目が覚めると私は枯葉の中にいた。
洞窟の外から肌寒い空気が入ってきている。
燻る焚き火を棒で突きながら、洞窟の入り口で見張りをしていたバリアンが私に気づく。
「……起きたか。朝だから寝るなよ」
「ああ……」
眠気を覚ますためにも枯葉の中から立ち上がり、凝りきった身体を伸ばす。
すると、全身の関節から固い音が聞こえた。
地面に枯葉を敷いてはいるものの床は硬い石なのだ。
身体が凝るのも当然と言えるだろう。
あまりにも酷い寝床でふかふかの布団と枕が恋しい。
そして、洞窟の外を見ると空が明るくなり始めている。
ただ、空模様は変わらず曇りだ。
今日もどんよりとした風が吹く。
「そろそろ起きろ」
「うぁ……?」
「……んん」
だが朝になったのは変わらない。
枯葉の山に埋もれて寝ているメンバーを起こして出発の準備をする。
とはいえ、準備と言っても火を消したり鎧を身につけるぐらいで時間はかからない。
簡易的で軽い鎧でも金属の冷たさを服の上からでも感じる。
焚き火を完全に消して、灰の中から魔石を掘り起こす。
どうやら、この魔石は壊れない限り何度でも使えるらしい。
かなり便利だが、一般の市場で売られているのだろうか? 仮に売られていても高そうだ。
「朝食はどうする? 何がある?」
先程まで寝ていた二人も起き、支度も終わったので朝食を取ることを提案する。
朝食を取るのは元気に活動する上で欠かせない重要な要素なのだ。
「……コレしかなく無い?」
「結局食べることになるのね……」
重要な要素ではあったが、残念ながら手元にあるのは灰色の固形食のみ。
前回捕らえた兎は可食部は食べてしまったので、新たに捕えない限りはない。
フェルネとエリザがゲンナリとした声を出す。
寝起きな上に、美味しくない固形食料を食べることとなったのだ。
不満も当然あるだろうが私にはどうしようもない。
「天気が崩れそうだ。食べながら行こう」
地図と方位磁針を見て、目的地に向かって出発する。
最終的にはバリアンも空腹には耐えかね、四人で揃って固形食料を齧りながら森の中を歩く。
固形食料の唯一と言ってもいい利点として片手間で食べれることだろうか。
それでも味はどうにかして欲しいが。
歩いているうちに雨が降り始めてきた。
最初は気にしなければ気付かない程度だったが、瞬く間にバケツをひっくり返したかのような大雨へと変わる。
森の中はより暗くなり、枝葉から溢れた雨が大地を洗い流す。
冷たい風は吹いていないものの、雨に濡れた身体は寒さをより強く感じ始める。
雨の冷たさに集中力を欠いたせいだろうか。
こちらに接近する茂みの音を聞き逃してしまった。
「ッ! 横に避けろ!」
一見何もない空間から鋭い一撃が繰り出される。
それと同時に、反射的にバリアンの声の通り横へ全力で跳ぶ。
先程までいた場所にあった木が、周りの木々を巻き込みながら音を立てて崩れ落ちる。
森の静けさを破るように鳥たちが羽ばたき、緊張感が場に満ちた。
木を斬り倒した犯人。
鏡の体を持ち、特徴的な鎌を持つ魔物。
「サーマンティスだ!」
初撃を外し二度目の邂逅を果たしたサーマンティスは、風で揺れ動く葉のようにゆらゆらと体を揺らす。
常に揺れ動くため輪郭が分かりにくい。
そして、雨による視界の悪さ、寒さによる身体の不調、突然の奇襲。
あまりにも状況が悪い。
このまま戦っても勝てる気がしない。
戦うとしてもまずは逃走し、立て直すべきだ。
「──ッ」
そして私以外の者もそう感じているのか、顔色が悪い。
「こっちへ逃げるぞ!」
とにかく状況を打開するために走り始める。
これで追ってこなければ一番良かったのだが、私たちを逃す気はないのか追ってきた。
蔦を斬り払い、木の根を飛び越え、草をかき分けてひたすらに走る。
濡れた髪は顔に張り付き、服は水分を吸っていないところは無い。
そして私たちの後ろを追うサーマンティス。
時々木が斬り倒される音も聞こえる。
「嘘だろッ!」
「くそッ!」
とうとう逃げている内に崖にたどり着いてしまった。
崖から飛び降りれば直ちに地面と一体化できることだろう。
つまり、逃げ場が完全にない。
周りを見ても役立ちそうな物や目立つ物は無く、せいぜい滝が音を立てて流れているぐらいだ。
後ろはサーマンティス、前は崖。
絶体絶命かのように思えた。
「滝だ! テメェら生き残りたいなら滝に飛び込め!」
「はぁ!? とうとう頭がイカれましたか!?」
バリアンが滝に飛び込むことを提案。
それに対してエリザが反対する。
確かに頭がおかしいが、それぐらいしか逃れる術がないのも事実。
「私は行くぞ」
「アルトリアが行くなら私も」
「貴方たちまで! 普通に考えたらありえません!」
滝に飛び込んでも、着地点が地面だったら意味はない。
それに水面に叩きつけられるのも、滝の下にある滝壺もまた危険だ。
それでも、意を決して飛び込む!
「ああもう!」
水の勢いに押されて身体が軽い。
突如、大きな衝撃が身体を襲う。
その衝撃は不意打ち気味だったこともあり、空気を取り入れようと思わず口を開けてしまう。
しかし、それは悪手だ。
空気の代わりに大量の水が体内に侵入し、息が詰まる。
視界は純粋な青色では無く、どこまでも暗い宇宙の深淵のような黒色だった。
そして肺を押し潰されそうになり、そこで意識が濁流に呑まれた────
────ごほッげほッ」
「──! アルトリア!」
意識を取り戻すと……また洞窟だろうか?
「良かった……気分はどう?」
わずかな光がどこからか差し込んでいるが暗い。
四方を石の壁で囲まれた場所に私は寝かせられていたようだった。
ただ、以前に寝泊まりした洞窟ではなさそうだ。
「気分は普通だ……ところでここは何処だ?」
「滝の裏の洞窟だよ。ほら、滝の音が聞こえるでしょ」
確かに耳を澄ませば滝の、大量の水が落下する音が聞こえる。
「……残りの二人は?」
「そこにいるよ」
エリザは私のすぐ横に倒れていたが、胸を上下させていることから生きているとわかる。
バリアンは水に濡れた巾着から、物を取り出して並べていた。
とにかく、二人とも無事なようだ。
四人とも生き残れた。
追われている様子もないので、ひとまずは逃げ切れたのだろう。
やはり、このままではいけない。
戦うにしろ、逃げるにしろサーマンティスの対策を立てるべきだ。
「という訳で、対策案を出してくれ」
外から持ってきた濡れていない枝を、バリアンが魔石で燃やして焚き火を作っているのを横目に話す。
「サーマンティスの対策ですか? ……あの鎌の届かない場所から攻撃できればいいのでは?」
一番の脅威はやはりあの鎌だろう。
あれがあると防御面が貧弱な私たちでは満足に近づけない。
だからこそ、遠くから攻撃できれば最高だ。
「でも、私たちに用意できる物で遠くから攻撃できるのなんてないよ」
「そもそも戦わないのはどうです? 遠距離武器も要りませんよ」
確かに、それが出来れば一番良い。
「あァ、またさっきのように遭遇しなければな」
奴の行動範囲が分からないので戦わないように避けるのも難しい。
万が一遭遇してしまった際には、また同じことの繰り返しになってしまうだろう。
「姿が見えずらいのが、一番厄介だと思うんだ」
「ふぅむ」
光学迷彩めいたことをしてくるのが、頭を悩ます種ではないだろうか。
攻撃を仕掛けるのにも、避けて移動するのにも影響が大きい。
仮に奇天烈な色合いで森の中でも見易ければ良かったのだが、そういう訳ではないのだ。
それからも様々な問題点やそれに対する対策、対策の欠点などを焚き火で暖を取りながら議論しあった。
プロットが脆すぎて
プロットが自壊した