カードゲームの悪の組織で幹部をやってます。闇のカード(禁止カード)が強いです 作:カードショップの闇結さん
今日は大変だった。
会場での交流や、なんかよくわからないコンボ指導の講演、さらには未成年組の懇親会の監督までさせられた。
懇親会のお店から、みんなを送って、私はようやく自由時間だ。
ちょっと、顔を出しておきたいところがあった。
「嬢ちゃん、もう閉店だよ?」
「前は十二時まで営業してただろ?」
「て、闇結かよ。十時までやってんだから褒めてくれよ。そういう隙間需要狙いはもうやめたんだ」
「一コスト専門店がか?」
「がはは、言ってくれるな!! 相変わらず」
まぁ、俺がここに来たばかりの頃、お世話になったお店だ。ちょっと、様子を見に来たというわけだ。
「元気そうでなによりだよ」
「嬢ちゃんの雷鳴は轟いてるぜ? 最近は、カードショップやってるんだってな? ということは、商売敵ってことになるなぁ」
「よせやい。田舎のショップの一店員と、この国一番の一等地に店を構えるオーナーだぞ? もう格が断然違うだろ。どこが商売敵だって?」
「謙遜しやがって……らしくねぇな。このこの」
実際、この街に店を出して、維持していけているだけで、それはもうすごいことだ。カードショップで働く身として、尊敬の眼差しで見る他ない。
「それにしても、どうやって知ったんだ? カードショップの店員だって」
「ん? あぁ、緑ちゃんが、お前の話を最近よく出しててな。その流れで、ネットの一部の人間が、いま、なにやってるかとか特定したわけだな」
「緑ちゃんって、たまに聞くファイチューバーの……は? というか、個人情報、ダダ漏れ?」
嘘だろ。
いや、でも、もしかして……あのよくわからない復讐の『ジェムニ』デッキを持ったあの男が来たのって、俺の居場所が晒されたからなんじゃ……。
俺の家は……まぁ、セキュリティはそれなりだから大丈夫だろうけど、店は……。帰ったら、荒らされてたりしないだろうか。
「ていうか、なんで今更?」
「ほら、マスター・オブ・ブラックが言ってただろ? お前のこと。その流れでな。ていうか、知らなかったぞ? お前がマスター・オブ・ブラックの弟子だったなんて……すごいじゃないか」
「うっわ……」
歴史の改ざんの影響がここにも……。
いや、わかる。あれは俺を怒らせて正体を確定させようという嘘だ。俺が挑まなきゃ、あんな嘘をつく必要はなかったはずだ。だから、自業自得ではある……。
「孝行っていうのは、したいと思ったときにできないもんだぜ?」
「そんなんじゃないよ……。そんなんじゃないんだ……」
含蓄に富んだそのセリフは沁みるけど、そうじゃないんだ。ちゃんと説明すると、闇のカードの話になりそうだから、この誤解はそのままにする他なかった。
「お前がいいならいいけどよ……。それで、またこの街に戻って来たってことは……出るのか? 今回の」
「どうだかな」
「正直、お前は田舎に帰って、のんびりしてるたまじゃねぇだろ? それに俺たちにまた見せてくれよ。この国が優勝する夢をよぉ」
俺がでて、優勝したときから、この国は優勝できていなかった。
「でもなー。国民栄誉賞もらってないしなぁ」
当時の優勝メンバーで、俺だけもらえていなかった。いや、まぁ理由は単純だ。元々はもらう予定だったけど、人権団体からの抗議が殺到して、辞退せざるを得なくなったんだ。
「大舞台の、最後の最後があの惨殺だぜ? あんなんじゃ喜ぶモンも喜べないぜ。解説はドン引きしてたぞ?」
「知らなーい。引き良かったんだもん」
「ま、この店で見てた俺らは大はしゃぎだったんだがな。この国を捨てた売女が、ザマァみろってな」
ガハハと豪快に笑って見せる。
一応、ボスもこの国の代表として出ようと頑張ってたんだけどね。お役所仕事だし、大会までに国籍くれなかったから。
そこらへんの新興国の方が、フットワーク軽かったわけ。
「ま、他の誰がなんと言おうと、俺らにとっちゃ、お前は英雄だぜ?」
「あんがとさん」
マジであったけぇ。
これが、このカードショップのいいところなのかもしれない。十年以上競争に生き残り続けた手腕だ。私も見習わないといけない。
「英雄……?」
ふと、声が聞こえる。まるで、こっちの会話に反応したかの声だった。
つい、振り向く。
「は……?」
そこには、奇妙な女がいた。ホットパンツにヘソ出しのトップスを来た露出度の高い格好だったが……露出はゼロ。なぜなら、まるでミイラのように、素肌に包帯を巻いているからだ。
首まで巻かれた包帯。灰色の眼、短く揃えた銀髪の、乙女。
「ねぇ、そこの英雄さん。一緒に、世界、滅ぼさない?」
直感する。こいつは、やばい……。
***
とっさに、カードを取り出す。闇のカード入りの方だ。
まだ人がいる。ここで、こっちのデッキはまずい。ただ、目の前の女は、そうでもしないといけないくらいやばい。
「世界滅ぼすって、穏やかじゃねぇな」
「……っ!?」
会話を切り出した店主の方を見る。汗が滲んでいた。ヤバいやつだってのは、さすがに長年店をやっていればわかるのだろう。考えなしに、言ったわけではないはずだ。
「あはは、じょーだんじゃん。でもさ、なんだろう。あなたからは、私とおんなじ匂いがするじゃんね」
グッと、女はこっちに顔を近づけてくる。私と同じくらいの美少女だった。
「つけてる香水は違うけど」
「いや、香水の話じゃなくってさ。なんて言えばいいか……仲間にならない?」
よくわからない勧誘だ。こいつは、俺はもう悪の組織の人間だ。別の悪の組織に所属してる感じなのだろうか。
「ならない」
「えー、絶対楽しいよ?」
「俺は人生に楽しさを求めてない」
「ちょー、ストイックじゃんね。でも、どーしよ、一緒に楽しいことしたいなぁ」
なるべく、お帰りいただきたかった。この子が爆発したら、絶対にまずい。
「店にファイトボードがあるぞ? 営業時間外だが、使わせてやる。難しいことはファイトしてから決めればいいんじゃねぇか?」
「なるほど!」
「さ、入れよ?」
そう言って、店の中だ。
悪い流れじゃなかった。ファイトボードを使えば、最悪、真のファイトはない。この流れなら、真のファイトにはならないはずだ。
店の中、ファイトボードを挟んで、立つ。
「じゃ、ファイトね! よーし、デッキセット!」
その瞬間ブザーがなった。警告音だ。
「これは……」
「あれー? 使えないじゃんね。故障?」
闇のカード……。それがデッキに含まれているときの警告音だ。
「…………」
どうする。このままだと、位置情報の送信から、闇のカード委員会が来る。
この子を突き出せば……犠牲になる闇のカード委員会が目に見えた。
そうやって、悩んでしまったのが良くなかった。
「ま、こんなのがなくたって、ファイトできるもんね!」
「あ……っ」
いつのまにか、真のファイト空間に取り込まれていた。
俺の真のファイトの拒絶力を超えている……俺以上の経歴を持つ真のファイターならありえる話ではあるが、なにかの色のマスター……か?
「じゃんじゃじゃーん! まず、このカードをセット!」
デッキを置く前に、包帯の女は、カードを一枚、バトルエリアにセットした。
見たことのないカードだった。
「なに、そのカード。見てもいい?」
「んー? ダメー。お楽しみは後にとっておくものじゃんね」
おそらくは特殊タイプ。
王に見せてもらった『九尾』のアレのようなものだろう。
どうする?
たぶん、闇のカードを使わなければ、この女にぶち殺される。でも、使ったら――、
「闇結! 施錠した! コレから俺はなにも見ない!! 思いっきりやれ!!」
「サンキューおやっさん」
これで後で売られたら、俺は人間不信になってしまう。密かに隠し持った、闇のカード入りのデッキを取り出す。
「ターンは……俺からだ。一枚引いて、一枚をジェム、一枚をマナに……エンド」
「こっちのターンの前に……、説明かな……」
「……そのカードか……」
女の手は、バトルエリアにある一枚のカードの上に置かれる。
「『異空から囁く者』。このカードは、バトルエリアに置かれる。バトルの開始時、このカードは、相手のターンの終わりの八回目まで、除外される」
「……っ!?」
おそらくは、蓋になるカードだ。八ターン目まで、こちらが決めきれない場合に、帰還。むちゃくちゃにしてくるのだろう。
相性が悪い。
俺のデッキの特性上、必ずロングゲームになる。このロングゲームになると降臨するこのカードを、場に出させた上で乗り越えなくちゃならない。
「二枚ドロー、ジェムとマナを貯めるじゃんね」
そして、相手のターンだ。何事もなく、進行していく。
というか……無色カード……。珍しいが見なくはない。主に条件を満たすまでの除外、時間を操る戦術を得意としている……そんなカードたちだった。
「じゃあ、こっちのターン。二コスト、『エナジープラス』!!」
「じゃんじゃーんと誘発! 『祈りの逆時計』!」
「……っ!?」
まずったか……? 二コストで『エナジープラス』を唱えると詰む可能性のあるファイトが、闇のファイトだ。
「相手が、スペルを唱えたとき。相手のターンの終わりに、このスペルを唱える直前まで、カードとターンを巻き戻す。ただし、この効果で、ライフの数は巻き戻らず、このスペルを唱えた後、このスペルと同名のスペルを唱えられない」
「巻き戻す……?」
意図が読めない。
テキスト通りなら、使った人間になんらメリットをもたらさない。誘発のタイミングによっては、モンスターによるアタックを二倍受けて、ダメージを余計にもらうだけだ。
「それじゃ、どうぞー?」
「ターンエンド」
その瞬間に、『祈りの逆時計』の効果が発動した。『エナジープラス』を唱えた後まで戻っていく。
「戻ってきたよー」
墓地から、相手の『祈りの逆時計』も戻ってきている。ただ、もうスペルを唱えた後はすぎてるタイミングだ。戻ってきたからと言って、スペルの誘発はできないだろう。
「また、ターンエンドか」
なにがしたいのかわからないカード……いや、待てよ?
最初にバトルエリアに置いたあいつ……。除外からの帰還の条件……八回目のこっちのターンの終わりって、あいつ言わなかったか?
いま、ターンの終わりは二回、やらなかったか?
「こっちのターンじゃんね」
「いや、ちょっとまて……『異界から囁く者』。帰還まで……あと、何ターンだ?」
彼女は、笑った。その表情は、冷酷だった。
「五ターン」
巻き戻す効果の例外……ライフ以外にも、除外されたカードがそれだろう。そのために、帰還までのターンのカウントが進んでしまっている。
「二コスト、『タイムプラス』。山札の一番上を見て、除外する。この除外されたカードは、次の自分の初めのドローの前に、ジェム、マナ、または手札のいずれかとして帰還させる」
「な……」
破格すぎるその効果だ。
これ一つで、『エナジープラス』、『ソウルプラス』、あるいはコスト的に効果は落ちるが『チャージプラス』を使い分けることができるスペルだ。
しかも、特筆すべきはその色……無色。事故の概念がない安定しすぎる基盤として使うことができる。
このカードがあれば、『エナジープラス』や『ソウルプラス』は……。
「だけど、『反転の矢』」
それでも、スペルである限り、この矢からは逃れられない。
「えっと、それは……?」
「相手の手札を見る」
「いいよー」
俺に向けて、手札を全部見せてくれる。なるほど……。
「一枚選んで、スペルだったとき」
「とき?」
「俺が唱える」
「なんだってー!?」
驚いてくれる。大袈裟じゃんね。
「『タイムプラス』をもらう。山札の一番上を除外」
ちらりと、他にもやばそうなカードが見えた。ただ、今欲しいのはこの『タイムプラス』だ。このカードがほしい。
「卑怯なー!」
「まだ、二マナあるぞ? あとは、なにかできるか?」
「できないじゃんね。ターンエンド」
まぁ、知ってる。さっき手札を見ていたとき、確認している。
「俺のターン。五コスト、『号哭と波浪の災禍』!」
手札とジェムの破壊。本当は、マナの破壊が良かったが、手札になかった。贅沢は言っていられないだろう。
「じゃあ、『祈りの逆時計』を誘発!」
「ターンエンド」
「もっかい!」
「ターンエンド」
二度のターンエンドにより、残りのカウントは、三ターンになる。どんなモンスターが来ることやら。
「それじゃ、こっちのターン! 三コスト、『ディメンション・アークソルジャー』を召喚!」
このカードは……『浄界の輪』……いや、違う。
「通す」
「そして、『ディメンション・アークソルジャー』の能力! ジェムを一枚除外することにより……」
「誘発! 『抑制の翼』! 『ディメンション・アークソルジャー』の上にあるジェムを全て墓地へ!」
「ぎゃん……!?」
これで、いけるはずだ。残り三ターンのリミット。俺が狙うべき手は明確。
「俺のターン! 六コスト『赤の聖霊ラ・ウェル』を召喚! 能力! ジェムを場に外すことにより、山札からジェムを一枚このモンスターに、そして相手のジェムを一枚破壊!!」
「ぎゃー!?」
「ターンエンド」
さぁ、どう出る。残りの、カウントは二。正直、間に合うかどうかは微妙だ。でも、この戦い方に俺は賭けるしかない。
「『ディメンション・アークソルジャー』が!?」
俺のターンで、相手のジェムを全て消し去ったおかげで、盤面にいたモンスターが消滅する。これが、ボードデスの本領だろう。
「さぁ、どうする?」
「うーん……。もっかい、『ディメンション・アークソルジャー』。ジェムを一枚、次のターンの初めまで除外」
「……っ!?」
「ないね? 能力! 次の自分のターンの初めに召喚する無色のモンスターは、コストが二、軽くなる」
この能力を通してしまったのは、かなりまずい。ただ、二枚目の『抑制の翼』は引けなかった。
「『海妖地霊ダルゴン』を召喚! 能力! 山札を二枚見て、一枚を手札に、一枚を土地に! さらに『赤の聖霊ラ・ウェル』の能力も発動する」
ただ、『赤の聖霊ラ・ウェル』のジェム破壊は意味をなさない。相手のジェムは、すでにないからだ。
「ターンの初めに、除外されたジェムは戻ってくるよ! だから、『ディメンション・アークソルジャー』は消滅しない! やったね!」
「…………」
これは、まずい。順当にカードをプレイされるだけで、たぶん、俺は負けてしまう。
「じゃあ、いくよ! 五コスト、『虚人イースス』」
「ん……? あ、誘発『浄界の輪』」
「……!?」
二コスト軽減した五コストのカードだった。『浄界の輪』の条件は、土地のカードの枚数と、同じコストのカードを使用すること。軽減の入ったこの局面で誘発するとは思わなかった。
「土地を一枚破壊し、全てを使用済みにする」
軽減された状態での五コストモンスター……。召喚の後、二コストのカードを……おそらくは『タイムプラス』を使用するプランだったのだろう。それが、使用するカードの順番で崩壊したんだ。
「うそん……でも、『ディメンション・アークソルジャー』の能力!」
「発動! 『抑制の翼』!!」
さっきの『海妖地霊ダルゴン』の効果でなんとか、拾い切った二枚目だった。これでようやくだ。あとは、そう……。
「『抑制の翼』、『浄界の輪』、『反転の矢』を手札に戻し、軽減! 『三界の使徒ラキエル』を召喚!」
「ふざけている場合ではないみたいですね、マスター」
いつになく、真面目なラキエルだった。いっつもこのくらいのテンションだったら嬉しんだけど。
「ラキちゃん……!?」
ラキエルの登場に、相手の女が反応をしている。
「知り合いか?」
「知りませんよ、あんな包帯女」
ともかく、今はできることをするだけだ。そうやって、備える他ない。
「『ラキエル』の能力!」
「……!? 誘発! 『エスケープ・タイムプラス』! 手札からこのカードが捨てられる時に誘発! 山札のカードを一枚除外し、次の自分のターンのドロー時に、マナか、手札か、ジェムにする」
捨てられた時に発動するハンデス対策……。まずい……いや、このタイミングなら問題はないか……。
「さらに『ダルゴン』、『赤のラ・ウェル』の能力を使用」
「ひどいなー」
モンスターの能力を使用し、自身のリソースを潤沢に、相手のリソースを枯らしていく。
さて、鬼が出るか、蛇が出るか。
「ターンエンド」
「八回目のターンの終わり、『異界から囁く者』が帰還!! このカードが帰還したとき、《異神来訪》!」
「キーワード能力……」
見れば、『異界から囁く者』……カードタイプがモンスターでないようだった。
「相手の山札以外のカードを、次の相手のターンの終わりまで除外!」
「あーれー。お助けー」
異空間に消えていく天使様だった。お前、真面目にやるんじゃなかったのかよ。
「さらに、このカードを裏返す」
「裏返る……だと!?」
「裏面……! 『無神ゼロス・ティア』」
盤面に現れるのは、虚無だった。全容を理解するのを脳が拒むような圧倒的な無。ひれ伏したくなるような、そんな威圧感を受ける。
「でも……」
次の瞬間には、そんな神が崩壊する。ターンの初めにモンスターの上にジェムを置けなかったために起こった消滅だった。
神だろうと、ファイトのルールには勝てなかった。
「出オチじゃんね。『無神ゼロス・ティア』は、バトルエリア以外のエリアへの移動する、または裏返されるとき、代わりに自分がゲームに負けるときまで除外される」
まぁ、両面あるカードが違うエリアに行ってもあれか……。裏返すで言えば、モンスターをジェム化で除去するとき、裏返すだったか。
にしても、ゲームに負けるときまでか、実質永久追放だが……覚えとこう。
「五コスト、『虚人イスス』を召喚! 『虚人イスス』能力! ジェムを一枚、次のターンの初めまで除外するよ! そして、山札を二枚見て除外、こうして除外されたカードは、次のターンの初めのドローまで除外され、帰還するとき、土地、手札、または裏向きで場に、一枚まで選んでおける」
「く……っ」
強い。
俺が使ってるカードの上位互換みたいな奴らだ。おそらくは、その即効性のなさと、無色というのがデメリットと考えられ、破格な性能を与えられたのだろう。それでも、強すぎな気がする。
「ターンエンド」
「ドロー!」
俺のターンだが、山札以外が全て除外されてしまっている。ドローしたカードも使えない。
「なにかできる……?」
「マナを一枚貯めて、エンド」
そして、ターンの終わりに、カードが戻ってくる。盤面が戻る。
「復活! ふふ、あれで倒せたと思っていたのか?」
言ってろ。
「じゃじゃーん、六コスト! 『終末の笛』を墓地から、このモンスターがバトルエリアから離れるまで除外! そうすることにより、二コスト軽減し、『無界の使徒ラキエル』召喚!」
「あれは……私……!?」
同じ名前のモンスターだった。
このモンスターの登場に、凄まじく嫌な予感がする。カードを構える。
「『無界の使徒ラキエル』の能力!」
「『抑制の翼』!」
どうせ、ろくな効果じゃない。絶対に使わせない。
ただ、この『抑制の翼』は、ラキエルの召喚時に戻した二枚目。もう、『抑制の翼』はない。
「『虚人イスス』の能力を発動!」
そして、この能力は止められない。ジェムが一枚除外された状態で、また俺のターンだ。
やはり、これでは、ジェムを破壊しきれない。『抑制の翼』がもう一枚欲しい。
「二コスト、『チャージアウト』! くっ……。五コスト……」
「誘発『終末の笛』! 条件、相手がそのターン二枚目のカードをプレイする時。相手のターンを飛ばす!」
「しまった……!?」
公開ゾーンにあるカードだ。効果は知っていた。だが、忘れていたわけじゃない。
最初、『反転の矢』で相手の手札を見たとき、『終末の笛』の効果は見ている。それはハンデスで落として、今は墓地から除外されている。
そして、相手のマナを見る。そこには一枚の『終末の笛』がある。
つまり、三枚目だ。
俺の動きは、全力で、『抑制の翼』を引きに行く動きだった。最初に『チャージアウト』から入ったのは、そこで引き込んだラキエルを使って、『抑制の翼』を手札に戻す動きができる可能性を考慮してのものだった。
だが、裏目だった。切っていい三枚目の可能性じゃなかったか。
「ターンの初め、『虚人イスス』のジェムが帰還。そのジェムを、『無界の使徒ラキエル』に移動」
それにより、『虚人イスス』は消滅するが、『無界の使徒ラキエル』は場に残る。
「く……」
カードのプレイはない。
「『無界の使徒ラキエル』の能力! ジェムを次のターンの初めまで除外、そうすることにより、次の自分のターンの初めまで、自分がゲームに負けるとき、その敗北を打ち消し、この能力の使用後までカードとターンを巻き戻す。ただし、このモンスターによるこの巻き戻しはゲームで一度のみ発動する」
敗北回避能力。
ただ、普通に考えて、巻き戻しても待っているのは同じ未来だ。
一応、巻き戻すの後にテキストがある……その後、手札、土地、墓地から、コスト七の誘発のスペルを青、赤、緑の色からそれぞれ一枚、このモンスターがバトルエリアを離れるまで除外し、使用して良い。そうした場合、除外されている無色のコスト七の誘発スペルを……というものがあった。
それでもだ。無色のみの相手のデッキでは、その効果は使えない。意味のない巻き戻しに見える。
「いや、まさか……!?」
「カードが除外されたとき、自己誘発『最期の奇跡』。除外されているスペルを、全て使用する。それらのカードを使用した後、自分はゲームに負ける」
「これは……!?」
「除外されている『終末の笛』を使用! 相手のターンを飛ばす」
「……っ」
目的は、スペルを踏み倒すそこじゃない。もう一つの方。
「ゲームに負けるとき、『無界の使徒ラキエル』の効果がトリガー! 敗北を打ち消し、巻き戻す」
「く……っ」
そう、こっちだ。
普通なら、その巻き戻す力に、意味はないはずだった。同じ未来を繰り返すだけ。でも、今は違う。
「さらに、自分がゲームに負けるとき……我らが神! 『無神ゼロス・ティア』、帰還!」
本来ならあり得るはずのない帰還だった。
巻き戻った世界には、時空を超えて、虚無の神が帰還している。
「これは……」
「さらに、ターンエンド。『無界の使徒ラキエル』の効果により巻き戻るのは、カードに、ターン。まだ解決していない『終末の笛』の効果は巻き戻らない。つまり、あなたのターンは飛ばされる!」
「な……っ」
そうか、『終末の笛』の効果はストックしたままだったわけだ。それにより、俺のターンが飛んだ。
「ターンの初め、『無界の使徒ラキエル』のジェムが帰還。そのジェムを『無神ゼロス・ティア』に移行」
「マスター! これはまずいですよ」
わかってる。
明らかにヤバそうなモンスターが場に残る。どんな能力が使われるか、想像もつかない。
「『無神ゼロス・ティア』、《滅刻》。ジェムを次の自分のターンの初めまで除外することにより、能力。相手の山札の下から三枚以外を、このモンスターが除外されるまで除外。タイム・デストラクション!」
「……っ!?」
確死の能力だった。《異神来訪》も合わせて、カードが山札の三枚以外除外される。なすすべなく、デッキアウトだろう。除外ゆえに、デッキ破壊のメタカードも意味をなさない。
すさまじいカードパワーだと思う。
「ただ、そうだな……」
俺のデッキには、ジェムを除外するカードを除去する手段がない。
「十コスト!」
――ただ一枚を除いて。
「『三界の使徒ラキエル』進化!」
「え!? 私?」
「『虹の神王イリス』召喚!! 能力!」
神は、去った。
***
「これで、ターンエンド」
「ぐわー、まーけーたー」
デッキアウトで俺は勝った。
辛い戦いだった。一つ間違えてたら負けていただろう……というか、相手のあの戦法は、結局、デッキアウト狙いだったから、負けても死ななかったし、別に良かった……いや、この世界、負けたら意味わからない要求を飲まされる可能性もあったから、負けるわけにはいかなかったか。
真のファイト空間が終わる。
いったい、この女が何者なのか、尋問する必要があった。世界を壊すとか言ってたし。
「おい、お前!」
「あぁ、もう、お終いじゃんね」
瞬間、燃えた。大の字に倒れた女の全身が燃える。
「な……大丈夫かよ!」
「大丈夫なわけ、ないじゃんね……。あなたは私に似てる……だから、私のカード、あげる。持っていって」
「カードなんかいいから……えっと、消火器か!?」
「いいから……」
「……っ!?」
腕を掴まれる。燃えている……でも、熱くはなかった。
これは、普通の炎ではない。だから、わかってしまう……もうどうしようもないのだと。
「英雄……って、どんな気分?」
「いや、俺なんか……そんな……」
「ふふ……そうだね。自分のために……そうやって生きられれば良かったんだけどね……あぁ」
彼女の目からは涙が溢れる。
「…………」
それを拭ってやることは、俺にはどうしてもできなかった。
「でも、ま、最期は楽しかった……じゃんね」
そうして、彼女は灰になった。
今日会ったばかり、しかも危険な相手だった。それなのに、どうしてか悲しかった。
「彼女は、かつて英雄と讃えられ、しかし国に見捨てられ、火刑に処された少女でした。ただ、真のファイターであるため、火刑では死なず、彼女は生きた灰のまま、世界を彷徨いました。そして、世界を恨んだ」
不意に、後ろから語りかける声があった。
「いつから見てた?」
「消火器を探すところから」
「そっか」
彼女は黒のマスターだ。マスターが駆り出されるほどの大事、ということなのか。
「闇のカード『異界から囁く者』は回収します。あとはお好きに。彼女の願いですから」
「は? いいのか? 『終末の笛』とか……」
「ええ、構いません。ただし、みんなには内緒ですよ? もちろん私にも」
「……っ……」
たぶん、そういうことなのだろう。これ以上、追及しない方がいいのかもしれない。
「それにしても、もう動き出していますか」
嫌な予感がする。
国別対抗戦……そこで、全てが重なる……そんな予感だった。
***
「は……っ、ここは……」
「ようこそ、ここは死後の世界ぞよ?」
「敗北者ルームじゃんね」
あたりを見回せば、そんな感じの顔ぶれだ。
「なんぞ? ファイトするかえ?」
「デッキないじゃんね。できないじゃんね」
「そういえば、妾もない……!?」
久しぶりの闇のカードを使ったファイトです。
主人公をボコって、謎を残して去っていく予定だった女の子です。なんで、負けたんだろう……。
追記:ラキエルの能力を計算に入れ忘れていたため、土地の数があいませんでした。そのため、ハンデスメタカードを追加し、調整しました。
ちょっと、ルールを自分の想定した以上にわかってない人が思ったより多そうなので、ルール説明回を挟むかどうか……一応、アンケート取ります。
説明会『闇結さんの幼稚園訪問』を挟むかどうか
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いる
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いらない