あれから宿に戻った後も数日ほど不死者が大量発生していたらしい。
もちろんその間も特別依頼は貼り出されており、報酬も依頼の難しさと比べるとかなりお得だったので何度も受ける冒険者も多かったようだ。
私たちは二度目の依頼は受けなかった、たくさんの冒険者が受けたというのはレーヴェ先輩から聞いた話である。
理由としては私もヴィーラもお金に困っていないのがひとつ、骸骨相手に無双できて中々楽しかったが次は飽きるだろうという予想、そして何より教会で受付で忙しくしていたあの神父が不死者と見間違うほど顔色が悪くなっていたのを見てしまったからだ。
そうこうしているうちに数日続いた大量発生は終息した、それによりギルドや町全体に少しながら広まっていた混乱も収まり特別依頼も無くなった。
しかし何故不死者が大量発生するのだろうか。
これには何か必ず原因があると思う、そして原因があるとしたら大量発生の現場である墓地にあるはずだ。
「それで、原因を探すのはいいが墓地のどこに原因があるか知ってるのか? あそこ結構広いから闇雲に探しても見つからないとあたしは思うけど」
「……なんとなく探しても見つかると思ってたのだが」
「なんとなくでは無理だろう……そうだな、教会で聞いてみるのはどうだ、何か知ってるかもしれないぜ」
適当に探してあるか分からない原因を突き止めるという計画とも呼べない計画をヴィーラに相談すると至極真っ当な返事が返ってきた。
確かに教会は不死者発生源である墓地に近い、それに不死者討伐の依頼を出しているのは教会なので何か知っているはずだ。
逆に何故今まで対策が為されていないのかが気になる所だが。
しかし計画を相談しておいて良かった、そうでもなければ今頃あてもなく探し続けて無意味に時間を浪費していたことだろう。
やはり人生で持つべきはものは友!
曇り空の下、私たちは例の墓地近くの教会へ向かう、教会はこの宿場町で唯一の教会だ。
最近は少し天気が悪い日が続く、しかし雨が降りそうな雲ではないので今日はずっと曇りのままだろう。
「おや? あなた方はあの時の冒険者の方々ですね、依頼の受付は教会ではもうしておりませんが何かありましたか?」
教会の前で箒を使って掃除をしていた神官がこちらに気づき話しかけてきた。
こちらを知っているようだ、残念ながら私の方の記憶にはないが。
「不死者が大量発生する原因を解決したい、そのためにも教会から何か情報が得られないかと思ってきた」
「なるほど、解決してくださるのは教会としてもかなり助かります。本来はカウロ神父がそういった役目を持っているのですが……なるべく早く解決してくださるとのことなので代理で私が調べてみますね」
神官はそう言うと教会にあるという資料室へ不死者発生に関連する資料を探しに向かった、その間私たちは教会の椅子に座って待つ。
……なるべく早く解決するとは一言も言っていないのだが。
それだけ教会はこの事件を解決してほしいのだろう、その分評価や報酬も良いものになりそうなので早めに解決したいところだ。
そしてあの神父の名前はカウロということを今更知った、カウロ神父が情報を集めたりする役割らしいが何故神父ではなく神官がやるのだろうか。
そうして神官が戻ってくるのをしばらく待っていると大量の本を両手に抱えて戻ってきた。
もしかしてこの量の本から重要な情報を探さなければならないのだろうか? 日が暮れそうだ。
「不死者の大量発生について書かれているものは特に見つかりませんでした。代わりにこの前の依頼の時に冒険者から聞いた話があるのでそれを皆さんにも共有しておきますね」
大量の本は今回のことと何も関係がないらしい、一番上の本の表紙を見てみると料理の本だった。
何故この量の関係ない本を持ってきたんだ? 資料室へは何しに行ったのか理解にくるしむ。
「……その冒険者から聞いた話というのは?」
「墓地の中心に向かうにつれて多くの不死者と遭遇した上その方向から不死者達はやってきているそうです、なので中央に何か原因があると冒険者達は言っていましたね」
「それで教会は墓地の中心に何があるかご存知ですか?」
「ええ 中央には高名な貴族の墓があったはずですね。ただ墓は建造物で覆われていますし、死者避けの魔術と重い扉で閉ざされているので原因があることはないと思いますけど……」
関係のない大量の本についてはスルーするとかなり有力な話を聞けた。
神官が言うには墓地の中心には名は忘れ去られてしまったがとにかく高名な貴族の墓があるらしい。
それが一番怪しいと思う。
その墓の周りは死者避けの魔術が張り巡らされていて骸骨程度の下級種では近寄れないとのことだ。
さらに入り口は重く分厚い扉で閉ざされているので泥棒なども入れない。
そこまで厳重なら怪しくはあるが不死者が大量発生の原因ではないだろう。
ただし最近は忙しいのに加えて不死者が多く危険で近寄れないなど様々な要因で墓の様子を確認できていないそうだ。
じゃあやっぱり怪しいじゃねえか、なんならそこが原因と言っているようなものだ。
「ところで何故カウロ神父はいないんですか?」
「カウロ神父は特別依頼の時に多くの冒険者の対応と事後処理の書類に埋もれてそのまま体調を崩してしまって……」
まあ あの顔色なら無理もないだろう。
しかしこの神官は元気に見える。
私が思うに神父が一人で対応していたからでは?
「でも、まあ毎回特別依頼をギルドに出した後はいつも過労で体調を崩しますが割とすぐに復帰するのでそこまで心配は要らないと思いますよ」
ええ……この教会ブラックすぎる、神父一人で対応していたのが確定した。
しかも神父はいつも過労で倒れているらしい、辛すぎる。
ブラック教会の一端を見てしまった私たちはその一因を取り除くため墓地の中心に向かっていた。
特別依頼もないので他に冒険者の姿は見えない、また骸骨達の姿もちらほらとしか確認することしかできない。
どんよりとした曇り空の下、薄気味の悪いほど静かな墓地を歩いていく。
「原因ってなんだろうな、あたしの予想はすごい邪悪な奴が不死者を効率よく作る練習をしてるんじゃないかと思うんだが」
墓石の間を縫うように歩いているとヴィーラがふと思いついたであろう原因の正体を考察し始める。
ここまでの道、時々骸骨がぼっちで歩いているだけでなんの刺激もなかった。
そんな殺風景な墓地で唯一の刺激である骸骨もヴィーラが持つリーチの長い戦鎚で辻斬りならぬ辻砕きするため私は本当にすることが無い。
かといって無警戒ではいれない程度に骸骨が寄ってくるため気を緩められず大変に疲れるのでこういった雑談は正直かなり助かる。
「だが効率よく作る意味はあるのか? 魔物の王とかがいてその配下が人類を滅ぼすための実験とか?」
「ああー 魔王ね、もっと東の方で戦ってるらしいしここら辺はまだ平和だからこの予想はありえないな」
ファンタジー世界によくいる魔王を話に出してみたら実際にいるらしい。
しかも適当に出した魔王が人類を滅ぼすという目標も合っていたとは、ならば魔王の対になるように存在する勇者や聖剣なども存在するのだろうか。
魔王と勇者について自分なりにいろいろ考えていると遠くに建造物が見えてきた。
「お もしかしなくともあれが貴族の墓なんじゃねえか?」
その視線の先には石造りの小さな神殿のような見た目をした建物があった。
苔や蔦がたくさん生えているせいもあってかなり昔の建造物に見える。
神官が言っていた最近は骸骨が多くて墓に近寄ることが出来なかったというのも原因だろう。
……その割に墓の周りに骸骨は見当たらない、道中も頑張れば迂回できる程度の数にしか遭遇しなかった。
今日が偶然少なかっただけだろうか。
「ここが入り口っぽいな、でもとてもじゃ無いが開きそうにないぜ? ……多分誰もここに来てない。どうするアルトリア当てが外れちまったけど、とりあえず一度教会にもどるか?」
石造りの建物に同じく石造りと思われる扉がある。
確かに開きそうに無い、実際押しても引いてもびくともしなかった。
これなら非力な泥棒には墓荒らしは無理だろう。
「だが、ただの泥棒ではなかったなら?」
「え?」
確かに金の無い一般人がなりやすい泥棒には無理だろう、わざわざ扉を開けることのできる人物を雇うとは到底考えることは出来ない。
しかし 初めから金目当てのコソ泥で無ければ? そう 例えば筋肉もりもりのマッチョとか。
筋肉もりもりならその筋肉の限界を試す為に挑戦し、この重い石の扉を開けることができるかもしれない。
ただ私はこの扉を開けられるほど自身の筋肉を鍛えているとは思わない、それに同じ開け方ではつまらないだろう。
扉の正面に立ちヴィーラには離れてもらう。
「え どうした?」
身体に魔力を流し肉体を強化する。
「……いや、あたしの勘違いかもしれんし」
足で大地をしっかり踏み締める。
「おい、何をしようとしてるか知らないが一旦止まってくれアルトリア」
全力を出せるように呼吸を整える。
「待て待て待て! とにかく止まれ!」
地を蹴り前方に加速し
腕を前に出し衝撃を集中させ
石扉に向かって体当たりを繰り出す
「止めろアルトリアァァァァ!!」
建物内に侵入できないように塞がれていた重く硬い石の扉は絶叫と共に粉砕された。
鎧が粉になった石に塗れて真っ白になりながら建物内に侵入する。
扉の先は緩やかな階段があったようでゴロゴロと扉だったものと共に転がり落ちる。
中はそこそこ広く壊れた入り口から差し込む光で煙が反射して天然の白い煙幕になった。
「はぁ〜……アルトリア! 怪我はしてないよな」
おおいに呆れたため息の後、ヴィーラのこちらを心配する大声が入り口の向こうから聞こえる。
「ああ 問題無い!」
「何故扉を壊したのか後で聞かせてもらうからな!」
怪我がないことを証明する為届くよう大声で返事をする。
ヴィーラは入り口の外で今の音に反応して寄ってくる骸骨や何かがいないか見張るようだ。
さて、煙も収まってきたので私も周りを見渡してみよう。
まず目に入ったのは部屋の中央にある蓋の空いた棺とその前に描かれた魔法陣らしきものだろう。
これだけでこの扉を壊して入った意味があるだろう、間違いなく不死者大量発生の原因に違いない。
端っこの方に今自分が開けた穴とは違う不自然な穴がある、ここから犯人は出入りしていると予想できる。
そして周りには火のついた蝋燭があり最近まで誰かがいたことを示す。
……最近まで誰かがいた?
「うおッ」
前触れもなく突風が襲い掛かった。
私は入り口にわずかばかりあった扉の破片と共に外に吹き飛ばされる。
鎧を着ていたため扉の破片も突風も痛くなかったが身体が風によって浮いたのは衝撃的だ。
「お前が不死者を大量に生み出している犯人か!」
とりあえずなんらかの情報を得る為、入り口の向こうにいるであろう相手に向かって問いかける。
暗い入り口の向こうからボロボロの黒いローブを着た人物が姿を現す。
フードを深く被っている為顔は見えないが袖から見える手は白く血が通っていないようだ。
「 如何にも 我こそが 不死を操り 生者に 死を与える者 」
途切れながらも力強く、掠れながらよく聞こえる声で黒衣の人物は話す。
「 不死の王である 」
不死の王は両手を広げる、すると周りの大地が隆起し骸骨達が這い出てくる。
その中でも一体だけ剣と盾を持つ骸骨が不死の王の側につき他の骸骨は私を包囲した。
おそらく剣と盾を持った骸骨は護衛なのだろう、一筋縄では行かなそうだ。
「 鎧を着た生者よ k「オルァ!」ぐおおお! 」
建物の上に登っていたのであろうヴィーラが不死の王めがけて跳躍しそのまま戦鎚を振り下ろす。
ええ……ヴィーラの不意打ちが通るとは、護衛の骸骨意味なさすぎるだろ。
何か喋っていたがどうせ碌でもないことだろうし親玉がやられて動揺している隙に周りの骸骨を片付けるか。
周りの骸骨はただの骸骨だったので一撃で骨を砕いて倒した、特筆すべきことは無い。
剣と盾を持った護衛の骸骨はヴィーラが繰り出す太鼓の達人並みの連打で盾をベコベコにした後そのまま粉末にされ呆気なく滅びた。
……なんか、不死の王とか言ってたが名乗り上げが一番強そうで後はただの骸骨と大差なかったな。
「 ……おのれ おのれ おのれぇ 」
倒れ伏していた黒いボロ切れが立ち上がる、しかしそのままよろけて座り込んだ。
おや まだ生きていたようだ、しかし頭がフードの上からでも分かるくらい陥没している。
あれでも生きているとは、もしかして本当に不死なのだろうか。
「
枯れ木のような手をかざし潰れた声で呪文を紡ぐ。
魔術が詠唱され文字通り炎の槍が発射される。
見た目は炎のビームの方が近いだろう。
「ぐっ こんの死に損ないめ!」
撃たれたのは鎧を着た私……ではなく肌面積の多いヴィーラだ。
炎が命中してしまったが反撃で最後っ屁を出した不死の王の胴体に戦鎚で穴を開ける。
肺を潰されて息が口から漏れた後不死の王はそれを最後に動かなくなった。
しかしヴィーラは片足を貫かれてしまった、痛そう。
「ヴィーラ! ……大丈夫そうではあるが歩けるか? 無理なら肩を貸そう」
「んん、歩くのは少し……辛いね、肩を借りさせてもらうよ」
ええ……普通足貫通したら痛がるものじゃ無いのか? しかも勢いよく流血してるのに、根性凄すぎじゃないか?
とりあえず肩を貸す前に流血してる足に布を巻いて簡単に止血して、ファンタジー特有の凄い効能を持った薬草をいくつか食わそう、すごい苦いけど。
そしてここから教会までまた戻らなきゃいけないのか、かなり面倒くさいな。
仲間を置いてくわけにも行かないしゆっくりでもいいから帰ろうか、どうせ今回の目的である原因も解決できたし急ぐ必要はあまり無い。
「なんか、すまんアルトリア」
「なに、気にするな。仲間なら当然だ」
ヴィーラがしょぼしょぼしてしまった、かなり珍しい姿じゃ無いか?
何気に冒険を共に始めてから初の怪我かもしれない。
そうして考えると私は怪我らしい怪我は無いのでは、……いや熊と戦った時ボロボロだったわ。
今までした怪我について思い出しながら道中骸骨を粉砕して仲間の治療と原因を対処したことの報告の為教会へと向かった。
肩を貸して歩く私たちを遠くから見つめる影には気付かずに。
体調が優れなかったり展開に悩んでました
十話ほど書いておいて今更だけど戦ってばかりなワンパターンな気がするから改善したい
今回の敵はもっと苦戦する予定だったんだけどなんか弱くなっちゃった