カードゲームの悪の組織で幹部をやってます。闇のカード(禁止カード)が強いです   作:カードショップの闇結さん

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時代はオンライン対戦?

「クローズドベータテスト……?」

 

「そ……バトルボードのオンライン対戦」

 

 大会前の時間に、緑川ちゃんはそんなことを言った。

 

 今、バトルボードにはオンライン対戦できる機能はなかった。ちなみに普通にインターネットはあるし、オンラインゲームもある。

 

 では、なぜファイトのオンラインゲームみたいなのがないかといえば、カードの権利が問題だった。

 

 この世界の国際ルールとして、カードの複製権は真のカードの所有者に帰属している。

 バトルボードを販売しているエクスアーム社がカードパックの販売を行えるのは、カードの所有者から高額で複製権を借り受けているから。

 

 例えば、私の持っていた真のカードの『正義の鉄槌』はパックに収録されて販売されていたわけだ。これは私になんの利益もなくパックに収録されたわけではない。

 まず、契約に際し、カードごとに独占契約金が支払われる。さらに、このパック販売の収益のうち、総収録カードで割った後、三割のインセンティブを受け取れるということになっている。

 

 まぁ、私は大半を自買いしたから赤字だけど……。再販もないし。

 

 一応、個人でプロキシ作って回す分には大丈夫だけど、不特定多数に頒布するのはアウトだったり。サークル内だとグレーかなぁ。

 だから、オンラインゲームって形でファイトのゲームを作る場合には、エクスアーム社が作らない限りは、ゲーム内パックに汎用札のない悲しいゲームが出来上がるわけだ。

 

「オンラインでパック買えたりするのかな?」

 

 エクスアーム社はそんなにオンラインに乗り気じゃない感じだったはずだ。

 

「……? 通販なら普通にできるけど」

 

 ちょっと、話が伝わらない。

 デジタルカードゲームみたいな感じをイメージしてたけど、違うみたいだ。この世界、デジタルカードゲームないし。

 

「どんな感じで対戦するの?」

 

「このボタンを押せばいい」

 

 緑川ちゃんが引きずってきたのは、一見普通の折り畳み式のポータブル用バトルボードに見えるものだった。というか、見た目は同じだ。

 ただ、ボタンがちょっと多い気がする。

 

「あ、なんか画面変わった」

 

「ファイターナンバーカードをスキャンする」

 

「おお!」

 

 緑川ちゃんのカードがスキャンされる。緑川ちゃんのIDが表示され、また画面が変わる。

 

「こうすれば、今、対戦をしたい人間と戦えるようになる。二十四時間」

 

「これが、技術の進歩か」

 

 ボードの上でいつもみたいにデッキ載せる感じでできるみたい。

 

 ちなみに、ライブカメラで互いに映してファイトをやるのはダメだ。バトルボードを通さないから、遠隔の真のファイトになる。

 これをどうにかするのが技術的障壁って話だったっけ。

 

「ついに動物実験を経て、実装予定」

 

「そっか……」

 

 この世界、普通に動物もファイトをやる。山に行くと熊とか、蛇とかが襲ってくると思うんだけど、カードを構えると普通に真のファイトが始まってしまう。そしてなんか普通に強い。

 つまり、山籠りで自らを鍛える人間がいるということである。私は当然やったことないけど。王は昔やったらしい。

 

「これは、ランダムマッチ……あ、ランク戦みたいなのもあるんだ。それでこれが……招待マッチ?」

 

「ん……。招待状を送ってマッチしてもらう」

 

「へぇ」

 

 要するに、オンラインカードゲームでよくあるルームマッチみたいなものだろう。

 

「招待状は任意の値段で購入する。招待マッチを送られた側は、承諾すると招待状の値段の七割をもらってファイトが始まる」

 

「え……?」

 

 なんか思ったより、エゲツない仕組みだった。

 七割ってことは、三割はエクスアーム社に()()()()されるのだろう。恐ろしい会社だ。

 

「こんなふうに、送られてきた招待状が、金額の多い順に上から表示される」

 

 一番上で百万。五十万とか三十万がちらほらとあって、五万がずらーっと並ぶ感じだ。

 

「え? これ、ファイト一回で?」

 

「そう。ファイト一回でこれの七割もらえる」

 

「……緑川ちゃん人気だねー」

 

 私はよくわからないけど、緑川ちゃんは人気らしい。国をかけての一大イベント、その公式放送の実況に抜擢されるくらいだ。その人気はかなりのものだろう。

 

 有名人と握手するようなものだと思えば、百万くらいは……ということなのだろうか。いや、でも、百万……うーん。

 

「ん……私は、クリアした。人生というゲームを……」

 

「なにそれ、私もいつか言ってみたい」

 

「ん? 天音は既にクリア済み?」

 

 そ、そうだった。お金はいっぱいあるんだった。あんまり使わないから、実感ないんだよね。

 昔稼いで投資に回した分を、切り崩して生活してる感じだし。豪遊してたのは、私の家族の方か……あの人たちどうしてるんだろう。

 

「ちなみに誰相手でも招待状は渡せるの?」

 

「適格者申請を通っていない相手の場合、無料招待しかできない」

 

「ま、そりゃそうか」

 

 流石にマネーロンダリングには使えないか。悪いことはできないものだ。

 

「たぶん、天音なら通る」

 

「えー、でも、私とたくさんお金使ってまでファイトしようなんて人はいないでしょ」

 

 むしろ、私の評判的には拒否されそうだ。ブロック機能とかあるんだろうか。

 

「登録してみる?」

 

「え、いいの?」

 

「うん……どうせ後で、天音にも配布あるだろうし」

 

「へぇ……」

 

 私もオンラインデビュー、しちゃう?

 そして、私がバトルボードにファイターナンバーカードを近づけようした時だった。

 

「話は聞かせてもらったの!」

 

「あ、光谷ちゃん」

 

「あはは……私も興味あるかなぁ」

 

「津雲ちゃんも……」

 

 突如として現れた乱入者だった。

 

「……ん。大会参加中の選手はダメ」

 

「あ、そういう決まりとかあるんだ」

 

 確かに情報とか、そういう面で好ましくないか。

 

 にしても選別戦途中でお試しテストってことは、本戦が終わったら大々的に発表って感じなのかな。

 

「闇結のファイターナンバーカードで、闇結のデッキ使ったらバレないの」

 

「確かに、そうかもしれないけどさぁ……」

 

 やっていけないことは、やっぱりやってはいけないことじゃん?

 その倫理観は、ちょっと将来が心配になる。私はこの子に悪いことする大人になってほしくはないよ……近くにいる親戚のお姉さんくらいの感覚で成長を見守ってきたわけだし。

 

「アカウント、凍結できる……」

 

 緑川ちゃんは言った。

 

「……!?」

 

「私がリークすれば、サービス開始前でもアカウントのオンライン機能凍結できる」

 

「冗談なの……」

 

 あ、引き下がった。流石に光谷ちゃんでも、アカウント凍結は怖いか。

 

 最近、エクスアーム社は、犯罪者相手でも反社相手でも、バトルボードを使えるようにという動きがある。基本的人権……というのもあるが、まぁ、バトルボード使えなくすると、真のファイトをするしかない。危険が一般人に及んでしまうかもしれないからだ。

 闇のカードの回収は相変わらずヤケにして来ようとしてくるけど。

 

 その動きに反するように思えたけど、まぁ、オンライン機能の凍結は問題ないか……。

 

「ちょっと、どういう感じになるか見て行っていい?」

 

「ん。見るだけなら」

 

 というわけで、二人が後ろから見る状態で、私はプレイすることになった。

 私がやるんだ……。

 

「えっと、どのマッチにする?」

 

 無難にランダムマッチかなって思う。

 

「この、ランクマッチのランキングの一位のやつに百万で招待送るの」

 

「あ……勝手に操作して……!?」

 

「後でこっちに請求してくれれば払うの」

 

「いや、お金はいいんだけどさ……ぁ」

 

 普段は炎野ちゃんがいると、気を遣ってか、こういうお金に任せた行動は、あんまりしないんだよね。逆に炎野ちゃんがいなくて、私がいるところだと、こういう金銭感覚に緩いところを見せてくるのが、なんだかなぁ。

 実際、百万なんて吹き飛ぶほど、私の店で使ってるし……。

 

 光谷ちゃんの家は、あのカードショップがあるあたりでは一番に裕福だ。歴史あるお家で、たぶん私より資産は持ってる。それを受け継ぐ光谷ちゃんは、一生お金に困ることはないんだろうけど……お姉さん、いろいろ将来が心配である。

 

 津雲ちゃんとか、苦笑いでこっち見てるし。

 

「あ、承認された」

 

 さすがに百万でくれば招待を受けてくれるか。普通は大金だし。

 

「ほら……。プレイマットがVIP仕様に……」

 

 バトルボードのデジタル出力の部分が、金ピカにキラキラ輝き始める。

 

「お前、そんな色で光れたの!?」

 

 確かにバトルボードって、同じ色でピカーッてしてるイメージだった。こいつも、さっきまでそうだったし。アレって、まだ本気出してないだけだったのか……。

 

『デッキを、セットしてください』

 

「しゃ、しゃべった!?」

 

「ん……これもVIP仕様特別サポート機能」

 

 これはさすがにいらないんじゃ……それか選択式で専用とかじゃなくて普通に実装すればいいと思う。

 

『よう、支援ありがとうな……』

 

 なんというか、渋い男の人の声が聞こえてきた。さっきの機械音声とは違う。

 

「これって、通話できる?」

 

「トラブル防止のため……フレンド以外を招待したら、あっちの声しか聞こえない」

 

「なるほど」

 

 中には、お金を払ってまで相手に暴言やら卑猥な言葉やらを届けようという変な人もいるかもしれない。そういう人の対策としては、必要なことだろう。

 

『じゃあ、先攻後攻はそっちが決めるといい』

 

 どうやら、相手は完全に接待モードのようだった。

 

「じゃ、後攻かな」

 

 私は遠慮なく後攻を選択する。相手にこっちの意思を伝える手段もないわけだし。

 

「なんか、拍子抜けなの」

 

「カジュアルか、ガチかくらいは選択して招待状送れたらいいよね」

 

「ん……意見としてあげとく」

 

 三人はそんなことを話していた。確かに真面目に戦おうって、挑んだのにファンサービス満載な感じでやられたらちょっと違うってなるだろう。逆に、ファンサービスを期待したのにガチであっさり捻り潰されたら悲しすぎる。

 

「というか、この人って、ランクマッチ一位だけど有名な人?」

 

「凪川元選手なの。十五年前に引退した選手で、現役時代は日本選手権で三連覇を記録した選手なの。現役選手のいないランクマッチで、上位を取れているのは納得な実力なの」

 

「へぇ。さすが光谷ちゃん」

 

 聞けばなんでも答えてくれる。

 

 ま、そうか。現役選手がいなきゃ元プロが活躍するのは当然といえば当然か。

 

「でも、バトルボードの音質のせいか、声がちょっと違う気がするの」

 

 光谷ちゃんは残念そうに言った。まぁ、そこはしかたない部分だろう。これ以上、バトルボードくんに求めるのは酷かもしれない。

 

「ん……要改善」

 

 そんな感じで、準備が整う。

 

『にしても、後攻を選ぶってことは、よっぽど自信があるか……いや、さてはコントロールか?』

 

 そんなふうにこっちのデッキを考察をしながら、ジェムとマナを場に置く。

 まぁ、無言でプレイされるのもちょっと嫌だし、このくらいがちょうどいいのかもしれない。

 

「ちょっと待つの! こっちに回ると相手の手札のカードが見えるの!」

 

「えっ、これっていいの?」

 

 私の対面に回って、光谷ちゃんたちはそう騒いでいた。

 

「ファイチューブの観戦機能の応用。互いに許可を出すと表示されるようになる」

 

「粋な計らいなの」

 

「手札の中身は教えないように」

 

「分かってるの」

 

 光谷ちゃんと津雲ちゃんは、相手の手札を見て、「これ、次置くかな?」「これはキープなの」みたいな感じに、マナジェム置き談義をしながら二人で盛り上がっている。楽しそうでなによりだ。

 

 さて、私もちゃんと考えて、マナとジェムを置かなきゃならない。

 マナに一枚カードを置いてターンエンドだ。

 

『おっと、ジェム置きなしってことはコントロール。それも純正のスペルコントロールってとこか……。でもいいのか? モンスター主軸のデッキには確かに強いが、スペル誘発系スペルには滅法弱い。オールハンデスにもだ』

 

「おぉ」

 

『あ、二ターン目、俺はジェムとマナを置いてパスな』

 

 さすがは対戦経験が豊富な元プロ選手といったところか。マイナーな私のデッキの弱点も熟知しているようだった。

 これは、ちょっと勝てないかもだ。

 

「じゃ、私は『さざ波』」

 

 二ターン目のハンデススペルを唱える。相手の手札をランダムに破壊し、一対一交換を強要する。

 

『ジェムを置かない分、増えた手札で、相手の盤面、土地、手札のどれかを枯らす……お手本通りのデストラクション戦術か』

 

 挨拶がわりのハンデスを、そう評価してくれる。

 

「よく分かってるなぁ」

 

 三ターン目だ。

 

『三コストを支払い、『礎の満干』。カードを一枚引き、その後一枚捨てる。このスペルは唱えた後、土地エリアに移動』

 

「誘発、『エリーのお使い』。相手がカードを手札に加える時、代わりに墓地に置く」

 

『マジかよ……!?』

 

 すでに相手の手札は一枚。死に体である。

 

「三コスト、『エナジー・ウェーブ』。ふ……っ」

 

 私の唱えたスペルは、相手の手札を奪って、自分の土地を増やす素晴らしいカードだった。

 

「手札全部なくなっちゃったの……」

 

「不用意に手札交換のスペル唱えるから……」

 

 相手の手札を見ていた二人は、しょんぼりとする。

 

『いやぁ、やられた。こっからは完全に運か……まぁ、いい』

 

 二枚のドローが入る。相手の声からは、タダでは負けないという気迫が感じられる。

 

 こういう時は、決まって――、

 

「……っ!?」

 

『五コスト、「獄魔戦奴ディンダロ」を召喚。ジェムを墓地に置き、能力。墓地からモンスターのカードを一枚、手札に戻す。その後、このモンスターに山札の上からジェムを一枚置く』

 

 これだけなら、私のよく使う、『戦鬼海妖イグヌス』の手札補充が墓地からのモンスター回収になったバージョンだ。

 だが、ジェムのつけ先が自分に限定される制約があるということは……、

 

「それだけじゃない……」

 

『さらに、このモンスターは、このターンアタックできる。「獄魔戦奴ディンダロ」でアタック』

 

「手札に戻したカード……その能力って」

 

『その時、《龍転・海》。俺の手札にあるこのカードは、自分の闇または水の五コスト以上のモンスターがアタックする時、入れ替える』

 

「……っ」

 

 俺はこのギミックを知っている。なぜなら、現役時代に何度も相対して来たからだ。

 

『「海獄魔龍アビシア」に転生。あぁ、それと……これは《龍転・海》に必要なコストだ……山札から三枚引くぜ?』

 

 俺のラキエルもそうだけど、このゲーム、コストって言ってアド取っていくの普通に考えておかしいよな……。

 

「《龍転》……滅んだはずじゃ……」

 

「光谷ちゃん!」

 

「こんなカード、知らないの……」

 

 緑川ちゃんも、私も、光谷ちゃんも動揺していた。津雲ちゃんはみんながなぜ固まっているかわからずに、頭にハテナを浮かべている。

 

 だってこれは、ボスが使っていたものだった。この《龍転》を持つカードが全て闇のカードに指定された。少なくとも表向きは根絶されたギミックのはずだった。

 

「誘発、『正義の鉄槌』! 『海獄魔龍アビシア』のジェムを破壊」

 

『いいカード持ってるなぁ』

 

 いま出て来た『海獄魔龍アビシア』は七コストだった。だから、『正義の鉄槌』は通る。ジェムはゼロ枚になってアタックは無効だ。

 

 そして私にターンが帰ってくる。

 相手の手札には、さっきバトルエリアから帰った『獄魔戦奴ディンダロ』に加えて、《龍転・海》で引いた三枚のカードがある。

 

「五コストのモンスターを出すだけで、四枚も手札が増えるなんて……」

 

 このままリソースを稼がれていったら、今の私のデッキのカードパワーじゃ追いつかない可能性がある。

 

 いや、ちょっと待て……今、四ターン目か。五、一、二、三……よし、これでいけば……かな。

 

「五コスト『荒野と号哭の災禍』」

 

『……っ!?』

 

 相手のマナとジェムを同時に飛ばす。今回のファイトにおいて、これが最適だろう。

 

「ターンエンド」

 

『いやいや、確かに今のは強力だが、勝ちには繋がんねぇって……五コスト、「獄魔戦奴ディンダロ」を再召喚。さらにジェムを手札に戻して、「海獄魔龍アビシア」の能力を……』

 

 ふと、声がそこで止まった。

 

『……使えねぇのか、もう』

 

 さすがに、気がつくか。

 

「……デッキアウト」

 

 津雲ちゃんが、ポツリと呟く。

 

『俺の今のデッキの枚数は二十一枚。ここから「ディンダロ」の能力を使った場合、ちょうど二十枚になる。毎ターン二枚のドローに、ライフは十点。俺のジェムが削られ続けるギミックがなんかあんだろ? 一ターン一点ずつじゃライフを削り切るには心もとねぇ』

 

 そう、この場面でジェムを手札に戻して能力を使用すれば、盤面が完全に閉ざされることになる。

 ジェムと能力、そしてデッキ枚数の兼ね合いが、このゲームを難しくしている。

 

『だから、そうか……「ディンダロ」の能力を使用。「ディンダロ」と「アビシア」の二体でアタック』

 

 二点、私のライフが削られる。

 これで残り八点。これでは、私はデッキアウトで勝つことはできないだろう。

 

「でも、これって、相手にジェムを増やすカードはないの? あったら、ここで無理に攻めなくても……」

 

「多分、五コストで土地に蓋をされ続ける前提で相手は考えている。『荒野と号哭の災禍』……これのせい」

 

「え……?」

 

「スペルにプラス二コストすることでモンスターになる例が多くあるから……おそらくは七コストでこのスペルの効果を能力で毎ターン放つモンスターが出てくると睨んでいる。五コスト以下で限定するなら、ジェムを増やすカードはおそらくはない。いても限定的な追加」

 

 緑川ちゃんが、こういうコスト論的にカードを考えているのは意外だった。このコスト論は、未知の相手に相対する場合の指針となる考え方だ。

 まぁ、中にはコスト論の枠にハマらない馬鹿みたいなカードもいるけど、おおよそこれに沿ってカードがある。だから、なんというか……真のファイト慣れをしている。

 

 それは、相手にも言えることだった。山で熊とか相手に修行してたんだろうか。

 

「五コスト『荒野と号哭の災禍』!!」

 

 そして、私は二枚目のこれを唱える。ちょうど今引いた。なんとか、首の皮一枚繋がった形だ。

 

『俺は「ディンダロ」のジェムを「アビシア」に移して、「ディンダロ」を消滅させる。五コスト、手札から二枚目の「獄魔戦奴ディンダロ」を召喚』

 

「さすがに、あるか……」

 

『「獄魔戦奴ディンダロ」の能力を発動し、墓地から一枚目の「獄魔戦奴ディンダロ」を回収する』

 

 始まるのはディンダロループだ。これでは、毎ターン一枚ずつジェムを焼いてたんじゃ追いつかない。

 

「誘発、『硬直の翼』。誘発条件、相手のモンスターが能力を発動する時。効果、相手のモンスターについたジェムを一枚外す」

 

 俺の持ってる『抑制の翼』の下位互換的なカードだ。個人的なこだわりとして、デッキにあまり入れたくないし使いたくないカードでもあった。

 だが、使うべき時が来てしまうこともある。

 

『能力無効化か!! だが、「海獄魔龍アビシア」でのアタックは通させてもらう』

 

 これで、私のライフの残りは七点。相手の山札は十七枚。不利なのはこちらだろう。

 

 ここが、分水嶺と言ってもいい。

 ゆっくりと、私はバトルエリアに裏向きでカードを置く。土地エリアには何も置かない。

 

「六コスト『赤の聖霊ラ・ウェル』を召喚。能力、ジェムを外すことで、相手のジェムを一枚墓地に送り、このモンスターにジェムを追加」

 

『……あぁ、あくまでもジェムの破壊か。「海獄魔龍アビシア」は消滅させる』

 

 安心したように、相手は言った。これで、ようやく六コストにたどり着ける、と思っているのだろう。

 

「ターンエンド」

 

『俺は「獄魔戦奴ディンダロ」の能力を使用する。さっきの「硬直の翼」は……ないみたいだな。墓地から回収し、「獄魔戦奴ディンダロ」でアタック。残りは六点か』

 

 だというのに、カードをプレイしなかった。声が軽い。まるで、勝負に勝ったかのような気軽さだった。

 

「七コスト、『荒廃』。未使用のマナ全てを墓地へ」

 

『は……?』

 

 だから、死ぬわけだけど。

 

 オールランデスを完遂させる。本命はジェムではなくマナだった。

 

「『赤の聖霊ラ・ウェル』の能力でジェムを破壊し、こちらには追加。ターンエンド」

 

『やられたな。そうか、そんなカードがあったか……』

 

 ドヤ顔で私は周りを見てみる。津雲ちゃんは呆気に取られていたし、緑川ちゃんと光谷ちゃんは目を輝かせてこっちを見ていた。

 

「『お使い』サイクルの赤の存在を相手は想定して、スペルを唱えられなかったこと。六コスト以上のモンスターの能力を通すために、あるかもしれない二枚目の『硬直の翼』を『獄魔戦奴ディンダロ』に使わせようとしたこと。そして、次のターンに『赤の聖霊ラ・ウェル』の能力と、ジェム破壊スペルで、ジェムが全てなくなってしまう可能性があったこと。だから、相手はなんのカードもプレイしなかった」

 

 この『お使い』サイクルを予想した動きに関しては、相手の対戦経験によるところが大きい。

 私の今のデッキは、『災禍』サイクルなど、同じサイクルのカードを三色で採用しているものがある。

 だからこそ、予想をして、ジェムの追加を許さない『お使い』サイクルのカードがある可能性を考慮しながら動いた結果だろう。

 

 人間は、勝ちに近づけば近づくほど、万が一に備えて慎重になるものだ。

 

『グッドゲームだ』

 

 そして、私はファイトに勝利する。

 

「天音、やればできるの! 普段からやるの!」

 

 まず光谷ちゃんが駆け寄ってきてそう言った。この子が私のこと下の名前で呼ぶ時って、大抵は友達がいない時なんだけど……可愛い光谷ちゃんの懐き具合に、津雲ちゃんはちょっと驚いていた。

 

「うん、天音、すごい」

 

「わーい。やったー」

 

 ちやほやされてすごく嬉しい。

 これは、百万払った価値があったかもしれない。

 津雲ちゃんは私の喜びように、ちょっと引いてた。

 

 でも、疑問がある。今回の試合終盤のヒリつきだ。

 

「ねぇ、緑川ちゃん。さっきの元選手って、真のファイターだった?」

 

「違う、そんなはずはない」

 

「後からなった可能性は? 三連覇だし」

 

 一回も優勝できなかった俺と比べれば天と地の差だ。

 

「実力の衰えによる引退だった」

 

 そして、その人物の死亡が報じられたのは、それから三日後のことだった。死後、一週間という話だった。

 

「死体として見つかったのは、凪川元選手です。真のファイトにより殺害されたと見られ、警察は捜査を続けています」

 

 テレビからは、そんな音声が流れてくる。

 緑川ちゃんは言う。

 

「不自然だった。こちらの名前は相手に表示されていたのに、闇結天音がコントロールの名手だと相手は知らなかった」

 

「確かに……」

 

 若い子ならまだしも、元選手なら私のことを知らないはずがない。さらには《龍転》というギミックを使って来た。いったいアレは何者だったんだろうか。

 

 

 ***

 

 

 

「へぇ、闇結って名前か。この国には面白いファイターがいるなぁ」

 

 ちょうど手に入ったオモチャだった。

 遠く離れた誰とでもファイトできるってところが良い。

 

「お遊びでも、俺が負けるとはなぁ」

 

 巷では闇のカードなど呼ばれている相棒………そのカード使えないファイトであったが、負けは負けだ。

 良いファイターがこの国にいる。そういうことだ。

 

「つーか、賑やかしのマブい姐ぇちゃんじゃねぇかよ。ヤケにカードに詳しいとは思ったけど、よく見りゃ、二人とも真のファイターか」

 

 現代の選手に対する情報収集のために見ている大会の、解説に闇結天音という名前を見つける。選手にばかり注目していたせいで、こちらはノータッチだった。

 中々に良いファイターを抱えている。隣にいる緑のやつも、同格の実力者だ。

 

「にしても、ジャンヌのやつはこねぇしなぁ……アイツのことだ。約束、忘れちまったか……」

 

 一緒にことにあたれといわれたが、きやしない。あいつは誰にでも喧嘩を売ってぶっ殺す狂犬だ。案外、どっかで返り討ちにされて死んじまったのかもしれない。

 いや、ないか。あいつほどの強さのファイターを倒せるやつなんて、そういないはずだ。

 

「ま、しばらくはリーダーに従うしかないからな。俺一人でもやるしかないかぁ」

 

 海の底でさまよいながら襲ってくるサメやシャチとファイトするしかない自分を引き上げてくれた恩人だった。

 少なくとも、この恩は返さなくてはならないだろう。

 

 予選リーグももう最終日だ。

 決勝リーグになれば、いよいよ実行、ということになるか。






 久しぶりに投稿したら感想に評価たくさんもらえました。
 お礼のもう一話です。

 クローズドベータテストなのに有料コンテンツがあるなんて……エクスアーム社、なんて企業なんだ。

 ジェムシステム、もうちょっと上手く使いたいです。
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