──勝者! アルトリア!
司会のアナウンスが試合の決着を告げると共に会場の観客達が一斉に湧き立つ。
試合中も歓声が止むことは無かったが今はそれ以上だ。
観客の熱がこちらまで伝わってくる。
観客席は満席に近く、ぱっと見では見知らぬ顔ばかり。
座席にはクラスメイトや私の派閥の人達もいるのだろうが私の視力では、それも兜を被っている状態では見つけることは難しいだろう。
──鮮やかな一撃でした! 二回戦目ではどのような戦いを見せてくれるのか実に楽しみです! では、次の試合は──
私は先程一回戦目の対戦相手を危なげなく倒したところだ。
知らない相手だったこともあり、特に印象に残ることは起きなかった。
しっかりと仮眠を取り、フェルネに起こしてもらったので体調は万全の状態で挑むことが出来たというわけだ。
そしてさっきの試合で鎧を着た時の動き方や体力の配分などは大体掴むことができた。
次の試合では違和感なく鎧に合わせた動きで戦うことができるだろう。
気絶した対戦相手が救護室に運ばれるのを横目に見ながら私は会場を後にした。
選手が会場に出入りできる入場口は闘技場の裏手で、人も表通りに比べるとかなり閑散としていた。
闘技場内部の観客の声援が遠くから聞こえるぐらいで周囲は静かな上に風が涼しく心地が良い。
一試合目が終わったわけだが、この後はどうしようか……
試合を見るのも良いとは思うが、また体調が悪くなったら面倒だ。
対戦相手の戦い方を見たり、友人の試合を観戦することができないのは勿体無いが背に腹はかえられない。
観戦しないとなると次の第二試合が始まるまで暇になるわけだが……
ん? あの後ろ姿はイリーゼじゃないか?
忙しなく辺りを見渡している。
ここは文字通り舞台裏、こんなとこまでどうしたのだろう?
「! アルトリア様! 開会式から体調が優れないと聞いたのですが! 大丈夫なのですか!?」
「ああ 仮眠をとったから別に心配要らない。それで、どうしてここに?」
「はぁ……そう、良かった。それで ええと、そう! ここに来た理由でしたね」
こちらを見つけると物凄い速度でこちらに走ってきた。
開会式後のことをフェルネから聞いたのだろう。
しかしここまで心配されることだろうか? イリーゼの顔が真っ青になっていたのだが。
よっぽどフェルネの伝え方が下手だったのか、それとも実際その時の私は本当に深刻な顔色だったかのどちらかだな。
「私の“一番の”友人が試合に勝ったのですよ? 喜びを分かち合うのは当たり前ではありませんか?」
ん? 今一番をすごい強調してたような……
もしかして私今すごく重い感情を向けられてるのか? 一体いつの間に……
まあ流石に気にしすぎか、それよりわざわざ来て一緒に喜んでくれるとは、かなり嬉しい。
「確かにそうだな、ありがとうイリーゼ」
感謝の言葉を述べるとイリーゼは花のような笑顔を咲かせた。
最初の出会いはそれこそ私が派閥の長になってしまった時にたまたま横にいた、程度だったのだが。
今では派閥の右腕であり、学園内で出来た貴重な友人の一人でもある。
ちなみにイリーゼは私の派閥内外問わず人気がある。
本人は貴族なのにも関わらず平民にも同じように優しく接してくれる上に、見た目も美しいと評判だ。
噂では非公認ながらも氷の姫騎士の次に大きいファンクラブのようなものがあるらしい。
ところで私のファンクラブはあるのだろうか……?
派閥の長は全員ファンクラブが出来ているらしいので、それに倣うと私にもあるということだが……
「……所でアルトリア様は次の試合まで何か予定はあります?」
「特に決めてないな、イリーゼは何かあるのか?」
「いえ、ー私もありませんので一緒にフェルネの応援でも行きませんか? 闘技場の上の方ならかなり空いていると思いますし」
「なら、そうしよう」
そうして私たちは観客席の上の方に来たわけだが、イリーゼの言っていた通り人が少ない。
どこか屋上のような雰囲気もあり、ここで昼食なんかが取れたら気持ちがよさそうだ。
人が多すぎて体調が悪くなるかもしれないので試合は見れないと思っていたのだが、ここなら気分が悪くなることなく観戦できるだろう。
そしてちょうど今、フェルネが戦っているのを観戦している。
とは言え試合が行われている中央からここはかなり離れていてほぼ見えないので雰囲気で観戦しているような感じだ。
だが、有象無象に負けるほど弱くはないので多分勝つだろう。
「勝者! フェルネ!」
お、勝ったようだ。
闘技場の中心から結構離れているのに司会の声がここまで届くとは、恐るべし肺活量と声量だ。
しばらく待っているとフェルネがやってきて私たちと合流した。
あらかじめ待ち合わせる場所をイリーゼと決めていたのだろうか?
不思議だ。
「いぇーい! 勝つところちゃんと見てた?」
「ああ、見てたぞ。まずは一回戦おめでとう」
「おめでとうございます」
「えへへ」
良く見えなかった、とは言わずに褒めておいた。
そのまま三人でしばらく試合を観戦した後、私の対戦相手が決まった。
二回戦目の対戦相手は先程まで一緒に観戦していたフェルネだ。
授業の模擬戦で何度も戦ってきたので癖や弱点は全て把握している……つもりではある。
当然、私のことも把握されているだろうし、今までとは全く異なる戦術で勝ちを狙ってくるかもしれない。
そうなると勝つのは一筋縄では行かないだろうから油断しないように気を引き締めよう。
選手用の入場門をくぐると観客の応援の声援と期待の拍手が会場を揺らす。
司会がこの試合について観客に向けて解説している声を背景にフェルネと対峙した。
「アルトリア! ここで会ったが百年目! 今日こそ勝ってみせるよ!」
「さっき会ったばかりだがな、連勝記録はまだ途絶えさせん」
前回の模擬戦や先程の試合では身の丈ほどの巨大な大剣をフェルネは使っていたが、今回は常識的な大きさの大剣だ。
まず使う武器が違うので、戦い方も違うことは確定した。
私への対策であることは間違いないだろう。
──ではアルトリア対フェルネ、試合開始ィ!
開始の合図。
私も、フェルネも真剣な表情へと切り替わった。
まずは様子見を……なんてことはしない。
相手の戦い方が分からないならば、その戦い方が分かる前に叩き潰せば良いのだ!
「ふッ!」
大地を蹴り急接近、その勢いのまま喉元に向かって鋭く突きを繰り出す。
フェルネからは刀身はかなり見づらいため避けるのも難しいだろう。
そしてもしそのまま剣が刺されば致命傷、最悪死ぬ可能性もある。
が、戦う時は模擬戦の時でもいつも殺す気でやっているのでまあ問題ないだろう。
「でやぁ!」
不幸にも突きが喉に刺さることはなく、大剣の腹で剣先を逸らしながら斬り返してきた。
完璧で手本にしたくなるような美しいカウンターだ。
いくら鎧を着ていると言えども避けることができる攻撃を受けるのは良い方法とは言えない。
頑張って避けて仕切り直すか、盾で防ぎ攻撃を続行するか。
「──ぐうッ」
「──ッ」
私は盾で防ぎ攻撃を続行することを選んだ。
フェルネの獲物がいつもの身の丈ほどある大剣だったら防ぐことはできなかっただろう。
盾と大剣がぶつかり合い衝撃が腕に伝わり痺れる感覚がする。
そして接近しすぎて剣を振るうスペースが確保できないので、剣の柄頭で相手を殴る。
「痛っ!」
フェルネはたまらずといった様子で回し蹴りを放ち距離を取ろうとする。
大剣と剣、間合い的には距離を取られると大剣の方がやや有利だ。
ならば距離を取らせず、接近するのみ。
「はあッ!」
「え!?」
緩急つけずに飛び膝蹴りを繰り出し接近しつつ回し蹴りを避ける。
そのまま膝はフェルネの顎に吸い込まれるように飛んでいき、意表を突いたのかそのまま命中。
鎧をつけた大質量の膝蹴りは顎を粉砕しその振動は脳を揺らして気絶させた。
──勝者アルトリア! 前回に続き息をつかせぬ速攻! 一撃を決めて勝ちました!
司会が勝敗が付いたことを知らせる。
二回戦目も無事勝つことができた。
救護班が大急ぎで気絶したフェルネを担架に乗せて運んで行った。
膝の感触から顎を砕いた気がするが、神官が治癒魔術で完璧に治してくれるだろう。
それでも普通友人の顎を砕いたら謝るべきだと、頭の中の常識と感情が訴えているので救護室へ向かおう。
次の試合、それも対戦相手の発表まではまだまだ時間がある。
フェルネが気絶から目覚めるまで待つことができるだろう。
もし試合が先に決まった場合は誰かに言伝でも頼んでおこうか。
「アルトリア様? お見舞いに行くのですか?」
「ああ、一緒に来るか?」
「ふむ、正直なところそれほど心配はしていないのですが……行きます」
イリーゼが出てすぐの入退場口で待ち伏せていた。
そして正直心配していないときた、実はフェルネと仲が悪いのだろうか。
いや、信頼しているからこその発言だと思いたい。
…………そうだよな?
友人同士の関係性について悩みながら救護室の扉を開ける。
救護室のベットには何人か寝ており、死屍累々と呼べる雰囲気だ。
事実、試合でボコボコにされて負けてしまった人が救護室行きになっているのだから暗くなるのは当たり前だろう。
そして例に漏れずベットで寝かせられていたフェルネは……
「あ! アルトリアとイリーゼ! 私は元気だよ!」
そこには顎を包帯でぐるぐる巻きにされてはいるが元気そうなフェルネがいた。
ほっ……
元気なようで良かった、ならもうここに用はない。
「ま 待って!? もう帰るの? いくらなんでも早いよ!」
そのまま救護室を出て帰る……ことはせずに兜を脱ぎ、ベットの横に椅子を置いて座る。
元気なことを確認して早々に帰るなんてことはもちろんしない。
持ってきたりんごを剥きながらうるさくならない程度に談笑する。
「ほっ……帰っちゃうかと思った……んでまた負けちゃったよーアルトリア強いねー」
「なに当たり前なことを、アルトリア様は強いです」
これまで私と戦いフェルネは毎回負けているせいで忘れそうだが、フェルネはかなり強い。
単純に重たい大剣を自在に操ることができるという純粋な暴力は強い。
それに力押しの一辺倒だけではなく、カウンターなどの細かい技術力もしっかりある上に成長性もあるのでクラス内でも上位に位置する強さなのだ。
「フェルネ、見たところ怪我は大丈夫そうだが……」
「んー? もしかして心配されてる? ふふ、謝らなくていいよ、むしろいつも本気で戦ってくれてありがとう!」
「そうか……ならそうしよう」
そう、若干気にしていたのだ。
前世の記憶で常識を知っているが故にいくら友人だとしても顎を砕くような奴は嫌われると思ったのだが、私の派閥が武闘派なこともあるだけに気にする必要は無かったようだ。
いや顎を砕くのは嫌われるどころでは無いのでは?
剥いたりんごを食べながら、良い友人を持てたと感動する。
しかし言いたいことを言い切る前に答えられるとは、フェルネは予知能力者なのだろうか。
「いや、顔に出てるから」
「アルトリア様は意外と分かりやすいですよね」
二人からそう思われていたとは、解せぬ。
しかし、不思議と気分は悪く無かった。
そんなこんなで時間を潰しているうちに私の次の対戦相手が発表された。
三回戦目の対戦相手は冒険者のレーヴェ先輩だ。
ベットで寝てるフェルネと、その付き添いとしてしばらく救護室にいることにしたイリーゼから応援を貰い試合へ挑む。
レーヴェ先輩は鉄上級の冒険者、昇級試験の時に一度だけ戦ったことがあるがその時は槍を使っていた。
フェルネとは反対に技量系の戦い方をするのだと私は予想している。
対人戦も沢山こなしているだろうしより苦戦することだろう。
隙を作るために一回戦と二回戦では持っていかなかった短剣を持っていこうか。
昇格試験の時も短剣を投げたので通用しない可能性の方が高いが。
──この対戦を勝てば三連勝! 全ての敵を一撃で粉砕してきた鎧のアルトリア選手──
早速司会が選手の紹介をして会場を盛り上げている。
丈夫そうな槍を持ち、新品に見える胸当てをつけたレーヴェ先輩が対峙していた。
「よう! 久しぶりだな。流石に負けていたりはしなかったか」
「久しぶりですレーヴェ先輩、試合は観戦していなかったのですか?」
──対するは巧みな槍捌きで勝ち上がってきた鉄上級のレーヴェ選手──
「負けるまでは観戦しないって決めてるんでね」
「では、次の試合では私の勇姿をしっかり観ててください」
──果たしてどちらがこの三回戦を制し! 四回戦目へと挑戦できるのか──
「へっ、言うじゃねぇか。……覚悟しな」
「……いいえ、勝たせてもらいます」
──アルトリア対レーヴェ、試合開始ィ!
観客の歓声が一際大きく膨れ上がる。
それと同時に、いや、それより早くレーヴェ先輩が先手を取った。
「はあぁぁッ!」
風を裂く音を先端から発しながら槍が繰り出された。
その一撃は庇いづらい左肩のあたりを狙っている。
だがその程度なら問題ない。
盾で防御し、反撃に移ろうとするが……
「ハッ!」
次は右肩に刺突される。
それをすかさず盾で防ぐ。
「ハァッ!」
次は再び左、かと思えば右膝。
さらに今度は左膝や首を狙った鋭い一撃が連続で繰り出される。
「ハァァッ!」
どの攻撃も微妙に守りずらい関節部、それも鎧の隙間を狙っており鎧の防御力も期待できない。
防戦一方といったところだ。
盾は頑丈に作る必要もあって重い。
そのため相手の槍を永遠と捌くのは不可能に近い。
ならば攻撃こそ最大の防御、攻撃に転じるのみ!
「フッ!」
「なに!?」
刀身で穂先を弾きながら前進して接近し始める。
全ての攻撃を逸らし、斬り結びを繰り返すのは刃こぼれの原因となるためこの剣は試合が終わる頃には使い物にならなくなるだろう。
レーヴェも槍の内に入られたらまともに槍を振るうことができないため後ろに下りながら突きを繰り出す。
だが、全ての突きが弾かれていることから焦りを感じはじめ、額に汗が流れる。
そして焦りが集中力を乱し、ついには手元の制御を誤ってしまった。
「なッ!」
「はあぁぁッ!」
それ見逃す理由が無い。
力を入れて槍を外側に弾く。
そしてできた大きな隙に腹を蹴り飛ばした。
「ぐおおお……」
ちょうど鳩尾に蹴りが入ったのかその痛みからうずくまる。
そして私は刃こぼれしてしまった剣を相手の首に突き立てた。
──三回戦目の栄光を手にしたのは! アルトリアだァ!
お久しぶりです
投稿遅れましたが私は元気です
一試合目はナレ死しました