カードゲームの悪の組織で幹部をやってます。闇のカード(禁止カード)が強いです 作:カードショップの闇結さん
「あ、そうです。思い出しました。実は、俺ら、来週の大会に出るんですよ」
私を速攻でケチョンケチョンにした後、炎野ちゃんはそう言い出した。
こいつらは、私の働いているカードショップでよくたむろしている赤、青、黄色の信号機みたいな髪の色をした女の子三人組だ。
やっぱりこの世界、男女関係なくカードゲームをしているのが普通だった。
カードゲームで強いやつが、意見を通せるのがこの世界のルールだった。
カードゲームに勝てば、警備員は警備しているはずの建物の鍵を開けたりしてくれる。そして、警備員が咎められる部分は、どうしてファイトに負けたかだけだ。
私の常識じゃ、負けても鍵は開けないんだけどなぁ。ちなみに、ファイトに負けたのに鍵を開けないと、新聞で報道されて犯罪者より非難される。
なんで……?
「車出しやがれ、なのです」
「ふえーん」
こうして、ファイトに負けた俺には人権がなかった。
言われるがままに、俺のスマートフォンのカレンダーに、来週の予定が詰め込まれる。
これで断った場合、ファイトに負けたのに……みたいな感じに口汚く罵られて俺の人としての評判はガタ落ちになり、村八分にされてしまうだろう。
なんで……?
弱肉強食すぎる世の理だろう。ファイトの強い人間は全てを押し通せるのだ。
暴力が、ファイトになったと思えば平和なのかも……いや、でも、真のファイトとかあるしなぁ。
「炎野。移動方法も決まったし、学校に公欠の申請しておくの」
「へいへい」
炎野ちゃんの立場は弱い。三人の中では、青の子、黄色の子、赤の子の順のカーストだった。その下に俺がいる感じだ。
とにかく、足と当日の保護者をゲットしたからか、三人はご満悦だった。
「三人は、大会の調整って感じ?」
俺は悩める若人の構築の話を聞きつけ、老婆心ながら力を貸してやろうと、口を出した次第だった。なんか速攻にボコボコにされたけど。
「それもありますね」
「ん……?」
正直、話を聞いたのは途中からだから、よくわかっていない。
ちょっと違うのか?
「闇結さんと構築の話とか、無駄な時間なの」
「酷い……!? これでも私、チャンピオンシップの準優勝経験なら、たくさんあるよ」
優勝がないのは、まぁ、王のやつのせいだ。
私は常にあいつにボコボコにされ続けていた。闇のカード認定は同時だったし、結局、優勝はできなかったけど。
「あれ、アーカイブ見たけど、闇のカード使ってたの。闇のカードを使えば、誰だって勝てるの」
「うわーん。そのときは、闇のカードじゃなかったもん」
俺の評判は、闇のカードを使ってたずるいやつである。カードパワー的に仕方ないけど……仕方ないけど。
「というか、闇結さんって、なんでほんとに速攻対策とか入れてないんですか?」
「そりゃ、負けたらおしまいの大会で、速攻みたいな有利不利が明確につくデッキは使わないでしょ、普通。ガキどもは速攻大好きだけど」
速攻は、受けの硬いデッキが来たらおしまいだ。そういう場合、相手の手札が事故ってることを祈って、殴り続けるしかない。勝率は一割くらいもないんじゃないかと思う。
このゲーム、ターンの初めに手札二枚引けるから、なかなか事故らないんだよね。
まぁ、安いカード資産で比較的勝てるデッキだから、子どもたちの中で流行してるんだとは思う。
「ガキ……」
速攻使いの炎野ちゃんが、ちょっとショックを受けていた。
負けたら終わり……で言えば、真のファイトもそうだ。あれも、なんだかんだで速攻使いはかなり少ない。まぁ、闇のカードが使える分、俺の受けもちょっとは硬いし、今よりそこそこは戦えると思う。
でも、まぁ、負ける時は負けるか。
「速攻は弱いって言っても……赤青型のビートデッキとかは強いよ? ジェムと手札をバンバン増やしてリソース差で殴り勝つやつ」
まぁ、ビートデッキと速攻は、殴り勝つという結果は同じだが、狭義には違う。
そこを話すと日が暮れてしまうので、やめておくけど。
「多色……」
ちょっと、津雲ちゃんが、感慨深げに言った。
「違う色に浮気すると、モンスターに嫌われて手札が事故るの。多色を使いこなせてるプレイヤーで、弱いの闇結さんしか知らないの」
「ぐふ……っ」
そう、この世界……モンスターの機嫌によって、手札が事故ったりするのだ。他の色を入れるのは、モンスターに嫉妬される要因のため、十全なデッキパワーを発揮されなくなったり。
一応、メインのモンスターが、多色系でリーダーキャラなら、そこもクリアできるか。
「俺に青を入れる甲斐性は、今のところないから」
「どんまいなの」
現実って厳しいなと、俺は思う。
でも、俺の場合、使い続けたら手に馴染んだっていうのもあるから、使ってみればいい……と思ったが、大会が来週なのにそれは無理か。
デッキ改造、というのは一筋縄にはいかないものだ。
「パック買う?」
「シングルがいいの」
「はいはい。カタログね」
シングルっていうのは、カードを単品で買うことである。
うちの店の品揃えは、あんまり良い方でもない。大会で使えるようなカードはだいたいソールドアウトだ。
「やっぱり、いいカードはないの……」
「いつも見てるよね」
「光のいいカードが手に入ったら、私に売るの」
「早い者勝ちだよ?」
さすがに、そんなふうに贔屓はできない。
「じゃあ、このカード、在庫待ちで予約するの。三万は出せるの」
「わかった、わかった。高価買取りで、広告出しとくけど、期待はしないでね」
カードは魂。売る人が少なければ、買う人も多い。取引がある場合、一万二万の馬鹿みたいな値段が常だった。
ふと、津雲ちゃんが、目を留めた。
「このカード……」
「お、お目が高い」
津雲ちゃんが見たカードは、ちょっとした変わり種だ。
名前は『アクアマリン・ジャックドラゴン』。九コストのモンスターだ。
ただ、普通のカードとは違い、WINNERの文字が刻まれている。
カードのフレーバーテキストを見てみよう。
――お前は全てを奪われたことがあるか?
つまり、まぁ、そういうことだ。
世界に十六枚くらいのカードだった。
ヒストリーっていうなんだったかの記念の大会があって、三位までが、モチーフのモンスターで、こうしてカードが作られたってわけだ。
「闇結さん。これいくらですか?」
「ん? 一千万くらい?」
「なんで売ってるの? 家宝として、大事に取っておくべきなの!」
一千万は安すぎると、さらに文句を言われてしまう。
カタログに混ぜておいたら面白いかな、なんて、思ってただけだ。値段の部分は書いてないし。
「見たい? あるよ?」
「……っ!?」
三人が、私の言葉に固まる。
固唾を飲んで、食い入るように私を見つめていた。
「じゃあ、ちょっと取ってくるね?」
「………っ」
実は、このカード、もっと面白いことがある。
俺は、コレクションボックスから、カードケースを取り出して、持っていく。
「じゃじゃーん!」
ヤケに豪華な額縁に飾ってある感じだ。そんな厳重なケースを二つ、持ってきた。
「え……二つ……?」
「うん、こっちが予選優勝で勝ち取ったやつね。んで、もう一つ、こっちが、試供品」
「試供品……っ!?」
俺がモデルになるのだから、試供品くらい配られるだろう。
「ほら、ここに数字があるじゃん? No.01ってなってる。だから始めに作られた試供品ってわけ。こっちは06だね」
ヒストリーの次の大会で本戦に参加した時に配られたんだけど、会場に入った順のナンバーだった。
あの大会、あとで、アーカイブを見直したら、実況は俺のことをこのカードの紹介と一緒に、かなり推してた思い出だ。
さすがは、その全てを奪う戦いっぷり! ……みたいな感じに……。
「それって、一億はするんじゃ! どうして、セキュリティのセの字もない、こんなカードショップにあるなの……」
「い、一億……」
炎野ちゃんは、面をくらってふらついていた。
「ちょっと、近づいてみてもいいですか?」
「いいよ? なんなら、持ってみる?」
「ほんとに……っ!?」
津雲ちゃんは興奮気味に、私からカードが入った額縁を受け取る。
「あ……っ」
「え……っ?」
瞬間、カードが輝き出した。
眩しくて、目を逸らす。こんな光、覚えがある。
「は……っ!? これが、一億の輝き……」
炎野ちゃんがそう呟いたが、そんなわけがないだろう。この子、思ったより面白いな。
「真のカード……」
真のカードっていうのは、なにも落ちてるのを拾うだけじゃない。こういう偽カードでも、才能のある持ち主が手にした場合、真のカードに変わるのだ。
「え……っ、え……っ」
「おめでとう。それは、君が持つべきカードになったかな」
「え……っ、一億、え……っ?」
「できれば分割払いでいいので、お願いできますか……?」
「え……?」
***
「俺はレアカードハンター、アガレスだ。波動を感知した。知ってるんだろう? 真のカードの在処を……っ! ついでに、貴様の店のレアカード、俺がもらい受ける」
真のカードレーダーによって、真のカード反応を察知していた。彼は、レアカードハントの旅をしているしがないカードハンターだった。
レアカードを手に入れ、それがデッキに合えば自らが使い、合わなければ闇に売り金を得る。そうやって生活をする無頼の男だ。
「私はちょっと、気が立っていてね……。相棒、とまではいかないが、長年連れ添ったカードだった……乗り換えられた。割とこたえてるんだ」
「真のファイトを申し込む」
真のファイト……負ければ死ぬ、そのファイトだ。数多くの不法行為を働くこの男は、通報機能の都合上、バトルボードでのファイトができなかった。
「先に刀を振り上げたのはそっちだ。いや、この世界だと、デッキを置いたのは……か。俺……いや、私……どっちでもいいか。気が立っているから、優しくできそうにない」
なにか、気がかりだった。
情報は先に手に入れていた。この女はとても弱いと知っている。真のファイトは受けずに、全てを差し出すと思ったが、そうではないようだ。
あぁ、いくら弱くとも、気は抜かない。この女の弱点である速攻デッキを握る。
「はは……っ! 先手必勝! 『突撃兵アルス』を……」
「――『浄界の輪』」
「……っ!?」
出せない。『突撃兵アルス』が出せない。
なにをされた? なぜ、出せない?
まさか――、
「『浄界の輪』。相手が土地の最大枚数と同じコストのカードをプレイしたとき誘発。相手の土地のカードを一枚墓地に送り、加えて全ての土地を使用済みにする」
――土地が!?
出せるはずの『突撃兵アルス』が出せなかった理由は単純。召喚前に割り込み処理をされたスペルにより、召喚に必要な土地が足りなくなったのだ。
「闇のカードだと!?」
知っている。このカード、存在するはずのない闇のカードだ。ファイチューバーの緑ちゃんの『最強闇のカード決定戦シリーズ』という闇のカード解説動画で見たことがある。
実際に、この目で見ることになるとは……。
「真のファイトだ。当たり前だろ? 私のターン。ドロー」
「…………」
「土地をチャージしてターンエンド」
落ち着け。土地のカードを一枚失っただけだ。
いや、この一枚は大きいか? 完全な出遅れになる。
どうする? 召喚するか? 『突撃兵アルス』。
これ以上、土地は破壊されたくない。あのカードの誘発条件は、土地の最大枚数と同じコストをプレイした時。たとえば、土地が二枚なら、一コスト一コストで使えば、誘発しない。
そうだ。速攻なら、それができる。闇のカードといえど、大した脅威じゃなかったな。ははっ。
「召喚はしない。ターンエンド」
「土地をチャージ。二コスト、『さざ波』」
ハンデス。手札のカードが一枚なくなる。なくなったのは、『突撃兵アルス』。運のいいやつめ!?
「くそ、もう一枚の『突撃兵アルス』を召喚。ターンエンド」
「三コスト。『エナジー・ウェイブ』。山札の上から一枚を土地エリアに。その後、相手の手札を一枚見ないで選んで捨てる」
さらに、手札がもう一枚奪われる。手札はもうない。最初に、『突撃兵アルス』さえ出せていれば、スペルの前に使い切り、すでに手札はなくなっていたはずだった。
土地の増強と同時に行われる妨害行為。そのカードは、間違いなく強い。
「ドロー!! ……っ!? 土地を一枚置き、三枚に!! 二コスト! 『追撃兵ヤヒコ』」
「…………」
悪くない。だいぶ、動きが遅れていはする。だが、まだ取り返せる範囲でもある。
「『追撃兵ヤヒコ』のジェムを未使用状態に。それにより、能力発動。未使用状態のジェムを他のモンスター……『突撃兵アルス』にセットすることができる」
これで、アルスが二点の攻撃をできるようになる。これこそが、速攻の黄金ムーブ!
「『抑制の翼』……発動」
「また、闇のカードか……っ!?」
誘発札だった。『追撃兵ヤヒコ』のジェムが未使用状態にされる前に、墓地へと焼け落ちる。
だが、待ってくれ。
相手の手札が……多い? 誘発札二つに、ハンデス二つ。もう手札がなくなっていてもおかしくないが、相手はまだ抱えている。
「ジェムを置いていない……?」
――なんてやつ!?
驚きつつも、『突撃兵アルス』で一点を通し、ターンを渡す。
そうだ。モンスターで殴らなければ、このゲーム、勝てない。当然、ジェムを消費して、毎ターン大きくアドバンテージを稼ぐカードがあるのもモンスターだ。
それに、ターンに一回しかジェムはおけないのだ。それを捨てての、ジェムのゼロ置き。大胆なんてものじゃない。狂人の類いだろう。
「『災禍』サイクル……。サイクルってことばは知ってるよな?」
それは、コンセプトの共通する、カード群のことだった。
「それが、なんだ?」
「このゲーム、手札のランダム一枚破壊がだいたい、一・五コスト。土地、ジェムの破壊が、三・五コストになる。だから、ハンドとジェムを破壊する『号哭と波浪の災禍』は、一・五に三・五を足して、五コストで撃てる」
「…………」
「ついでに、手札と土地を破壊する『波浪と荒野の災禍』も五コストだな」
「なにが言いたい?」
今ひとつ、要領を得ない。困惑する。
「ま、だから、このカードは、本当は存在しちゃいけない。
――『荒野と号哭の災禍』。
「……っな!?」
ジェムとマナが……! 一枚ずつだと……!
馬鹿な……! 五コストだぞ……!
知らなかった。あんなカードがあるなんて……っ!
「ターンエンドだ」
「こっちのターン……! ジェムは、『突撃兵アルス』と『追撃兵ヤヒコ』に一枚ずつ置く。ドロー、く……ははっ」
「……?」
足りない。リソースが圧倒的に足りない。
この足りないリソースを回復する方法はただ一つ。土地を一つ置く。
「赤青三コスト。スペル、『カウンター・チャージ』! 手札を二枚引く!! そして、このカードが手札の最後の一枚だった場合、さらに一枚引く!」
赤、青の複合色のスペルだった。そう、このデッキは赤と青、二つの色を混ぜたデッキだ。青と赤のリソース補充能力により、無限に殴り続けられる!
「誘発、スペル『反転の矢』。まず、相手の手札を見る」
「……っ」
スペルの割り込みが発生する。そうなると、『カウンター・チャージ』はまだ発動前。手札にある。
「相手の手札を一枚えらぶ。それがモンスターなら、墓地に置く」
「…………」
まぁ、そうだろう。青系のスペルに対するカウンターはハンデスだ。手札から、発動するはずだったスペルがなくなれば、そのスペルは発動するタイミングを失ってしまう。
「それがスペルだった場合、俺が唱える」
「は……?」
唱えるって、……相手のスペルを?
そうだ、思い出した! このカードは、最新の『最強闇のカード選手権』の次回予告にちらっと映ったカードだった。
横取りなんて……っ!?
起死回生の一手のはずのそのカードが、相手によって使用される。
「ちなみにカウンターチャージが参照するプレイヤーは、カードの持ち主の方だ。こっちじゃなくて、そっち。だから、俺は三枚引ける」
「そんな……っ!? 知らなかった!?」
そもそも、スペルを奪われる機会なんてそうそうない。まさか、こんなことが許されるなんて……。
「あぁ、唱えたから、スペルは墓地な」
相手に唱えられ、もう使えない。
アタックフェイズ。やるしかない。
「『アルス』、『ヤヒコ』でアタック」
「通す」
「ターンエンド」
まだだ。まだ……。
なにか手があるはずだ。なにか、手が……。
でないと、死ぬ。殺される。……死……。
「ジェム、土地を置く。墓地から『抑制の翼』、『反転の矢』、『浄界の輪』を一枚ずつ手札へ」
「は?」
三枚の誘発札が、手札へと戻される。
なんだ。なにが起こった。
「そうすることにより、このモンスターの召喚コストが二軽くなる」
「……っ!?」
酷く、嫌な予感がした。耐えきれないほどの重圧が、襲いかかる。
「お前は全てを奪われたことがあるか?」
「……っ」
「六コスト」
***
「いぇーい。闇結。元気なのじゃー?」
「不元気です」
「そんな言葉ないじゃろ……」
ボスはショボンとする。
というか、電車で片道一時間のところに呼びつけておいて、このテンションでのウザ絡みはやめてほしい。ほんと。
「我で良ければ相談乗るのじゃよー?」
「いいです。この気持ちはあなたにはわからない」
「なんか、嫌な突き放し方するのじゃな。ほらー、元気じゃ、元気。我、元気」
ボスは変わらず明るく接してくれていた。なんとなく、慰めてくれているのは伝わってきている。
「うぅ、若者の門出は祝ってあげるのが道理でしょう? だから、だから……」
「大丈夫ですよ。マスター。やつには、いつかマスターのデッキから抜けたケジメ、付けさせてやりましょう」
「そういうのはダメなのーぉ。うぅ」
「なんか、だいぶ堪えておるのだの」
「ずっと、この調子で……」
ボスは、ちょっと考える。
そして、私の肩にポンと手を置く。
「王妖花奪還作戦の話のつもりだったんじゃ。すまぬの……」
「いく……」
「じゃが……」
「いく……」
開放軍の一員ならば、責任を果たさなければならない。たとえメインデッキが三十九枚でもだ。
「なら、決行は次の大会のときじゃ、闇のカード委員会も、大会に注力し、監獄に専念できぬ」
「あ、ごめん、その日用事ある」
信号機娘たちの送迎だった。
「お主、マジで、なんなん?」