ゴブリンスレイヤー×ブラッドボーン 聖杯ダンジョン探索   作:まるっぷ

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第3章『聖杯の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・カリス)

 

「……起…て………きてっ………!」

 

「ん……ぅ……?」

 

微睡みにも似た意識が浮上し、女神官はゆっくりと目を開いた。

 

そこには年上の友人の顔があり、彼女は女神官が起きるのを確認し、安心したように息を吐いた。

 

「やっと起きた!……はぁ、心配したぁ~」

 

「えっと……あれ?私、確か……」

 

倒れていたのか、身体は少しだけひんやりとしていた。身を起こして周囲を見てみれば、鉱人道士と蜥蜴僧侶、そしてゴブリンスレイヤーの三人が、こちらの顔を覗き込んでいるではないか。

 

「おう、娘っ子もようやく起きたわいな」

 

「拙僧らと同様に、至って健康な様子。重畳、重畳」

 

口々に安堵の声を上げるも、当の本人は未だ状況が掴めていない。

 

確か、あの回廊を歩いていて、それで……?と記憶を探っていた所に、ゴブリンスレイヤーからの声が投げかけられた。

 

「無事か」

 

「あっ……」

 

途端、女神官の意識がはっきりとした。

 

そうだ。回廊を歩いていたらいきなり辺りがぼやけたのだ。そして意識を失い、いま気が付いたのだ。

 

同時に、気付く。

 

今いるこの場所はあの回廊ではない。似たような壁に囲まれているものの、別の場所……石造りの正方形の部屋にいるのだと。

 

「あの、ここはどこなんでしょう……」

 

「分からん。俺たちも、気が付いたらこの場所にいた」

 

ゴブリンスレイヤーは装備を確認しつつそう答える。どうやら全員、この場所がどこなのか分からないようだ。

 

「まるで《転移(ゲート)》の巻物(スクロール)でも使われたみたいだけど……多分、()()()()の仕業ね」

 

「あいつら……?」

 

女神官は、ゴブリンスレイヤーの言葉を引き継いだかのように語る妖精弓手の指さした方を見る。

 

そして、その細い喉から小さな悲鳴を漏らした。

 

「ひっ!?」

 

そこにいたのは白い小人だった。

 

潰れたような顔、干からびたような顔、縦に割けた口を持つ顔……一様に恐ろしげな顔を持つ奇妙な小人たちが、女神官の事を凝視していた。

 

彼らは青白く光る提灯(ランタン)に群がり、何をするでもなく、呻き声を上げ続けている。

 

「OOAAAAA……」

 

怯えた様子の女神官は、その呻き声が意識を失う直前に聞いたものであると理解し、顔を青ざめさせる。

 

「な、なんですか、あれ……!?」

 

「分からないわ。でも私たち、あいつらに群がられてから意識を失ったの」

 

「最初は敵かと思ったんじゃが、こっちが武器を取ってもじーっ、と見てくるばっかでの。まぁ敵意はなさそうなんじゃが……」

 

「相手の思惑も知らずに、無闇やたらと斬りかかる訳にもいかず。さりとて言葉も通じず、難儀しておるのです」

 

「そ、そうなんですか……」

 

それぞれが現状を伝えている内に、女神官もいくらか冷静さを取り戻す事が出来た。

 

なるほど、確かに蜥蜴僧侶の言う通りだ。地母神に仕える身である彼女は、ひとまずこの白い小人を意識から外し―――努めて!―――今後の事を考える。

 

そしてこの部屋の一角に、扉の無い出口がある事に気付いた。

 

その視線を感じ取ったのか、ゴブリンスレイヤーは地面に置いていた松明を手に取り、掲げる。

 

「意識ははっきりとしたな。足にふらつきなどはあるか」

 

「あ……いいえ、大丈夫です!」

 

「そうか。なら行くぞ」

 

彼は抜き身の剣を構え、部屋の出口へと顔を向ける。

 

ここが何処かなど関係ない。目的であるゴブリン退治を遂行しようとするその姿に、女神官の心は知らず奮い立たされた。

 

「恐らくは、ゴブリンどもも俺たちと同じくこの遺跡に囚われたのだろう。奴らが死ぬ分には良いが、生き延びている可能性がある。故に……」

 

「はいはい、分かってるわよ。ゴブリンを探して始末しながらこの迷宮の出口を見つける、って言いたいのよね?」

 

「そうだ。やる事は何も変わらん」

 

みなまで言うな、とばかりに妖精弓手がにやりと笑う。

 

そしてゴブリンスレイヤーは、当然とばかりに言い放った。

 

小鬼(ゴブリン)どもは皆殺しだ」

 

 

 

§

 

 

 

部屋を出た女神官は息を飲んだ。何せそこに広がっていたのは、広大とも言える玄室だったのだ。

 

優に数百人は入るような巨大な空間。以前に剣の乙女からの依頼で訪れた水の街、そこに建てられた法の神殿にある礼拝堂以上の空間は、威圧感すらも感じさせる。

 

しかし、ここは間違いなく礼拝堂などではない。

 

「荷車やら木樽の残骸、そして空の棺……」

 

「地下に棺とくらぁ、さしずめここは地下墳墓(カタコンベ)っちゅうトコかいの?」

 

あちらこちらに散乱する木片。壁際には中身のない棺が立てかけられ、空間を支える大きな石の柱には何本もの木の根がへばりついている。

 

どうやら頭上には地表が広がっているらしいと安堵した女神官は、一塊になって歩く一党の中心で冥福の祈りを捧げる。見ず知らずとはいえ、この場所には誰かが眠っているのだろうから。

 

「でも本当にそうなら、棺をこんな乱雑なままにしておくかしら?ほら、そこの荷物だってお供えの品かも知れないのに」

 

「過去に墓荒らしでも入ったのやも知れませぬな。ふむ……名のある者が眠りし所、その静謐を破った罰当たりな輩が怒りを買い、やがて来る者全てを飲み込む迷宮を形作った……というのは如何かな」

 

「ちょっと!縁起でもない事言わないでよ!」

 

「はっはっは。冗句、冗句」

 

交わされる軽口は、きっと女神官の緊張を和らげる為のものだろう。その証拠に彼らは絶えず周囲に目を光らせており、いつでも武器を取れる構えを崩してはいない。

 

そして、先頭を歩くゴブリンスレイヤーも、また。

 

「遮蔽物も少なく、身を隠せる肥溜めもない。どうやら、奴らはここにはいないらしい」

 

「そうね。音もよく響くし、物陰に潜んでるって事はないと思うわ」

 

「となると怪しいのは……あれか」

 

彼の視線の先にあるもの。それは扉であった。

 

左右には人の石像が設置され、その手には薄紫色に光る提灯(ランタン)が備えられている。扉は重厚な鉄柵であり、強引に開くのは無理であろう。

 

「随分と厳重じゃな。どうじゃい耳長、開きそうか」

 

「うーん、どうかしら」

 

鉱人道士の問いかけに、妖精弓手は難色を示した。野伏でもある彼女は罠を解除する要領で周囲を探るも、形の良い眉をしかめるばかりであった。

 

「駄目。よく分かんない仕掛けね、これ」

 

「そうか」

 

お手上げとばかりに首を振る妖精弓手に、ゴブリンスレイヤーはさほど落胆した様子もなかった。ゴブリンが潜んでいないのならば良いとばかりに進路を変え、まだ先へと続く広大な玄室の奥を睨んだ。

 

そうして一党がしばらく進んでいると、妖精弓手が暗がりの先にある横穴を見つけた。

 

そこだけ積み上げられた石の壁が崩れており、内部は土が剥き出しになっている。どうやら計画的に広げられたものではないらしく、緩やかに弧を描く通路の先は、森人の目を以てしても分からなかった。

 

「そこ。多分、先に続いてるわ」

 

「ふむ……」

 

松明に兜を照らされながら思案するゴブリンスレイヤー。

 

この広大な玄室に、他に進めそうな道はなかった。隠し扉の類でもあればその限りでもないが、探すとなると多大な手間が掛かる。

 

そして手間を掛けたとて労が実を結ぶ確証はなく、それならば差し出された道を進んだ方が賢明というものだ。

 

「待ち伏せに注意しつつ、全員で入るぞ」

 

彼が決めた方針に従い、一党は横穴へと入ってゆく。

 

内部は意外にも余裕があったものの、流石に蜥蜴僧侶の巨躯では少しばかり狭いようだ。僅かに腰を落とした彼の頭上を気に掛けながら、女神官はゴブリンスレイヤーの背を追う。

 

(……この匂い……)

 

踏み込んだ途端、鼻を突いた不快な匂い……腐臭。

 

ゴブリンに限らず、良からぬものが潜む場所には定番とも言えるその匂い。腐臭がするのは死体があるからであり、それほどの時間が経っている事を意味する。

 

そうして一党が慎重に歩を進めていった先……そこには、腐臭の根元があった。

 

「これは……」

 

「……巨大鼠(ジャイアント・ラット)、でしょうか?」

 

ゴブリンスレイヤーの言葉を継ぐように、女神官が口を開いた。

 

一党の目の前に倒れていたもの。それは巨大な鼠であった。

 

力なく投げ出された四肢は空を仰ぎ、腹は裂かれている。飛び出た内臓は血と共に四方へと散らばっており、つまりは死んでいた。

 

「これも小鬼どもの仕業かい」

 

「違うだろう。殺したのが奴らなら、少なくとも巣穴に持ち帰って餌にするはずだ」

 

餓えた『渡り』ならなおさらだ、と冷静に死骸を分析するゴブリンスレイヤー。

 

よくよく見てみれば、なるほど確かにゴブリンの手口とは異なるように思える。腹部の傷は損傷が激しく、裂かれたというよりは強引に抉り切られたという印象。そして非力なゴブリンたちに、それほどの力はない。

 

「あいつらってこんなのも食べるの?うえぇ……」

 

傷口を調べていたゴブリンスレイヤーの背後で、顔を覗かせた妖精弓手が盛大に顔を顰めている。

 

確かに奇妙な死に方をしていた鼠であったが、その姿も女神官がよく知るものからはかけ離れていた。彼女の中にある知識では、巨大鼠(ジャイアント・ラット)とは普通の鼠をそのまま大きくしただけの生物だ。

 

しかし、目の前にある死骸は違っていた。

 

瞳は青白く濁り、体毛も半分以上抜け落ちている。更には何らかの病にも罹っていたのか、得体の知れない膨らみが身体の至るところに見られた。

 

不可解な事ばかりが続く中……ガコンッ、と。

 

何の前触れもなく、重厚な音が響き渡った。

 

「ッ!」

 

素早く身構える一党。互いに背を合わせて奇襲に備えるも、変化はなし。ほっと息を吐いた女神官の隣で、妖精弓手の耳はその音の発生源を突き止めていた。

 

「どこからか、分かるか」

 

「うん。さっきの閉じた扉と……あとはあっちから」

 

視線で指し示した先には、またもや横穴である。水溜まりで溢れたその先に、一体何があるのか。

 

ゴブリンスレイヤーを先頭に、再び一党は歩き出す。

 

一歩、二歩、三歩……進むごとに奥の方より漂い、強くなってゆく血の匂いに、彼らは知らず身を固くする。

 

そうして慎重に進んで行き、辿り着いたのは行き止まりであった。

 

そして、そこにあったのは、一人の男の姿。

 

全身を血に染めた黒づくめの男の手には、同じく血に濡れた物々しい凶器が握られており―――彼の周囲には、ずたずたに引き裂かれた鼠の死骸が転がっていた。

 

 

 

§

 

 

 

奇妙な迷宮(ダンジョン)だった。

 

これまで挑んできたものとは違い、敵の数が圧倒的に少ないのだ。守り人も獣も居らず、居るのは地下鼠だけ。醜悪な聖杯にしてはやけに拍子抜けする内部構造に、狩人は淡々と、しかし気を抜く事無く歩みを進めていった。

 

横穴を抜け、襲い掛かって来た地下鼠を一蹴。愛用の狩り武器、ノコギリ鉈で鼠の臓物をぶちまけた狩人は降りかかる血飛沫をその身に浴び、しかし何の不快感も感じない。

 

彼が異常なのではない。それが狩人というものなのだ。

 

獣を狩り、その血に宿る遺志を己の糧とする。そうして力を高め、更なる獣を狩る。故にこそ、血に塗れた姿こそが狩人を狩人たらしめる証明でもあるのだ。

 

「おかしな点もない……か」

 

彼は今しがた殺した地下鼠の死骸の前で片膝を突き、開かれたその腹に躊躇なく手を突っ込む。常人であれば絶対にしないこの行動も、狩人ならではのものだ。

 

ぐちゃぐちゃと生温かい内臓をかき回し、引き抜いたその手にはカビの塊が握られていた。

 

墓所カビと呼ばれる、腐った血肉に生えるそれは狩人たちにとって貴重な儀式素材であり、常人であれば絶対にこんな行動は……以下略。

 

ともかく、今の所はおかしな点がない事を確認した狩人は次の横穴へと入って行った。

 

足音を消す努力などは必要ない。獣狩りこそが狩人の使命であり、足音に釣られて向こうから来るのであれば、それは願ってもない事なのだから。

 

行き止まりには数匹の地下鼠がいた。四角く囲われた部屋の中には鉄籠が幾つかと何やらよく分からない生物の死骸、そして腐敗した多くの人の亡骸が、染み出た血の海の中に沈んでいる。

 

地下鼠たちは腐りかけの肉を齧るのに夢中で、まだ狩人の存在には気付いていない様子だ。

 

そして壁際には、やはりいつもの仕掛けが鎮座していた。

 

「ふん」

 

呑気な鼠どもだ、と鼻を鳴らした狩人は左手に携えた武器を構える。

 

獣狩りの短銃。水銀と己の血を混ぜた特殊な弾丸が、挨拶代わりとばかりに一匹の地下鼠の頭部を貫いた。

 

「GYURI!?」

 

甲高い悲鳴を上げた同胞に、地下鼠たちは今更ながら狩人の存在に気付く。

 

そして、一斉に襲い掛かった。

 

「GYURIRIRI!!」

 

複数の黄ばんだ前歯が狩人の身体を引き裂かんとするが、そんなものはとっくの昔に見飽きている。狩人は右腕をぶんと振るって、ノコギリ鉈の形を変えた。

 

持ち手と刃の連結部分から火花が飛び、晒されるは肉厚な鉈の刀身。

 

刃を並べ血を削るのがノコギリであれば、骨肉をまとめて叩き斬るのは鉈の領分である。横なぎに振るわれた一閃は、飛び掛かった鼠たちの顔面を一瞬で斬り飛ばした。

 

「GYUGII!?」

 

血と脳漿をまき散らす鼠たち。この一撃で大半が死に、狩人はすかさず前方へと躍り出る。

 

変形させたノコギリ鉈を縦に振り降ろし、身体を両断。返された刃は背後の鼠の横っ腹に埋まり、それを強引に引き斬る。赤黒い臓物が零れ出し、あっけなく絶命した。

 

「GYURIRI!!」

 

威勢の良い鳴き声を上げて飛び掛かった鼠を、狩人は無造作に蹴りつけて黙らせる。滑稽にも晒されたその腹を踏みつけ、彼は内臓が絡んだままのノコギリ鉈を高く掲げて―――、

 

「GYU!?」

 

両断。

 

短い悲鳴を最後に、襲い掛かった鼠の首がごろりと転がる。断面からは血を噴き出し、もとからあった血溜まりと混じり、やがて一つとなった。

 

「……ふん」

 

再び鼻を鳴らす狩人。

 

実に歯ごたえの無い狩りではあったが、まあいい。ここへ来た目的は飽くまで調査であり、血に昂る事ではないのだから。

 

狩人は瞬く間に築き上げた死骸の山には一瞥もせず、最初に撃った鼠へと近付いて行った。

 

「GYU……GI……」

 

それはぴくぴくと痙攣しながらも、未だ死んではいなかった。頭部を半分ほど失っているにも拘わらず息があるとは奇妙な事だが、それは常人の感性ならばの話だ。

 

獣は等しく生命力が高い。四肢を斬り落とされようが、全身を火に巻かれようが、その身に流れる血には超常の生命が宿っている。故に生半な攻撃など通じず、通常であれば即死の傷を負ってもなお死なない。

 

「運の良い奴だ」

 

だからとて、見逃してやる道理はないのだが。

 

彼は死にかけの鼠の頭を踏み砕き、今度こそ息の根を止める。靴底でぐりぐりと脳を踏み潰した後は、壁際にある仕掛けの元へと行き、慣れた手付きでそれを作動させた。

 

ガコンッ、という重い音が響き、扉が解除された事を確認した狩人は、踵を返して道を戻ろうとして―――そして、奇妙な一党と視線がぶつかった。

 

狩人とゴブリンスレイヤーたち。

 

彼らはこの奇妙な遺跡、『聖杯ダンジョン』にて、邂逅を果たしたのだ。

 

 




とりあえずここまでです。

次回投稿は未定ですが、頑張りたいと思います。
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