カードゲームの悪の組織で幹部をやってます。闇のカード(禁止カード)が強いです 作:カードショップの闇結さん
某国、数多く聳え立つ摩天楼の中でも一際巨大なビル、その最上階。贅を尽くしたような絢爛なカードたちが壁一面に並ぶ部屋へと、その主に呼び付けられていた。
「えっと、このカードたちは……」
調度品のテーブルには五枚のカードが置かれていた。
「このカードを使って大会に出なさい」
金髪の癖の強い髪を地面まで伸ばした少女だった。見たところ歳は十二ほど。生地のいい薄い布一枚だけに身を包んで、恥じらいはないのか……すらりと伸びる手足はまるで磁器のように美しい。
他でもない、この金髪金眼の少女こそが、マスター・オブ・ホワイトであり、エクスアーム社の創始者、闇のカード委員会会長、つまるところこの世界の諸悪の根源である。
「えっと、確認をしますが、その大会はどの大会のことで?」
「……? わからないのですか……? 国別対抗戦の予選のことですけど……」
「三日後ですよ!?」
諸悪の根源である。
もう既に、大部分の調整を済ませていた。それなのに、この傍若無人っぷりに振り回されなくてはならないという。頭を抱える他なかった。
「頑張ってください。チャンピオンなんですから」
「前から思ってたんですけど、俺に負けて欲しいんですかね? まだ別の任務もありますし」
こういうことは、一度や二度ではなかった。大会の直前、こんなふうに呼び出されて、この女は意味のわからないカードを使えと言ってくるのだ。
「え? 普通に勝ってほしいですけど……。チャンピオンであるあなたのデッキに採用されていたとなれば、宣伝効果も抜群。次のエキスパンションは記録的売上も間違いないでしょう」
ふと、手に取る。今回のカードは見たことのないタイプのものだった。というか、率直な感想として……、
「……弱くないですか?」
「チャンピオンであるあなたのデッキに採用されていたとなれば、宣伝効果も抜群。次のエキスパンションは記録的売上も間違いないでしょう」
「なにか強さについて言ってくださいよ……」
ほしい言葉は、そんなオウム返しではなかった。
予選とは言え、相手もプロだ。弱いカードを入れて勝てるような相手ではない。
「いいですか? このカードたちはエクスアーム社が真のカードを抑えているわけです。そうなると、売れるにしたって原価が違う。なんとしても勝つんですよ」
「あの、それって、自分にインセンティブが入ったりとかは……」
「あなた、それでも社員ですか? 愛社精神とかないんですか?」
チャンピオンになり、あらゆるシガラミに囚われてここにいる。いっそ、目の前の女よりも強ければ、別の道もあったかもしれない。
しょせん自分は繰り上げのチャンピオンだ。あの闇のカード制定から、自分はカードを握るべきではなかったのかもしれない。
切り替えよう。自分はこの無茶振りに応えるしかない。
「あの、このカードタイプって……」
「そうですね、私と違って短命の星のもと生まれたあなたには知る由もありませんか」
「はぁ」
いちいちマウントを取らなければ喋れないのだろうかこの女は。
「かつてはある程度、一般的だったんですけどね……。使われると私のデッキに刺さるので、根絶しました」
「……っ!」
それができる権力者が彼女だった。一つのカードタイプの殲滅……それがどれほどの労力をかければ実行できるのか想像もつかない。
というか、それを今になって掘り起こそうとする彼女の気持ちもわからない。
「あ、考えてることはわかります。……大丈夫です。私のデッキに刺さるカードは抜いてありますから」
「だから、弱いカードばかりなんですね」
納得する。弱いのは、このカードタイプの問題ではないのは見てわかる。このカードたちが弱いというだけなのだろう。
「はぁ、口を開けば弱い弱いと。やはり、愛社精神が足りませんね。仕方ありませんから、そっちにある私のコレクションからいくらか好きなカードを持っていきなさい」
四方の壁には悪趣味なキラキラしたカードたちが飾らせているわけだが、その中の一箇所を彼女は指差した。
そのカードたちをしげしげと眺める。
「けっこう、強いのもあるじゃないですか」
「そこにあるのはカードパワーが高く一般のパックでは売れませんから。チャンピオン限定のカードということで、使うのもほどほどにしてください。あくまでもこっちにあるのが切り札です」
相変わらず、無茶を言ってくれている。壁にあるカードの中でも、潤滑油となるカードをメインにいくらか借りていくことにする。
「もう、ここにあるの、カードパワーとか関係なしに全部売っちゃえば儲かるんじゃないですか?」
「はぁ、そしたらやってくるのは全員が同じデッキを握って、同じような戦いしかしない世界ですよ? 悪人も正義の味方も同じデッキ。そんなの、楽しいものですか……」
嫌に実感の籠った言葉だった。もしかしたら、彼女の経験した時代の中には、そんな時期もあったのかもしれない。
「ここ最近のパック、自分を使ってPRしたカッコいいだけで効果の弱い子ども騙しのカードばかりですよね……」
「文句があるなら、私に勝ってから言ってください。まぁ、それで本当に勝たれてしまったら困るのですけど」
「闇結天音ですか?」
「……あんなカード存在してはいけないのです……」
「はぁ……」
闇のカード委員会で、彼女が果たす役割は大きい。彼女が、別にいいんじゃないでしょうかと一言でも言えば、闇のカード制定は見送られる。
だが、そうはならなかった。彼女の特技は小学生のフリだった。このマスター・オブ・ホワイトは、普通の子供のふりをして現役時代の闇結天音とファイトし、普通の子供とまるで同じくボコボコに泣かされていたからだった。
「まず、相手のターンに発動するのがよくない。私の番ですよ? ターンの意味、わかってないんでしょうか? それに手札でさえ辛いのに、マナとかジェムとか減らそうとしてくるなんて……発想が人間じゃない。相手を尊重する心があればできないはず……きっと前世は悪魔か何かであったに違いありません」
「なるほど」
相手を尊重する心があれば、三日前に知らないタイプのカードをデッキに入れて大会に出ろと言ったりはしないだろうと思いはしたが、それは飲み込んでおく。きっと彼女の前世は悪魔か何かであったに違いない。
「ですがこれも今は昔。今の彼女は牙の抜かれた可愛い子猫です」
「そうですね」
ちなみに最近、マスター・オブ・ホワイトに似たような小学生の女の子を、闇結天音の働くカードショップで見かけてしまった。彼女の特技は小学生のフリだった。そこには速攻デッキを使い闇結天音をボコボコにしている姿があったような気がするが、きっと気のせいだろう。
「あと、これは違うデッキの話ですけど……四ターン目で早期に決着のつくようなデッキもダメです。どうして、早く終わらせてしまうのですか? そんなに相手に向き合うのが嫌なら、一人でやってろって話です」
そこには速攻を使い闇結天音をボコボコにしている姿があったような気がするが、きっと気のせいだろう。気のせいであってほしい。
とはいえ、闇のカードの決定は彼女の一存だけでは決められない。基本的には裁決されて上がってきた話を、彼女が実際に小学生に扮して戦ってみて、可否を決めるというだけの話だ。
「あと、あのケルベロスとか意味がわからない。あの青い蓮も絶対反則でしょ……クソみたいな緑の宝石もです」
「そうかもですね」
例の『ジェムニ』の件など、緊急性の高い案件の場合、彼女の決定を待たずして決められることすらある。
「ま、ご武運を祈りますよ。ぜひ勝ってきてください」
彼女はそう話を打ち切って、ヒラヒラと手を振る。出ていけということなのだろう。
最後まで勝手な人だと思いながら、退室をする。まだ、マスター・オブ・グリーンにもプロ選手狩りのことで呼ばれている。やることが多すぎる。これからのことで憂鬱だった。
***
「泣いても笑っても、これが最後! 予選リーグ最終マッチ! 光谷弥生と現世界選手権チャンピオン・叢雲シューヤとの対決だ! 闇結さん、やはりチャンピオン……追い上げてきますね」
「ですねー。一ゲーム目、光谷選手は『命数秤るアストライヤ』と『光の制裁』のコンボを決めて勝利。このまま決着かと思われた二戦目……翻って叢雲選手が強烈なロックを決め、圧倒。試合はわからなくなって来ました」
これから始まるのは三戦目だが、今から見始めた人のために、先ほどの展開の説明を忘れずにやっておく。慣れたものである。
「両者とも、決勝リーグへの進出は決めているが、やはりリーグ一位の座は譲れないか! 意地と意地とのぶつかり合い! 九日目、最終試合、第三セット! ラストゲーム、スタート!!」
向かい合う二人のゲームが始まる。前回のゲームを取ったのがチャンピオンだから、今回は光谷ちゃんが先攻だった。
光谷弥生 ターン1(先)
ボード 0(1)
ランド 1(1)
ハンド 4
叢雲シューヤ ターン1(後)
ボード 0(1)
ランド 1(1)
ハンド 5
順当に、二人の一ターン目が過ぎていく。
緊張に包まれた中、二ターン目へと移行。
光谷弥生 ターン2(先)
ボード 0(2)
ランド 2(2)
ハンド 4
更には二ターン目も光谷ちゃんはパスをした。基本的に光谷ちゃんのデッキは、三ターン目から動くデッキだ。
ターンが、チャンピオンへと移っていく。
「二コストで、『ソウルプラス』を唱える」
「これはチャンピオン、ジェムを増やす順調な初動!」
「さらにアーティファクト『自由の法典』を場に出す」
「……っ!」
それは、珍しいカードタイプだった。私もあまり見たことはない。
一応、お店に来た女の子が落としていったもので、このカードタイプのものがあった。三ヶ月経って、またお店にも警察にもその女の子が来なかったから、私のものになってしまったわけだけど。
このカードは、土地からコストを支払う必要がなかった。
「《ジェムコスト3》。このカードをバトルエリアに設置した際、ジェムを三つこのカードの上に置く」
代わりに、ジェムを多く食う。
「闇結さん。アーティファクト、このカードタイプどうでしょうか」
「強力なカードです。土地エリアのカードを使わないという点がまず最大のメリットです。マナでスペルを唱えリソースを整えつつ、ジェムを使い継続的な妨害を行える……強力なカードです」
「なるほど。アーティファクト、素晴らしいカードタイプですね」
「はい、私も好きです」
このアーティファクトをとりあえず褒めろという指示が私たちには降っていた。
俺は好きだよ、このカードタイプ。
叢雲シューヤ ターン2(後)
ボード 0(0)3
ランド 0(2)
ハンド 3
「ちなみに、このボードのカッコの右側の数字はアーティファクトに付いたジェムの総数を表します。カッコの中身は、ジェムの総数ですが、盤面のモンスターの最大数ということでアーティファクトに付いたものは除いてあります」
大会の過去配信を私は見たんだけど、アーティファクトがある状態で、ジェムの数をどう表示するか、手探りな感じがあった。
急に持ち出されたカードタイプに、現場は追い付いてはいない感じがする。
「三コスト、『光の尖兵』を召喚するの。能力により、光のモンスターの召喚コストは、二少なくなる」
光谷弥生 ターン3(先)
ボード 3(3)
ランド 0(3)
ハンド 3
順当なカードの展開だが、光谷ちゃんは、もしかしたらちょっと厳しいかもしれない。
「じゃあ、こっちも三コスト。『透明機兵マルカ』を召喚。このモンスターについているジェムを全て山札の下へと送り、能力を使用。ジェムを山札の上から一枚このモンスターに付け、次のアビリティフェイズの始まりまで、このカードは誰にも選ばれず、さらにアタックが可能」
「……っ!」
「まずは一点」
クロックパーミッションというデッキタイプがある。
パーミッションとは、打ち消し妨害系のデッキにつけられる通称であり、相手の使ったカードを許可するかどうかのイニシアチブがこのデッキの持ち主にあることからそう呼ばれる。
ちなみに私の昔のデッキは、メガパーミッションと呼ばれていたが、それは相手のカードを誘発で処理前にぶっ壊すカードがデッキのほとんどを占めていたからに他ならない。
クロックとはなにか……それは相手のライフを刻むことである。まるで時計の針が刻まれるかのように、毎ターン一定のダメージを与え、相手に時間制限を課す。
では、クロックパーミッションとは。
除去しずらい能力を持つ小型のモンスターを用いて、相手のライフをチクタクと削りつつ、他のカードで妨害を行い、相手の行動を制限しながら勝利を目指す。
それがこのデッキタイプだ。
「『透明機兵マルカ』は誰にも選ばれないという強力な耐性があります。このモンスターを破壊することは困難を極めるでしょう。光谷選手には、残り9ターンという制限が与えられました」
青赤白クロックパーミッション。
このチャンピオンは五色全て、そしてビートダウン、コントロール、コンボといった全てのアーキタイプを自在に扱える男だった。
全てのデッキタイプの弱み強みを把握した、まさしく万能とも呼べる男である。
伊達に俺たちが闇のカード規制されてから、長々と王座に君臨し続けているわけではないのだ。
叢雲シューヤ ターン3(後)
ボード 1(1)3
ランド 0(3)
ハンド 2
そして、光谷ちゃんへとターンが渡る。
「六コスト。『光騎士クレス』を召喚なの!」
やはりか、スペル封殺のおまけを持つ手札補充モンスターを光谷ちゃんは召喚した。
「出ました! 『光騎士クレス』!!」
「確かに『光騎士クレス』は強力なカードです。ですが……」
「『光騎士クレス』の能力を発動なの!」
「それは受け付けない! 『自由の法典』の効果を発動。ジェムを三つ外すことで、相手の使用する行動を制限する効果の発動を打ち消す」
場にあるアーティファクトの能力により、『光騎士クレス』の効果は消滅した。
「闇結さん、これは……」
「『自由の法典』は、例えば『アタックできない』や、『スペルを使えない』、『選ばれない』といった行動を制限する能力の発動を打ち消すことができます。『光騎士クレス』の能力には、条件付きですが、『スペルを唱えられない』という効果が含まれていました。なので止められてしまったわけですね」
それがわからない光谷ちゃんじゃない。『光騎士クレス』は能力の使用にデメリットがないため、わかった上で、相手が何かの間違いで使わないパターンを想定したからだろう。
ナイストライだと思う。なんというか、貪欲な彼女の性格が現れている。
「なるほど、そういうことなんですね」
「『光の尖兵』の能力を使い、ターンエンドなの」
光谷弥生 ターン4(先)
ボード 2(4)
ランド 0(4)
ハンド 2
「じゃあ、まずこちらのターン。《ジェムコスト3》の追加効果。ターンの始めにこのカードにジェムがない場合、ジェムを三つこのカードにセットしてよい。そうしなければこのカードは消滅する」
「これは、アーティファクトが誘発のスペルよりも優れている点ですね。ジェムさえ付け直せば何度でも使い直せます」
「なるほど、素晴らしいですねアーティファクト」
ただやはり、このアーティファクトには、普通のモンスターよりも多くのジェムを付け直す必要があった。
アーティファクトは何度も使えるとはいえ、モンスターの能力だって何度も使える。
場に出すのが零コストな分、そこは良し悪しではあるけど。
「《チャージ・ソウル》を唱える。山札の上から二枚見て、一枚をジェムに、一枚を手札に」
「手札を減らさないジェムの補充です。ジェムを増やしたということは、やはり……」
「《ジェムコスト2》。『零れる命杯』を置く。ジェムを二つ、この『零れる命杯』の上に置く」
「ここできたか! 『零れる命杯』だ!!」
光谷ちゃんは苦い顔をする。さっきのファイトを取られた理由のほとんどは、この『零れる命杯』だ。
「これはライフの増減を含む能力を無効化するカードです。光谷選手の『ダイヤモンド・エンドレス・ドラゴン』と言ったライフを増やす効果や、『アストライヤ』のようにライフをリソースに変換する能力を持つカードに強く出られるアーティファクトですね」
まぁ、これはクロック・パーミッションを行うこのデッキに必須級の効果だろう。スペルとアーティファクトの同時使用で手札を多く消費し、ジェムもマナも使う。そうなれば、必然的にデッキの消耗も激しくなる。
そこで、『ダイヤモンド・エンドレス・ドラゴン』のようなバカみたいにライフを追加するモンスターに粘られたらどうなるか想像がつくだろう。
もちろん、デッキ切れで負けるに決まってる。
普通の大会なら、増やされたら仕方ないと割り切るのも手だろうけど、光谷ちゃんが対戦相手として見えている以上、必ず、こういうカードは必要だったわけだ。
さらに、『アストライヤ』と『光の制裁』のコンボにも刺さる点が恐ろしいだろう。
「さ、アタックをしてターンエンドだ。今回も勝たせてもらうよ」
叢雲シューヤ ターン4(後)
ボード 1(1)5
ランド 0(4)
ハンド 1
「……っ。私のターンなの。ドロー!」
光谷ちゃんのライフは残り八点。
時間としては、まだ十分にあるように思えるが、そう悠長な事は言っていられない。
相手のマナには、七コストの白のバーン……つまり相手のライフを削るスペルがあった。それに、いつ二枚目の『透明機兵マルカ』を引くかはわからない。
時間は少ない。
「その手札に残った一枚のカード。十中八九、ドロースペル……三枚ドローなの」
「……さぁ、どうだろうね」
光谷ちゃんは、チャンピオンへと揺さぶりをかける。
「それは、させないの。『光騎士クレス』の二枚目を召喚なの!!」
「二枚目か……カードに愛されてるね」
「今召喚した『光騎士クレス』の能力!」
「それは通るよ」
発動した能力により、山札の上から三枚が公開される。
「光谷選手! 三枚とも光のカードをオープン! よってチャンピオンのスペルを封殺だ!!」
「さらに『光の尖兵』と『光騎士クレス』でアタック!!」
「く…‥通る!」
ここにきて始まる殴り合いだ。
みんなは忘れているかもしれないが、ファイトに勝つには強力なロックコンボを決める必要も、相手のマナをゼロにする必要も、デッキを削るまで粘ったりする必要もない。先に十点ある相手のライフをぶん殴って全て削り切った方が勝つんだ。
光谷ちゃんのデッキなら、それができる。
「闇結さん。なぜ、チャンピオンは最初の『光騎士クレス』の能力を封じなかったのでしょう? 最初の能力を封じてしまえば、二体目に能力を使わせ、アタックをさせないことが可能だった気がします」
「それはアーティファクトの効果に関わってきますね。アーティファクトは、ジェムがない状態で本来なら無効化できる効果が発生させられた場合、オーバーヒートし無効化できず破壊されます。アーティファクトの破壊を防ぐために、使用しなかったという判断でしょう」
まぁ、アタックこそは通したものの、能力を一つ防げてはいる。ただ、このダメージレースで、この一点が響いてくる可能性はもちろんある。
光谷弥生 ターン5(先)
ボード 2(5)
ランド 0(5)
ハンド 4
「仕方ないか……」
チャンピオンは一つ息を吸って、そう言った。
雰囲気が変わる。今までの人あたりの良さそうな印象とは打って変わって、眼光が鋭くなり、何か恐ろしいものを感じてしまう。
「いったいこの状況、チャンピオンはどうする!」
動く。
「『不壊機兵アロン』を召喚。さらに《ジェムコスト5》、『終の曲譜』を配置。ジェムは既に配置されたアーティファクトから集める」
今まで構えていたアーティファクトから、全てジェムを外していた。そして新しく場に配置されたのは、『終の曲譜』という一枚のアーティファクト。
「なにをするつもりなの……?」
「まず、『不壊機兵アロン』の能力。ジェムを全て山札の下に送る。その後、山札の上から一枚をこのモンスターに置き、このターンアタックできる。さらに、次のアビリティフェイズの初めまで、破壊されない」
「破壊されない……?」
このダメージレースへともつれ込んだ戦いに、除去耐性のあるモンスターを一体召喚した。それだけで状況は変わるだろうか。
「そして、『終の曲譜』の起動条件は、相手のモンスターの召喚。発動する効果は、場にあるモンスターを全て破壊する」
「……っ!?」
「『不壊機兵アリア』と『透明機兵マルカ』でアタック。二点」
光谷ちゃんのライフは残り六点になる。
「誘発『光の制裁』」
発動した『光の制裁』の効果により、二点のカウンターダメージが与えられる。
「おっと、これは……! チャンピオンの残りライフは六点に!!」
「光谷選手のデッキは強力です。スペル封じでコントロールを崩すのはもちろん、『命数秤るアストライヤ』と『光の制裁』のコンボ……それにこだわらなくとも、モンスターが展開しやすく『光の制裁』の通常の使用でダメージレースに優位に立てる」
「ですが、チャンピオンの場には全てのモンスターを破壊するアーティファクト。破壊されないモンスターがあります! これなら、まだ……」
「非常に厳しいですね。まず、起動の条件がモンスターの召喚。互いの残りライフは六点ですが、光谷選手のモンスターは三体。対してチャンピオンのモンスターは二体」
「それって……」
「単純に光谷選手の方が、かなり早くライフを削り切ります。ただ『終の曲譜』にはもう一つの効果もありますけど、モンスターを無闇に召喚する理由にはならないでしょう」
光谷ちゃんのターンに移る。
やることは決まっているようだった。マナのみをチャージして、一つ、カードをプレイする。
「『静止する光』を唱えるの」
そうだ。ゆっくりスペルでも唱えておけばいい。
そうすれば、『終の曲譜』は起動しない。盤面の優位は揺るがず、このまま勝利できるはずだ。
「そうか、スペルを封じてくるわけか。困ったね」
「全てのモンスターでアタック。三点もらうの」
「チャンピオン! 残りライフは三点! さらにスペルも使えない! まさに背水の陣! 次のターンが最後のチャンピオンのターンとなってしまうのか!!」
これがアーティファクトの限界だろうか?
このアーティファクト、普通に問題点がある。
まず、ジェムを食い過ぎだということ。このデメリットにより、アーティファクトを有効に使おうと思えば、まともにモンスターを展開するデッキにはなりはしない。
次に、発動が完全に相手依存な点。どうしてもメタカードという性質が高くなってしまう。メタカードというのは、刺さらない相手に対しては無用の長物……全体のデッキパワーは下がってしまう傾向がある。
だが、この『終の曲譜』は一味違った。
「メインフェイズ……《マナコスト5》。『終の曲譜』の二つ目の能力を使用。このアーティファクトはマナを五枚支払うことで、次の効果を使用できる。相手の手札を見る、その中から一番コストの高いモンスターを召喚させる。『光龍ダイヤモンド・エンドレス・ドラゴン』を指定」
「ふん……」
だからと言って、これはやりすぎだと思うんだけど。
そして、『終の曲譜』の能力が起動する。
「さぁ、やり直しだ」
全てのモンスターが破壊される。だが、チャンピオンの場にある『不壊機兵アリア』のみが場に残った。
「小賢しい真似なの」
「『零れる命杯』を置き、『不壊機兵アリア』でアタック。ターンエンド」
とはいえ、光谷ちゃんのライフはまだ五つある。対して、チャンピオンのライフは三つ。この状況において、この差は非常に大きいだろう。
「『光の門へレス』を召喚」
「ここでジェムのない『終の曲譜』はオーバーヒートを起こして破壊されます」
さっき二枚目の『終の曲譜』が置かれなかったのは、不幸中の幸いだろう。おかげで、光谷ちゃんにはまだまだやりようがある。
「『光の門へレス』の能力を使用。『光の聖者リリエス』を追加召喚」
盤面に二体のモンスターが並び直す。やはり、チャンピオンの不利は変わらないか。
「六コスト! 『聖撃』! ライフを二点砕く」
「これは……!!」
この土壇場でバーンスペル。やはり、チャンピオンなだけはあるのだろう。
「『不壊機兵アリア』の能力を使い、アタック!!」
「光谷選手! 残りライフは二点! 闇結さん、これはどうでしょうか?」
「次のチャンピオンのターン、即アタック可能なモンスターを引くか、バーンスペルを唱えられればリーサルの圏内に入る。『零れる命杯』で光谷選手のバーンスペルは封じられていることも踏まえて、モンスターの数から、次のターンで決着はない。これは、あります」
「やはりチャンピオンか! 逆転の可能性を繋いでみせた」
そして、光谷ちゃんのターンに入る。
ドローして、ノータイムでジェムとマナを置く。ちょっと不可解だった。だって、マナもジェムも、潤沢にある。これ以上、置く必要はないように思えるはずだ。
カードをプレイする。
「『静止する光』を唱えるの」
光谷ちゃんはモンスター二体でのアタックを済ませる。チャンピオンのライフは残り一つ、次がチャンピオンのラストのターンになるだろうか。
「それにしても、『静止する光』。二枚目……持っていましたか!」
「これは闇結さん、どう影響してくるでしょう?」
「バーンスペルを腐らせる良い手です。これで、チャンピオンは即アタックできるカードを引くしかなくなりました。あと、手があるとしたら……」
「『終の曲譜』を場に! 《マナコスト5》!!」
光谷ちゃんのモンスターで、即アタック可能なモンスターはいなかったはずだ。光谷ちゃんの残りのライフは二点。であれば、『終の曲譜』を起動させれば……。
「光谷選手の手札をオープン! 手札のカードは!!」
「これは……!!」
「『逆光』、『逆光』、モンスターなし!!」
「『終の曲譜』は起動しません!!」
ドヤ顔で手札を見せる光谷ちゃんは可愛いかった。
「光谷選手。さっき、ジェム置き、マナ置きでモンスターを手札から逃していました。モンスターのアタックも『逆光』でケアしてます」
「素晴らしいプレイ! これにはたまらずチャンピオンも苦笑いでターンエンド。光谷がモンスターでアタック! チャンピオンのライフはゼロに! 予選Cブロック……決着! 二位叢雲シューヤ! 一位光谷弥生だ!」
光谷ちゃん……あんなに小さかったのに、こんなに成長してしまった。お姉ちゃん、ちょっと涙出てきそう。
「では、選手インタビューを……と行きたいところですが、準備完了まで少しお時間をいただきまして」
「はい」
そうすると、緑川ちゃんは少し咳払いをする。
雰囲気を見るに、なにかのお知らせっぽい。オンライン対戦のやつのことだろうか。
「はーい、緑ちゃんからのお知らせです! ファイチューブ大会公式では、私たち二人で地上波放送のミラー配信を行いまーす! 興味がある人はぜひチェーック!」
「え? 私、今聞いたんだけど?」
白のマスター……奴はマスターの中で最弱……。
アーティファクト、要調整ですね。今回は勝敗を決めずに書いていたんですけど、チャンピオンは負けてしまった。これもアーティファクトのせいですか……。
次の投稿は時間が開くかもです。感想や高い評価があるとモチベが上がります。