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転生する夢
雲一つ無い 鳥の囀りが聞こえる 晴天の下 争いとは無縁の平和な農村がある。
そこで、ある少女は村一番の勤勉な子として知られている。
また、その少女は毎日野山を駆け回り、泥にまみれる元気な子としても知られていた。
彼女は古今東西の小説の例に漏れず転生者であった。
前世の記憶では40才半ばの男性であり、こちらも多くの前例と同様に独身である。
ちなみに今を生きる彼女の時代では、転生小説は先鋭的すぎてまだ存在しない。
前世の記憶によると彼は日本に住む一般的な会社員であり、過労死するほどのブラック企業でも無かった。
そんな彼の趣味は幅広くキャンプや釣りをする事や、ジムでトレーニングなどアウトドアな趣味の他に裁縫のような手芸、さらに料理などインドアな趣味も持っていた。
その中でも彼が一番熱を込めていた趣味は西洋東洋問わず鎧を集めるという大変お金のかかるものである。
甲冑大好きマンな彼は40年間生きてきて前世で唯一果たせなかった夢がある。
それはフルフェイスの全身鎧を着込んで旅をする事である。
前世で全身鎧などという不審極まりない姿では、家を出て5分で職務質問を受け夢を断念することになるだろう。
また鎧はとても重くフルプレートにもなると数十キロにも及ぶ。
日々鎧を着込むため体力作りを怠らなかった彼でも、常に鎧を長時間纏うのは難しく、激しい動きは当然無理だった。
ただ、彼の求める要求値が高すぎただけで普通は充分すぎた。
だがそれで満足しなかっただけのこと。
一度断念した鎧を着て旅をするという夢だが、彼は彼女として生を受けた時、赤子ながらに実現できると確信した。
彼が鎧を着て旅をしたいと思ったのは身体が作られるピークを超えた後であったため、一からやり直すことができればと何度も考えた。
しかし今世では記憶を持って赤子からやり直すことができると喜んだのだ。
当時、産みの親は赤子が笑う姿を見て可愛らしい女の子だと喜んだ。
さらにその夢の実現を後押ししたのは今世では前世には存在しなかった魔法に類するものがあったからだ。
魔法を扱うためには魔力が必要であり、その魔力は空気中に存在し呼吸と共に体内に取り入れられるという。
そして体内に取り入れた魔力か空気中に存在する魔力を利用し魔法を放つという仕組みがこの世界には存在する。
前世のアニメや漫画では魔力を使い肉体を強化し物理法則を無視したパワーを出す強化魔法が存在した。
それが魔力がある今世でも実現できると彼、いや彼女は考えたのだ。
その考えは間違っていないことがのちに分かることになる。
彼女が成長し歩けるようになった頃、村にたまに行商人が来るのだが、その護衛の冒険者が強化魔法の使い手だったのだ。
当然彼女はその冒険者に身体強化の魔法の扱い方を教えて欲しいと頼み込んだ。
当時少女は小さかったため最初は子供の気まぐれとされて相手にされなかったが、殺してでも奪い取ると言わんばかりの気迫に折れ教えてもらった。
ついでに初心者向けの魔術の教科書と冒険者直伝の強化魔法の鍛え方メニューを書いた紙を貰った。
その日から彼女の日々熟している筋トレの中に身体強化魔法を扱うための魔術の鍛錬が入ることとなる。
「さて、今日の筋トレメニューはこれぐらいで終わりにして家の手伝いでもするか。」
一人森の中でつぶやく彼女は魔法を教わったあの日に組み上げた少し変化した筋トレメニューを今終えたようだ。
彼女は土が少しついた服を払いながら立ち上がる。
「明日は確か猟師の爺さんのところだったはずだし早めに帰って早めに寝なきゃな。」
彼女は颯爽と青い森を抜け、山を降り村の畑の間を走り抜ける。
そろそろ収穫の時期だろうか?黄金色の麦が一面に広がっている。
時々吹き抜ける風が麦畑を撫で黄金の波を形成する。
頬を撫でる風もどこか黄金の匂いがする。
麦畑の中から人が立ち上がりこちらに声をかけた。
「おーいアルちゃん、お母さんが呼んでたよ」
「はーい、ソアレおばあちゃんありがとう」
アルちゃんと呼ばれた彼女は一度立ち止まってから遠くに、相手に届くように返事をする。
相手が返事の代わりに手を挙げたのを見てから再び畑の間を走り出す。
彼女のこの村ではあまり見かけない美しい金髪が雲と共に流れる。
農村の中でもやや小さい家、それが彼女の家族の住まう家である。
小さいと言っても前世で住んでいた都心のマンションよりは遥かに大きいため特に文句はない。
小さい家の脇、大きな木の横に人影が見える。
走るこちらに気づいたのか手を振っている。
「アルちゃん、洗濯物の取り込み手伝いなさい。そしたら終わったら寝てるルシウスを起こしてきてちょうだい」
「わかった、ついでにご飯の手伝いもさせて」
「あらありがとう、でも今日は大丈夫よ。……この子はこんなにいい子に育ったのにルシウスはだらしないのを治さないなんて、後で説教かしらね」
「あはは…」
木と家の間に掛けられた洗濯物の取り込みを手伝った後、母にだらしないと評された父ルシウスを起こしに寝室へ向かう。
普段は元従軍騎士を活かして村の力仕事を解決するナイスガイとして有名な父だが、今この姿を見てあのルシウスだと気づく者はいないだろう。
前世で休みの日は一日中寝ていたい気持ちがわかるが母に起こすよう頼まれた以上は起こさなければならない。
普段頑張っている父の評価を改善することを母に抗議したり父のように惰眠を貪ることはしない。
決してだらけ過ぎた父が母に怒られていた様子を見た時今世で初めて漏らしたのが理由ではない。
「ねえお母さん お父さん、私が旅に出たいって言ったら…反対する?」
ご飯を食べ終わった後、話が途切れる時を見計らって自分の将来の夢の一部を切り出す。
先ほど話には出なかったが彼女には赤子の頃から育てたと言っても過言ではない弟がいる。
そのため自分が家業を継がずに旅に出ても弟がなんとかするだろうとの考えだ。
もちろん弟とは仲がいい、さらに口裏は合わせているため旅に出たいことを反対される心配はない。
「お姉ちゃんが冒険者になって村の外で将来成功すれば、村の知名度が上がってなんかいい感じになると思う!」
普段口数の少ない弟が少し興奮しながら話す。
一応弟に旅をすることのメリット提示による援護もしてもらえた。
これでより賛成してくれる可能性が上がったことだろう。
「反対なんかしないわ!むしろ応援したいわ、その時はお土産話を沢山ちょうだいね」
「俺も昔は沢山旅したからなぁ、旅することで得られるものも沢山あるから全然良いと思うぞ」
もし反対されたら両親には申し訳ないがこっそり旅立つことも…あれ?
母も父も反対どころか賛成のようだ、思ってたよりもすぐに同意してもらえた、なぜだろう。
「毎晩冒険する物語を聞きたいってせがまれたら…ねぇ? なんとなく旅したくなるのが想像できるわ」
どこか納得した顔でこちらを見つめる母、思い出すように空を見る父。
「それにいつ頃かは分からんが毎日体を鍛えてたようだからなぁ、狩人の爺さんも褒めてたし特に実力に関しては問題ないんじゃないか」
おや、自分が思っているよりも旅に出たい欲が溢れていたようだ。
別に将来の夢や目標について話したわけではないのに知っているとは、伊達に二児の親をしているわけではないということか。
「ありがとう、お母さん お父さん」
涙が頬をつたう。
「あらあら、泣いちゃってあなたの帰るべき場所はここよ。だから旅に出ても帰りたくなったらいつでも戻っておいでね」
そんな自分に優しく言葉をかけてくれる母と父。
「よぉしお父さんが騎士の頃に学んだことを後で教えてやろう、具体的にはキャンプの時に注意すべき点とか…え、知ってるのかアル!」
母と父に抱きしめて貰った、心に温かいものを感じた。
今日明日で旅に出るわけではなく、今世で育てて貰った恩があるので元々心残りをなくすために相談したのだが…結果的にして良かった。
相談をしただけなのに凄く疲れた気分だ。
どこか心の奥で自分の夢が親に否定されてしまうかもしれないと思っていたからかもしれない。
前世で40年生きてきたとしてもそれは前世のこと、今世で得られるものも取りこぼさないように生きていこうと心の奥底で固く誓いながら布団に入り明日のこと考えながら瞼を閉じた。
小説書くの難しいね。