広がる灰を数えて(改稿版)   作:檜山俊彦

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どうやら、入試では首席を目指すらしい

 

 

 

「シーナ。忘れ物はないかい?」

 

「ちょっと待ってね……」

 

 高等魔法学院の入試当日、私はお婆ちゃんと一緒に忘れ物の確認をしていた。

 筆記具、受験票……事前に作った持ち物リスト通りの品が全てある事を確認していく。

 

 よし、全部ある。

 

 持ち物と言っても色々あるけどその中で一際異彩を放つのは“市民証”だ。

 

 王都に入ったタイミングで発行されたこの証明書は、様々な機能を持つ。しかも登録された魔力パターンの持ち主以外起動できないという規格外の精密さを誇る魔道具だ。

 

 これを作る魔道具と共に現存しており、初回発行であれば大して手間も掛からない。

 

 これがお爺ちゃんやお婆ちゃんの生まれる前からあるというのだから中々に驚きだ。っと……少し思考が脱線してしまった。

 

 私はお婆ちゃんに見送られ家を出ると、暫く歩いて学院の正門前までやって来た。

 受験生が多くいる中を掻き分けて進んでいく。

 ……あれが受験教室の割り振りかな。

 

 試験前だが、緊張はない。

 道中は来週の商談の事を考えているぐらいだ。

 そもそも、幼い頃から各分野の頂点に近い人達から様々な事を教わってきた。

 商い、魔法、魔道具制作……近接戦闘だけはどうにもできなかったけど。

 

「おい、貴様、そこを退け」

 

 油断しなければ成績上位での合格は固いと思っている。

 弛まず、力まずに頑張りたいところ。

 

 で、そろそろ反応しようかな。

 

「何用でしょうか」

 

 振り向いた先にいたのは1人の少年だった。

 身なりからして上の方の爵位の貴族、その子息と見ていいと思う。

 目つきは鋭くこちらを少し睨んでいたけど私の顔と肢体を見て僅かに欲が混じった。

 

「そこを退け、と言っているのだ」

 

「……分かりました」

 

 確認はできたから譲ることは問題ない。

 でもなんだろう、どこか違和感が拭えない。

 

 試験教室に向かう傍らで先ほどの少年をもう一度だけ見て、視線を逸らした。

 

 私はこの時の行動を後で酷く後悔することになる。

 

 ≪≫

 

 筆記の試験教室に向かっていると前から知り合いがやってきた。

 態々印象が変わるように軽い変装までしている。

 

「や、久しぶり。オーグ」

 

「そちらこそ久しぶりだな。シーナ」

 

“アウグスト=フォン=アールスハイド”

 

 それがコイツの本名。親しい間柄の者が“オーグ”というあだ名を用いて彼を呼ぶ。

 そして家名から分かるように、ディセウム陛下の息子、つまりこの国の王子だ。

 しかも立太子の儀式も間近の王位継承権第一位。

 

「さて、とりわけ話す事も無いかな」

 

「酷いな。数年は会っていなかっただろうに」

 

「へぇ、定期的に文通してるのに、寂しかったんだ?」

 

「多少はな。ただ、偶には会いに来い。エリーが連絡手段が無いと愚痴っていたぞ」

 

「ほほう……?婚約者を出汁にするとな……?」

 

「そうでは無いさ。……シーナ。そろそろ試験開始の時刻だ。入学式の代表挨拶。楽しみにしている」

 

「まぁオーグもぼちぼち頑張りなよ」

 

「あぁ。お前もな」

 

 そう言って、オーグは一足先に会場へと入っていった。

 さて、私も……っと。

 

 試験は、筆記の後に実技の順番で行う。

 

 指定された試験教室に入るともうかなりの人数が集まっていて緊張感が増していた。

 

 数分後、定刻通りに試験が開始。

 

 一般教養で宗教の教義の一部が出てくる辺り異世界だよね。

 その他にも魔法や法律に関する出題もあった。

 

 見直しを終えて解答用紙を裏返す。

 手応えは十分。このまま試験終了まで待つことにした。

 

 解答用紙が回収されたあと、実技試験が始まる。

 

 内容は学院の室内練習場で各々の魔法を披露すること。

 

「次の五人、中へ!では一人づつ自分の得意な魔法を見せて貰います」

「目標は設置してあるあの的!破壊出来れば良し、破壊できなくても練度が基準に達していれば良し!」

 

 女性教官の示す先には、天井から吊るされた人型の人形がある。あれに魔法をぶつけるという事か……

 

「では一人目!」

 

 その言葉と共に一人の男子が前に出る。

 そして、手を構えてから詠唱を始めた。

 

「全てを焼き尽くす炎よ!この手に集いて敵を撃て!“ファイヤーボール”!」

 

 その詠唱と共に炎の魔法が的に着弾した。

 威力は一般的。こういうのを見るとやはり自分が規格外な事を自覚させられる。

 

 その後も他の受験生の試験は続いた。

 

「荒れ狂う水流よ!集い踊りて敵を押し流せ!“ウォーターシュート”!」

 

「風よ踊れ!吹き荒れて全てを薙ぎ払う一陣の風を起こせ!“ウインドストーム”!」

 

「母なる大地よ!力を貸して!敵を打ち払う礫となれ!“アースブラスト”!」

 

 前4人が終わったところで声が掛かる。

 さて、私の番か。

 

「君は……陛下の仰っていた……贔屓はしません。全力でやりなさい。」

 

 ディセウム陛下、学院にどんな話をなさったのですか……?

 

 でも、いいかな。ただ、張り切るとこの練習場諸共木っ端微塵に吹っ飛ぶから……

 このくらいか。

 

 私は指先に魔力を集めて……指を鳴らした。

 瞬間、轟音が鳴り響く。

 

「詠唱無し……!?」

 

「いや、だとしても魔法の出力が速すぎる!」

 

「それより、なんだ今の威力は!」

 

 こうなるよね。マリアとの勝負がなかったらもう少し抑えたんだけど、確実に主席争いに食い込むならこれぐらいは必要だから。

 

 左手で待機状態だった爆散の魔法の威力を落として使ったんだけど……確かにこれなら規格外の評価もやむなし、だよね。

 やりすぎたかなぁ。

 

「……」

 

 あれ、教官が少し呆けてるな……学生の魔法じゃないのは分かるけど耐えてほしかったところはある。

 

「すみません。大丈夫ですか?」

 

 教官に声を掛けると、どうやら再起動したらしい。

 

「あ、あぁ……試験はこれで終了です。皆さんお疲れ様でした。」

 

 私はゾロゾロと学院から出ていく受験生達の集団に混じって帰路に着いた。

 マリアたちとオーグはどうなったかな。

 

 ≪≫

 

 研究を進めながら過ごしていると、合格発表の日になった。

 その朝。

 

「ディセウム陛下」

 

「シーナ君、久しいね。ただ、昔みたいに“おっちゃん”とは呼んでくれないのかい?」

 

 英雄宅にやってきたのはディセウム陛下とその息子であるオーグだった。

 しかし陛下、私の黒歴史を掘り起こさないでください……

 

「シーナが困っておる、そのあたりにしておけディセウム」

 

「分かりました。……アウグスト、ご挨拶を」

 

 お爺ちゃんの苦言に、陛下は私をおちょくるのを止めて一歩下がった。

 

「十年振りになります。賢者マーリン殿。私を覚えておいででしょうか?」

 

「あぁ、覚えておるとも。アウグスト君。学院ではシーナをよろしく頼む」

 

「お任せください」

 

 2人の挨拶も済んだところで、私とオーグは学院に向けて出発した。

 ついてきたら混乱間違いなしの年長のお二人には家にとどまってもらうことになった。

 

 試験の日とは別の変装を手早く終えたオーグと受験番号の発表を見た。

 

「お、あった」

 

「私もあったぞ」

 

 合格記念に二人でハイタッチを交わすと、入学書類と制服を受け取りに行った。

 

「シーナ=ウォルフォードさん。入学式の日には主席として新入生代表の挨拶をお願いします」

 

「承りました」

 

 オーグの分の制服も受け取ると、私たちは周りから気づかれないように学院から出た。

 

「さて、新入生代表挨拶かぁ……どうしようかな」

 

「原稿の内容で悩むようなら相談に乗るぞ?」

 

「それは最終手段ね。できる限り自分でやってみるよ」

 

「そうか、ならお前の代表挨拶を楽しみにしている」

 

「りょーかい」

 

 邸宅に帰るとディセウム陛下とお爺ちゃんが喜んでくれたのを見て、王都に来て良かったとそう思えた。

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