フルアーマー女騎士   作:雷神すねこすり

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遠征・序

 

 現在の天気は曇り。

 太陽は分厚い雲に遮られ、日光も地上に届きにくい。

 肌に沁みるような冷たく乾燥した風もあってどんよりとした気分になる。

 

 そんな微妙な天候の中、私は馬車の荷台の中で揺れていた。

 

「長期遠征とは言っていましたけど、サバイバルの方が正しいと思いませんか?」

 

 私が座っている馬車には主に私の派閥のメンバー、イリーゼやフェルネも合わせて十人ほど乗っていることから、かなり大きな馬車であることが分かる。

 同じ派閥のメンバーで固まっているものの、長期遠征……サバイバルでは学園側が班のメンバーを選ぶのでサバイバルでも一緒になれるかは分からない。

 

「それに、持ち物も制服以外何もないですし、野営するための道具を学園側が配布してくださるのでしょうか」

 

 先程からやや怒り気味で話続けているのはイリーゼだ。

 考えていることをそのまま口に出しているようで、次々と疑問と不満が出てきている。

 

 だが、今回は事前の説明なども全くなかったので実際不満を覚えても仕方がないだろう。

 朝、その場のノリで決めたかのような勢いで馬車に乗せられてきたのだ。

 でも私にだけ聞こえる声量で呪詛を吐くのはやめてほしい。

 

 馬の嘶きと共に馬車が止まった。

 それと同時に荷物を降ろす音が他の馬車から聞こえる。

 荷台の奥に木箱が積んであるので、おそらくこれを降ろしているのだろう。

 

「あら、到着しましたのね。せめて班とやらが一緒だと嬉しいのですが……」

 

「……起きろフェルネ、着いたぞ」

 

「んぁ?」

 

 寝ていたフェルネを起こし、私も馬車を降りた。

 

 馬車を降りた後すぐに他のクラスのメンバーの乗った馬車も合流し、かなりの大所帯となった。

 大人数が縦横を揃えて並び整列している様はなかなか綺麗だ。

 その大人数の大半が気だるげでやる気がなさそうな様子ではあるが。

 

「これより、長期遠征に向けての実地訓練を行う! これから四名づつ名前を呼ぶので、名を呼ばれた者同士で班を作り次の指示を待つように!」

 

 各クラスの教師が名前を呼んでいく。

 どうやら班のメンバーはクラス内から決めるらしい。

 私の名前が呼ばれるまで直立不動で待機すること数分。

 

 ──フェルネ、アルトリヤ! 以上第七班! 次は第八──

 

「おお! 一緒の班だ! よろしくアルトリア」

 

「ああ、よろしくな」

 

 先程まで寝ていたとは思えない元気な挨拶だ。

 

 フェルネと同じ班になったが、イリーゼはまだ呼ばれていない。

 つまり今回は一緒の班ではないということだ。

 ついイリーゼの方を見てしまったが暗い顔をしていた。

 

 フェルネと私、それと残る二人は誰かというと……

 

「クソ、なんでよりにもよってテメェと一緒に……」

 

「珍しいわね、私も同じ意見なの」

 

 とても見覚えのある二人が睨み合っていた。

 えーと、名前は何だったか……

 私の疑問が含まれた視線に気づいたのかは分からないが男が先に口を開く。

 

「あー、バリアンだ。よろしく」

 

 赤いモヒカンの不良青年の見た目をしたバリアン。

 平民派閥の長ということぐらいしか知らない。

 

「……エリザよ」

 

 そして渾名が氷の姫騎士のエリザだ。

 こちらは貴族派閥の長だ。

 二人ともよく喧嘩をしていたので、今回の実地訓練に影響がないといいのだが。

 

「私はフェルネ! 二人ともよろしく!」

 

 そして自己紹介をする流れになっていたので私もしておく。

 

「アルトリアだ。よろしく」

 

 それぞれ頷いたり片手を挙げたりして反応を示してくれた。

 円満で円滑な自己紹介が済んだ後、ちょうど教師が次の指示を出す。

 

「班をそれぞれ作ったな? では、支給品を受けとった班から森を抜けてもらう! 早くても三日はかかるはずだ。我々教師陣はここと森を抜けた先で待機する。それでは、一人も欠けることなく森を抜けることを祈る」

 

 班には布の巾着を一つと、鎧と兜、そして普通の剣が人数分配られた。

 巾着の中には地図と思わしき物、奇妙な形の方位磁針に謎のペンダント、水筒と固形食料、そして瑠璃色の透明な石が幾つか入っている。

 

 また、奥の方にメモも一緒に入っていたので、それぞれ取り出してどんな道具なのか確認する。

 

「んー、この地図すごい大雑把にしか書かれてないね」

 

「ふむ、もし川を見つけたら川沿いに沿っていけば良さそうだな」

 

 地図は簡単に森、山、滝、川、目的地と現在地そして方角ぐらいしか書かれていない。

 正直方角だけ見れば他は見なくても問題なさそうなほどショボい地図だった。

 

「ペンダントは魔術で位置情報が分かる……らしいな」

 

 ペンダントは位置を把握したり、万が一死亡した際に遺体を回収するためなのだろう。

 と言うことは、森の中にはそれほど危険な生物がいるということだろうか。

 

 そして瑠璃色の石は魔石と言うらしく、この魔石は魔力を流すと発火するとメモに書いてあった。

 火打石の代わりだろうか? それなら普通に火打石が欲しかったところだ。

 

 道具と装備を身につけ、出発する段階になってフェルネがあることを言い出す。

 

「ねぇ、班で行動しないといけない訳だし、移動する方針を決めるリーダー的な役割が必要だと思うんだけど」

 

 確かに、バラバラにならない為にも中心人物を決めるべきだろう。

 残りの二人も頷いているので、この意見に反論はない様だ。

 

 リーダーに向いている人物は私かフェルネのどちらか。

 なぜならバリアンとエリザ、この二人は犬猿の仲と言うべき関係で、どちらがリーダーになっても班内の不和の種になり良いことはないと容易に予想できる。

 

「……なら少し聞いてくれ、私は学園に入学する前に狩人と冒険者をやっていたんだ」

 

 私がリーダーになることに納得できる様、自分の来歴を話す。

 

「それもあって森の歩き方は自信がある。皆がよければ私が先導しようと思うのだが、どうだろう?」

 

 フェルネが森に歩き慣れているような話がなければ、賛成してくれるだろう。

 残り二人も反対する理由はあまりないはずだ。

 多分。

 

「私はもちろん良いよ! 賛成!」

 

「あァ、オレもそれで良いぜ」

 

「……まあ、貴方なら良いでしょう」

 

 苦悩や反対意見も無く、満場一致で私がリーダーになった。

 

 

 

 高く太い木々の間をすり抜け、藪や蔦を剣で切り払い、歩きやすい地面を選んで歩いていく。

 学園生活がかなり長かったので森の歩き方を忘れてしまったかと内心で心配していたが、身体が覚えていたようでスムーズに歩ける。

 その後ろをフェルネ、エリザ、そして最後尾にバリアンが続いた。

 

 鎧と兜を装備しているがいつもの丈夫な鎧では無いので、無茶無謀は避けるべきだろう。

 また、武器に関しても配布された物である以上、そこまでの性能はないはずだ。

 敵性生物に出会わぬよう慎重に、それでいて森の中を体力を消耗しすぎない速さで移動する。

 

 時折奇妙な形のせいで持ちづらい方位磁針とショボい地図を見て方角を確認。

 歩いている間は特に喋ることもないので無言だ。

 

「……待て」

 

 暫く歩いている内に、何かが草をかき分けて移動する音がする。

 何度か同じ様なことがあったのだが、その時は兎や鹿であることが多かった。

 音をなるべく立てないように静かに姿勢を低くし、後列にもそれを身振りで促す。

 

「……特に動物は見えねェ」

 

「私の方も」

 

「静かに」

 

 歩みを止めることでより明瞭に聞こえた音から何かがいることは確信できた。

 そして、移動する速度と音からしてサイズがかなり大きい。

 人ではない、そして兎や鹿などでもないのは確実だ。

 

 ならば、一体何者なのか。

 息を潜めて自然そのものになるかのような隠密をしていること暫く。

 音を出していた存在の正体の姿を視認した。

 

「──ッ!」

 

 それは木に届かんばかりの大きい体躯を持っていた。

 銀色の肌をもっており、その巨大で細身の体躯と合わせてみると鉄塔のようにも感じられる。

 

 磨き上げられた鏡の如き光沢であり、周囲の草木を身体に写し自然と同化しているのだ。

 お陰で光学迷彩の様な効果を発揮しているが、影ができるため完全な透明ではなかったために、その姿を視認することができたのだ。

 意識して見なければ発見することは難しかっただろう。

 

 細くしなやかな四つ脚を持ち、大きな複眼と角の様に頭に生える二本の触覚。

 そして、何よりも特徴的なものとして木をも斬り倒せそうな鎌を両腕に備えた魔物。

 巨大なカマキリ。

 

「あれは……サーマンティスじゃねェか」

 

「強いの?」

 

「あァ、かなり強いらしい。……リーダー、どうする?」

 

 フェルネとバリアンが小声で話す。

 そして、一応リーダーである私の指示を仰ぐことにした様だ。

 

 私が普段の鎧を着ていたら戦いを仕掛けていたかもしれない。

 だが今はそうではない。

 また、今回は三人も仲間がいる。

 無用な戦闘は出来るだけ避けるべきだろう。

 

「手出しはしない、やり過ごす」

 

「分かった」

 

 そのまま茂みに隠れてサーマンティスが過ぎ去るのを待つ。

 

 サーマンティスは立ち止まることなく森の奥の方へ歩いて行く。

 そして、残念なことに私たちが進むべき方向へと消えていった。

 

「ふぅ……」

 

 いつの間にか止めていた息を吐く。

 直接対峙した訳ではないのにも関わらず、身体は震え、鼓動は変に高鳴っていた。

 

 

 

 その後は魔物に再び出会う様なこともなく順調に進み、日も暮れている。

 

 ここは都心部でも、学園内でも無い森の中だ。

 そのため日が落ちると真っ暗になり、前も見えなくなってしまう。

 なので完全に暗くなる前に、一夜を明かすためのするための安全な場所を見つける必要がある。

 

「暗くなってきたな」

 

「そういえば、支給品にテントとかは無かったよね? どうするの?」

 

「最悪地面の上か、木に登って夜を明かす必要があるかもしれん」

 

「う」

 

 思わず、と言う様にエリザが顔を顰めた。

 

「恨むなら支給してくれなかった学園を恨んでくれ」

 

「……ええ、そうですね。そうします、学園を恨むことにします」

 

 どうも先程から見ていて思ったのだが、エリザは貴族の中でも箱入り娘の様な雰囲気がする。

 森を歩くのも不慣れなのか頻繁に肩を上下させて立ち止まるのだ。

 ……いや、貴族が森の中を歩き慣れる方がおかしいか。

 

 反対にバリアンは慣れている印象だ。

 体格もそこそこあり、筋肉がついていることからも意外ではなかった。

 また、意識的なのか無意識かは分からないが、フェルネだけでなくエリザの様子をよく確認している。

 

「ん? あそこ、なんか良さそうじゃない?」

 

 フェルネの指差す先には灰色の場所が。

 運がいい、あれは洞窟だ。

 

 周囲の石は苔むしており、滑る可能性があって少し危ない。

 洞窟の高さは片手を上に伸ばしきれない程度。

 横幅はそこそこ広い。

 

 苔に気をつけながら洞窟の中に入るとひんやりとした空気が肌を包んだ。

 地面は当然石が剥き出しで冷たく硬いので、このまま寝るのは難しいだろう。

 

「良い感じの落ち葉をここに敷き詰めよう。外から持ってきてくれ」

 

「りょーかい」

 

「オレも行こう」

 

 声が洞窟の奥の方へと染み渡っていった。

 

 寝袋も無いので、湿り気の無い落ち葉を洞窟の中に集め寝床の代わりとするのだ。

 あとは……暖と光源のために焚き火が必要だろう。

 

 焚き火の縁を作るために手頃な石を探すか。

 幸い洞窟の中には石が転がっている。

 ちょうど良い石に困ることがなさそうだ。

 

「……何か私にも出来ることはあります?」

 

「そうだな……なら、焚き火のための石を集めるのを手伝ってくれないか?」

 

「分かりました……ところで、焚き火をするなら燃やす木が必要だと思うのですが」

 

 あ、すっかり忘れてたな。

 フェルネたちに言っておけば良かったか。

 

「…………石はすぐに集められるだろうし、先に枝を探そう」

 

「はぁ……」

 

 洞窟の中は暗くて顔がよく見えないが、どこか呆れたような表情でエリザに見られている気がする。

 なぜかどうしようもない空気が漂い、どこか心苦しいような気持ちになっていると外から二人が帰ってきた。

 

「帰ったぞー!」

 

 フェルネが両手で葉っぱと、木の枝を持ってくる。

 

「木の枝もどうせ必要でしょ? それと、バリアンが兎を仕留めたから後で遅れて来るよ」

 

「お、ありがとう」

 

 食料問題と、焚き火の燃料問題が両方解決した。

 洞窟をすぐに見つけられたことといい、兎を手に入れたことといい運がいい。

 

 ここまで運が良いなら、きっと今回の実地訓練は困難無くうまく行くだろう。

 

 

 

 魔石を取り出し、魔力を流す。

 すると、魔石が一人でに発火したので、あらかじめ作った焚き火の中に入れる。

 当然、発火した魔石を持つ手は熱い。

 火が燃え移り、炎が暗く寒い洞窟を、少しだけだが暖かく照らした。

 

 そこに長い枝に刺した兎の肉をかざして焼く。

 

「……それ美味いのか?」

 

 焼き上がるまで暇なので、支給された固形食料を奥歯で噛み砕く。

 一応この固形食料は三日分、それも四人分あるので今回のように兎が取れなくてもなんとかなりそうだ。

 

 固形食料の見た目は薄灰色のブロック状で、形だけ見れば前世の携帯食料を連想できるだろう。

 味は最悪の一歩手前といったところか。

 なんというか、味がしない。

 硬くて石を食ってる気分になる上に、先程の通り味もしないので本当に段々と石を食ってる気がしてくる。

 

「不味い」

 

「そうか……まァ、色からして美味そうではないしな」

 

 バリアンが怪訝な顔で手元にある固形食料を眺め、そして食べることなく巾着の中にしまわれた。

 その間フェルネは無表情で齧っており、エリザはバリアンと同じように食べないことにしたようだ。

 

 その後、焼き上がった兎肉を食べる。

 

 兎肉は鶏肉に似た淡白な味わいらしい。

 焼いたおかげなのか皮がパリパリとしている。

 ただ、すごく生臭いと言うべきか、えぐみがある味で残念ながらあまり美味しくはなかった。

 

「……ん」

 

 私以外の三人も食べたが、一口齧ると皆、揃って同じ表情をした。

 店で食べればまた違う感想が出るのだろう。

 

 なんとも微妙な食事を済ませた後、明日に備えて体力を少しでも回復させるために寝ることなった。

 

 だが、洞窟の中が安全だと言っても皆同時に寝るのは危険すぎる。

 なんなら洞窟の奥の方から何かが出てくるかもしれない。

 

「四人でローテーションを組もう。私が最初に見張りをする」

 

「あァ、分かった」

 

「……はーい」

 

 エリザはもう既に寝落ちしていたが、返事をした後、二人も落ち葉の山に身体を沈めて目を瞑った。

 

 焚き火の火が弾ける様な音が聞こえるのみで、それ以外の音はしない。

 洞窟の外も音も無く、木々に遮られた月の光が僅かに地面を照らすだけであり、夜明けはまだ先であることが感じられる。

 眠気に負けてしまわぬよう、そして火を絶やさぬ様にしつつ、変化する炎の揺らぎを見続けた。

 




今回はプロットを書いたので
大会編みたいによく分からない分け方にはならないはず……
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