広がる灰を数えて(改稿版)   作:檜山俊彦

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どうやら、もう話はついているらしい

 

 

 

 最後の記憶はよく覚えてない。

 トラックに轢かれそうな子供を見て、咄嗟に飛び出して……

 

 その後の記憶はない。

 子供を助けられたのか、それともただの自己満足で死体を1つ増やしたのか。

 

 結果は今でも分からないけれど、私はそのことを忘れられずにいる。

 

 ≪≫

 

 「高等魔法学院……?」

 

 とある山中の小屋で家事をしていた私はお爺ちゃんと居間で話していた。快晴の青空に、ふと思い出したかのようにお爺ちゃんが言い出したのは、『進学』の話だった。

 

 勧められた進学先はこの国、アールスハイド王国の『高等魔法学院』。お爺ちゃんとお婆ちゃんの母校でもある、由緒正しい魔道士養成機関。

 

「うむ……ディセウムとも話したんじゃが、シーナには同年代の友人がおらんじゃろう?トムの商会で商談する時も基本は歳上とじゃ……」

 

「それで、高等魔法学院への入学を。という事になったの?」

 

 友人、ね。

 

 私には荷が重い。研究もあるし文通友達ならもういる。第一、今更魔法学院に行っても……というのが私の言い訳だった。

 

「確かに、シーナに魔法学院で学ぶことは無いかもしれん。じゃが高等学院の頃に育んだ縁は何かと助けになるはずじゃ。だからの、この話にはメリダも乗り気なんじゃ。研究設備は当然用意する。どうじゃ?」

 

 “ディセウム”というのは現アールスハイド国王、ディセウム=フォン=アールスハイド陛下のことなんだけど。

 大国の国王と親交がある、というのも凄い話だよね。

 お爺ちゃんは世間的には英雄だから、当然と言えば当然かな。

 

「そこまでされたら別に嫌とかではないけど……」

 

 とはいえ、精神年齢の不一致に不安があるのも事実。

 どうしたものかと悩んでいると。

 

「シーナ!この通りじゃ!頼む!」

 

 遂には頭を下げてきたお爺ちゃんに、私は折れて進学の話を受け入れる事にした。

 

 そんな私は【シーナ=ウォルフォード】、15歳。

 研究者を自称する魔法使いで、どうしようもない転生者擬きだ。

 

 ≪≫

 

 二週間後、私とお爺ちゃん。そして合流したお婆ちゃんと一緒に、ディセウム陛下が治める【アールスハイド王国】の王都へと馬車を使って向かう事になった。要は引越しだ。

 

 王都までは中々時間が掛かる。お爺ちゃんが山奥に住んでいたせいだけど、私としては田舎の方が正直気楽だった。

 なんてね。進学を受け入れたのは私の判断だし、向こうでも研究ができる環境は整えてもらう予定だから利便性は上がっているはず。縁を結べとのお達しなのだから今は王都での新たな出会いを楽しみにしよう。

 

 なんて考えていると、お婆ちゃんから声が掛かった。

 

「シーナ」

 

「どうしたの。お婆ちゃん」

 

「今更ながら言うけど、アンタは規格外の魔道士だ。対魔道士戦で負けることはまずないと言っていい」

 

「うん。そうだね」

 

 魔法の研鑽は楽しかった。できないことができるようになっていくあの感覚が好きだったから。

 でも、この世界のどうしようもない真実を知って、見たくもない真実を見せつけられて。

 

 それでも屈したくないと思ったから、私は強くなった。

 

 10歳の頃にはディセウムのおっさんの護衛に無傷で勝てるぐらいになったし、今なら……多分アールスハイドを正面から攻め滅ぼせる。

 

 要人を警護する魔道士、騎士の実力は国内屈指だ。

 しかもアールスハイド王国は四大大国の一角。

 

 私の存在は、既に各国のパワーバランスを崩壊させかねない。特級の危険分子だ。

 

 私がここまで強くなれたのは理由がある。この世界に存在するファンタジーな力、「魔法」だ。

 この世界の魔法は万人に開かれている。正しい研鑽を積めば、余程素質に恵まれない限り誰でも数に勝る戦力にもなれる。こういうのはファンタジーの実に怖いところだ。それ故の罠もあるけどね。

 

 でも、お婆ちゃんは分かりきった事を繰り返すような人じゃないけど……どうしたんだろう?

 

「アタシは、アンタに幸せを掴んでもらいたい。友達を作って欲しいというのもその一環さね」

 

「うん。でも今の私、幸せだよ?」

 

 お爺ちゃんとお婆ちゃん。そして私は、血が繋がっている訳では無い。お爺ちゃんが隠遁していた山で事故に遭った馬車の唯一の生き残り……それが私。つまり、養子……養孫だ。

 

 それが仕組まれた出会いだとしても育ての親のお爺ちゃんと、偶に来るお婆ちゃんとの暮らしはそれだけで十分な程満たされていた。だから頑張れる。戦える。

 

 でもお婆ちゃんは首をゆっくりと横に振って、「そうじゃないのさ」と呟いた。

 

 「アタシにゃ今のアンタは雁字搦めに自分を縛ってるように見える。教えた知識もそうだし、環境が特殊だった。()()()のこともある。それでも……アンタはもっとはしゃいでいいし、楽しんで良いんだよ」

 

 お婆ちゃんの言いたい事を咀嚼して、理解して……やっぱり難しいよ。

 

 お婆ちゃんの言う通り、私に楽しかったり熱中したりという記憶はない。それは全部捨てたから。

 だから、新しく思い出を作っていけということだと思う。

 

「分かったよ。おばあちゃん。頑張ってみる」

 

 私はお婆ちゃんを納得させるために噓をついた。

 言い合いにする勇気はなかったから。

 

 ≪≫

 

 王都に着くと早速てんやわんやになった。

 

 お婆ちゃんとお爺ちゃんが王国の身分証を衛兵に見せた時が大変だった。賢者『マーリン=ウォルフォード』、導師『メリダ=ボーウェン』。大陸で名を知らぬ者無き大魔道士にして、救国の英雄。

 

 その帰還に気づいた衛兵が声を大きくして言ってしまった。結果として人が多く集まる事態になり、さりとて入国審査をすっぽかせば不法入国者になるため、穏便に対応しつつ、審査終了後はすぐにその場を去った。

 

 馬車で王都を進む事そこそこの時間。貴族街にほど近い場所にある『英雄』宅はかなりの豪邸だった。

 

「おぉ……すっごいね。」

 

「元々はこの爺さんと夫婦だった頃の貰い物さね。」

 

「なるほど。それは確かに大きくもなるね……」

 

 門では門番に迎え入れられ、しかも孫である私まで尊敬されている始末だ。背中がむずがゆい。

『英雄』の孫とはそういう意味と価値を持つということ。これなら“あいつ”があんな偏屈な性格になるのも何となくわかる気がする。

 

 なんて事を考えながら、大きな玄関扉を開いた。

 

「お帰りなさいませ」

 

 ほう……これまた凄い歓迎だ。扉を抜けた先のホールには執事さんやらメイドさんやらがズラリ。

 

「ほっほ……ディセウムが派遣してくれたようじゃの」

 

「これがあるからここは嫌なんさね……」

 

 とはお爺ちゃんとお婆ちゃんの弁だけど……なるほど、ディセウム陛下の仕業か。

 

 流石大国の国王。行動が早い。

 

「メイド長のマリーカにございます」

 

「執事のスティーブと申します」

 

「料理長のコレルです」

 

 私は内心の動揺を悟られないよう柔和に微笑む。

 

「はじめまして。シーナ=ウォルフォードです。よろしくお願いしますね。」

 

 正直、人の数に圧倒されてしまった。

 様々な国で『賢者』と『導師』の影響力を見てきたけどここ、アールスハイドは直接の恩義も大きい英雄崇拝の総本山。

 各所から優秀な人材を引っ張るのも、英雄の邸宅に勤めるとなれば人材の方から寄ってくるはずだ。

 

 しっかし、料理人までいるんだったら、だらけないようにしないとあっという間に“堕ちていく”に違いない。

 

 頑張らないと。『賢者の孫』として。




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