カードゲームの悪の組織で幹部をやってます。闇のカード(禁止カード)が強いです 作:カードショップの闇結さん
「いらっしゃーい」
俺は働いていた。
カードショップの一店員として、俺は働いている。
もちろん、店長とかじゃない。本当にただの店員だ。
この店自体は俺の所属する悪の組織のフロント企業だが、店長は雇った人間だった。そこで俺は働いていた。
「
ちなみに、ここでの俺は変装なしだ。この俺が看板娘だからこそ、この店を訪ねる男どもはフィーバーだった。
「パック買ってく?」
「じゃあ、箱買いで」
「りょーかい」
ダーンと、俺はレジに箱を置く。
「相変わらず豪快ですね」
「んー、そうかな? 七万五千円だよ」
「はい」
お札を数えて、レジ打ちをする。完璧な接客だ。今日もたくさん売れてよかった。
「あ、パック開けるなら家でやってね。たくさん居座られるのも、ちょっと迷惑だからさ」
「わかってます……」
少しだけ寂しそうにして、箱を抱えて帰って行った。男って、ちょろい。まぁ、転売してるかもしれないけど、正直知ったことではない。
この世界のカードパックは、エクスアーム社が発売するコピーカードたちだった。
モンスターが宿るカードのコピーで、真のファイトでは、モンスターが顕現しない紛い物だ。
要するにプロキシ。それに自社制作のバトルボードで使えるという価値つけて売る。……そんな商売で天下の大企業となったのがエクスアーム社だった。
とはいえ、現代のファイトは、エクスアーム社製の偽カードで天下が回っているからこそ、真のファイトでも、真のファイトライト勢の中では使用オッケーだったり。
「おーい、
「ち……ガキが……っ!」
店員として、ファイトをしてあげるのもサービスの一環だった。ガキ相手に、バトルボードに座る。
六ターン後、ケチョンケチョンにされた俺がいた。
「あはは、
「クソガキが……っ!?」
このガキの使うデッキは速攻デッキだった。
どんなに強いカードも使えなければ意味がない。俺が強力なカードを使うより前に決着を付けてくる。相性は最悪だった。
白状しよう。俺はそんなに強くない。
デッキ相性が悪ければ、そこら辺のガキにも負ける一般プレイヤーだ。
もちろん今は、闇のカードを使えない試合だが、使えたとしても、そこまでは変わらない。それが俺だ。
今生きてるのは、奇跡と言えるかもしれない。
ま、負けないなんてありえないから、真のファイトなんてしてればいつか死ぬし、それはしかたないだろう。
「はは……あの、メガ・パーミッションの名手が、かたなしだね」
横から、チャチャを入れてくる男がいた。
「お前に売るカードはない」
「ずいぶん嫌われたものだ」
アフロ頭で冴えないメガネの変な男だが、それは変装した仮の姿。現バトルシップチャンピオンであり、現代最強のファイター。そして、俺たちの天敵、闇のカード委員会のエースたる男だった。
「帰れ。塩撒くぞ」
「それで、『抑制の翼』の話なんだけど」
「知らない。変な男に持っていかれた」
変装した姿は、まだ俺と紐付いてはいなかった。
「あの、対戦相手の心を折るカード捌き……君とは無関係だとは思えない」
「知らない。別人。根拠がない」
「根拠ならあるさ。君に心を折られかけた、この僕の勘さ」
ほとんど確信しているのだろう。ただ、物証がないからこそ、私は泳がされていると、そんな感じだ。
「出禁。警察呼ぶ」
「僕はさ。また君と戦いたいんだ」
「…………」
「僕は四位だ。あの頃、僕が追いかけていた君たちは、みんないなくなった」
「…………」
彼はチャンピオンだ。だが、俺たちが大会に出ていた頃は違った。
みんな、闇のカード指定によって消えていったから、今でも彼は、自分のことは繰り上げ一位とでも思っているのかもしれない。
「君なら、大会に出れば、また活躍できるんじゃないかい?」
「大会はもう出ない」
俺が公式大会に出れば、きっとまた闇のカードが増える。そんな悪辣なデッキを俺は持っている。俺が強いと感じるカードたちは、ぜんぶそういう系だ。だから、同じ過ちを繰り返さないように、私はもう大会には出ない。
「一戦お願いできないかい? 君が勝ったら、僕は二箱買う。僕が勝っても、条件はなしでいい」
「はぁ、わかったよ」
***
そういうわけで、ファイトである。
「『エレメンタル・ジャンク』を召喚。ジェムをデッキボトムへ、デッキ上から土地エリアにカードを二枚追加。ターンエンド」
「四コスト、『号哭』。相手のジェムを一枚墓地へ」
「赤青緑のコントロールか。相変わらずだね」
「どうも」
カードには色がある。
バトルエリアの干渉に長けたのが赤。手札やデッキの干渉に長けたのが青。土地エリアの干渉に長けたのが緑。
あとは、墓地の黒とかライフの白とかあるけど、その二色は、そこまで好きじゃなかった。
俺の戦略は、基本的にジェム破壊をして盤面を制限する……という、ボードデストラクション、通称ボードデス戦略だった。
ただ、ジェム破壊にこだわらず、臨機応変に対応するのがコツだった。
このゲーム、リソース管理が重要なのはいうまでもない。ターンの初めに引ける手札の二枚は、土地、ジェムとして一枚ずつ使うだろう。普通にやっていたら、毎ターン手札は増えていかない。
手札、ジェム、マナ。モンスターを召喚したり、相手の妨害に対応しながらだと、三つのリソースのどれかが必ず薄くなる。
そこを叩く。それが基本戦術になる。
そのために、ランデスの緑、ハンデスの青、ボードデスの赤。というわけだ。
「厳しいね……」
すでに、こいつのジェムは、ターンの初めに追加した一枚しかない。ジェムを使用するカードの使いすぎだ。
「そうでもないでしょ」
「あぁ、バレたか。コスト九、『巨神兵ナーグロック』を召喚」
クソデカモンスターである。
今までこの男は、ジェムを犠牲にしてまで土地にカードを貯めてきた。その成果がこいつである。
「アタックフェイズ、このモンスターの持つジェムを全て墓地へと送り、能力発動。山札の上から、九枚を新たにジェムとして、このモンスターにセット」
「……!?」
もし、『抑制の翼』があれば、即座にキャンセルしていた能力だった。だが、これは真のファイトじゃない。
これが、ボードデス戦略の欠点であった。クソデカコストのカードで、ジェムをたくさん増やされたらおしまいである。
スペルで増やすんなら、相殺する方法があった。だが、モンスターの能力発動をキャンセルするのは、『抑制の翼』を除いて私は知らない。
つまり、だ。相手のジェムを全て破壊し、スペルカウンターに、『抑制の翼』を構えて完全ロックという戦術が使えない。
「ターンエンドだ」
モンスターにセットされたジェムの数というのは、アタックをすればそのままダメージの数になる。九点……次のターンに増やせばそれ以上……普通に死ぬ。
だから、このターンで終わりだ。
「……六コスト、スペル『リフレイン』」
「え……っ!?」
彼は目が点になった。ちょっと愉快だ。
スペル『リフレイン』。
相手のモンスターを一体選び、その能力をもう一度使わせるというものだ。初めて見たのかもしれない。
「『巨神兵ナーグロック』を指定」
「な……っ」
ちなみに、このゲーム、デッキの枚数は全部で四十枚だ。
相手のカードの内訳を確認しよう。まず、最初に手札を五枚引く。そこから一ターンずつ二枚減る……今は六ターン目だから、十二枚か。それで、デッキ上から、土地へとカードをすでに五枚追加している。さらにさらに、『巨神兵』の効果でジェムが十八枚追加だ。
ジェムをデッキの底に戻した数は三枚だからマイナスして……。
足しあげると、三十九枚!
「ターンエンド」
「あ……」
チャンピオン、死す。
「はい、十五万円お買い上げでーす!」
だん、だんっと箱をレジの上に置く。
当然ながら、不人気クソ雑魚ハズレ弾である。
「クレジットカード……使えるかな……?」
「あ、現金でお願いします。現金でお願いしますね? あ、ATMの場所知ってます? 教えてあげましょうか? けっこう遠いですよ?」
「はい……」
すごすごと財布を取り出すと、一万円札を十五枚、きっちり払ってくれた。
なんだ、あるんじゃん。
そして、バカは、たくさんのカードを買って、しょんぼりと箱を両脇に抱えて、悲しげに帰ろうとする。
あまりのカードの量にか、ガキが目を丸くして見ていた。
「一ボックスあげるよ」
バカは、箱の中からボックスを一つ開けると、ガキに渡した。
「カード、大事に使うんだよ」
なんというか、俺は負けた気がした。