フルアーマー女騎士   作:雷神すねこすり

2 / 23
鍛造する心

 今世では前世の夢である旅をするだけではなく、様々な経験を得るために旅に出ようと誓った。

 のだが、方針は特に変わらない。

 元々旅に出るという目的は本来なら手段として使われるものだろう。

 

 悪の親玉である魔王を討伐するために旅に出る、世界を平和にする方法を見つけるために旅に出るなど。

 物語の主人公のように崇高な目的を持って旅立とうとしたわけではない。

 なんなら鎧を着て村を出るだけで目的は達成してしまうのだ。

 

 そこに経験を得るためという目的が加わることで、夢は完全体になったと言えるだろう。

 

 

「おはよ」

 

 窓から差し込む朝の光が眩しい。

 ベットから降りて自分の部屋から家族が集うリビングへ向かう。

 先に母と父が起きていたので朝の挨拶をしておく。

 

「おう」

 

「あらおはよう」

 

 父と母が順番に挨拶を返してくれた。

 弟はきっとまだ寝ているだろう。

 いつものことなので気にしない。

 

「今日は確かアテナじいさんの所だったよな?」

 

 父が朝食のパンにジャムを塗りながら今日の予定を確認してくる。

 アテナじいさんとは村のベテラン狩人のことだ。

 森での歩き方や弓矢を使った狩りの仕方のほかに狩りに役立つ知識や道具の作り方を教えて貰っている。

 

「そうだよ、お父さんも何かアテナじいさんに予定があるの?」

 

 確か父とアテナじいさんはお酒の飲み仲間だったはずだ。

 時々飲みに行って帰りが遅くなり母に怒られるというルーティーンができている。

 この前怒られたばかりなのにまた行くのかと思いながら聞き返す。

 思っていることが顔に出ていたのか慌てて父が返事をする。

 

「いや 別に飲みに行く気はないぞ、ただ道具の作成を頼んでただけだ。だから母さんもそんなに睨まないでくれ、頼む」

 

 冷や汗を大量に流しながら弁解する父。

 声もいつもより大きいし目線もあちこちに飛んでいて図星を突かれたことが丸わかりだ。

 

「ふうん、ならいいけど」

 

 こちらを一瞥した後家事に戻る母、どうやら許されたようだ。

 自分には関係のないはずなのに体の震えが止まらないのは気のせいだろう。

 母より怖いものはこの世に多分存在しない。

 

 

 

 そんな恐怖映像のような出来事を体験した朝だが、今私はアテナじいさんの所へ向かっている最中だ。

 アテナじいさんは森の近くに住んでおり山を降りる獣や魔物が出た時村に知らせる役割もある。

 正直アテナじいさんが強すぎて生まれてから一度も獣とか魔物の警告は聞いたことはない。

 

「おう 来たな小娘、今日はお前一人で狩ってみろ。なに、後ろで一応見といてやるから安心しろ」

 

 今日唐突に明かされる衝撃の試練。

 

「言ってなかったからな」

 

 ガハハと笑いながらそんなことを言うアテナじいさん。

 だが なんだかんだ言って今まで狩猟の手伝いを沢山してきたし、最近はほぼ一人で狩猟していたようなものだ。

 アテナじいさんの技術は全て吸収したつもりだし、特に失敗する心配もない。

 

「おう! 華麗に狩猟する姿をその目に焼き付けな」

 

 手を広げてオーバーなリアクションをしながら今考えた決め台詞を言ってみたりした。

 それがツボに入ったのか笑い続けるアテナじいさん。

 

「クク ああ、ぜひ目に焼き付けさせてくれ。ククク」

 

 まったく、いつも思うがどこか憎めないじいさんだぜ。

 

 

 

 冬になると森は丸裸になり、動物やそれを食糧にする魔物もほとんど見かけなくなる。

 そのため冬になる前にある程度動物を狩り貯蓄をしなければならない。

 だが今年必要な分は先週集め終えているので焦る必要はない。

 

 青い森の中を歩き 草木を静かにかき分ける どこかから水の音が聞こえる。

 一人の少女が静かに歩いている、そしてその後ろにピッタリと男が音もなくついている。

 

 ガサッ

 

 森の影に潜む狩人達は立ち止まり息を潜める、獲物に悟られぬように。

 彼女らはまるで最初からそこにあるかのように、まるでこの世に存在しないかのように。

 

 ガサガサッ

 バッ

 

 一匹の鹿のような動物が草むらから飛び出る。

 鹿と大きく違う点は頭が二つあることだろう、片方の頭が死んでも片方が無事なら生きているというまるで狩人対策のために生まれた生物かのようだ。

 鹿もどきは狩人達に気づかないまま、飛び出た勢いでどこかへ走り出す。

 

 狩人は素早く矢をつがえ 弓を引き絞り 矢を放った。

 自身に危機が迫っていることに鹿もどきは気づく、しかし全てが遅すぎた。

 放たれた矢は風を切りながら、音から逃れようとする鹿もどきの真ん中に吸い寄せられていく。

 

 ドッ

 

 鋭く尖った鉄の刃が鹿もどきの二つの頭蓋を貫く。

 串刺しになった鹿もどきが地面に倒れ伏す。

 今日 全てを継いだ一人前の狩人がまた一人、誕生した。

 

 

 

「合格だな、まだ改善できるところはあるが…後は経験だな」

 

「おめでとうさん、今日から心も技術も立派な狩人だ。俺も鼻が高いぜ」

 

 狩猟検定試験のようなものを終えた後アテナじいさんは誇らしげに言う。

 

「まあね、アテナじいさんに教わったからこのくらいは楽勝だね」

 

「そういえば、今日お父さんが何か道具を作って貰ってるって聞いたんだけど」

 

 道具を作って貰っていると言っていたのを思い出す。

 道具とはなんだろうか、アテナじいさんは木工も少しだができるのだ。

 やはり机とか椅子だろうか? だが家の家具は壊れていないし不足もしてない。

 

「そうそう、そうだったこれをやろう」

 

 そう言うと物置から投げナイフと弓矢を取り出してこちらに渡してきた。

 弓矢は木工でできそうだが投げナイフは流石に無理じゃないか? そんなことを考えていると。

 

「小娘は旅をしたいらしいからな、だから飛び道具はあったほうがいいだろうと思ってな」

 

 いつの間に旅に出たいことが知られていたのだろうか。

 家族に言ったのも昨日が初だというのに。

 だが貰えるものは貰っておこう。

 

「ありがとう、アテナじいさん」

 

 こんなに嬉しいことは無い、両親だけでなく師匠的存在からも旅立つことを応援してもらえるとは。

 あまりの嬉しさに涙が出そうだ、だがせめてアテナじいさんの前ではカッコ付けよう。

 

「世界に轟くこの私の姿を、優秀な狩人の姿目に焼き付けておきな」

 

「ああ しっかりと焼き付けたぜ、村を出てもその心忘れんなよ」

 

 今度は笑わずにしっかりと応えてくれた。

 また一人土産話を持ち帰るべき相手が増えてしまったな。

 

 

 

 家族から夢を応援して貰った。

 師匠から心構えと技を学んだ。

 後旅立つために必要なものは鎧ただ一つ。

 

 鎧を入手できる場所といえばファンタジー定番の武具屋だろう。

 しかしこの村は武具を買うほどの危機はないし冒険者もあまり立ち寄らない。

 したがって武具を買うには王都へと行かないと武具屋が存在しないのだ。

 

 さらに私が欲しい鎧はフルフェイスのフルアーマだ。

 殆どの冒険者はそんな重装甲は求めていないしそんなものは特注品のため値段も高い。

 お金持ちが多い貴族なら特注品も買えるが大抵はお抱えの鍛冶師に作らせるため一般の武具屋には流通しておらず型落ちすら買えないことが多い。

 鍛冶師に頼もうとしても全身甲冑が作れる技術を持つ所など引く手あまたのため依頼できない可能性まである。

 甲冑を着るという夢がここで潰えたかと思われた。

 

「ボルカのおっさん、進捗どうですか」

 

 しかし幸運なことに鍛冶師がこの村には存在するのだ。

 鎧を手に入れられないかもしれないと知って三日ほど食べ物が喉を通らなかったのだが、作ってもらえる可能性があると知った時は嬉しさのあまり三日ほど寝込んだ。

 

「まだおっさんという歳じゃないわ。俺はお兄さんだ、わかったか」

 

 ボルカおっさんはこの村唯一の貴重な鍛冶師である。

 王都で鍛冶師をやっていたのだが方向性の違いとやらで別れたらしい。

 芸能人の不祥事並みに芸術界ではよくありそうなことだ。

 

「ところでボルカのおっさん、新しいアイディアを思いついたんだけどちょっと鍛治台使っていいかな」

 

「おお また変なのを思いついたのか、いいぞ。ついでに何作るか教えてくれ」

 

 旅するにあたり自分で鎧を修理出来た方が安上がりになるだろうと思ったため鍛治も学んだ。

 手入れする際にも知識があれば効率よくできるだろうとの考えもある。

 しかし何よりも普通に鍛治をしてみたかったという理由が大きい。

 鎧を着て旅をするという崇高なる使命が無ければ私は鍛冶職人になっていたに違いない。

 

「今回は設計図も書いてみたぞ、これは名付けてパイルバンカー」

 

「面白い発想だな、だがこの部分の機構は無理だと思うんだが」

 

「じゃあここをこうすれば解決しない? しないかぁ」

 

 時々こうして前世に存在した武器を再現しようと試みたりして技術力を上げつつ楽しんでいる。

 まあ大体は失敗したり技術的に再現不可能なことが判明して断念することが多いのだが。

 

 ちなみに再現できたものとして十徳ナイフとラッパ銃がある。

 十徳ナイフは特に記すことはないだろう、手先が器用になったぐらいか。

 ラッパ銃は半端ない技術革新の第一歩に見えるが火薬が見つからなかった。

 そのため代わりに魔力を火薬代わりに使ったのだが一発撃つだけで壊れる使い捨てで、とてもじゃないが流行らなそうだった。

 だが不意打ちには使えそうなので幾つか旅に出る際は持って行くつもりだ。

 

「ああ そういえば鎧の進捗だったな、もう直ぐ完成すると思うぞ」

 

「一応一度着てみて違和感が無いか確認してみてくれ」

 

 こんなに嬉しいことはない、ボルカのおっさんありがとう。

 最初は鎧なんて作ったことが無いってことで断られたのだが、私の熱意ある説得により全力で一から作ってくれると言ってくれたのだ。

 もちろん完成のために全力で私も協力した、具体的には前世の記憶のことだが。

 

「しかしこんなヘルメットで大丈夫なのか? 横見づらいと思うんだが」

 

 鎧のデザインにも当然口出しをした。

 フロッグマウス・ヘルムと呼ばれるカエル口のような覗き穴が特徴の兜である。

 これは騎乗競技用の兜であり少なくとも戦闘用ではない。

 ランスの衝撃から身を守るため首回りや胴体が分厚い装甲で覆われている他に頭と胴体が連結しているため首が回せない欠点を持つ。

 正直普通の冒険者として生きて行く際に命を守る鎧としてはあまりにも危ないし適していない。

 ので泣く泣く本来の鎧から少し手を加えて若干首回りを改善した。

 

 改善したが視界が劣悪なのは変わらない、なんなら改善する際に胴の他に手足の装甲も増やしたため仮に並の人がこれを着たら鎧の重さに潰されて死んでしまうだろう。

 それもただ装甲を増やしただけではない、魔力を吸い頑丈になる代わりに半端なく重くなるファンタジー金属をわざわざ選んで使ったのだ。

 ボルカのおっさんも運ぶ際には台車と滑車を使って万が一にも倒れないよう慎重に運ぶくらいだ。

 だがまあロマンの一言で片付くから問題はないだろう、そのために鍛えたのだ。

 

「まじかよ……とてもじゃないが着れると思えなかったが……」

 

「お前ほんとに人間なのか?」

 

 凄く失礼なことを言われた気がするが鎧を仕立ててくれたのだ、聞かなかったことにしよう。

 

「特に問題とか違和感はないな」

 

 鎧を着てみて気になることは無いか聞かれたので正直に答える。

 問題としては身体強化魔法を使わないと倒れた時自力で起き上がれなさそうなことぐらいか。

 鎧の影響でいつもより声が低く聞こえる。

 

「お前が言うなら問題はなさそうだな、よし ならもっと早めに完成すると思うぞ」

 

「こんなヘンテコな鎧を作ってやったんだ、間違っても死ぬんじゃねえぞ」

 

 笑顔で背中を叩いてくる、衝撃は一切感じない。

 

「ああ、この鎧が壊れる前に死ぬつもりはないね」

 

「なら一生安心だな」

 

 これで準備は整った、鎧の最終調整が終わったらこの村で世話になった人たちに挨拶を済ませておこう。

 旅をしよう、まず初めの目標としては冒険者として有名になることだろうか。

 未来のことを考えると自然と心が躍る。

 私の冒険はこれから始まるのだ。

 




最後の文と後書きが
深夜テンションだったのでこっそり修正
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。