●とある冒険者
俺はこの宿場町、カスケードで活動する鉄上級冒険者だ。
しかも 鋼鉄 の二つ名持ち、この街最高の冒険者を自負しているが、まあ間違ってないだろう。
しかし知り合いの冒険者の連中達は俺のことを万年鉄とか言って馬鹿にしてくる、まあ事実だが。
多分鉄上級に上がってから今年で大体四年目。
理由は分かってる、俺の運がすこぶる悪いせいだ。
冒険者ランクを上げるには実力と性格が上のランクに相応しいかどうかの試験を受ける必要がある。
例に漏れず、俺が今燻っている鉄級から銀級に上がるのにも試験が存在するわけだ。
銀級に上がるために依頼される試験は遠征任務。
同じく鉄級から銀級に上がる冒険者で集まり最低二人、最大四人の即席のチームを作る。
そしてギルド指定の魔物を討伐するために遠征するといった具合だ。
評価基準は即席のチームで何処まで連携できるか、協調性があるか、そして野営の技術が基準に満たしているかどうかだ。
野営のの技術は冒険者として必須だから指名依頼が入るようになる銀級になる前に確認したいのはわかる。
即席のチームで協力できるか確認するのもランクが高くなるほどそういったことが起きると聞いたからそこも文句は無い。
だが、毎回なぜか俺と組むやつは一人で目的地に向かうし、各々好き勝手に動いて連携のれの字もない。
何より野営すらまともに出来ない奴と同じチームになったことすらある。
今までどうやって冒険者をやってきたんだ、本当に。
ギルドは早く変な奴を弾く仕組みを作ってくれ、改善要求を七回はギルド本部に直接訴えたし、手紙に至っては百通は送ったと思う。
はっ! もしかしてそのせいで変な奴と組まされるのか? おのれギルドめ……
はあ……なんだか辛くなってきた。
まあ、とにかく俺の不運自慢はもういいだろう。
それよりも、そんなことよりすごいものが見れたからお前にも教えてやろう。
あれは確か世界を脅かす凶悪なドラゴンを討伐し、共に戦った英雄達と城で国王主催の祝賀会を開いていた時のことだ……
待て待て待て、確かにこれは少し盛った、盛り過ぎた。
席を立って何処かに行こうとしないでくれ、正直に話す、だから最後まで聞いてくれ、頼む。
ふう、話がわかる人で助かるぜ。
ええと、たしかはぐれオークの任務を終えた後、冒険者ギルドでいつもの万年鉄級仲間と共に酒を飲んで騒いでた時のことだったな。
その日の稼ぎの金は全部使い切ったからお開きにしようと考えてた頃に奴は来たんだ。
最初は俺たちと同じように冒険者が依頼の完了を報告しに来たのかと思ったんだが違うことに鉄級最高の俺はすぐ気づけたね。
奴は冒険者になりに来たみたいだった、性別は多分男だと思う、実際に顔を見たわけじゃないけどな。
所々の所作とか、なかなか大きい背丈とあんな重そうな鎧を着てることとから想像したんだ。
そいつは全身鎧を着てて素肌どころか髪の毛一本すら見えねんだ。
そんで兜の中にはどんな顔があるのか賭けをしてるとこもあるぐらい今のギルドでは注目の的だな。
あいつの正体についてもよく分からないんだよな。
最初は鎧を着てることから貴族、それも顔を隠さないといけないほどの有名な貴族だと思ってたんだが。
貴族なら鎧に無駄な装飾をゴテゴテつけるだろう? だが奴の鎧はシンプルで実用性を重視してそうだったからな。
それにあんな重そうな鎧を着れる貴族はそうそう居ない、武闘派の貴族なら着れるだろうが大体は顔を売るために兜は着けないことが多い。
あの鎧男がギルドの床を踏む度に軋む音がしてたんだぜ? 受付の嬢ちゃんも顔が引き攣ってたよ、あれは見ものだったねぇ。
とにかく奴は貴族では無いって結論が一旦ギルドの中では出たんだが、それが余計に正体を想像し辛くなっちまった。
いいや奴は正体を隠して崇高な目的の為に旅をしている武闘派貴族だって予想とか。
顔が呪いで爛れた邪悪な狂戦士の女で呪いを解く為に魔王を討伐する勇者に違いないっておかしな予想をしてる人もいた。
中には農村出身の騎士志望の普通の人間なんていうつまらない予想もあったな、そもそも騎士志望なら冒険者にならないと俺は思うんだが。
まあ奴は今ギルドで一番の注目を浴びてる新人冒険者ってのは間違いないな。
あいつがどれくらい強いのか知らないが、俺の見立てじゃ万年鉄級の俺のことはすぐに超えるんじゃねえかな。
そうなったら俺の二つ名である鋼鉄も奴の物になりそうだ、追い抜かれるのは悔しいが冒険者の先輩として手助けするつもりさ。
何より奴が凄い有名になったら俺が育てた、つって自慢できるからな。
ところで喉乾いたな、酒一杯奢ってくれや、いいだろう? こんなに話してやったんだから。
おお、ヨッ! 太っ腹! あんた最高だな! あんたに幸運があれ!
●
早朝 太陽の光が雲の間から漏れ 大地を照らす。
起床したら習慣化してしまった鎧の点検を終えた後、宿のサービスで朝食を取る、部屋の内装や宿泊料だけでなく朝食の味も普通だ。
日本人特有の風呂に入りたい欲を我慢しながらタオルと水の入った桶で身体を清め、出かける支度を三十秒で済ます。
さて 準備は終わった、人生初の依頼を受けに行こう。
昨日はギルドにいった際、冷や水をぶち撒けたかのような現象が起きたが今回は特に問題無かった。
何故昨日だけあんなことが起こったのだろうか、永遠の謎だ。
今、冒険初心者である私が受けることのできる依頼は大まかに三つに分けることができる。
森に生える薬草採集、そこまで重要度が高くない物の配達、比較的弱い魔物の討伐だ。
その中で森に生える薬草の採集とその森付近に生息する魔物の討伐の依頼をギルドの掲示板から取り受付に持って行く。
「薬草採集と一角兎の討伐依頼ですね、確かに受け取りました。では依頼の概要を説明させていただきます」
受付嬢が身振り手振りを使い分かりやすく丁寧に依頼内容を解説してくれている。
今回この依頼を受けた理由は二つある。
一つは自分で使うための薬草を入手するためだ、そのついでで依頼を達成できるこの依頼を受けた。
二つ目の理由はどちらもギルドと街、両方に貢献できる依頼だからだ。
薬草は街の怪我人や病人の治療に、魔物である一角兎は角を取れば普通の兎と同じように多少は食糧になる。
この依頼をたくさんこなせばすぐにランクが上がるはず。
「危険だと判断したら戦わず命を守る為に帰ってきてください。冒険者は身体が資本ですからね」
説明をほとんど聞き流したが多分大丈夫だろう。
「おう! ドラゴンでもなんでも倒してきてやるよ」
「ですから、危険だと判断したら戦わずに帰ってくるように言いましたよね、話聞いてました?」
どうやら返事を間違えたみたいだ、笑顔の圧を感じる。
おお怖い怖い、逃げるようにギルドを出て依頼の目的地の森へ向かう。
目的地までは街からそこまで遠くないので徒歩で向かうことになる。
門を守る兵士に通行許可証を見せる、初めて来た時に対応した兵士ではないようだ。
時間帯で対応する兵士が変わるのだろうか、それとも曜日で決まっていたりするのだろうか、気になる。
木々の間をすり抜けながら、歩きやすい地面を選んで歩いていく。
背の丈ほどある草藪をかき分け、流れの遅い川を選び飛び越える。
もちろん道中で目についた薬草は全て取る、根を千切ると薬効が無くなってしまうので丁寧に掘り起こす。
雑草みたいな薬草や小さなじゃがいもみたいな物からピンク色の気持ち悪い物まで様々な薬草をポーチに入れる。
ポーチの中が凄いことになっていて正直言ってあまり見たくない。
草藪が面倒くさいな、よし街に帰ったら鉈を必ず買おう、そうしよう。
はあ、投げナイフと矢以外の初の刃物が剣でも斧でもなく鉈とは、騎士を目指してるわけではないが少し複雑な気分だ。
むしろ今まで徒手空拳で戦ってたのがおかしいのか、何故私は旅をする際武器を持とうを思わなかったんだ?
「そろそろ出てきてもおかしくないよな……」
しばらく森の中を進んだ頃。
森のかなり奥地に来たので何かしら生き物が出てくるはずだと判断し気持ちを切り替えて周りに集中する。
討伐依頼の出されている一角兎は森のかなり浅い場所に生息するため森の深くにはあまりいないだろう。
では何故わざわざ森の奥に来たか、それは……
突如、前方の茂みの向こうから雷鳴の如し獣の雄叫びが、森全体を震わせる。
その声に驚き、竦み、恐怖した鳥達が木々から我先にと空へ羽ばたく。
茂みから現れたるはまるで山のような大きさと、岩と同等の硬さを誇る魔物。
この森近郊を縄張りとし、わざわざ森の奥まで来た目的のキングベアである。
野生の熊をゆうに超える体格、鉄を紙のように切り裂く爪を持ち、王の名を冠する獣、キングベア。
それに対峙するは常人には到底持ち上げることすらできない鎧を身に纏い、人外の境界線を踏まんとする鋼の怪物、アルトリア。
最初に動いたのはアルトリアだ、距離を詰めるため大地を蹴り地を駆ける。
キングベアは逃げずに向かってくる愚かな獲物を狩る為、鋭利な爪を振り下ろす。
「はあっ!」
いくら丈夫な鎧に包まれていても全ての攻撃に無敵であるわけではない。
なので攻撃を避けるために前に大きく跳躍する。
先ほどまでいた地面は大きく穴が開き、岩は粉々に砕け散った。
大きく跳躍し空中にいる隙を消すため投げナイフを生物が鍛えることの出来ない目玉に投擲。
空を跳ばれたことに気を取られていたキングベアは投げられたナイフに気づくことは出来ず、寸分違わず命中する。
目を潰された痛みに驚き腕を払う、意図せぬ挙動と油断があったためアルトリアは避けきれない。
「うぐぅ」
咄嗟に両腕を交差し衝撃を少しでも和らげる、しかしそれだけで勢いは殺しきれず木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ぶ。
「かはッ げほげほ」
肋骨が折れたのだろうか、激痛が走る。
思わず吐血する、臓器がやられたのだろうか。
全身が痛い 息が苦しい 目が霞む
瞼の裏で今までの人生が思い起こされる、いわゆる走馬灯だろうか。
前世で俺は沢山の趣味に囲まれ充実した生を過ごせたと思う。
そして今世で私は農民として暮らすことは大変だったが村の人々に助けて貰った。
アテナじいさんには生きる術を。
身体に尽きぬ闘志が満ちる
ボルカのおっさんには夢の続きを。
心に希望が溢れる
そして両親には前に進む勇気と夢の後押しをして貰った。
不滅の意志を身に宿す
隻眼のキングベアが怒りを滾らせ此方を睨む、獲物では無く駆除すべき敵として認識したようだ。
だが、この私にはこの世界で為すべきことを再び見つけた。
故にここで終わる訳にはいかない。
今度は怒りも込めた一撃が振り下ろされる。
「うおおおお!」
傷だらけの身体に鞭打って攻撃を回避する。
全身から軋む音がする。
「くたばれぇええ!」
回避した勢いを乗せて振り下ろされた腕を踏み台に、全身全霊今出せる力を持って拳を頭蓋に叩きつける。
一撃で満身創痍になり地に伏せていたものが、こんなに素早く動くとは思っていなかったのだろう。
隻眼の王は眼前で行われることを止めることも、避けることも出来ない。
いつもの怪力に加えて命の危機に瀕したことによる火事場の馬鹿力が合わさった力が、分厚いキングベアの頭蓋を砕くだけで無く顎下まで貫通した。
流石の森の王でも頭がなければ生命活動を維持することは出来まい。
しかし無茶をした反動だろう、身体に力が入らない、倒れるように地面に座り込む。
「は? 何故キングベアが死んでいるんだ?」
「おい、あそこに血まみれの人がいるぞ。医療班を呼んできてくれ!」
「あんた大丈夫か、おいおい意識をしっかりしろ。今治療してやるから眠くても寝るんじゃねえぞ」
冒険者だろうか、キングベアの咆哮が街の方まで届いていたのかもしれない。
それで調査、または討伐のために冒険者が派遣されたのだろう。
慌ただしく沢山の人が集まってくる、かなり騒がしい。
……後処理はこの人達に任せても良いだろう……私はひと足先に眠らせてもらう。
ああ そういえば、完了した依頼の報告は……明日すれば良いか……
書き方を自分なりに工夫してみた
実は今回一番悩んだのは熊の名前