カードゲームの悪の組織で幹部をやってます。闇のカード(禁止カード)が強いです 作:カードショップの闇結さん
「あむ。もぐ……」
俺の目の前にいるのはコバルト・ブルーちゃんだった。
彼女も、世界大会代表選への参加者である。そして、この交流の合宿に参加していた。
そして、今、何をしているかというと、コバルト・ブルーちゃんは四段重ねのアイスを頑張ってほおばっていた。
私がアイス奢るって言ったら、躊躇なく四段重ねを頼んだ彼女だ。でも、四段って、バランスが悪いから、頑張って食べることになってしまっている。
俺はというと、クレープをちまちま食べている感じだ。おいしい。
「それで……用事ってなに?」
ちなみに、俺とコバルト・ブルーちゃんの間では、ホットラインがつながっている。まぁ、単純にスマホのアプリのファイトラインのID交換しただけだけど。
「いや、さぁ、実はこっち来るバスで青のマスターと会ったんだよね」
私の言葉に、四段のアイスが揺れる。が、崩壊はしなかった。
「それで……? 戦ったの?」
「うん、戦ったよ」
「勝った?」
「いや、負けたけど」
アイスの上から一段目が崩れて落ちる。それを私はクレープでキャッチ。コバルト・ブルーちゃんの口もとへと持っていくと、一口で飲みこんだ。私のクレープもちょっと齧られる。
「むぐ……。どうして……? アレがそこまで強いとは思えない」
「無限エクストラターン通されちゃったんだよね」
「『廻天』は弱い。スペルへの対策札を入れていれば、あんなの通るはずがない……まさか、サブデッキを使ったの?」
まぁ、例のエクストラターンスペルである『廻天』……これ自体は、そこまで強いわけじゃない。八コストという重さに見合った効果というべきか……決まれば、ゲームエンドにも繋げられるが、スペルに対する誘発には無力だろう。
「私、闇のカード持ってないし。さすがに使わないからね?」
私はただのショップ店員の闇結天音である。悪いファイターじゃないよ?
「マスター・オブ・ブルーは、黒のマスターにも、青単の技量で劣る。だから、順当に行けば、あなたが負けるはずがない」
「それ、ほんと……?」
マスターって言えば、各色のスペシャリストだ。そのブラックが、ブルーに青で勝てるなんて、俄に信じがたい。
「ほんと。もとはといえば、ブルーはブラックの弟子だった。それに、ブラックは最初は青単使い」
「へぇ」
二百年生きていれば、人はいろいろあるのかもしれない。そうなると、黒のマスターの一番強いデッキが、黒か青かは気になるところだ。
「でも、そう。本気のあなたが負けていたら、私は勝てないから。少し、安心した」
復讐。
彼女になにがあったのかは詳しく知らないけど、その目標は、私がなにを言っても変わらなさそうなことはわかった。
俺は復讐とか考えたことはないけど、どこか昔の自分に似ているから、この子のことがどうしても気になってしまう。
「くくく、力がほしいか……?」
「え……?」
一枚のカードを取り出す。
それは、休眠状態の覚醒の真のカードだった。けっこう前、近所のお爺さんが亡くなった際、遺品整理でうちに売られてきた。おじいさんがいなくなって、休眠したって感じだろう。
おばあさんは、大したカードじゃないのだけれどと、言って売ってきたわけだけど、その効果はとんでもなかった。二百万の値段で買収。以後、誰にも目をつけられることなく、うちのストレージで眠っていた。
「みよ! この効果を!」
「その効果は……!!」
アイスの残り三段が崩壊した。なんとかクレープの残りでキャッチする。
「二百八十五万を払えば、力が手に入るぞ!」
「二百八十五万……この力が……」
まるで魅入られるようだった。私がカードをぐるぐる回せば、この子のおめめもぐるぐるする。
「く、く、く……ほしいか……この力が……」
「わかった。今からコンボカードローン組んでくる」
「え……っ。いや、まってよ!」
彼女は立ち上がって、そそくさと歩いていく。コバルトちゃんが行ってしまう。
「…………」
「歩くの早……っ。や……っ、足攣っちゃう……!? 待ってよーぉ」
***
世の中には、恐ろしい仕組みがある。それは、この世界も変わらなかった。
世にも恐ろしいお金の仕組みだ。
「あのカードさえあれば! 俺は大会の優勝だって夢じゃないんだ! どうしてそれがわからないんだ!!」
「そう、私のデッキにあのカードが揃えば、私は神よ! 神になれるのに!!」
げに恐ろしきこの世界。
そこにあるのは、コンボのアピールに失敗し、お金を借りられなかったしかばねの山だ。
この世界、カードを揃えるのは大変だ。
まぁ、うん。二つ揃ったら闇のカード級の強いカードの巡り合わせがあったとする。けれども、一生その二つのカードが出会わずに終わる場合がほとんどだった。
よしんば、見つけられたとしても、カードが高額すぎて手を出せない場合がある。
その場合に手を出すのが、このコンボカードローンだった。
私は、背伸びをして、コバルトちゃんを探す。いないな。
「あの、もしかして、闇結天音さんですか……?」
「うわ……っ、びっくりした……!?」
突然、女の銀行員の人に話しかけられる。
「うちは、初めてですよね?」
「そうですね……私のこと、知ってます?」
「それは、もちろん」
死屍累々の人間たちがいても、まぁ、ここはファイトに選ばれた人間が集まる街だ。
高額納税者を見逃す銀行員はいないのかもしれない。なんか、いやだなぁ。私が高額納税者だったのなんて、ずいぶん前なのに。
「どのようなご用件ですか? ご融資でしたら……」
「青い髪……の女の子来てません? 迷子で探してて……コンボカードローン組むって出て行って……」
「あぁ……少し待ってください。確認を取りますので」
あからさまにテンションが下がった気がする。期待に添えず、ちょっと申し訳ない気持ちだ。
待っている間にも、コバルト・ブルーちゃんがいないか、周りを見渡してみる。
「く……、僕の考えた最強のコンボだぞ! どうして……っ」
「お金よ……お金さえあれば、私のデッキは完成するのに……!」
うーん、地獄。
「お待たせいたしました。こちらです」
「あ、はい」
よくわからないまま、私は案内されて行った。なにやら、窓口ではなく、部屋に案内されるよう。
「やっと、きた」
部屋の中では、コバルト・ブルーちゃんがパックジュースを飲んで、高そうなソファーに座っていた。
「では、闇結様。カードを見せていただけますか?」
「ん?」
どういう展開なのだろう。私は、デッキケースからカードを取り出す。
「そっちじゃない。さっきの」
コバルト・ブルーちゃんに言われて気がつく。
確かに、まあ、この状況で私のデッキを見るのは意味がわからないから。
「えっと……これのこと……」
取り出してみる。
「なるほど、このカードなら」
気がついたら、銀行の人が、私の取り出したカードを手に取っていた。なんだか、嫌な流れだった。
「未成年だけど……借りられるの?」
「民法上、ファイト成績が一定以上なら、契約は可能。私はその条件を満たしている」
もうダメだよ……この世界……。
まぁ、前の世界でも会社経営してたりしたら、未成年でもローンオーケーだったっけ。それと同じと考えれば……いや、ダメでしょ。
「いや、銀行から借りるんだったら売れないよ」
そう、売主である私が拒否するんだったら売れないはず。大人として、子どもの借金は止めなければ。
「どうして? このコンボができれば、お金なんてすぐに戻ってくる。これは、投資」
一理ある。判断として、彼女の言っていることは正しいのかもしれない。
「ファイト……する……?」
「その言葉を待っていた……!」
よくわかんなくなったらファイトで決着。なんだか、よくない気がする。
***
「三コスト……。『マジスティック・アーク』。《流転》……ジェムをデッキの一番下に。次の自分のターンの初めまで、自分がスペルを唱えた時、山札から一枚、土地エリアに置く」
「五コスト、『戦鬼海妖イグヌス』。《代償》……ジェムを墓地に。山札から二枚見て、一枚を手札に、一枚を『緑の使徒サリー』の上に置く」
「……っ」
「さらに『緑の信者サリー』の《地鎮》。ジェムを土地に送ることにより、能力を発動」
次のターンの初めまで、相手がターンの初め以外でカードを土地に置いたとき、相手の土地からカードを一枚選んで墓地に送るカードだ。
さらに、自分は土地からカードを一枚選んで手札へと戻す……これは《地鎮》でマナが増えたらいけないから、だろう。
流れとしては、私が二ターン目に『サリー』を召喚。三ターン目に『エナジー・ソウル』でマナとジェムを増やす。そんな感じだった。
対して、コバルト・ブルーちゃんは、二ターン目に、『チャージ・シャドウ』の三枚引いて二枚捨てる初動だった。
「四コスト……『マジスティック・エリート』。《回游》……ジェムを一枚手札に戻すことで、能力。次のアタックフェイズまで、自分がスペルを唱えた時、カードを一枚引く。さらに、『マジスティック・アーク』でアタック」
「通す」
さっきのターン、『マジスティック・アーク』により、こっちのスペルは牽制されていた。
ただ、『マジェスティック・エリート』が来たことにより、その能力を使う必要がなくなったのだろう。
「ターンエンド」
にしても、どうしよう。『マジスティック・エリート』……厄介だ。今、スペルを唱えたら誘発で即死する可能性もある。
ま、今の私のデッキに、初動と誘発以外のスペルはない。
「六コスト、『赤の聖霊ラ・ウェル』。《臨戦》……ジェムを外すことにより、能力。相手のジェムを一枚捨てる。さらに、このモンスターの上に一枚ジェムを置く」
「っ……!?」
「『イグヌス』の《代償》。『サリー』の《地鎮》」
これで、気兼ねなく他のモンスターの能力も使用できる。
「システム構築……」
ジェムを増やすモンスターを使用して、モンスターの能力だけでコントロールしていく戦法は、システム構築と呼ばれていた。
起点となるモンスターが破壊されない限り、ランデスや、ハンデスで止まらない。
「だけど……五コスト! 『マジスティック・リコール』」
「手打ちはダメでしょ。誘発『エリーのお使い』。このターン、相手がカードを手札に加えるとき、代わりに墓地に置く」
これにより、完全に手札に蓋ができる。エリーちゃん……大きくなって……。
それにしても、このカードのこと、すっかり忘れてしまっていた。思い出せて、よかったかな。
「『マジスティック・リコール』で、『ラッキー・デイ』を使用。これから、ループ証明を……」
「わかってるから証明はいいよ。でも、ドローしても墓地だよ? 意味ある?」
「合計十三回スペルを唱える。それにより……条件を達成。コストゼロで召喚します」
「は……?」
「十三コスト、『滅刻鳥ブラックルナ・フェニックス』」
「は……っ?」
コバルト・ブルーちゃん。なにしれっとデッキに入れてるのさ……。
「能力! 《滅刻》!! このモンスターの上にあるジェムを次の自分のターンの初めまで除外。前の相手のターンで、ターンが飛ばされていなかった場合、次の相手のターンの初めに、残りの相手のターンを飛ばす!」
「ふざけんな……よ」
「これは……素晴らしいコンボ。いますぐ契約いたしましょう!」
それから、ボコボコにされて負けた。
***
「タダでくれるなら、最初からそう言えばいい」
「ごめん、ほんと……」
銀行の人に、たくさん謝って、私はコバルト・ブルーちゃんの融資の話を取り消した。そうしたら、よくわからない流れのままに、何かよくわからない投資の商品を買わされたけど、多分大丈夫だろう。
大丈夫だよね?
まぁ、うん。ふざけたのが悪いのかもしれない。
一応、二百八十五万っていうカードの価値をわかってほしかったっていうのもあるんだけど。
「それにしても、このカード……」
うっとりとして、コバルトちゃんはカードを見つめていた。
「まぁ、コバルト・ブルーちゃんに使われる……そんな運命を感じたからね。お姉さんに感謝するんだよ」
「……これで、あの男を殺せる盤石のデッキに……」
やっぱ、渡さなきゃよかったかなぁ。
だけど、まぁ、彼女の手で輝くカードを見ると、これでよかったんじゃないかと思える。元の持ち主だったおじいさんも、喜んでいるんじゃないかなぁ。
このカードのお金を私は出していない。王の資産が二百八十五万減ったということだ。
今回もちょっとふざけすぎたかもしれません……。
最近増えてきた他のTCG小説を読むと、向こうは令和の現代兵器で、こっちは戦国の火縄銃に見えてしまう……。派手さが足りないか……。
前回の後書きで心配していただけたのか、評価数が二倍ほどになっておりました。これで青色になる心配とはおさらばです! 大変感謝しております。
Q&A
Q.除外されたカードが帰還するとどうなりますか?
A.特に指定がない場合、元のゾーンに元の状態で戻ります。また、その場合は、もともとそこにあったもののため、《置けない》などの効果に引っかかりません。
ジェム移動のキーワード化
《代償》……墓地に置く。
《臨戦》……場に外す。主に赤。
《回游》……手札に戻す。主に青。
《地鎮》……マナに送る。主に緑。
《流転》……デッキの一番下。
《滅刻》……除外。たぶん固有能力。そうでなかったら無色。
自分としてはこのキーワード化であんまり読みやすくなったと感じられなかったため、アンケートを取ります。
ジェム移動のキーワード化
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読みやすくなった
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読みにくくなった