カードゲームの悪の組織で幹部をやってます。闇のカード(禁止カード)が強いです 作:カードショップの闇結さん
「ははは、大儀であったな……闇結よ」
「本名言うのやめてもらっていいですか?」
「か、ははっ。我とお主の仲ではないか。闇結天音よ」
「なんだろう。フルネームで呼び直すのやめてもらっていいですか?」
俺は男に変装して、悪の組織の招集に応じていた。そのはずだが、こいつ、わざわざコードネームじゃなくて、本当の名前を呼びやがる。
嫌がるのをわかっててやってくるんだから、ウチのボスは嫌な性格してると思う。
「まぁまぁ。こんなふうにお茶目なところが、リリカのいいところなんだから。それに今は誰もいないし」
「ラフィさんは甘やかしすぎですよ。娘に甘すぎです」
「まぁまぁ」
ラフィさんは、モンスターである。ウチのボスは、もともと孤児で、モンスターに育てられたとかいうゲキ重な過去を持つ。
だからか知らないけど、日本語とドラゴン語のバイリンガルだ。変なしゃべり方はドラゴン語訛りらしい。ドラゴン語って、なんだよ……。
「とはいえど、我らの解放軍は、闇のカード委員会に追い詰められつつある……」
「王のやつが捕まったのは不味かったよな」
前の一斉検挙で捕まったのはウチの組織のエース、王妖花だった。ウチで一番強いのは、間違いなく彼女だった。
あいつが暴れてくれたおかげで俺たちは逃げられたんだけど。
「おかげで、我ら解放軍の戦力は半減じゃ」
「はは……」
バカみたいに強いカードでバカみたいに強い女だった。あのカードパワー相手にリソース勝負を挑むやつはバカだろう。
…………。
私はバカです……。
ともかく、あいつのバカみたいな強さだった。だから、あいつがいなくなるだけで、こっちの戦力は半減したと言ってもいい。
「とはいえど、新たに情報が入ったのじゃ。妖花のやつ、捕まる前に闇のカード委員会の刺客を百人、真のファイトでぶっ殺したそうじゃ。こちらが半壊ならば、あちらは全滅じゃ」
よく、カード一枚を使って、一枚のアドバンテージを取ることを1:1交換と言う。
「1:100交換かよ……」
バカみたいなアド差だった。カードゲームなら、GGだろう。
「死力を尽くして戦い、力の尽きたところを拘束されたらしい。その姿は、現代の弁慶じゃったとか」
この世界の弁慶は、仁王立ちに、死してもカードを手放さなかったらしい。
カードゲームの合戦って、なんなんだろうなぁ。
「やっぱ、あいつ負けてないのか……」
「負けてないのじゃ」
ちょっと安心する。まぁ、一応、仲間だしね。一応。
「それなら、死んでませんね。選ばれた真のファイターである彼女は、真のファイト以外で死にませんし」
ヌッと出てくるのは、俺の相棒だった。
ちなみに、王に付いてるその除去耐性は俺やボスにも付いていたりする。
「おひさー、ラーちゃん」
「おひさーです。リリちゃん」
ウチのボスは、モンスターと仲良くなるのがうまかった。ウチの相棒とも、あだ名で呼び合う仲だった。
「ただ、いくら俺たちが、死なないとはいえ、王のやつは死刑だろ? 適当な雑魚デッキ握らせて倒せば……」
「デッキが彼女に応えるでしょう。封印されたカードは無理でしょうけど、元のデッキのカードが集まってきたり、彼女に合った切り札にカードが変わると思いますよ? そうやって、今までの切り札も作られたみたいですし」
「えぇ……」
どんな星のもとに生まれてきたんだよ、あいつ。闇のカード生成機かもしれない。
まぁ、デッキに知らないカードが紛れ込んでいたり、手札のカードが別のカードに変化したり、真のファイトではよくあることだ。そういうことなんだろう。たぶん……うん。
「まぁ、たぶん大丈夫じゃな。とはいえ、なるべく早く救出に行かなければならんが」
「そうだよなぁ。百人もやられたら、あっちは体制立て直すのに精一杯だろうし」
今度こそ、俺、死ぬかもしれない。まぁ、それまで人生楽しめればいいけど。
「よし、ちーちゃんから、あやつがどこに囚われているかの情報が入り次第、決行じゃな」
「心配だなぁ……」
ちーちゃんというのは、ボスが仲良くしてるモンスターだった。諜報に長けているため、こうしてよく使いっ走りにされていた。
この分だと明後日とかにも決行になりそうだった。なんだかなぁ。それまでに太く長く生きてやるかぁ……。
***
カードショップ、『レボリューションズ』。田舎のカードショップって感じのカードショップだった。
そんなところに私たちは、よくたむろしていた。
「まさか、津雲が負けるなんてな」
「世界は広いなのですね」
自分の実力を試したい、と思うのは当然だろう。こんな田舎じゃ、月に一度大会があるかどうかだ。大会に出るようなメンツもほとんど固定だし。
だからこそ、私は刺激を求めて、電車で片道一時間、都会の夜の街に繰り出していた。私の実力なら大丈夫という驕りがあった。
「まぁ、相手は闇のカードばかり使ってたし、あんな回り方されたら勝てないよなー」
あのとき撮っていた対戦動画があった。それをみんなに共有して、反省会だった。
私が撮ってくる対戦動画は、刺激の少ないこの田舎町では好評だったり。
真のファイトは法律で規制されているから、当たり前だがネットにはアップしない。ただでさえ、補導される時間だったのに、生徒指導じゃ済まないだろう。
「やっぱり、私のデッキには……スペルに対する誘発札が薄い……」
誘発札は強い。条件が整いさえすれば、コストを払わずに手札から無料で出せるからだ。
だが、条件を満たさなければコストの重いカードでしかない。使い所の難しさはピカイチだった。
「スペル連打されて、何もできなかったもんな……。あんなのキツすぎるって」
私に同意するように、炎野が言う。
あの試合、相手のスペルを完全に通されて、ほとんど無抵抗な形だった。
「でも、そういうのを無計画に入れたら、デッキが歪むだけだぞ? 自分の動き押し付けるのが強いって」
「闇結さん」
いつのまにか、私たちの話していたテーブルに近づいてきた店員の闇結さんだ。
構築論を語る闇結さんに、みんなは少しだけ嫌そうな顔をしていた。
「闇結さん……まずは自分のデッキをどうにかした方がいいと思うのです」
「闇結さんが勝ってるとこ、見たことない」
「な、なんだとー!!」
闇結さんは、みんなが目を引くほどの美人だった。艶やかな漆黒の長い髪に、羨ましくなるくらい透き通った白い肌。そして、女の私でもつい目に留まってしまうくらいの大きい胸の女の人だ。
ただ、そう。美人でもファイトが弱い人はちょっと……。と、男子たちが話しているのを私は聞いたことがある。ふ……っ。
「ファイトしろー!! 店員の強さを見せつけてやるー」
「炎野、付き合ってやるのです」
「えっ、俺?」
光谷に引っ張られて、炎野が闇結さんの前に連れて行かれる。
「お前だな! 私の餌食になるのは……!」
シュババと闇結さんはデッキをシャッフルし、すでにボードにデッキをセットしていた。
「餌食って……。いつでもいいですよ?」
「ん、私後攻だ」
ボードに、先手後手が表示される。
「じゃあ、一枚ドロー。一コスト、『突撃兵アルス』を召喚」
先行一ターン目のみ、ドローは一枚だった。赤、一コストのモンスターが盤面に置かれる。
「むむ? 二枚引いて、土地、ジェムにカードを置いてターンエンド」
一ターンは、早いデッキでもない限り何もできないのが普通だ。
「ドロー。二コスト、『アルファ・バード』。『突撃兵アルス』でアタック」
「ライフで」
一点、闇結さんのライフが削られる。
「ターンエンド」
「二コスト。『さざ波』」
青のハンデスカードだった。闇結さんの選んだ一枚が、墓地へと置かれる。
「じゃあ、こっちのターン。三コスト、『ベータ・バード』。『アルファ・バード』と『突撃兵アルス』でアタック」
「……っ!? 通す!」
闇結さんのライフがあっという間に削られた。もう、三点削られている。
「誘発札とか、持ってないんですか?」
「うぅ……三コスト。『チャージ・ウェイブ』。相手の手札を一枚見ないで選んで捨て、その後自身はカードを一枚引く」
このカード、強い。1:2交換。序盤にハンドアドバンテージ1枚分稼ぐことができる……相手のデッキタイプによっては、かなり強く使えるカードだ。
ただ、もう炎野には手札がなかった。一枚引くだけで終わる。どんなに強いカードも、使い手が弱かったこんなものだろう。
炎野は、土地にカードを置かずに、ジェムだけを起き、モンスターを召喚する。
「三コスト、『アルファ・バード』を『神炎鳥オメガ・バード』に進化。『神炎鳥オメガ・バード』はジェムを一枚、墓地へと送ることで、未使用のジェムを自身の上に起き、さらに、このターン二回攻撃を行うことができます」
「……っ」
「アタック。誘発札、使いますか?」
「使いません」
あっという間に闇結さんのライフが残り三点になる。
「次のターンで終わりですよ?」
やっぱり闇結さんは、勝てないんだろう。
「あ……っ!」
「ん……?」
闇結さんが、ドローのとき、声を上げた。なにか良いカードを引いたのだろうか。
「四コスト、『号哭』。ジェムを一枚破壊。ターンエンド」
ようやく、モンスターを破壊できた闇結さんだ。にっこりとしている。
「ジェムは、『ベータ・バード』と『神炎鳥オメガ・バード』の上に。『突撃兵アルス』は消滅させる」
召喚したばかりのモンスターは、能力を使わない限りそのターンアタックできない。ただ、打点は足りている。
「ふふ……」
それでも、ニッコリしている闇結さんが気がかりだった。
「『ベータ・バード』のジェムをデッキボトムへと送り、能力発動。このターン、相手はスペルを唱えられない。『神炎鳥オメガ・バード』で一点」
「通す」
流石にあやしすぎたからか、炎野は安全策を取った。闇結さんのライフは残り二点。
そういえば、土地に置かず、モンスターを出さずに、炎野は、一枚手札をキープしてる。あれは……。
「私のターン。五コスト、『号哭と波浪の災禍』。ジェムと手札を一枚ずつ墓地へ」
青、赤の複合色のカードだった。一枚で、相手のカードを二枚奪える純粋な強さが、そこにはある。
「ちょっと待った。カウンタースペル、『反撃の狼煙』。相手がコスト4以上のスペルを唱えたとき、使用できる。山札から一枚を、未使用ジェムに」
あ……。
「……タ、ターンエンド」
闇結さんはショボンとしてターンを明け渡した。
「『ベータ・バード』の能力を使い、スペルを封じる。さらに、『神炎鳥オメガ・バード』の能力発動、二回攻撃」
「ぐあー」
わざとらしく、闇結さんは、後ろへと後退して見せる。
やっぱり、闇結さんは負けてしまった。今回は、いいところまで行ってたんだけど。まぁ、こんなものだろう。
「やっぱり、闇結さんはダメなの」
「ふえー」
光谷は闇結さんをそう言って虐めていた。あれが、ファイトの弱い人間の末路か。
私は近づいて話しかける。
「闇結さん。小型除去入れましょうよ」
「ジェム破壊したら、除去できるからいらないもん……」
「間に合ってないでしょ……」
「えーん」
だ、大の大人が……。
まぁ、これが、このカードショップの日常だった。
変わったことといえば、私があのファイトのトラウマから、カードを握れなくなったことだろう。
このゲーム、リソースかつかつで速攻は弱い。
それに負ける闇結さんはもっと弱い!
子どもたちは、みんなそんな感じの認識です。