広がる灰を数えて(改稿版)   作:檜山俊彦

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どうやら、散歩すると災難に遭遇するらしい

 

 

 

「正にVIP待遇……そういう立場になった事を自覚させられるなぁ……」

 

 部屋の確認や今後の予定確認を済ませた私は、お爺ちゃんに貰った小遣いを数えつつ、屋敷から出た。向かう先は王都のメインストリート。屋台や露天を見る予定を組んでる。

 最初は護衛が付く予定だったけど、丁重にお断りしておいた。少なくとも、学院に入学するまでは静かに過ごしたい。

 

 串肉の屋台、魔道具店。その他色々な店を見て回った私の姿はさながら田舎からやってきたお上りさんか。

 

 しかしまぁ、周りの視線が辛い。自分で言うのもアレだが、私は美少女の類だ。様々な国を回り、本人も美女と呼ばれた『導師』メリダのお墨付き。

 

 その美貌故、私はたくさんの視線を集めてしまっている。

 男の不躾な視線や女の嫉妬混じりな視線。

 

 こればっかりはどこに行っても変わらない。私は逃げるように早足で歩いた。

 

 ≪≫

 

「あれ、歩き過ぎたかな……?」

 

 帰り道は分かるんだけど、王都を散策する内にかなり屋敷から離れてしまった。そろそろ戻ろうか、と思って引き返すと、劇場に並ぶ列を見つけた。

 

 あ、これは……

 

「“賢者マーリンと導師メリダの物語”……」

 

 少し顔が引き攣るのを感じた。

 流石伝説の魔法使い。その舞台は大盛況だ。と素直にはしゃげれば良かったんだけど正直言って恐怖すら感じる。

 

 お爺ちゃんが隠遁した一因には、この熱狂的な英雄崇拝にあるのではと思ってしまうぐらいだ。

 

 まぁ、本当の理由は教えてもらってないから今は推測することしかできない。

 お爺ちゃんたちにも隠し事があることを利用して私も黙ってる、この嫌な状況はいつか変化するのだろう。

 私はそれが怖い。改善するかもしれないと楽観的に考えるのは難しいから。

 

 私は劇場に背を向けて帰ろうとした。その時だった。

 

「イヤ!やめてください!」

 

「アンタ達いい加減にしなさいよ!」

 

「おぉ怖……そんな怒んなよぉ。一緒に遊ぼうって言ってるだけじゃん」

 

「イイ事教えてやっからさぁ〜気持ちい〜い事をよ」

 

 ナンパ……しかも悪質だな。2対3で数の有利に漬け込んでいる。

 

 周りが気づいてるのに手を出さないのは……巻き込まれたくないから、か。

 

「いいから来いっつってんだよ!」

 

 だったら、私が行かなきゃ。

 

「そこのお二方。お困りですか?」

 

「はい!超お困りです!」

 

 うおぉ、すっごい返事……

 こんな状況なのに気が抜ける。

 

「へぇ〜こっちも上玉じゃねぇか!」

 

 うわ……気持ち悪い。見境無しだよ。彼らは見るからにハンターだけど、品がない。実力もあるようには見えない。どうせ弱い魔物を狩って威張ってるのが“権限”を使わなくても分かる。

 

 さて、と。気持ち悪い笑みを浮かべたナンパ男の一人が私の腕に触れた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 その瞬間、男は叫び声を上げて飛び退く。

 

「お、おい!どうした!」

 

 触れた男は声にならない叫びを何度か繰り返して、気絶した。それを見た他の二人は、倒れた男を引き摺って逃げていく。「覚えとけよ!」という捨て台詞は半端な悪役のそれだ。

 

 王都内で攻撃魔法を使うのは禁止されているけど……そもそも魔法じゃないなら問題ないよね。

 

「大丈夫?怪我はしてない?」

 

「う、うん。平気。それにしても、凄いわね……何したのか全く分からなかった。」

 

 そう答えた活発そうな女の子に、「酷いよね。折角触らせてあげたのに。」と返しておいた。

 

「凄い胆力ですね……」

 

 と返してきたのはお淑やかそうな女の子。まぁ、実力はたかが知れてるし……

 それにしても二人共可愛いな……これはナンパされるのも分かる美貌だ。

 

「あのくらいなら何とでもなるけど……取り敢えず移動しよっか。この近くなら……」

 

「あ、近くにカフェがありますよ!」

 

「じゃあそこにしよっか」

 

 ≪≫

 

 私は二人に案内されて、近くのカフェにやってきた。座るのはテラス席。偶々空いてたし、眺めも良いみたいだ。

 

「改めてお礼を言うわね。助けてくれてありがとう」

 

「あ……ありがとうございました……」

 

 二人に続けて礼を言われた。他の人が対処出来なさそうだったり、躊躇ってたから動いただけなんだけどね……

 

「どういたしまして。それにしても、あぁいうの厄介だよね……」

 

「ほんっと……魔法さえ使えればあんな連中簡単にやっつけられたのに!」

 

「ダメだよマリア。街中で攻撃魔法を使うのは禁止されてるんだよ?」

 

「それはそうだけど……あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私はマリア、こっちはシシリー」

 

「あ、シシリー……です」

 

 二人の自己紹介に私も応えた。

 

「私はシーナ。ところで、魔法を使うらしいけど……マリアは高等魔法学院の生徒なの?」

 

 家名を伏せるのも揃えさせてもらった。私も家名を明かすと厄介なことになりそうだったし。

 

「来月の入試に合格出来ればね……」

 

 へぇ……じゃあライバルってことかな。

 

「マリアも受けるんだね」

 

「うん、シシリーと一緒にね。“も”って事はシーナも受けるんだ」

 

「そう。私も受けるよ。……ということは試験に合格したら同じ学院生か……お互い頑張ろう」

 

「私、首席目指してるから……負けないわよ?」

 

 へぇ……大きく出たね。受けて立つ。

 

「じゃあ首席の座を掛けて勝負だね。私だって負けるつもりはないよ。マリア」

 

 私達はお互いの健闘を祈りつつ、握手した。

 その後にシシリーとも握手しておく。

 

「そういえば、シーナってどこの中等学院?同い年の割りに見た事ないけど」

 

「実は私、今日王都に来たばかりだから……今まではド田舎で暮らしてたし」

 

「へぇーそうなんだ。……あ、そういえば」

 

「どうしたの。マリア」

 

 あれこの感じ……

 

「王都に来たと言えば知ってる?賢者様と導師様も王都へお戻りになられたらしいわよ!」

 

 うん。ごめんね。そんな気はしてた。でも言わせて欲しい。

 マリア、貴女もか。

 

「盛り上がってるね」

 

「何よシーナ興味無いの!?」

「稀代の魔法使い勇猛果敢な賢者マーリン様!魔道具を操り苛烈に魔物を狩る美しき導師メリダ様!この国……いえ、この世界に生きる限り最高の憧れ、生ける伝説よ!?」

 

 私はマリアのテンションについていけず半ば暴走状態のマリアを見ていることしかできなかった。

 毎度の事だけどこういうのは慣れないなぁ……

 

 しかし私は商談も熟すビジネスパーソン。

 この程度で揺らぐ愛想笑いではない!

 

「マリアは賢者様と導師様の事が大好きなんだね」

 

「当然よ!それに、そのお二人のお孫さんが今度魔法学院の入試を受験するらしいのよ!」

 

 え、そこまでバレてるの?凄まじいね……ファンの執念は。

 暴走しているマリアを引き戻しつつ、長居しすぎた事に気づいた私はマリア達の分も払って別れた。

 

 あの二人と同じ教室で授業を受けたら楽しいかもしれない。

 そう思った私は入学試験の日を心待ちにしつつ、帰り道を歩いた。

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