フルアーマー女騎士   作:雷神すねこすり

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鍛治日常

 

 全ての包帯が取れるまで大体一ヶ月ほどの月日を要する。

 これほど早く包帯を取ることができるのは、主に神官が行使する治癒魔術のおかげだ。

 なんと治癒魔術は条件が揃い、時間さえかければ切断された腕も後遺症無しでくっつくらしい。

 

 そのため特に治療に専念している訳ではないが、模擬戦などは控えていた。

 では、その間は何をしていたかと言うと鎧を修理しに王都の鍛治工房へ通っていたのだ。

 

 模擬戦はダメで鍛治は良いのかと言われると……正直に言うとちょっと良くない。

 だが、それを知るのは全てが終わった後のことだ。

 今の私に知る術はなかった。

 

「鍛冶場を借りに来ました、使用していない鍛治場は有りますか?」

 

 年季のある扉を開けて中に入ると、炉から出る熱と蒸気の匂いがする。

 銅色のパイプのようなものや鉄の端材などがそこらじゅうに散らばっており、いつも思うがまるで別世界に入ってしまったかのようだ。

 

 作業をしている鍛冶師は私が入ってきたことに気づいていない。

 また、額に浮かぶ汗を拭っていたり、首にタオルを下げて座っている休憩中であろう鍛冶師は私をチラリと見た後、軽く頭を下げて会釈するのみだ。

 

 以前、王都へ来た際に職人たちと知り合い、いや、魂の友となったため入ってくるのを咎められることはない。

 さらに、放課後に鎧を修理するために通っているので顔を覚えられたのだろう。

 

「こっちが空いてるよ」

 

 鉄を叩く音や水蒸気を発する鋼鉄の音に混じり、部屋のやや奥の方から声が聞こえてきた。

 

 鍛冶師たちの邪魔にならぬよう、できるだけ目立たず静かに声が聞こえてきた方へ向かう。

 私が歩く音は鍛治の音でかき消されてはいるが、それでも精神的に無駄な音は立てたくは無い。

 

「今日はここ使ってね。じゃあ、預かってた鎧ここに持ってくるから」

 

 背が小さく、貫禄のある髭を蓄えた鍛冶師が部屋の奥へと歩いて行った。

 実際に見るとその身長と、見た目の渋さ、そしてその姿から発せられる若めの声はいつ聞いても私を不思議な気分にさせる。

 

「……よいしょっと、はいコレね」

 

「ありがとうございます」

 

「うん、頑張ってね」

 

 背が小さい鍛冶師は鎧が入った箱を、両手で抱えて持ってきた。

 そして、お礼を言い終わらない内にまた部屋の奥の方へと帰って行った。

 

 今までずっと着けてきたこの鎧だが、魔力を吸い上げて強度と重さを上げるという特徴の金属のみで出来ている。

 当然だが、そんな特徴の金属など安いはずが無い。

 幸い産出量はかなり有るようで量には困らなかったのだが、お陰で貯金がほぼ無くなってしまった。

 

 ちなみに基本的にこの金属は錬金術で少量だけ使用する程度らしく、鎧に使うという発想は稀。

 なのでそれを大量に購入する私は、ここの鍛冶師以外にはたいそう奇妙に映ったことだろう。

 

「ふ……」

 

 鎧の凹んだ部分を内から叩いて直す。

 大まかな部分を大きな槌で叩き、小さな槌で細かな所を叩く。

 

 その中でもどうしようもないぐらい凹んだ部分は諦め、新たに鍛造する。

 

 炉に金属を入れて熱し、熱が冷めない内に金床を使って変形。

 熱が冷めてきたら再び炉に入れて加熱させる。

 

「は……」

 

 まっすぐに槌を振り下ろす。

 

 何度も繰り返し、形の成形を完了させたら水の入った壺の中に突っ込む。

 蒸気が噴き上がり、額の上を思い出したかのように汗が垂れた。

 それを拭う暇も無く、ただひたすらに槌を無心で振るう。

 

 細かい箇所を叩いて直したり、サイズが合うか何度も何日もかけて調整することとなる。

 長く時間をかけて鍛治に挑まなければならないが、一つのことに集中するというのは気分が良い。

 

 槌を振るって結構な時間が過ぎただろうか。

 一度集中してしまうと時が流れるのは一瞬だ。

 

「ふう……」

 

 今日はこのくらいでいいだろう。

 タオルで額の汗を拭き、身だしなみを整える。

 使用した道具や金属を元の位置に戻し、鎧もまた戻す。

 

 そしてある程度休憩したら、休憩している他の鍛冶師に御礼を言って外に出た。

 

 

 

 今日の鍛治はいつもより早めに切り上げたのだが、それには訳がある。

 

「ご機嫌よう、アルトリア様」

 

「来たわねー」

 

 待ち合わせ場所へと向かうとイリーゼとフェルネが既にいた。

 私が一番遅かったようだ。

 そしてここは学園内では無いため制服も着ていない。

 

 イリーゼは制服に似たかっちりとしていて冬をイメージする服装を、フェルネは町娘と言って最初に思い浮かぶような秋らしい色のワンピースを着ていた。

 私は鎧……ではなく、雨除けのマントで全身を覆っている。

 どこか怪しい、実際怪しいのだが、そんな風貌で盗賊や暗殺者と言われそうな格好だ。

 

「じゃー主役も来たことだし、第一回アルトリアの服選びの会! しゅっぱーつ!」

 

 そう、私の服を買うためだけに集まったのだ。

 何故このような集まりができたのかと言うと、始まりは私の呟きが発端である。

 

 季節は冬に近づき、鎧を着ていても寒い。

 ということで寒いと呟いたのがこの二人に聞かれ、さらに一着も私服を持っていないことも知られたために今回の服を買う会が発足した。

 ありがたいことである。

 

「本日は私たちがしっかりと、アルトリア様に似合う服を探しますので、心配しないでくださいね」

 

「私は、地元では服選びのマスター長老と言われておる……まあ、これは今考えたんだけど、自信は本当にあるからね!」

 

 ただ少し熱量がすごいと言うか、私が服に興味が無さすぎると言うべきか、私と二人の間の温度差がすごい。

 二人に引っ張られるように王都の商業地区、服屋が集まる場所へと連れて行かれた。

 

 

 

 まず最初に向かったのは、クラスの女子が良く話題に出す店の一つだ。

 店の外見は新しく、客も若い女性が多い。

 おそらく流行の服を販売しているのだろう。

 

「店員さん? これとこれ、それからあれを持ってきてくれませんか?」

 

 イリーゼが店内に入り、店内をぐるりと見渡した後に店員に指示を出す。

 それを受けて店員は慣れた様子でテキパキと行動する。

 

「これ似合いそう……あ、こっちも良いかも」

 

 フェルネのほうは自由に服を手に取り、私の身体に時々当てながら考え始めている。

 私はと言うと店内のど真ん中で邪魔にならない程度に突っ立っていた。

 何かを見に移動しようかと思ったが、イリーゼとフェルネが時々服を合わせにくるので動くに動けない。

 つまるところ手持ち無沙汰だった。

 

「ではこれで」

 

「よし、終わり!」

 

 無限とも思えるような長い時間を経て、洋服選びが決まったようだ。

 イリーゼはフェルネの着ていたワンピースを暖かくしたような服が中心で、フェルネは男装っぽくて見るからに暖かい服が中心であった。

 そしてそれらを全てカウンターに出し、支払いを済ませようとする。

 

「待て、これは私の服なんだから私が払う」

 

「ダメです、できません。私が払います」

 

「このくらいは払わせてよー」

 

 当然、私の服なのだから私が払おうとしたのだが、稀に見る強引で力強い否定をされた。

 そうか、……なら、せっかくだし今回だけは代わりに払ってもらうか。

 

 とてもじゃ無いが二人が譲る気配がしなかったので、すぐに諦めた。

 そうして無事私服を手に入れることができたのだが……

 

「どうした? 帰るんじゃ無いのか?」

 

「まさか! まだまだこれから、始まったばかりですよ」

 

「次はあっちの店に行こう!」

 

 なんと! まだ買い物は終わっていなかったのである!

 

 そして有無を言わせず次の店へと連行された。

 その次の店は深みのある伝統的で、高級そうな服屋だ。

 あたりにいる人も紳士や婦人など、どこか貴族っぽくアダルティな雰囲気が漂う。

 

「更衣室を借りますね」

 

 店に入ると私は店の奥の方にある更衣室へとイリーゼの手によって押し込まれた。

 そしていつの間にか持っていた黒いゴスロリめいた服や、キラキラした装飾のついた貴族らしいドレス、執事が着る燕尾服にヴィクトリアンメイド服などをフェルネと入れ替わり立ち替わりで着させられる。

 

 ちなみに、ここの店員はマダムと呼びたくなるような綺麗な婦人だったのだが、ニコニコと微笑みながらこちらを見ていたのが印象的だ。

 

「ではこれらを買いますわ」

 

「うん、いいね」

 

 長い長い時間着せ替え人形として過ごし、二回目の洋服選び戦争は終了した。

 そして選び選ばれた服を全てカウンターに乗せ、会計を済ませようとする。

 

「待て、今度こそ私が払う」

 

「ダメです、私に払わせてください」

 

「お願い! 私に払わせて!」

 

 天丼をかましたが、二回目は私が払うことに成功した。

 確かに貯金は鎧の修理に使う金属の購入代で吹っ飛んだが、まだ洋服を変えるだけの金は残っていたので安心だ。

 もちろん私が払うまでに二人と激戦を繰り広げたのだが、次回は払ってもらうという約束で譲渡してもらった。

 

 かなり疲労困憊、鍛治をする何倍も疲れた気がする。

 ともかくこれで洋服は十分……

 

「どうしたんですか? 次の店へ行きますよ。夏の分も少しは買うべきでしょうし……」

 

「まだ似合いそうな服はあるからねー」

 

 なんてことだ! まだ買い物は続くらしい!

 

 ああ、神よ!

 慈悲は無いのですか!

 

 

 

 私たち三人の手にはそれぞれ大量の袋がぶら下げており、その全てが服の入った袋であることは一目瞭然だ。

 そして私は未だかつて無い程に疲れ果てた。

 ファッションへの熱意を見誤っていたようだ。

 

「なかなか楽しかったです。アルトリア様」

 

「また、いつか第二回アルトリアの洋服選びの会をしようね」

 

 だが、それほど悪い気分でもなかった。

 …………いや、半分以上お金を払わせてもらえなかったのは、今でも納得できない。

 

 

 

 




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