カードゲームの悪の組織で幹部をやってます。闇のカード(禁止カード)が強いです 作:カードショップの闇結さん
混乱させて申し訳ございません。
幼稚園である。
なぜ私がこんなところにいるのかというと、今日は依頼があった。
「はーい、今日は闇結先生に来てもらいました。みんなに、ファイトについて教えてくれるよー!」
「闇結です。今日はみんなにファイトについて教えていくよ?」
「わー」
毎年、この時期になるとショップに依頼がくる。幼稚園児にファイトを教える基礎講習のためだった。
ちなみに私はファイトインストラクターの一級資格があるため、こういう仕事もできたりする。
「この中で、ファイトしたことある人ー」
「はーい」
「ぼくもー」
「わたしもー」
この世界、文字を覚える前にファイトをする。どうやって……って話であるが、まあテキスト関係は読める人が補助する感じだ。
というか、この世界、0歳児でもカードをカードとして扱うのだ。ファイトが遺伝子に刻み込まれていると言える。
「ルールは、みんなわかってる?」
「もんすたーで、あたっく!!」
「らいふけずるのー」
みんな、攻撃的だ。これが人間に刻まれた本能……! まぁ、うん。テキスト読めないからね……。
「じゃあ、やってみるよ! ファイトしてくれる人ー」
「はーい!」
みんな、勢いよく手を上げる。子どものパワーってすごい。こうなってくると、適当に選ぶしかないか。
「じゃあ、そこの女の子」
「……っ!」
てけてけと、走って前に出てくる。
「デッキは持ってる?」
「……ん」
幼児でもこの世界、デッキは持ってるものだ。出産祝いにスタンダードセットが国から送られてくるくらいだしな。
「バトルボードにセットして、スタート」
「ん……」
「じゃあ、カードを引こうか」
カードを五枚ドローする。先攻は向こうみたいだ。
「カードいっぱい引くのー」
「あ、ちょっとまって、五枚だから、五枚」
「いっぱい?」
まあ、まだ幼い子だから、五という数をちゃんと認識できずに、いっぱいと覚えてるんだろう。
「じゃあ、先生と一緒に数えようね!」
いーち、にー、さん、しー、ごー、と、みんなで復唱しながら、カードを引いていく。
これで、手札が五枚ずつ揃う。ゲームが始められる。
「えっと、先生! こっち側で対戦相手、お願いします。私、向こうに回ってサポートするんで」
「あ、はい!」
幼稚園児に、サポートなしのファイトはちょっと厳しめだ。中にはできる子もいるけど、この子は多分そんな感じじゃない。
「じゃあ、スタートフェイズだよ! ここでは、使ったマナをもとにもどして、ジェムを付け直したりします! とりあえず、最初だからスキップ。ドローフェイズ! 先攻の最初のターンは一枚だけ引けるよ!」
「いちまーい!」
女の子は、手札が増えて嬉しそうだった。
「じゃあ、次にセットフェイズ。ここでは、ジェムとマナを一枚ずつセットできるよ!」
「まな、たくさんおけるよー?」
ばっと、四枚のカードがマナに置かれた。
「いや、一枚……たくさん置いたら、やーよ?」
「えー、でも、ママはいいって」
ママ……。まぁ、子どものやることを肯定するご家庭もあるだろう。ただ、ママが許しても私はそれを許さない。
「ママはね、すごく強いでしょ? たくさんマナを置けて、やっと勝てるから。でも、みんなはそこまで強くないからさ、一枚ずつ置いていこう?」
「うー」
「ほら、どれを残す?」
「これ……」
ようやく、マナ置きが終わった。一仕事したぜ。
「じゃあ、次にジェムも置いていこうか。これも一枚だよ?」
「ジェムいっぱいおくー」
「…………」
同じようなやり取りをして、なんとかジェムを一枚だけ置かせることに成功する。
「じゃあ、次にメインフェイズ。1って左上に書いてあるカードを使えるよ? 土地にあるカードを一枚使用してね」
「1って、これー?」
「そう、それ」
数字がわかるなんてすごいじゃないか。
カードゲームのおかげか、数字の認識はこの世界、前の世界よりも幼い頃からできる子が多い気がする。
「しょーかん!」
一コストの定番、『突撃兵アルス』くんだ。
「ジェムをつけようね」
「じぇむー」
モンスターカードに、バトルエリアに裏向きでおいてあったカード……ジェムをセットする。
ジェムが余っていた場合、モンスターには必ずジェムをつけなければならないルールがある。
「次が、モンスターの……」
「あたっくー」
「ちょっとまって……」
出したばかりのモンスターで、アタックしようとする。それはいけない。
「なんでー?」
「召喚したモンスターは、そのターン、アタックできないから」
「なんでー?」
その、なんで攻撃にも私はめげない。そういうルールだから、と言ってもあんまり納得してくれないからなぁ。
「ほら、出てきたモンスターが、すぐにアタックしてきたらビックリするでしょ?」
「ビックリするー」
「ビックリさせたらいけないから、アタックできないんだよ?」
「ビックリさせたいよ?」
この子……いや、何も言うまい。
「ビックリさせられたいかな?」
「いやー」
「じゃあ、やめておこうか」
「わかったー」
なんとか、納得させることができる。
大変だ。
「えっと、もうできることがないから……」
場に出ている『突撃兵アルス』は能力のないモンスターだ。だから、能力を使うこともできず、アタックはさっきのとおりできないから、できることもない。
「たーんえんど!」
なんとか、ターンを終える。一ターンも一苦労だ。
「えっと、じゃあ……ドローに、ジェムとマナで、ターンエンドです」
よし、これでこちらのターンだ。
こちらの苦労した一ターンが、一瞬で過ぎていった。
「えっと、じゃあ」
「あたっくー」
「まだアタックできないよ?」
「あたっく……ぅ」
どれだけ先生をぶちのめしたいんだこの子は……。
「まず、スタートフェイズ。ジェムの整理と、使用済みのマナの回復だね」
今の所……ジェムの整理は、する必要ないし、マナの回復は、まぁ、面倒な作業じゃない。
ここでマナの回復を忘れるヒューマンエラーをしても、別にちょっと前後するだけだし、そこまで問題ない。マナの回復忘れたからそのターン使えないなんてことはないし。
「あたっくー」
「まだだよ。ほら、ドローフェイズ、二枚ドローしようね。さっきは先攻の一ターン目だったから一枚だけど、今度は二枚だよ?」
「いちまーい……にーまーい」
二枚カードを引いた。
このドローの仕組みをちゃんと理解できているのか、ちょっと心配だ。
「さぁ、セットフェイズ! マナとジェムをセットしようね」
「マナいっぱいおかない」
「えらいよ、ちゃんと置けて」
「ジェムもおくー」
「えらいね!」
なんとか、マナとジェムを一枚ずつだと理解してくれたみたいだ。成長に感動する。
マナとジェムが置き終わって、次の段階に進む。
「あたっくー」
「もうちょっと、よく考えようか……」
「あたっく、できない?」
「いま、マナが二つあります。左上の数が、二のカードなら使えるよ?」
土地にあるカードはマナを生み出す。一枚につき一マナだ。コストの数だけそのマナを消費し、カードをプレイできる。
ちなみに、コストの他に、カードのプレイに必要な土地の色の数というのがある。基本的には同色一枚……これはその色の土地が指定枚数あるだけでよくて、プレイ時にわざわざ、その色のマナを支払う必要はない。
たとえば、マナ破壊の『荒野』は緑一枚。多色の『荒野と号哭の災禍』は赤と緑の一枚ずつだ。
変わり種で言えば、『浄界の輪』とか、闇のカードに指定された私の三天の神器だ。あれは、赤緑青以外の色が土地に存在しないことが条件になっている。
まぁ、その色のマナを支払う必要はないと言っても、コスト軽減で、色の数よりコストは少なくならないんだけどね。
「にって、これー!」
「それは三かな? 二はこれだよ」
数字の見分けが若干怪しかったが、2と3ならまあ、しかたないか。
「これ使うー?」
「そうだね、使おうか」
「ん! しょーかん!」
現れるのは、『追撃兵ヤヒコ』だった。『ヤヒコ』入りってことは、なかなかの速攻デッキ使いだ。
「すごいね!」
「あたっくー!」
「いや、まって……まだできることがあるよ?」
「あたっく?」
「アタックじゃないので考えようか」
「んー?」
しばし、悩む。文字が読めないからか、テキストに書いてあるモンスターの能力をちゃんと把握できていないのだろう。
「アビリティフェイズだね。このモンスターは、使える能力を持っているよ!」
「ん……!」
手を『ヤヒコ』の上に置いた。やっぱり、能力をどう使うかわからないみたいだ。
「ジェムを外して、能力。外したジェムを他のモンスターにセット。このジェム、他のモンスターに付けられるよ? 誰にする?」
「これ」
代わりに私が能力を発動させてあげる。まぁ、このくらいのサポートは必要だろう。それにより、『突撃兵アルス』のジェムは二枚になった。
「それじゃあ……」
「たーんえんど!」
「えっと、アタックは……?」
能力を使用して、お腹いっぱいかな? ターン終えちゃったんだけど。
「あたっくー」
思い出して、『突撃兵アルス』でのアタックが入る。このくらいの巻き戻しなら許容範囲だろう。もうアタックできないよとか、そんなことを言う冷たい人間もいるが、私はそうじゃない。
「ダメだよ。ターンエンドをしたので、もうアタックはできないの」
先生ぇ……。
これが社会の厳しさってやつか……。
「だめ……?」
「しかたないから、今回は特別。次からはターンエンド前にアタックするんだよ?」
「やった!」
先生!
子どもにルールを教える立場として、ルールに厳しくしないといけない。そこをクリアしつつ、人間としてあるべき温かさを教えてくれる……。私よりすごいや。
行われたアタックにより、ライフが削られる。モンスターにセットされたジェムの数だけ削られるから、今回は二点削られる。
最初のライフは十点。あと残り八点だ。
「じゃあ、こっちのターン。『エナジープラス』。ターンエンド」
つつがなく先生はターンを進行してくれる。
さぁ、こっちのターンだ。
「どろぉ」
「いや、ちょっと待って……」
さっきのターンまで、やる必要がなかったが、今はやることがある。
「ん?」
「ターンの初めに、ジェムの整理が必要だよ? わかるかな?」
「ん?」
「えっとね。ジェムの置いてないモンスターに、ジェムを置けるんだよ? そうしないと、消滅しちゃうんだ」
「じぇむ、ないよー?」
未使用ジェムは空っぽだ。
今は、『突撃兵アルス』に二枚のジェムが付いている。
「えっとね、ジェムの整理はね。まず、未使用ジェムをジェムのないモンスターにつける。これは絶対やらなくちゃいけないことだね」
ちなみに、このジェムの整理でモンスターにジェムを置く時は、二枚以上になるようにジェムを置いてはならない。
モンスターのジェムが二枚以上になるときは、なんらかの能力が使われたときだけだ。
「やっぱり、ないよー?」
「それで、未使用ジェムがないときは、他のモンスターのジェムをもらって、ジェムのないモンスターに付けられるんだよ?」
ちなみにこれは、任意だ。今は、『突撃兵アルス』に二枚のジェムがついている状態だから、ジェムのついていない『追撃兵ヤヒコ』にジェムを分配することもできる。『突撃兵アルス』のジェムが二枚の状態を保持することもできる。
「つけない?」
「そうするとね。『追撃兵ヤヒコ』が消滅して、いなくなっちゃうんだ」
「やだー」
「じゃあ、分けてあげようか」
これで、ジェム整理についても説明が終わった。
ターンの流れは、もう説明し終わったから、三ターン目は今までよりも問題なく進行していった。
三コストの『迫撃兵マグナ』が召喚。『マグナ』の能力により、二回アタックを付与された『アルス』。さらに『ヤヒコ』の能力で二打点にパワーアップ。
暴虐の四点が決まる。相手のライフは残り四点だ。
というか、『ヤヒコ』、『マグナ』が揃ってるこのデッキは、速攻の中でも高級速攻の部類だった。この暴走……私は轢き殺される。
そして、相手のターンだった。あわや四ターンキル。
そんな中、私は先生に呼ばれた。
「闇結さん……」
「はい……?」
「私は……こんな非道なカードを撃つことができないです」
「あ……」
先生が握るのは、『号哭』だった。『マグナ』の能力は、ジェムを墓地に置いて二回アタックを与えるもの。相手のジェムは二枚、対してモンスターは三体だ。
これを撃ては、二体のモンスターが消滅することになる。
「いえ、撃つべきだとはわかっているんです」
「あ、えっと、ターン初めのジェム整理をさせるために三枚積んでたんですけど、ジェム整理の説明はしたんで、撃たなくていいですよ」
「あ……」
先生は、顔を赤くして、『号哭』に添えた手を離した。なにか、とても恥ずかしそうだった。
「どうします?」
「じゃあ、この……『エナジー・ソウル』で」
そう言って、ジェムとマナを増やす。
そこから、二体目の『マグナ』により、四点を受け、先生は負けた。
四ターンキルは強い。たぶん、この女の子は、幼稚園環境最強の速攻使いとして、しばらくは過ごすんじゃないかなと思う。
それから、園児に二人組を作らせファイトをさせて、私はジャッジをして回った。
ちょっと揉め事が多くて、一苦労だ。
まぁ、このクラスでのルール教室を終えて、私は次の教室に向かう。
もうちょっと年長の子だ。多色や誘発といった、もう少しレベルの高いことを教えなければならない。
次回からは、ちゃんと本編に戻ります!