ゴブリンスレイヤー×ブラッドボーン 聖杯ダンジョン探索   作:まるっぷ

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第1章『下準備』

 

今日も今日とて、神々は盤を囲んで駒を配置します。

 

昨日はドラゴンが出たから、今日は軽めにする?とか、いやいや、あえてデーモンの大群っていうのは?とか。思い思いに好き放題な事を言っています。

 

もちろん、神々とて駒……四方世界に住まう者たちを好き好んで酷い目に遭わせてやりたいという訳ではありません。それはただ骰子(サイコロ)の出目が悪かっただけであって、飽くまで彼らの冒険の行く末を見守る事が神々にとっての娯楽だという事だけなのです。

 

嬉しい事も、楽しい事も。悲しい事も、苦しい事も。どのように始まり、どのような結末が待っていようと、神々はその全てをひっくるめて、駒の活躍を見守るのみなのです。

 

さあ、そうこうしている内に《幻想》が、今回の舞台となる場所を探し始めました。

 

どこにしよう?ここはどうかな?と、あちらこちらを探していた、その時です。

 

スッ、と。

 

()()()()()()がある場所を指し示したではありませんか。

 

どれどれ、と《幻想》が見てみれば、なるほど確かに面白そうな遺跡です。

 

地下に伸び、深さは中々のもの。四方世界で死の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)と呼ばれるものより幾らか狭く浅そうではあるものの、生半には突破出来なさそうな、見応えのある遺跡です。

 

よし、ここにしよう!と他の神々も乗り気です。《幻想》はそれらの声に押され、うん、ここにしよう!と場所を決定します。

 

次に、駒。ちょうど場所が近かった事もあり、例の()()()()()()()()()一党(パーティ)を選びます。

 

さあ、これで準備は完了。いざ、ゲーム開始です!

 

………。

 

………?

 

あれ?

 

あの()の主は、どこに行ったんだろう?

 

ん?それに………。

 

………こんな()、ここに置いたっけ?

 

 

 

§

 

 

 

辺境に位置する街。そこにある冒険者ギルド。今日も多くの冒険者たちが朝早くから張り出された依頼書を吟味し、それぞれに見合ったものを選んでは、意気揚々と冒険に向かって行った。

 

そんな中、ギルドのロビーに備えられた長椅子に座るは、何とも奇妙な出で立ちの男。

 

薄汚れた革鎧に、安っぽい鉄兜。腕には小振りな円盾を括り付け、腰には中途半端な長剣。

 

在野最上位の銀等級冒険者、小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)は、腕組みをしたままむっつりと黙り込んでいた。

 

「あの、えっと……ゴブリンスレイヤーさん……?」

 

「………」

 

そんな彼の隣で、おずおずと言った様子で語りかけているのは錫杖を傍らに立てかけ、帽子を膝の上に手に置いている女神官だ。

 

彼女はいつも通りに―――そう言ってしまっても差し支えの無い程度には、もう長い事行動を共にしている―――今後の予定を尋ねるも、返ってくるのは無言の返答のみ。

 

考え込んだりした時に、この小鬼殺しと謳われる男が黙り込んでしまうのをよく知っている彼女としては、この沈黙は苦ではない。むしろ兜に覆われた横顔をまじまじと眺めていられるというのは、ある意味では役得なのでは―――……?と、そこまで考えたところで、いけないけないと頭を振る。

 

そんな風に雑念を振り払っているところに、不意にかけられる三つの声。

 

「あら、オルクボルグじゃない」

 

「小鬼殺し殿がこんな時間まで居られるとは、珍しい事もあったものですな」

 

「なんじゃい、かみきり丸。今日は小鬼退治は休みか」

 

「む……」

 

上の森人(ハイエルフ)野伏(レンジャー)、妖精弓手。

 

蜥蜴人(リザードマン)の僧侶、蜥蜴僧侶。

 

そして鉱人(ドワーフ)の術師、鉱人道士。

 

何とも珍しい組み合わせの一団が親し気に近付いてくる。森人弓手などは猫のように軽やかな動きで女神官の隣にさっと座り、気軽にその頭を撫でている。

 

「なーにー?流石のオルクボルグもたまには休みが欲しいって事なのかしらん?」

 

「わっぷ……!?」

 

無遠慮なその手付きを、しかし女神官は苦笑しながらも受け入れた。

 

この年上の友人に悪気がない事は分かり切った事であり、ならば拒む理由などあろうはずがない。まぁ一応は整えてきた髪をわちゃわちゃと乱される事に、何も思う事がないと言えば嘘になるのだが。

 

「ゴブリン退治の依頼がなかった」

 

と、ゴブリンスレイヤーが口を開いた事により、女神官の頭に降りた嵐は不意に動きを止めた。

 

「あら」

 

「ほう?」

 

妖精弓手はぱちくりと瞬きし、鉱人道士は片眉を吊り上げ、それぞれに驚いたという風な表情を作る。

 

なにしろ、ゴブリンとは四方世界において最もありふれた怪物なのだ。愚かで矮小で非力、武器すら持たない一匹ならば素手の男でも何とか殺せる。そんな程度でしかない。

 

しかしその分だけ数が多く、いくら潰してもキリがない。欲望の赴くままに奪い、喰らい、犯し、殺す事しか能がないゴブリンたちは、無力な村人たちにとって脅威そのものなのだが……。

 

「昨日までは、いつもとそう変わらん枚数の依頼書が貼り出されていた。だが今日は一枚もない」

 

「なに、それだけ小鬼めらによる被害も少ないという事。良い事でしょうや」

 

「それはそうだが……」

 

「つまり、あれでしょ?ゴブリン退治の予定が狂っちゃったー、って。で、やる事がなくなったから、そんなところに座ってたんでしょ?」

 

「む……」

 

「ほっ。どうやら図星のようだわいな」

 

「あはは……」

 

返答に困ったり長考すると黙ってしまうのは、すでにこの一党では周知の事であったらしい。

 

からからと笑う妖精弓手はしばらくそうしていたが、やがて長椅子から薄い尻を浮かせて立ち上がり、依頼書もまばらとなった掲示板へと近付いていった。

 

その白く長い指を口元へと押し当てながら―――そんな仕草すらも、森人がやれば典雅に見えるのだから不思議だ―――彼女はさも当然のように口を開く。

 

「んー……なにか丁度良さそうな冒険の依頼、まだ残ってないかしら?」

 

「おいおい耳長娘、まさかこれからどっか行こうだなんて言うんじゃねぇだろな」

 

「まさか。どっかじゃなくて冒険よ。ぼ・う・け・ん!」

 

「どっちもほとんど同じだろうが……」

 

うんざりした顔で息を吐いた鉱人道士に、してやったりと舌を出して笑う妖精弓手。

 

彼女はくるりと振り返り、各々へ確認を取る。

 

「という訳で、今日こそは冒険に行くわよ!」

 

「何が『という訳で』だっつの。お前さんが勝手に乗り気になっとるだけだろ」

 

「拙僧は構いませぬぞ。道すがら、僅かでも功徳(くどく)を積めれば(なお)良し」

 

「私も構いませんが、ゴブリンスレイヤーさんは……?」

 

「ふむ……」

 

鉱人道士を除き、ほぼ全員の意見は固まったようだ。最後はこの一党の頭目、ゴブリンスレイヤーの意見を残すのみ。

 

彼は鉄兜を僅かに傾けて思案し、やがて結論を出した。

 

「……今日中に終わる依頼ならば、問題ないだろう」

 

今日ゴブリン退治の依頼がなくとも、明日は分からない。実にゴブリンスレイヤーらしい返答だった。

 

「おいおい、かみきり丸もかよ……」

 

「やたっ!」

 

その答えに、鉱人道士などは昼から一杯やろうとでも思っていたのか、天を仰いで盛大な溜め息を吐く。一方の妖精弓手は、その場で小さく跳び全身で喜びを表現していた。

 

冒険。小鬼退治ではない、正真正銘の冒険!

 

方針の決定した一党は、次に本日の目的地を探す事にした。とは言っても粗方の依頼書は持っていかれた後であり、そもそもおあつらえ向きな依頼などはそうそう無い。よしんばあったとしても、行きだけで三日以上はかかる遠出のものばかりだ。

 

「……全然ないわね……」

 

「ねぇもんはどうしようも無いわな。『という訳で』今日はのんびり一杯やろうや、のう耳長?」

 

「うぅぅー……!」

 

意趣返しという訳ではないのだろうが、にやりと笑う鉱人道士。

 

その髭面に妖精弓手が唸り声を上げるのと、新たな声が一党に投げかけられるのは同時であった。

 

「あら、皆さんお揃いで。どうかされましたか?」

 

そう言って近づいて来たのは、冒険者ギルドの制服に身を包んだ受付嬢であった。

 

その手にはいくつかの紙束が抱えられており、恐らくはこれから片付けてしまおうという書類である事は想像に難くない。

 

「あっ、ちょうど良いところに!」

 

「へっ?」

 

妖精弓手は戸惑う受付嬢に駆け寄り、経緯を説明する。

 

そして、何か手ごろな依頼はないか―――もちろん、ゴブリン以外で!―――尋ねるが、受付嬢は顎に手を当てて首を傾げ、少し困ったような仕草をとる。

 

「ええっと、一日で終えられるような依頼となりますと、今はちょっと……」

 

その返答に、そんなぁ、と眉を八の字にする妖精弓手。

 

が……蜥蜴僧侶はその長身ゆえ、視界にちらりと入り込んだその文字に、ぎょろりと目玉を動かした。

 

「はて。拙僧には、その書物は手ごろな依頼書であると見えまするが」

 

「へっ?」

 

間の抜けた声を漏らしてしまった受付嬢はすぐさま紙束へと視線を落とす。その一番上、書面が見える状態の紙には、以下のような事が書かれていた。

 

 

 

『村からほど近い洞窟に、ゴブリンと思しき幾つかの小柄な動く影を見た。可能な限り早急に調査し、ゴブリンであれば退治して欲しい。報酬は金貨にして三枚』

 

 

 

げ、と顔を歪ませたのは妖精弓手だ。

 

なにせ彼女が望むのはゴブリンの絡まない冒険なのだ。前人未到、誰も見た事のない景色を見る為に冒険者となった彼女にとって、ゴブリン退治などは可能な限り避けたい依頼なのだが……。

 

「ゴブリンか」

 

「あ、はい。そのようです……」

 

書面に書かれた内容を知るや否や、すっくと立ち上がるゴブリンスレイヤー。女神官は本日幾度目かも分からない苦笑を湛え、蜥蜴僧侶は望むところと瞬膜を瞬かせる。

 

酒盛りの予定が完全に潰された鉱人道士は、それでも妖精弓手の思い描いていた計画から外れた事に溜飲が下がったのか、にやりと笑って酒瓶をぐびりと呷る。

 

「お前たちはどうする」

 

そう言ってゴブリンスレイヤーは一同の顔を見回す。

 

言うまでもないとばかりに着々と準備を整える彼らの中でただ一人、妖精弓手だけが渋々と言った面持ちだ。

 

「お前はどうするんだ」

 

「……あー、もう!行ってやるわよ!仲間外れにされるのも嫌だし!」

 

「そうか」

 

「そうよ!」

 

「そうか」

 

後はもういつもの通りだ。

 

火も水も毒気も、あと爆発も駄目だからね!とか、善処する、という会話を交わしながらギルドを後にする一党を見送りながら、受付嬢は受諾された依頼書を手に奥へと引っ込んでゆく。

 

その時、同僚―――ギルド職員でもあり、至高神の司祭でもある。監督官だ―――から声がかけられた。何でも他の書類整理が滞っており、手伝って欲しいとの事だ。

 

こっちもやらなきゃいけない事が、とも思ったが、結局は彼女を手伝ってやる事にした。受付嬢は先の依頼書を紙束とともに自分の机の上に置き、監督官の元へと急いだ。

 

不思議な事に、その依頼書が煙のように消えてしまった事に気が付くのは、それから少し後の事であった。

 

 

 

§

 

 

 

それはごく普通の、三匹のゴブリンだった。

 

元あった巣穴を潰され、どうにか生き延びた三匹は行動を共にし、適当な洞窟を見つけたのでそこを根城とした。今はまだ数も少ないが、いつか近くの村に住む女を攫ってやろうと、虎視眈々と機を窺いながら。

 

そして数を増やし、今度はその村を襲うのだ。そこで更に数を増やし、今度はあの街を、そしてゆくゆくはあの都を……とまあ、こんな具合の事を考えていた。

 

彼らは自分たちが返り討ちに遭う事を考えていない。否、考えもつかないのだ。

 

彼らの中にあるのは自分だけが美味しい思いをする事ばかりで、その為ならば同胞がいくら死のうが関係ない。それはそれとして同胞が殺されれば怒るのだから、なんとも厄介な事なのだが。

 

が、どれだけ頭の中で皮算用を重ねようが、現状は変わらない。洞窟を見つけたは良いが、それだけなのだ。他にあるのは道中で拾った錆びた農具が幾つかと、刃こぼれした剣が一振りのみ。洞窟はまだ狭く、広げるには奥へと掘り進めるしかない。

 

だから二匹はぶつくさと文句を言いつつも、洞窟を掘っていた。頭目面をしている生意気な一匹は、これ見よがしに剣を振り回している。ぎゃあぎゃあと喚き散らす様に二匹は苛立ちを募らせているが、ここで争っても仕方ないので嫌々従っていた。

 

二匹は、こいつが寝たら剣を奪って殺して、自分が新しい頭目になってやろうなどと事を考えつつ、黙々と洞窟を掘り進めてゆく。

 

土、土、土。たまに固い岩、そしてまた土。

 

無計画に進められる工事は洞窟の崩落を一切考慮しておらず、ずんずんと進められてゆく。しばらくはそんな調子で掘り進めていったのだが、あるゴブリンが振るった農具に何か硬質な感触が伝わった。

 

「GROB?」

 

またもや岩か、と苛立ち混じりに前を見てみれば、どうやらそれは岩ではないようだ。

 

彼らには分からないだろうが、見る者が見れば、それは精緻な模様が彫られた扉だという事が分かる。それも一般的なものとは違い、下から持ち上げて開くものらしい。

 

おまけに見えていないだけで、土に埋もれた箇所には壁のようなものがあるようだ。これ以上先へと掘り進められないと知ったゴブリンは、この忌々しい扉を開けるため、もう一匹に声をかける。

 

「GROB!GROOB!」

 

「GROB?」

 

なんだ、どうしたともう一匹は扉へと近付く。唯一喚いているのは剣を振りかざした一匹だけであり、滞った工事に不満げな声を上げていた。

 

そんな同胞を無視して、二匹は扉を持ち上げ始める。罠の存在など欠片も考えない愚かな行為だが、生憎とそれを考える知能など彼らは持っていない。罠にかかるのは間抜けだけで、自分だけはそうではないと確信しているから。

 

ゆっくりと上がり始める扉。奥に広がっているであろう空間からは嫌に冷えた空気が立ち込め、三匹の身体に絡みついてゆく。

 

結論から言って、彼らは()間抜けであった。

 

何故なら気が付く事もなく、この()()に取り込まれてしまったのだから。

 

 

 

§

 

 

 

「……む?」

 

「どうかされましたか、狩人様?」

 

「いや、こんな所に墓石などあったかと思ってな……これは君が?」

 

「いいえ、私は何もしていません」

 

「そうか……」

 

「………」

 

「………無視も出来んな」

 

見慣れた場所にある、見慣れない墓石。

 

使い慣れた墓石が立ち並んでいる場所から外れたところにあるそれには、奇妙な聖杯が祀られていた。今まで見てきた獣や異形とは似ても似つかない、人の頭蓋を極限まで醜悪に歪めたような、そんな聖杯であった。

 

唯一とも言える安息の地に現れた異物を前に、男は調査に向かう事を決めた。

 

「行ってくる」

 

「はい。行ってらっしゃい、狩人様」

 

狩人と呼ばれた男はその墓石に手をかざし、やがてその姿がかき消えた。まるで男の存在そのものが、一夜の夢であるかの如く。

 

「貴方の目覚めが、有意なものでありますように」

 

後に残ったのは―――白磁のような肌を持つ、人形の呟きのみであった。

 

 




ゴブスレ×ブラボの二次創作です。

例によって遅筆ですが、楽しんで頂ければ幸いです。

あと、感想を頂ければ作者の血の遺志(モチベ)が増えます。
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