カードゲームの悪の組織で幹部をやってます。闇のカード(禁止カード)が強いです 作:カードショップの闇結さん
大会当日である。
「じゃ、私は他に用事があるからこれで」
「闇結さんは見ていかないんですか?」
「私はそういうの卒業したの。せいぜい頑張れよ。ガキども」
「ほえー」
そして、俺は車から見送る。
「しょせん、カードパワー頼りだったことを思い知っただけなの」
「やっぱり、速攻にやられるのは厳しいよね……人として」
さっさと行けよ……。
いちいち文句つけられるなんて……これも敗者の定めか。この世界、敗者に厳しすぎる。
「健闘したら、私が自腹切って、一個ずつオリパ買ってあげるぞ!」
オリパとは、オリジナルパックの略である。カードを集めて店で封入したオリジナルなパックだ。
「健闘? 健闘って……どのくらいだ?」
炎野ちゃん、かなり食いついてくるじゃん。
「まぁ、ギリ予選通過できなかったくらいあたりかな」
「じゃあ、もし、そこまで行ったら、五万円の高級オリパをお願いします!」
「そんな、オリパ。うちにないから……」
せいぜい、三万円だ。この世界、カードの単価が高すぎるから、オリパ作ってもかなりの値段しちゃってるんだよね。
「三人で勝って、三色を分け合うのがベストなの……」
「まぁ、違う色使えないし……もらってすぐ売るのもちょっとアレだし、それが一番いいかな」
「頑張るぞ……!」
薄々そんな気がしてたけど、炎野ちゃんって、カード資産がないのかもしれない。デッキも速攻だし。
まぁ、だからって、俺にどうにかできる話じゃないけど。
三人の立場でいえば、一番お金を持ってるのが光谷ちゃんだ。たまに、買ったパックの赤や青のカードをみんなに分け与えてる姿を見かける。割とこの子は貢ぐ女だと、私の勘が言っている。
「じゃあ、頑張ってね!」
やる気に火をつけた三人を私は見送る。ふふ、そして俺は用事へと向かう。
***
「く、く、く……」
実は、俺も大会の予選の登録はしていた。
三人娘の送迎をこなしつつ、王奪還作戦に参加するその方法があった。
そのために、俺は大会の予選に登録した。
もちろん、俺は男装をしている。男装をしているが、その上からまた変装を重ねがけしている。
変装に変装を重ねているとは思うまい。これで、俺の正体がバレることはほとんどないだろう。
「では、顔写真付きの身分証明書をお願いします」
「え……?」
「もしなければ、顔写真のない身分証明書を二点提出でも可能ですよ?」
「最近の大会って、そんな厳しいの!?」
カルチャーギャップだった。
昔だったら、うぇーいって入って、うぇーいって戦って、うぇーいって解散しておしまいだった。
「多重登録して、参加賞をたくさんもらおうとか、そんな不正があったんですよ」
「へぇー。ちょっと車に忘れてきたっぽいんで、取りに行きますね」
「はい」
ちょっと怪しかったかもしれない。
まぁ、いいや。構わない。
駐車場まで私は歩く。
「どうするつもりですか?」
こういうときにヌッと現れてくる天使様だ。ちょっと遠い安めの駐車場に停めたから、そんなに人もいない。
「こういうときには、真のファイトでゲットした……保険証と、住民票がここに……!」
「保険証はわかりますけど、住民票って……」
「最近はファイターナンバーカードを使えば、コンビニで印刷できるからね」
「なるほど、……でも、監視カメラとかで、もしバレたら足がつきません?」
「もう三ヶ月前だからデータ消えてるでしょ」
「用意周到ですね」
「まぁ、悪の組織だし」
身分詐称は悪の組織の基本のキだろう。
これで、俺も、大会に参加できるってわけだ。
受付時間もあるから、ちょっと急ぎ足で会場に戻る。
「保険証と、住民票の二点ですね……」
「よろしくお願いします」
「はい、確認しました。大丈夫ですよ?」
「…………」
内心で、グッとする。
控えとかも取らない、だいぶ緩い感じだった。たぶん形だけって感じなんだろう。
大会の形式は、スイスドロー方式だった。
まぁ、色々と難しい話はあるけど、全勝したら、決勝に進める……参加人数と試合数的にはそんな感じだった。
とりあえず、速攻に当たらないことを祈って、行こうか。予選へ。
「対戦ありがとうございました」
そうして俺は勝ち進んだ。
結局、速攻には当たらずに、七戦を終えることができた。次、勝てれば決勝に進出である。
「次の相手はあなたなの」
「あ……っ」
光谷ちゃんだった。
これは、スイスドロー形式。七勝同士がぶつかり合っているわけだ。
なかなか、頑張ってるじゃないか。
「対戦よろしくなの」
「よろしくお願いします」
バレてない。バレてない。
バトルボードに山札をセットし、カードを引く。
「先攻みたいなの。ドロー。土地、ジェムを置いてターンエンド」
「俺もドロー。土地とジェムにカードを置いてターンエンド」
一応、いつもお店で使ってるデッキとは違う。カードから身元バレとか嫌だしね。
「ドロー。……ターンエンド」
二ターン目も、光谷ちゃんは、土地とジェムを貯めるだけで、なにもしない。
「俺のターン。二コスト、『エナジープラス』」
山札の上から、一枚が土地エリアに置かれる。
二コストのブーストスペル。緑があるデッキに、『エナジープラス』を入れないやつはいない……と言われるまでのカードだった。
まぁ、緑混色の速攻系には入んないけど……。
「…………。ターンエンドなの」
三ターン目、光谷ちゃんはなにもなかった。いつものこの子のデッキなら、三ターン目に動ける札はあるんだけど……ちょっと回りが良くないみたいだ。
「四コスト、『号哭』」
そして、俺の十八番である。
このカード自体は、汎用カードで、結構出回っているからバレないだろう。俺が大会に出る前も、パックで出回ってたみたいだし。
なんにせよ、相手のジェムを破壊できる。二枚になる。
「……っ。私のターンなの。四コスト、『静止する光』。相手は、次の自分のターンの初めまで、スペルを唱えられない」
スペル主体の俺のデッキには、ガン刺さりするカードだった。
いま、土地に置かれている俺のカードたちを見て、このカードが刺さると判断したのだろう。
この子は、こういうことをやって、店員の私をいじめてくる。ただ、今の俺は店員じゃない。
「五コスト、『海妖地霊ダルゴン』召喚。アタックフェイズ。このカードのジェムを墓地へ置くことで、山札の上から二枚見る。一枚を土地へ、一枚を手札へ」
このカード、タコみたいな顔をした怪物のイラストだ。その見た目と裏腹に、堅実な効果で、堅実にこっちのアドバンテージを稼いでくれる。
「く……私のターンなの。五コスト、『光の聖者リリエス』召喚。ジェムを手札に戻すことで、能力発動。『海妖地霊ダルゴン』を指定。次のターンの初めに、このカードにジェムを置けない」
白は、相手の行動妨害に長けている。
光谷ちゃんは、『海妖地霊ダルゴン』に毎ターンアドバンテージを稼がれることを嫌ったのだろう。
私のターンの初めに、ジェムを置けなかった『海妖地霊ダルゴン』は、消滅して墓地へ行った。
というか、強いな『光の聖者リリエス』。条件付きとはいえ、アドバンテージをほとんど損なわず、毎ターン除去が放てるわけだ。
「ただ……七コスト。『劫火』。相手の未使用ジェムを全て墓地へ」
相手のモンスターは一体。ジェムはついていない。
つまり、未使用ジェムの三枚が墓地へと消えていく。
「そん……な……っ」
三枚のジェムに、一体のモンスター。
1:4交換を成立させた。七コストの強カードだ。
「さぁ、ターンエンドだ」
「ふん、ジェムくらいくれてやるの」
「さてね……」
ジェムは大切だ。モンスターは、ジェムを消費して、毎ターンアドバンテージを増やす能力を持っているし、ライフを削る打点にもなる。
モンスターだけで回り始めた場合、ジェムがあれば土地が要らなくなる瞬間もあるくらいだ。
「六コスト。『光騎士クレス』。ジェムを未使用状態に、能力発動。山札から三枚を捲る。そのカードが名前に『光』とあるカードならば、手札に加える」
「へぇ」
三枚、光谷ちゃんは手札に加える。まぁ、光谷ちゃんの光デッキだ。このくらいは普通だろう。
「さらに……全てが、『光』とあるカードだったとき、相手は次の自分ターンの初めまで、スペルは使えない」
なかなかにいやらしい効果をしてると思う。
私の土地にある『津波』を警戒したんだと思う。このスペルは、七コストで、相手の手札を全て墓地へと送る効果だ。このタイミングで、これを唱えられたら、光谷ちゃんは負けるだろうし。
三枚とも光のカードで、光谷ちゃんは、少しホッとした顔だった。
「俺のターン。『海妖地霊ダルゴン』を召喚。さらに、『追撃兵ヤヒコ』。『海妖地霊ダルゴン』の能力を使用。そこから、『追撃兵ヤヒコ』の能力で、ジェムを一枚、『海妖地霊ダルゴン』の上に置く」
「なかなか、小回りの効くカードを使うなの」
あのレアカードハンターの回し方を見て、『追撃兵ヤヒコ』はなかなかに悪くないんじゃないかと思った。
このゲーム、ジェムが乗ってないモンスターは、簡単にやられるし。
「ターンエンド」
さて、相手のターンだ。
相手の土地は、七枚。そろそろ、切り札が来る頃合いだった。
「『光龍ダイヤモンド・エンドレス・ドラゴン』召喚なの」
「…………」
神々しい龍が、バトルエリアに降臨する。
これが、光谷ちゃんの切り札だった。
「『光龍ダイヤモンド・エンドレス・ドラゴン』の能力発動。ジェムをデッキボトムに送ることで、山札から、十枚を表向きにする。その中にある『光』のカードの数だけ、自分のライフを増やす」
「…………」
七点。光谷ちゃんのライフが増加した。
ライフが増えたから、なんだっていうんだ。カードに干渉しないアドバンテージだ。増やしたところでコントロール合戦には勝てない。
「その後、表向きにしたカードを山札の上へ、好きな順番に入れ替える。さらに、『光騎士クレス』の能力」
確定で、光のカードが表向きになる。俺はまた、スペルを封じられた。
「宣言するの。次のターンにお前は負けるの」
かなり、強気だった。
ここから、強力なコンボがあって、相手を倒せるのは、まぁ、知ってる。店員のとき、よく、くらってるし。
でも、こういうのは言わない方がいいんじゃないかと思う。
まぁ、焦らせて、相手のミスを誘う場合もあるから、一概には言えないか。
それでも、今は関係ない。やることは決まっていた。
「十コスト」
「……っ!?」
そのコストの重さに、光谷ちゃんが震えるのがわかる。
「赤、青、緑のモンスターが揃うように選んで進化!」
「あ……」
場にいる『海妖地霊ダルゴン』と、『追撃兵ヤヒコ』が生贄になる。
現れるのは、虹輪だった。
「『虹の神王イリス』召喚」
「この光。真のカード……」
カードは、拾った。
裏切られたのが悲しくて、ぼーっと土手を歩いていたら拾ったカードだった。
「ジェムを墓地に送ることで能力発動。各プレイヤーは、バトルエリア、土地エリア、ハンドエリアにあるカードを全て表向きにする」
「……!?」
手札に、ジェムが表向きになる。土地エリアのカードは元々表向きだが、たまに裏向きのまま置いたりするカードもあって、そのときにこの効果が役に立つんだろう。
「その中から、青、赤、緑の色を一つも持たないカードを全て墓地へ送る。その後、青、赤、緑以外の色を持つカードを全て墓地へと送る」
「な……っ!?」
青、赤、緑以外、絶対に許さないマンである。白単色の光谷ちゃんのエリアは、更地になった。
刺さる時はすごく刺さるカードだが、刺さらない時はめっきり刺さらない。
というか、青、赤、緑って、安全な範囲広すぎるんだよね。
そのピーキーさから、一枚採用だった。
「さ、ターンエンドだ。次のターンで、俺を負けさせてくれるんだろ?」
「……うぅ。……ごめんなさい」
涙目で謝る光谷ちゃんだった。
やったぜ!
とはいえ、俺の残りの山札枚数で、十七点ものライフを削り切れるかが問題だった。いや、ライブラリアウト狙いが硬いか?
ま、なんとかなるか……。
***
「おつかれー」
「いえーいなの!」
大会が終わって、俺たちは、ご飯だった。焼肉だった。
「うぅ、二勝だった……」
一人悲しんでいるのは炎野ちゃんだった。二勝六敗という成績で、まぁ、惨敗だった。
「元気出して。きっと、いつか、勝てるようになるよ。うん、たぶん」
そして、津雲ちゃんは、全勝。私と同じく、明日の決勝トーナメントに参加できる。
ちなみに、裏切り者のあいつは、まだ私のところにある。一億は無理らしい。
津雲ちゃんは、真のカードパワーで分裂した分身体をデッキに一枚入れていた。ま、デッキ三枚入れるカードじゃないし、それでもいいんだろう。分身体はWINNERじゃない普通のカードだ。
「オリパ……ぁ。俺だけ……ぇ」
「赤のカードが当たったら、分けてやるの」
「あ……っ、私も……」
三人の友情に感動しながら、俺は肉を焼いていた。
俺、焼く係。この子達、食べる係。
「そういえば、闇結さん、いっつも奢ってくれるけど、お金とか大丈夫ですか?」
「ま、大会にたくさん入賞してたからね。貯金だけはあるし、心配ないよ」
「おー!」
普通の人の人生何周分もあったり。元美少女準最強ファイターは伊達じゃないってね。
この世界のカードバトルは人気もやばければ、規模もやばい。まぁ、俺は、前世でいえば、大人気スポーツでのトップ選手くらいには稼いでいたと思う。
お金のせいで、親戚や家族関係は、一回めちゃくちゃになったけど、たぶん必要経費だろう。たぶん。
それにしても、CMに出演だけは最後までなかったな……。私のイメージが悪かったせいだろう。
あの頃は、けっこういろいろ酷かったなぁ。
「店員さん! このメニューのこのお肉お願いします! もぐもぐ」
炎野ちゃんが、俺の大事に焼いたお肉を食べながら、さらに追加で注文をした。シャトーブリアンだった。このお店で一番高いお肉だ。
たぶん、炎野ちゃんは、なにも分かってないで一番高いお肉を注文したんだろう、全く。
まぁ、俺もシャトーブリアンがなんなのか、よくわかってないけど。
「あ、タンを追加なの」
「メロンソーダもう一つください」
こんな平穏も悪くないと思う。
ただ、明日、こんな平穏を壊さなくちゃいけない。嫌な役回りだなーほんと。でも、悪の組織の幹部だしね。