ユウカが一歩前に出る。びくりと肩が震える。ユウカは躊躇いの表情を見せたが、意を決したのか話し始めた。
「私は前世のお姉さんとは違う。早瀬ユウカという人物よ」
そう、それは事実。変えようのできない事情。【早瀬ユウカ】は【姉】と定義できない。不変の真理。
それでも、とユウカが言う。目元を拭っている。私は黙るしかできない。
「カナタの、姉になりたい。……なりたいの」
毅然とした態度。凛とした表情。美しいと思った。それだけ。それだけだが、腑に落ちた。私の気持ちが。
「……………………………………………………血筋や見た目が全然違います」
「見た目や血の繋がりだけが、家族とは限らないわ」
「…………………………………………………………………………臭いセリフ、ですね」
「そうね。私もそう思うわ」
沈黙。ふぅ、と息を吐く。すると、身体の力が抜けていくのが判る。長い吐息。
私はどうしても、言わなければならないことがあった。でも、それがなかなか言えない。喉に絡みつく痰のように、気持ち悪い。吐き出せば、この瞬間をぶち壊すかもしれない恐怖。でも、それは甘えだ。甘えなんだ。だから言わなければならないのに、怖くて言えない。このままずっとこの時が止まってしまえばいいのに、と思う。それが苦しくても、決定的に変わる事を怖れて、思ってしまう。
すみれ色の少女が屈んで、目を合わせてくれた。
「カナタ、言いたいことは、言って。私ははっきりさせたいタイプなの」
凛とした、すみれ色の少女の瞳。それはまっすぐと私という人間を見つめていた。どこか安心する、温かな瞳。
私は意を決した。
「ユウカさん。もう一度、お姉ちゃん、って呼んでいいですか?」
ユウカは頷いた。
「ええ、いいわよ。私はカナタのお姉ちゃんだから」
あえて探すなら、種族的な【ヒト】という点だけ。それでさえも地球とキヴォトスという異世界で、同等だと言えるかどうかは判らない。結論、【早瀬ユウカ】を【姉】と定義する事は間違いなのだ。
ならば、答えるべき問題がある。
目の前にいる少女は誰だ?
~~~~~
後日。
私はミレニアムサイエンススクールの編入試験に合格した。
〝カナタ、も少し左に寄って、そうそこ。写真撮るよ〟
パシャリ。ユウカお姉ちゃんと並んで写真。ミレニアムの入口にある『祝・入学』の看板の隣で。この看板はエンジニア部とマキさんが作ってくれた。本来ミレニアム側はこんなのを用意しない。私のためだけにユウカお姉ちゃん達が準備してくれたもの。
「一発合格なんて、カナタは頭がいいのね」
「お姉ちゃんも一発合格でしょ?」
「でも、あの短期間で合格というのは過去問があっても難しいと思うんだけど。それに普通入学と編入学とでは難易度が違うわ」
〝とりあえず、一旦シャーレに戻ろう。引っ越しの荷物も纏めないと〟
そうだ。1ヶ月お世話になったシャーレから離れることになったのだった。
1ヶ月。シャーレに滞在しながら、編入試験の勉強をした。時々ユウカお姉ちゃんが来て、勉強を教えてくれたりした。常に一緒にいないと駄々を捏ねることはなかったが、一緒にいられる時間は嬉しかった。
「そういえば、ゆ、ユウカお姉ちゃんは、大丈夫なの? 一緒に暮らしても」
何度もした確認。毎回怖くなる。それでも、嫌がる様子なはく、ユウカお姉ちゃんは笑顔で頷く。
「ええ、いいわよ。というか、私はほとんどセミナーに入り浸っているから、あまり家に帰らないけどね」
〝……無理はしないで〟
「それって、先生自身に言ってます?」
先生が苦笑い。その反応が面白くて、笑ってしまう。
結局、どうしてユウカお姉ちゃんを姉と重ねてしまったのかは不明だった。どうしてあの廃墟にいて、どうしてこの姿で転生か憑依かしたのかも不明。それでも良いと思う。今が最高に幸せなら。
「そうだ。先生」
〝何? カナタん〟
「先生のこと、お義兄さんって呼んでいいですか?」
先生とユウカが咳き込んだ。そこまで驚くような内容だろうか。
「ちょっとカナタ! それってどういう!」
「だって、ユウカお姉ちゃん、先生のこと、すムグムグ」
「ちょ~~っとそれ以上はNGよ、カナタ」
私は頷く。怖い。お姉ちゃんが恐ろしい笑顔で囁く。
「そういうおせっかいは止めて」
「わ、わかった」
そうして3人でなんでもなかったようにシャーレへの道を進む。並んで手を繋いで歩く。ちょっと子供っぽいけど、甘えられる時に甘えておかないともったいない。
じゃあ、と私が口を開く。
「先生のこと、お兄ちゃんって呼んでもいい?」
「ちょっと! カナタ!」
〝えっと、理由を訊いても?〟
うん、と頷く。
「私には兄がいたんです。でも、私が生まれる前に姉と同じ病気で死んでいて、写真でしかその姿を見たことがないんです」
〝うん〟
「で、その兄が生きてたら、どんな人だったんだろうって、思って、そうして出来た兄への理想像があるんですが、先生とぴったりと重なって」
〝なるほどね〟
「もちろん、先生と兄は違う人物ですし、そもそも私は兄を知らないので、重ねるというのも変な感じですが、その…………ユウカお姉ちゃんだけじゃなく、先生にも甘えたいなって思って」
〝いいよ〟
やった、と指を鳴らす。先生が溜息を吐く。ユウカが呆れる。
「先生、妥協したのって、『カナタちゃん』のこと、意識したんじゃないんですか?」
先生が口笛を吹いた。私は首を傾げた。
「『カナタちゃん』って誰ですか?」
「カナタの名前の由来になったゲームのキャラクターよ」
「ああ、帰村カナタ。どんなキャラクターなんですか?」
「妹属性」
「あ、はい」
そこで疑念が生まれる。
「お姉ちゃんと先生って、私とそのカナタちゃんを重ねてみているとか、ありますか?」
「う~~ん、少しはあると思うけど、やっぱりカナタはカナタで、カナタちゃんはカナタちゃんね」
「先生も?」
〝そうだね。カナタちゃんはゲームのキャラクターで、カナタは私の生徒だよ〟
その答えに満足する。二人なら信頼できる。
「まぁ、何にしろ、先生は妹が好きと」
〝ちょっと誤解が生まれそうな発言だよ!?〟
「カナタの言う通りで、間違っていないでしょ?」
「サイテーです、お兄ちゃん」
〝ありがとうございます〟
うわぁ、とユウカお姉ちゃん共々思う。先生が咳払いをする。
〝そういうユウカだって、『カナタちゃん』のこと、好きでしょ?〟
「!? ま、まぁ、好きですが、それとこれとは話が…………」
「お姉ちゃんも好きなキャラクターなの? 見てみたい!!」
それは……、と渋るお姉ちゃんに、ちょっと待ってね、とお兄ちゃん。ユウカお姉ちゃんがお兄ちゃんを邪魔する。が、私がするりと先生のスマホを受け取る。画面には一人の女の子がいた。
『フワリン! ふわふわ! 今日もいい天気だねー、お兄ちゃんお姉ちゃん♪』
ロリっ娘がいた。長い銀髪。左右黄緑のオッドアイ。そうして可愛らしい、ロリータ衣装。
私はお姉ちゃんに向いた。満面の笑顔をした。
「ユウカお姉ちゃんって、ロリコンさんなの?」
閲覧、ありがとうございます
祝☆完結
ありがとうございました
この話は、『TSオリ主にユウカを「お姉ちゃん」と呼ばせる』ためだけの話です
それだけが創作の原動力になりました
ユウカをお姉ちゃんと呼びたい。呼んでいる人物を描きたい
それだけ
まぁ、むりやりかんはありますが、そこはご容赦を!
そのため、まだ謎とかあっても、続きを書くかどうかは不明です
謎のまま、終わるのも、また一興、とか考えていません。力量不足です。すみません
それではまたいつか、機会があれば