あまねく奇跡の怒髪天   作:ひねもす@HAMELN

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第2/3話

先生は、外の世界からやってきた。

大人だった。

文明の香りを身にまとっていた。

背が高かった。

毛深くなかった。

なんでも知っているようだった。

かっこよかった。

 

10年間も着の身着のまま学校ごっこに明け暮れていた少女たちにとっては、宇宙人みたいなものだった。

ミステリアス。それは古今東西、少女にとって最も甘美なトッピングだ。

最初の攻略者になりたいと、彼女たちは競いあった。

 

廃墟は更に掘り返され、古代の文明からヒントを得られないものかと懸命な探求も試みられた。

これは恋なのかもしれない。

私は今、恋をしている。

めくるめく暴走に身も心もまかせきる少女たちは、成長を加速させた。

告白、デート、キス、そしてメイク・ラヴという手順を古文書は教えてくれた。妄想だけでおかわり何杯でもいけた。

仲間同士で入念な予行演習を重ね、いざアタックする。

何百艦という精鋭が轟沈した。

 

どうすれば、この人を振り向かせられるのだろう。自分だけを見つめ、やさしく包みこんでもらえるように仕向けられるのだろう。

少女たちの悪戦苦闘は何週間も何ヶ月も繰り返された。

 

憂さ晴らしのロボット・ハンティングも加熱し、そっちの商売に精を出すグループも大きくなっていった。キヴォトスは活気に満ち溢れていく。それは経済を発展させる土壌となるものだった。

宇宙人は、誰とでも公平な距離感を保ち続けることで都市の育成を急速に成し遂げたのである。

あいかわらずチャレンジャーはひっきりなしに誘惑してきたが、一線を越えることはなかった。おそるべきバランス感覚と自制力の持ち主だと認めないわけにはいかない。

いったい、この先生は、何者なのだろうか。

 

少女たちは、普段でもいろんなトラブルに遭遇する。

むだづかい多すぎ。

齢下の子たちがいうことをきいてくれない。

もっとおいしい料理を食べたい。

絵がうまくなりたい。

バンドで熱演して観衆と一心同体になりたい。等々。

悩みなんて増えるばかりで片付きやしないから、いっそ星の数ほど悩みを抱えることですべてがどうでもよくなるくらい頭の中をぐっちゃぐちゃにして忘れてしまうのだ。

しかしそんなとき、きまって先生が物陰から現れる。

あたりさわりのない挨拶をして、今日の服とか髪型なんかを褒められたりするうち、ついつい話しこんで悩みをうちあけさせられてしまっている。

すると最後に先生は、こうしてみたらいいんじゃないかなとシンプルかつ容易に挑戦できそうなアイデアをくれるのだ。

やって、みよう、かな。

そう答えると去っていくのだが、少女たちは目の前の障害がこんなにもあっさり氷解してしまう事実に、心底おそれおののく。

先生はマジシャンだ。エスパーだ。

まるですべてを見透かしていたかのように近づいてきて、ヒントをくれたらあとは自分でやってみたまえと突き放す。

一年も経つ頃には、百名を超える少女たちが、この洗礼を受けた。

 

キヴォトスはますます発展する。

社会制度は充実し、人材はより優れた人材を育み、目を爛々と輝かせた少女たちは休む間も惜しいんだよと自分磨きに全力疾走だ。

その中心には、飄々とした先生がいた。

彼女は神様のように崇められた。

 

そろそろ、先生について観察をしてみよう。

蒼い瞳とロングヘア。

凛とした佇まい。

透明感のあるヴォイスで感情表現豊かにささやく。

休日は重装備で山に登る。

キヴォトスじゅうの山岳を踏破したいとよく語る。もちろん少女たちも同好会をつくり、先生にあちこちついていきながら地理や植生、野生動物とのふれあい方など、様々な授業を受ける。

ただ、難度の高い山嶺へは、先生が持ちこんだ本格的な装備がないと危険なのだそうだ。

なんとか同じものを、あるいはもっと改良してキヴォトスで製造できないかと有志の工房チームが開発を続けているところなのだが、なかなか難しいらしい。先生は微笑みながら、それまではおあずけだね、と単独で氷雪登攀へと出かけてゆく。

いまのところ生還率100%で、そのたび工房へはボロボロの試作品が使用レポートとともに返されるのだが、少女たちは毎度毎度、気が気ではない。

誰か早く先生を婿にもらって身を落ち着けさせなよ、と冗談が交わされる。しかし誰がこんなスーパーレディーに釣り合うというのか。

先生は、高嶺の花だ。

わたしたちが総力を上げてお守りせねば。

やっぱり、先生は神として崇めたてまつられるポジションのままなのだった。

 

そんな、まがりなりにも幸福でいられた時代が、3.5年ほど続いた。

少女たちも、すっかり女らしくなった。そろそろ自分たち自身で外の世界へ出ていきたい齢頃だ。

先生はあまり情報をくれたがらないが、キヴォトスを囲む海の先には、もっともっと刺激的で野蛮な世界が拡がっているらしい。

 

「ありったけの武器を持っていっても、勝てませんか?」

 

誰もが不安そうに尋ねる。

先生は決まって、こう答える。

 

「男とたたかうのに必要なのは、銃じゃないんだ。強いていえば知恵と勇気。なにより女としての自尊心、かねえ。

キヴォトスでそれを教えてあげられないのは残念だ。ここには、男がいないからね。

でもこれまで、しっかりヒントは与えてきたつもりだ。

出ていったら、ひとりひとりが、目の前の相手をしっかり見据えて、最適解を導き出すしかないんだよ。君たちがまだ想像すらできない新しい困難がこれから次々襲いかかってくるだろう。

全戦全勝なんて望めない。

つらいこと、苦しいこと。この先、山のように味わうからね。覚悟だけはしておきなさい」

 

先生を慕う娘たちには、意味がのみこめない。それは仕方のないことだ。とにかく先生についていこう。先生さえいてくれれば、どんな難問だって恐るるに足らない。そう信じるしかなかった。かわいそうだが、これも仕方のないことだった。

 

「サラパイ。まだか?進捗を答えよ」

 

「桃は熟してる。もう、来ていいよ。

あたしも、そろそろ、つらくなってきた。彼女たちとこれ以上、今の関係でいつづけるのは、残酷だよ」

 

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