広がる灰を数えて(改稿版)   作:檜山俊彦

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どうやら、入学式の日は波乱の1日らしい 後

 

 

 

 私がマリアとシシリーの二人を誘うと……

 

「行く!すぐ行く絶対行く!」

 

 凄い食いつきだった。多分、お爺ちゃんとお婆ちゃん目当てなんだろうなぁ……と思うと微笑ましくなる。

 

「では私も行くか。どうせ父上もシーナの家に行くだろうしな」

 

「了解……そこの二人は?」

 

 オーグが来るのも予想の範疇だったからそのまま流して、オーグの後ろにいた二人へと話しかけた。

 

「勿論自分たちも御一緒します」

 

「了解。というか久しぶりだね、トール、ユリウス。というかユリウスSクラスだったんだね。正直もっと下だと思ってた」

 

「酷いで御座るよシーナ殿!」

 

「シーナさんも、ユリウスを揶揄うのはやめて下さい」

 

 かなり懐かしい顔ぶれの相変わらずな感じに少し心が温かくなった。

 

 体格に優れ、武士のような口調なのがユリウス。頭脳面担当で細身なのがトール。二人とも幼い頃からオーグの護衛を務めている。

 

「じゃあ、無用な混乱が起きても困るし来賓室に行こうか。丁度お爺ちゃんとお婆ちゃんもそこにいるから」

 

「ちょ、ちょっと待って!親に連絡してくるから!」

 

「じゃあ先に行って待ってるね」

 

 そっか。軽く見送ったけど親御さんにも伝えておく必要があるのか。

 ……少し考えが浅かったかもしれない。

 

 ≪≫

 

 結局マリアは来賓室に私たちが着く前に追いついてきた。

 今は、私の後ろで彫刻みたく固まってるみたいだ。

 

 シシリーたちも大なり小なりそんな感じか。

 

 普段通りは既にお爺ちゃんたちと面識のあるオーグのみ。

 

「遅かったのぉ……少し心配しとったぞ」

 

「シーナなら大丈夫さね。若い頃のアンタじゃあるまいし」

 

「んぐっ!」

 

 見事な(元)夫婦漫才を見せられた。まぁ、元気なのはいい事なんじゃないかな。

 

「お爺ちゃん。お婆ちゃん。紹介しとくね。この二人はクラスメイトのマリアとシシリー」

 

「は、は、初めまして!シーナと同じクラスのマ マ マリア=フォン=メッシーナです!」

 

「あの、その、は 初めまして!シシリー=フォン=クロードです!」

 

 おおぅ、2人とも慌ててるねぇ……

 これが英雄視ってやつなのかな。文字通りの。今も昔もよく分からないけど。

 

「でね、お婆ちゃん。少しこの二人の事で相談したい事があって……」

 

 すると、お婆ちゃんの目が鋭くなる。

 

「ここでするつもりかい?その話」

 

「いや、勿論私たちの家でするつもりだよ。ここには合流のために来ただけだから」

 

 当然。ここは耳目が多い。隠し事を話すにはあまり向かない場所だ。

 

「ならいいさね。移動するよ」

 

「了解」

 

 ≪≫

 

 馬車で邸宅まで戻ってきた私は、シシリーたちを迎え入れた客間で式のあとにあった事をお爺ちゃんとお婆ちゃん、そしてディセウム陛下にも伝えた。

 

 「成程。式のあとにそんな事があったのかい……」

 

 「ディセウム。この国の貴族にはまだそんなのがいるのか?」

 

 「一部選民思想の強い者はまだおりますが……この国の意識改革は順調に進んでいるはずです」

 

 それに、とディセウムさんは言葉を続けた。

 

 「財務局のリッツバーグ事務次官と言えば公正明大で有名……その息子がそんな事になっているとは……正直、驚いています」

 

 そう、だからこそカートの名前を聞いた時も違和感を感じたんだ。私はリッツバーグ事務次官とは直接話した事だってある。カートの言うような卑劣な真似に手を貸すとは思えない。

 

 この違和感が拭えない感じ、嫌だな。

 

「それで、シーナ」

 

「なに?」

 

「先程、何を思いついた?まさか家に呼びたかっただけな訳ないだろう」

 

 オーグが聞いてくれたので私は沈んでいた意識を戻せた。

 

「うん。そこが本題だよね。……はい」

 

 私は魔法で作った異空間から1つのアクセサリーを取り出した。

 

「それは……ブレスレット?」

 

「その通り。それは私が荒れてた頃に作った品でね。かなり強めに防護魔法を付与してある。それで……「少し待ちな」」

 

 ここでお婆ちゃんから、いや、私の師匠、『導師』メリダから声が掛かった。これは、私も少し早計だったかもしれない。

 

「シシリー、と言ったね。」

 

「は、はい!」

 

「そのブレスレットは凄まじい代物だよ。受け取ればアンタに絶対の守りをもたらす……それだけこの子がアンタを守るのに本気って事さ。……それを受け取る“資格”が自分にあると思うかい?」

 

「資格……」

 

 部屋が沈黙で満たされる。それを破ったのはディセウム陛下だった。

 

「……それほどなのですか?メリダ師」

 

「そのブレスレットに付与された魔法は私の魔道具より数段強固だからね。国宝級だ。なんせ隣のジジイが全盛期でも使用者の魔力が続く限りは突破されないよ。価値にしたら一体幾らの値になるかも分からない」

 

 そう言ってお婆ちゃんは手首を捻って親指でお爺ちゃんを指差した。

 お婆ちゃんの言葉と手振りに、皆静かに驚愕したのがわかった。

 

「その上で、もう一度聞くよ。そのブレスレットを受け取る資格は、覚悟はあるのかい?」

 

 ややあって、シシリーは口を開いた。

 

「私に……私には、その資格は……ありません」

 

 シシリーは、泣いていた。ボロボロと、涙を流して。

 

「……どういう事だい?」

 

「私、は……シーナの優しさにつけ込みました。シーナに事情を話せば、同情してくれる、助けてくれるんじゃないかって……そう、期待して事情を話しました」

 

 咄嗟に否定してシシリーを庇うマリアを、「自分が決めた事だから」と突き放すシシリー。

 

「まぁ、この子は強いからね……頼りたくなるのは、分からんでもないさね」

 

「でも……でも……!シーナは関係ないのにやっぱり助けてくれて、絶対守る……って言ってくれて……!全部勝手な私の都合なのに!」

 

 何も言えない。軽はずみな私の行動は、今大事な友達を傷つけている。

 私は強く拳を握った。

 

「メリダ様!お孫さんを利用しようとして申し訳ありませんでした。このあとの事は自分でなんとかします!」

 

 シシリーはそう言って立ち去ろうとした。

 

「お待ち!」

 

 『導師』メリダは鋭い声でシシリーを呼び止めた。

 

「シシリー、よく正直に話したね。シーナを利用しようって魂胆なのはすぐに分かったよ。もしそのままブレスレットを受け取ろうとしたら叩き出してるとこさね」

 

 偉大な英雄とされる私のお婆ちゃんは、「でもね」と続けた。

 

「アンタは正直に話した。魔道具としての価値を知った後に……だ。それを手にするチャンスを放棄する事は誰にでもできる事じゃない」

 

 お婆ちゃんは立ち上がって、シシリーの頭に優しく手を乗せた。

 

「でも……っ!私……シーナを、騙して……」

 

「気づいてたよ。分かってた。」

 

「えっ?」

 

 シシリーは驚いてこちらを見た。その表情は私が今口を開いた事にか、それとも言葉にか……多分。両方かな。

 

「これでも振り回されるやすい性質でさ。慣れっこだから……何となく分かってはいたんだ。それでも助けたかったのは……多分、シシリーの事を友達だと思ったから……かな」

 

「友……達。私が、私がシーナの友達でいいのかな……?」

 

「大丈夫だよ。だからシシリー、私を頼って。困った時は助け合いだよ。」

 

「私、まだ……シーナに助けてもらった事しかないよ……」

 

「じゃあ私が困った時、私を助けて欲しいな。それでお相子、でしょ?」

 

「シーナ……」

 

 お婆ちゃんがシシリーを軽く抱きしめた。

 

「試すような事をして悪かったね……でも、シーナの魔道具を受け取るならどうしても確認しなきゃいけなかった。……悪かったね」

 

 限界だったのか、シシリーは決壊したダムのように泣いていた。

 

 ≪≫

 

「ブレスレットに付与された魔法は魔力を込めるとそのまま発動するから、普通の魔道具とそんなに変わらない。シシリーが危ないと思ったら躊躇なく使ってね」

 

「うん!」

 

 でも……これでもまだ少し怖い。魔法と暴力は完璧に防ぐブレスレットだけど、不意打ちはどうしようもないし、何より精神的な負担は防げない。だったらここは……

 

「倍プッシュしよう。」

 

「へ?」

 

「明日の朝、マリアと私でシシリーの家まで迎えに行くよ。」

 

「そ、そこまでしなくても……!」

 

「いいのいいの。それに、友たちと一緒に登校なんて今しか出来ない事だし、やったことないからね。私を助けると思って、ね?」

 

「シーナ、ありがとう……」

 

「どういたしまして」

 

 ≪≫

 

 孫娘(シーナ)がマーリンと一緒にシシリーを始めとした面々を送り届けに出ていくと、不詳の弟子が口を開いた。

 

「それにしても、随分と強引な真似をなさいますね。メリダ師」

 

「なんだいディセウム。私のやることに意見してみるかい?」

 

「勘弁していただきたい。貴女の弟子の1人として各国を巡ったあの頃からずっと、私は貴女に頭が上がらないのです」

 

 そう言って目の前で謙遜する男も、今や歴代最高と名高い治世を行う一国の国王だ。

 思えば随分と長い月日が経ってしまった。

 

「で、なんでシシリーを試したのか、それも強引に。だったね。簡単なことさね」

「シーナにこれ以上苦しんで欲しくなかったのさ」

「あの子は既に手酷い裏切りを受けている。生きる意味を奪われる程に。正直言って、あそこまで持ち直せたのが奇跡なんだ。またシーナに負担を強いる何者かが現れたなら、排除するつもりだった」

 

「排除……ですか。随分と非情な言い方をなさる。メリダ師、貴女らしくもない」

 

「分かってるよ、そんなことは」

 

 弟子の言い分に頭ではわかっていても感情を処理仕切れなかったアタシは、少し苛立ったまま言い放った。

 

「それでも、幼いあの子(シーナ)が見せたあの表情だけは二度とさせない。そうマーリンと誓ったのさ」

 

 ややあって、弟子は口を開いた。

 

「シーナ君が変わった10年前の誕生日、一体何があったのですか……?」

 

「アタシ達にも殆ど分からないのさ。ただ、シーナはあの日『魔人』になりかけていた」

 

「それは!お二人が神経質になる訳だ。……この国の安寧に関わる者として、今の話は聞かなかったことにしておきます」

 

「すまないね」

 

 王城からの馬車で弟子は帰っていった。

 

「私も焼きが回ったかねぇ、でもアタシらはあの子に幸せになってほしい。ただそれだけなのさ」

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