あまねく奇跡の怒髪天   作:ひねもす@HAMELN

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第1/3話

キヴォトス。

その島の住民は、自分たちの知る唯一の世界をそう呼んだ。

 

内戦が終わって10年経つ。

世界中からありとあらゆる最新兵器が送りこまれ、実験場として活用された。

とりわけユニークなのが、男性にだけ効果のあるナノマシンだった。自己複製しながらヒトからヒトへ伝播するので、人造ウイルスのようなものとも説明できる。まず生殖機能が破壊され、男性ホルモンも生成されなくなる。副作用で体格が縮み、なぜか全身が毛深くなる。生き続けていられた場合という条件付きだが、まるで犬か狸のような動物へと変わり果てる。

第二次性徴発現前の男に対しては特に致死率が高く、このためキヴォトスにおける子供はほぼすべて女ばかりとなった。むごいことをするものだが、戦争を速やかに終わらせるという目的に鑑みればたいへん合理的な発想だともいえよう。

ちなみにどこの国のどんな組織が持ちこんだかは特定されていない。純粋にどさくさまぎれの試験運用だったようだ。さすがの効能に開発者たちもおそれおののいたか、あるいは大っぴらに宣伝して批判も浴びるよりアングラ・マーケットで売る方が適していると打算した結果かも知れぬ。

次に使われる戦場は、いったいどこだろうねえ。

 

沿海では核兵器もじゃんじゃん振る舞われたから、国連はキヴォトスを1000年間立入禁止区域と定めた。

990年後の地球がどうなっているか知れたものじゃないが、ともかくキヴォトスは世界から隔離されてしまったのだ。

条約発効の1分前まで、人道支援団体が列をなして住民の脱出に貢献した。前述の理由で男は全滅していたから、ご婦人たちばかりだ。逆だったらここまでしてもらえなかっただろう。

 

さて、ようやく物語を始めるよ。

 

現在キヴォトスに生育している人間の主勢力は、10歳から20歳までの女の子だ。内戦終結時は皆、10歳以下の孤児だった。

その他、かつて男だったケダモノたちと、それから、背広を着たロボットの群れがいる。

このロボットについても説明が必要だね。

ほとんどは内戦中に兵士だった現地民だ。戦闘員の損耗率も人類史上ぶっちぎりのハイスコアだったので、キヴォトスの各軍は負傷兵を問答無用にサイボーグ手術して、すべての部品が粉々に砕け散るまでは再利用しつづけた。

これには外国から来た武器商人やジャーナリストたちも驚いていたよ。むしろ反面教師としていたみたいだけどね。

おかげで今、世界は平和だ。

 

いけないいけない、物語に戻らなくちゃ。

 

キヴォトスに暮らすロボットたちは、難民救助船に乗せてもらえなかった。だから島に閉じこめられ、内戦のあともショバをとりあってずっと抗争していた。

過去形なのはなぜかって?

殺し合って数が減ったのと、活動維持に必要なエネルギー資源が貴重なせいで、10年も経つとすっかりおとなしくなっちゃったからさ。

なお、男性器を生身のまま保持している個体もいる。全身毛むくじゃらの住民にくらべるとロボットたちへのウイルスの作用は限定的らしく、少女たちを性的対象と見て暴行をはたらくロボットが以前から一定数いたものだ。

このため一般的に少女たちはケダモノをあまり恐れないが、ロボットに対しては警戒を怠らず、町なかで見かけるや否や即銃殺することに決めている。銃なら今もそこらじゅうに転がっていて、孤児の頃から少女たちは銃と戯れていたからね。

銃はともだち。

それがキヴォトスのルールであり、マジョリティである少女たちの自主独立を守り抜く誇りのシンボルなんだ。

 

おっとっと。ついロボットの説明が長くなってしまった、ごめん。

しかもこのあと登場することはほぼ無いと思う。

かれらだって命は惜しい。すっかり成長した少女たちの生活圏へなんか、めったに近づいてきやしないって。

 

少女たちはキヴォトスで思春期を迎え、人生について悩み始める齢頃となった。

外の世界へ出ていくことは難しいが、廃墟から見つかる様々な古代の文献を研究し、世界のしくみを理解しようと懸命に毎日を生きている。

さて、そんなコロニーのひとつにある日、先生と呼ばれる人物がふらりと登場するんだ。

 

ここからやっと物語が始まるんだけど、そろそろ疲れちゃったよね。

続きは明日にしよう。おやすみ。

 

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