ゴブリンスレイヤー×ブラッドボーン 聖杯ダンジョン探索   作:まるっぷ

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第5章『第一層の番人』

「では、そろそろ行くとしよう」

 

ノコギリ鉈と短銃の点検を終えた狩人が、ゴブリンスレイヤー一行へと行動開始の合図を送った。

 

頭目のようにも聞こえる彼の言葉に、しかし一党は特に不満などは感じなかった。それは今自分たちがいるこの聖杯ダンジョンは、馴染み深い四方世界から外れた場所だからだ。

 

気位ばかりが高い連中であればここで嫌味の一つでもくれてやるのだろうが、彼らは自分に出来る事と出来ない事をよく理解している、実の伴った冒険者たちだ。つまらない事で口論に、などという心配はない。

 

「ああ」

 

一党の頭目たるゴブリンスレイヤーは狩人の言葉に兜を頷かせ、自身もまた点検を終えた投擲用のナイフを腰の鞘付きベルトに叩き込んだ。

 

「お前たちも、いいか」

 

「あ……はいっ」

 

女神官の声に妖精弓手、蜥蜴僧侶、鉱人道士も続いて頷きを返し、行動を開始する。

 

先頭は狩人。次にゴブリンスレイヤー、妖精弓手といった具合に、先の陣形に狩人を加えたものだ。一党にとって未知の迷宮の案内人となった狩人であったが、その実彼にとってもこの迷宮は今回が初見である。

 

聖杯ダンジョンには一部を除き、定まった形が存在しない。汎聖杯に捧げる儀式素材―――頭蓋や臓器、胎児の亡骸などの冒涜的なものばかりだ―――によって姿かたちを変え、出現する異形の者どもも異なる。

 

今回、狩人は夢にて異様な聖杯を発見した。これまでに収集したどれとも違い、更にはゴブリンスレイヤーたちとも出会った。故に彼は、この聖杯ダンジョンが件の『ゴブリン』という獣に縁のあるものであると仮定する。

 

非力で低能、しかし悪意に長けた獣。そんな獣がこの悪夢の中ではどのような行動を起こすのか、全くもって予想がつかない。

 

つまりは、いつもの通りである。

 

臆していては狩りなど出来ず、そんな者は狩人たりえない。獣狩りを全うしてこその狩人なのだから。

 

「あの先だ」

 

狩人がノコギリ鉈で指し示すのは、先程まで閉ざされていた扉である。

 

ゴブリンスレイヤーたちが彼と出会った場所。あの血だまりの空間にあった仕掛けが解除された事により、左右に設置された石像が手にしている提灯(ランタン)の色は青色に変わっている。

 

「通常であれば、この先に番人とも呼べる獣がいるはずだ。もっとも、この迷宮(ダンジョン)がそうであるという確証はないが」

 

「良いわね、それ。冒険らしいじゃない」

 

一応は警告のつもりで語った狩人の言葉に、妖精弓手はそう来なくては、と言わんばかりに口角を吊り上げた。

 

他の者たちも、各々に武器を構える。臆した様子はなく、さりとて慢心した様子もなし。年若い女神官さえもが、緊張を滲ませつつも己の役割に徹しようと覚悟を決めている。

 

(良い一党だ)

 

フッ、と、狩人はマスク越しに笑みを浮かべる。

 

元より引き返す道など彼らにはなく、先へ進むしかないのだ。すべき事を真に理解している者たちとの共闘に、彼もまた気を引き締める。

 

「俺もまた、死ぬ訳にはいかないな」

 

全てが悪い夢として片づけられるとしても、だ。

 

そうして狩人たちが扉へと近づこうとした……その瞬間。

 

ずん、と響く衝撃。

 

広大な玄室に響き渡ったそれは、目の前の扉から発生している。まるで何かが体当たりをかましているような、そんな衝撃である。

 

「何だ」

 

「分からん、が……備えろ」

 

すぐさま臨戦態勢となったゴブリンスレイヤーが狩人に問う。

 

問われた狩人は今まで経験した事のない事態に警戒しつつ、その視線は目の前の扉から外さない。

 

分かる事は、その音は徐々に大きくなっているという事のみ。

 

鬼が出るか蛇が出るか。

 

やがて、轟音と共に扉を破壊して現れたのは―――得体の知れない巨大な獣であった。

 

 

 

§

 

 

 

「GBOORUOOBRROOORR!!」

 

吹き飛ぶ扉。破壊される岩壁。耳をつんざく獣の咆哮。

 

突如として現れたそれは、まるで一党がいる事を知っていたかのように、彼らへと一直線に突進してきた。

 

「避けろ!」

 

ゴブリンスレイヤーの言葉に即応する一党。

 

女神官を抱きかかえた蜥蜴僧侶が大きく真横へ跳び、鉱人道士は転がるように、妖精弓手は猫のような身軽さでその突進を躱して見せる。

 

彼らの前方にいた狩人、ゴブリンスレイヤーも同様だ。二人は熟達した身のこなしで左右に分かれ、突進を回避。そして敵の正体を見極めるように、視線だけは獣から外さなかった。

 

「GBUROOBR!?」

 

突進の勢いのまま、空振りした獣は岩壁へとぶち当たる。

 

ずうん、という衝撃が玄室に響き渡り、ようやくその巨体は停止した。

 

「これは……」

 

「知っているのか」

 

隊列は崩れたが、一党は全員無事である。

 

土埃がもうもうと立ち込める中、狩人には心当たりがあるのか、その獣を見るや殺意を秘めた眼差しに変わる。

 

「……俺の知っている獣とは、随分と様相が違うがな」

 

「BRUGUOO……!!」

 

振り返った獣は、一言で言えば巨大な豚であった。

 

肥え太った体躯、短い手足。獲物目掛けて突進してくる様はまさしく人食い豚そのものだ。しかし目の前にいる獣は、狩人がよく知るものではなかった。

 

短い手足の先にあるのは、蹄ではなく五本の指。

 

見慣れた豚面はなく、代わりにあるのは人の顔を極限まで醜くしたような、そんな頭部。

 

黄色い眼球に、とがった鷲鼻。不揃いな歯が覗く巨大な口からは、吐き気を催す腐臭が漂っている。

 

小鬼巨大豚(ゴブリングラッドン)

 

悪夢の中で小鬼と人食い豚が混ざり合ったこの獣に、あえて名付けるのであれば、それが的確であろう。

 

「ゴブリン……!?」

 

蜥蜴僧侶に抱えられたまま、女神官が慄くように呟く。

 

田舎者(ホブ)とも英雄(チャンピオン)とも違う。醜悪極まる変貌を遂げた異質な存在に、彼女は知らず錫杖を握りしめた。

 

「あれが何であれ、やる事は変わらん」

 

そんな中で、ゴブリンスレイヤーの声が響く。

 

小鬼(ゴブリン)どもは皆殺しだ」

 

「ああ、そうとも」

 

その言葉に続けるのは、狩人の声。

 

「獣は全て殺す」

 

並び立つ小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)狩人(ハンター)

 

妖精弓手と鉱人道士もまた、得物を手に構える。

 

「GOOBRRORURR!!」

 

歪んだ聖杯ダンジョンにて、今宵最初の狩りの幕が開ける。

 

 

 

§

 

 

 

芸のない力任せの突進。しかし当たれば致命傷は免れない。

 

一党は先の光景をなぞるように、その攻撃を各々回避する。

 

「小鬼の出していい馬力じゃねえだろうが!」

 

悪態をつく鉱人道士。その体躯では俊敏な動きこそ叶わないが、馬鹿正直に突っ込んでくる巨体を躱すだけならば造作もない。

 

「どうする、オルクボルグ!?」

 

「ふむ」

 

またもや壁にぶつかる巨体を見ながら、ゴブリンスレイヤーは考える。

 

遮蔽物と言えば、この広大な玄室に立つ幾本かの支柱のみ。広大ゆえ突進を避ける事は容易いが、同時に反撃にも出にくい。

 

と、そこで、狩人が口を開く。

 

「俺が出よう」

 

言うや否や、狩人は返答を待たずに小鬼巨大豚へと突貫する。

 

「ちょっ……!?」

 

連携も何もない単独行動。この時の妖精弓手の目にはそう見えた。

 

だが、すぐにそれが最適解である事を知る事となる。

 

「ふっ!」

 

小鬼巨大豚が振り向きざま、ノコギリ鉈を滑らせる狩人。

 

否、そんな生易しいものではない。鋭い刃の並んだノコギリの刀身は、肥え太ったその横腹に凄惨な傷を刻みつける。

 

「GAARBUROOOR!?」

 

痛みに悶える小鬼巨大豚。上体をのけ反らせ狩人を押し潰そうとするも、彼は最低限の動きだけでそれを回避する。

 

小さく後退(バックステップ)した彼の眼前には、醜悪な巨顔。そこへ目掛けて、更なる一振りを見舞う。

 

「GUROOAGARR!!」

 

「すっご……!」

 

その身のこなしは、妖精弓手をして感嘆するものであった。

 

一歩間違えれば即死も免れない近距離での戦闘。それをこうも華麗にこなすとは。呆気に取られる妖精弓手と鉱人道士であったが、そこへ飛んできたゴブリンスレイヤーの声に、我に返る。

 

「俺たちは援護だ。お前は術を出せるようにしておけ」

 

「あいよ」

 

「して、拙僧は?」

 

「万が一という事もある。そのまま護衛を頼む」

 

「心得た」

 

短く、的確に指示を飛ばすゴブリンスレイヤー。

 

鉱人道士には不測の事態に備えた魔術を、蜥蜴僧侶には女神官の護衛を頼み、自身は妖精弓手と共に狩人の援護に乗り出す。

 

当の狩人はと言えば、変わらず戦闘の最中(さなか)である。

 

巨大な顎での噛みつきを身を(よじ)って躱し、後ろ足での蹴り上げには僅かに上体を反らして回避する。同時に新たな傷を叩き込む事も忘れない。

 

一方的な狩人の攻撃に、小鬼巨大豚は苛立ちを隠さず咆哮する。

 

「GBRAAORRR!!」

 

(どうやら、見掛け倒しのようだな)

 

醜悪な見た目に反し、その攻撃は単調なものばかり。見切り、躱し、切りかかる。この一連の動作は作業と言っても良い。

 

獣は総じて生命力が高いが、そろそろ足にくる頃だろう。そうすれば後はとどめの一撃を叩き込むのみ。

 

ずずん、と、目の前で倒れる巨体。ちょうどその時が来たようだ。

 

狩人はすかさず地を蹴り、獣の真後ろへと陣取る―――そうしようとした、が。

 

「っ!」

 

がしり、と、獣が狩人の脚を掴む。

 

そう、掴んだのだ。

 

(間抜けめ―――!)

 

その罵倒は、自分自身へのもの。

 

目の前にいる獣は人食い豚ではない。蹄ではなく、五本の指があるのだ。

 

であれば、物を掴んだとて不思議ではない。

 

「GOBUAAA……!」

 

巨大な口が嫌らしい形に歪んだ。

 

よくもここまでいたぶってくれたな!餌の分際で!……ゴブリンに人語を話せる知能があれば、きっとそのような言葉を発するに違いない。

 

己の不手際を呪いつつ、狩人は脚を掴むその腕を切り落とそうとノコギリ鉈を振り上げた―――その瞬間。

 

「GOAARRA!?」

 

小鬼巨大豚が絶叫する。

 

妖精弓手の放った一射は暗闇をものともせず、的確にその目を穿ったのだ。

 

「大丈夫!?」

 

「っ、ああ」

 

脚を手放した隙を見逃さず、狩人は妖精弓手とゴブリンスレイヤーのいる場所へと後退する。

 

「すまない。単独行動が過ぎた」

 

「構わん。奴も相当弱っただろう」

 

見れば、小鬼巨大豚は藻掻きながらも目に突き刺さった矢を引き抜こうとしていた。

 

豚と小鬼では身体の構造が違う。故にこそ矢に手が届いた小鬼巨大豚はそれを引き抜き、躊躇なくそれを口へと放り込んだ。

 

己の眼球が突き刺さった、その矢を。

 

「GABUUROORB……」

 

「うっ……!?」

 

ぐちゃぐちゃと、己の一部であっても食らう事を躊躇わない呪われた食欲。

 

妖精弓手が、思わず口元を手で覆う。

 

この光景にも動じないのは、やはりゴブリンスレイヤーと狩人であった。

 

「見るに、奴は相当にしぶとい。何か手はあるか」

 

「ある。が、動きを止めたい」

 

「ふむ……」

 

()()を終えた小鬼巨大豚が再び動き出す。これだけの量では足らぬと、今しがた与えた痛みも忘れ、目の前のご馳走に舌なめずりする。

 

一方で、ゴブリンスレイヤーは鉱人道士へと指示を出す。

 

「あれだ。何と言ったか……」

 

「おう。(みな)まで言わんでもええわい」

 

鉱人道士は心得たとばかりに、雑嚢からあるものを取り出す。

 

「動きが止まるのは一瞬だ。それでも良いか」

 

「ああ。十分だ」

 

「ねえ、来るわよ!」

 

かくして、双方の準備は整った。

 

「GBROOBURROOOB!!」

 

小鬼巨大豚が繰り出すのは、やはり突進。只人(ヒューム)程度であれば容易く挽肉に変えてしまうほどの質量が三人の元へ迫る。

 

臆して逃げる事も出来ないのだ。そう理解した小鬼巨大豚は醜悪な笑みを隠しもせず、まとめて獲物を喰らうべく大口を開ける。

 

「今だ!」

 

一体と三人の距離がなくなる、その時。

 

ゴブリンスレイヤーがそう言い放ち、同時に三人が地を蹴った。

 

「ほい来た!」

 

続いて飛ぶのは鉱人道士の声。

 

彼が宙へと投じた紐が、言葉と共に動き出す。

 

「《妖精(ピクシー)やい、妖精(ピクシー)やい。お菓子はやらぬが悪戯たのまぁ》!」

 

詠唱された術は《捕縛(ホールド)》。対象の手足に絡みつき、その動きを僅かに止めるものだ。

 

「GUROOB!?」

 

突然、足に絡みついた紐。細く、容易く千切れるようなものであっても、精霊の力が伴えば話は変わる。

 

小鬼巨大豚は盛大に倒れ込み、動きが止まる。

 

「これは良い的だ」

 

その呟きは、小鬼巨大豚の背後に回り込んだ狩人が落としたもの。

 

彼は無手となった右腕を引き絞る。さながら、矢を番えた大弓の如く。

 

目元だけを露出させたマスクから覗くその眼光が、凄惨な輝きを放った―――直後。

 

 

 

ぞぶり、と、小鬼巨大豚の肛門に、狩人の腕が突き立てられた。

 

 

 

「………は?」

 

それまでの緊張も忘れ、間の抜けた声がゴブリンスレイヤー以外の者たちから上がる。

 

それらを無視し、狩人は温かな内臓を引っ掴み、引きずり出す。

 

「GAA……GOBRRAABURRRAAAA!!?」

 

迸る絶叫。噴き出す血液。

 

血の噴水を一身に浴びるのは、幾本もの紐のような内臓を引きずり出した格好で立つ狩人。

 

絶叫はやがて細く、死に近づいたそれへと変わり……遂には、暗い光となって小鬼巨大豚の身体は消滅した。

 

後に残ったのは全身血濡れとなった狩人と。

 

衝撃的な光景を前に、固まる一党のみであった。

 

 




今回は狩人さんがいかに常識外れかというレクチャー回でした。

次か、その次くらいからゴブスレさんたちも本気を出すので、もうしばらくお待ち下さい。
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