フルアーマー女騎士   作:雷神すねこすり

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鋼鉄の騎士

 あれから怪我の治療に専念して数日、一つの不調もない完璧な体調になったと言える。

 せっかく銅中級から鉄級に昇級できるのだ、ギルド側の気持ちが変わる前に試験を受け昇級しておこう。

 ちなみに後日一角兎の依頼を取り下げに行ったのだが、冬以外の季節ならいつでも受注可能な常駐依頼だったので特にキャンセル料などは取られなかった、なのでまた気が向いたら依頼を消化することにした。

 

 今は試験を万全の状態で受けるためにギルド内の酒場の様な所で食事を取っているところだ。

 ちゃんと酒以外も売っているようで食事の質も悪くない、特に肉の焼き加減が凄く上手だと思う。

 きっと普段から冒険者のために肉ばかり焼いているからだろうか。

 これで時々酒で酔っ払った冒険者が絡み酒して来なければ文句なしだ。

 

 ギルド一推しの昼食定食を食べ終わり兜を被る、何気にコーンスープが一番美味しかった気がする。

 最近気付けたのだがどうやら私は周りから線の細い男だと思われているらしい、もしかして美少女の中身は前世会社員の一般男性だとバレているのか?

 おかしい、心はともかく外見は汗も滴る美少女だというのに何故男だと思われているんだ、なんだか釈然としないがまあ別に困ってないしいいか。

 

「よお 鎧の兄ちゃん、そうの様子からして今日鉄級へ上がる昇級試験を受けるんだろう?」

 

「……ええ そのつもりです」

 

 この後試験を受けるので念の為鎧を簡易的に点検していると年季の入った装備をつけた冒険者がやって来た。

 酔っぱらいが絡んで来たと警戒したがそういうわけでは無さそうだ。

 しかし男だと思われていると知っていても面と向かって言われるとなんだかモヤモヤするな。

 声がそこまで低いわけでも無いんだがな、本当に何故なんだ。

 

「なら冒険者の先輩としてこれから鉄級に上がるあんたに一つアドバイスを教えてやろう」

 

 先輩が言うには銅級はまだ一人でも強ければ問題無く依頼をこなせるという。

 しかし、鉄級からは仲間を集めチームでないと受けれない依頼などが段々と増えてくる。

 さらには銀級にもなるとチームを組んでいない冒険者はほぼおらず、チームが居ない冒険者は何か訳ありとして嫌厭されるらしい。

 なので遅くても鉄中級、早ければ今からでも共に冒険する仲間を集めるべきである。

 と、力説していたのでそんなありがたいアドバイスをしてくれた先輩に礼を言っておいた。

 

 たしかに等級が上がれば上がるほど依頼の難易度も高くなり命懸けになる。

 それに従って共に依頼を受けるメンバーも長年共に戦って来た仲間を選ぶと思うし、メンバーが固定され入れ替わることも少なくなると容易に想像が可能だ。

 誰しもつい先日まで名前も知らないような冒険者に命を預けたくは無いだろう。

 

 そう考えるとやはり先輩が言ったように今すぐでも仲間を集めるべきだろうか。

 いや、適当に集めても戦闘スタイルが合わなければ組む意味がない、よく考えてチームを組むべきだな。

 チームを組む時の私の役割は盾役もできる純粋な物理攻撃役だろうか、盾役と言っても鎧で受ける肉壁方式なので特にそういった技術は無いし、攻撃に関しても今の所走って殴るだけだが。

 

 となると回復役と遠隔攻撃、そして魔法攻撃のどれかができる人材がチームに欲しいところだ。

 他のチームに入れてもらう方法もあるが私からチームを選ぶことがほぼ出来ないと考えていいだろう、これは誰も集められなかった時の最終手段として取っておこう。

 

 

 

「怪我は完治されたようですね、つまり先日お伝えした昇級試験を受けに来た、ということで問題ありませんね?」

 

「ええ、その通りです。昇級試験とやらを受けに来ました」

 

 チームの集め方などを考えている内に試験の応募時間が来たのでギルドの受付へ行き受付嬢に試験を受ける事を伝える。

 すると受付嬢は待ってましたと言わんばかりにどこからともなく何かが細かく書かれた資料らしきものを取り出した。

 

「では、試験を受ける前に、銅級から鉄級に上がる際に受ける昇級試験の内容について簡単に説明させて頂きますね」

 

「今回の昇級試験では大まかに実力を判断するのが目的なんですが……キングベアを討伐したようですので心配は要らないと思いますよ」

 

 細かく色々なことが書かれた資料を斜め読みする、試験の内容について書かれているようだが面倒なので読まない。

 受付嬢の様な美人にいい笑顔で心配ないと太鼓判を押される、これだけでどんな試験でも楽勝な気がしてきた。

 仮に今の私に戦闘力があるならきっと天元突破してることだろう。

 

「それで試験の内容ですが、こちらが用意した鉄上級の冒険者か相応の実力を持つギルド職員と模擬戦をして貰います」

 

「先程言ったように実力が鉄級に足りているかどうかを判断するための試験なので勝敗は問いません。武器に関してはギルド側で用意した安全な物を使用してください、でないと危ないので」

 

 よかった、買ったばかりのマチェットでは手加減も十全に扱う事も出来る気がしないから助かった。

 だが安全のため武器をギルド側が用意するのなら私の鎧は着たままで良いのだろうか? 徒手空拳でも容易に骨を砕けるほぼ武器の様なものなのだが。

 まあ 鉄上級がどれほど強いか分からないが、なんとかしてくれるだろう、多分。

 

「ここまでで何か質問はありますか? 無いみたいですね、では あちらの扉から試験会場に向かえますので、貴方の合格を祈っていますね」

 

 受付嬢に見送られながら扉を開け試験会場に向かう。

 もうすでに試験監督兼模擬戦相手は待機しているらしい。

 鎧を着たままでいいなら試合開始と同時に超重量タックルをかませばいいのでは? 一瞬考えたが多分それでは駄目なことは私でも予想できた。

 仕方ない、真面目に試験を受けるか。

 

 

 

 扉を開けるとそこは中々広い屋外だった。

 地面は土だが泥濘んでいたり水溜まりがあったりはしない、比較的乾燥した大地と言える。

 そしてその中心に木製の棒を持った人影が見える、武術に心得がありそうな立ち姿だ。

 

「おお さっきぶりだな」

 

 気さくに話しかけてくるが特に見覚えは無い。

 ……いやかなり見覚えがある、ついさっき昼食を食べた後にアドバイスを貰った冒険者だ。

 試験官ということは鉄上級ということか、そして棒を持っていることから棒術使いの可能性が高い。

 

「そうですね、先輩の胸借りさせて頂きます」

 

「おう! 存分に胸を借りな、そこの傍に置いてある木製の武器を取ったら始めようか」

 

 端っこに木製の剣等が沢山置いてある。

 その中から幅広の木製の剣と小さい剣を幾つか、そして盾を拾い上げる。

 幅広の剣はマチェットの代わりに、小さい剣は投げナイフの代わりとして使おう。

 普段触ったことすら無い盾を拾ったのは試験官がリーチの長い棒を持っているのでその対策だ。

 ただ邪魔に感じたら投擲武器として使用するつもりでもある。

 

「そう言えばあんた鎧着てるんだったな、そうだな……なら勝利条件はこの俺の背中を地面につけたらでいいぞ、そして敗北条件はあんたが降参するか首に武器が突きつけられたらだ」

 

「分かりました、それで構いませんよ」

 

「よし、なら始める前にそれぞれ自己紹介をしたら試合開始と行こう」

 

 男はそう言うと流れる様に棒を構える。

 男の存在感が数段と大きくなる。

 

「昇級試験の試験官を務めるは この街最高の鉄上級冒険者、鋼鉄のレーヴェ」

 

「……この昇級試験に挑むは 風の村出身の冒険者、アルトリア」

 

「「 いざ尋常に勝負!! 」」

 

 言い終わると同時に棒が鋭く突き出される。

 

「くっ」

 

「おお! 行けると思ったんだが」

 

 反射的に盾で防ぐ。

 しかしそれも想定内だったかの様に次の攻撃を繰り出す。

 二度目の攻撃も突きだ。

 

「ふんっ」

 

「うお! 危な」

 

 今度は盾でその攻撃を弾く。

 弾きながら後ろに大きく下がる。

 そして下がりながら盾を投擲するが避けられた。

 

 二回とも突きだったことから男が使うのは棒術ではなく槍術だと予想をつけ情報を修正する。

 

 隙を作る為、続け様に木製のナイフを投げる。

 それを男は槍を巧みに使って叩き落とす。

 

「はぁっ!」

 

「そんな見え見えな攻撃当たらないよ」

 

 このままでは勝敗が決まらないと感じたので前に詰める。

 大地を蹴り加速する。

 その加速を木剣に乗せ風を斬りながら振り抜く。

 

 しかし難なく受け流され返す刀で首を狙った槍が突き出される。

 だが防がれるのは予想していた。

 木剣を手放し、両手を交差し、首を守りながらそのまま前に体当たりを繰り出す。

 さすがにこれは予想外だったのか男は目を見開く。

 男は避けることは出来ない。

 

「うぼああああ!」

 

 命の危機を感じた男は槍を盾にして身体を守る。

 しかし勢いの乗った体当たりを受け止めることは出来ず槍は粉々に折れ、男は大きく吹っ飛んだ。

 

 

 

 やべ……碌に攻撃が当たらなくて苛ついてきてつい体当たりしてしまった。

 大丈夫だよな? 粉砕骨折とかなってないよな?

 頼む無事でいてくれ。

 

「……あんた武器使わない方が強く無いか……」

 

 木屑を被っているが無事そうだ。

 一応本人に体調を聞いてみる。

 

「ええと すいません、大丈夫ですか? その 怪我をしていたりはしませんか」

 

「ああ まあ多分大丈夫だ、ただちょっと手を貸してくれ、起き上がれん」

 

 ほっ 無事な様でよかった。

 なんか胸当てが割れてるけど、本人が大丈夫と言ってるから問題ないだろう。

 大丈夫だよな? すごく心配なんだが。

 手だけでなく肩も貸して起き上がらせる。

 

「ごほっ すまねえな、試験に関しては合格だ。ただ瞬発力とか力はすごい良かっただけに武器にそれが載せれてないのが勿体ないな」

 

「ありがとうございます、確かに武器の扱いは慣れていませんね」

 

「そうだろうな、あ あと鉄級に上がったあんたに俺の二つ名である鋼鉄が付くからな、覚えておけよ」

 

 二つ名か、銅級から昇格したから鉄下級になったのか。

 しかし鉄下級なのに鉄上級が名乗っていた二つ名を使っていいのか? そもそもそんな自由に二つ名を譲渡とか出来なさそうだが。

 

「そもそも二つ名ってどんな意味があるんです?」

 

「せっかくだから詳しく教えてやろう、二つ名はギルドからランク内で特に目立つ活躍をしそうな冒険者とかに与えられるんだ」

 

「俺の、いやおまえの鋼鉄の他で俺が知ってるのは、鉄中級に鉄壁、銀上級に純銀、あとは金上級に黄金の二つ名持ちが記憶が正しければいるな」

 

「あと二つ名の譲渡だがギルドにそう指示されてたんだ、俺には新しく二つ名が付くと思うからそこに関しては心配しなくていいぜ」

 

 なるほど、二つ名はランクに応じた金属に関係するものが付けられるのか。

 そして譲渡に関してはギルドの指示以外では出来ないとの事だ。

 しっかし二つ名持ちはギルドに見込まれているならレーヴェ先輩もすぐに銀級に上がれそうなものだが。

 それだけ銀級と鉄級の間には差があるのだろうか、かなり気になる。

 

「レーヴェ先輩、本日はありがとうございます」

 

「おう! 気にすんな、また今度はどっかの依頼とかで会うかもな、まあ実際の所は基本ギルドにいるからなんかあったら会いに来てくれ」

 

「はい なんかあったらぜひ頼らせてもらいます」

 

 レーヴェ先輩に礼を言ってギルドから別れる。

 今日は昇級するだけでなく先輩との面識や二つ名など様々な収穫を得ることができた。

 

 正直二つ名はどうでもいいが交友関係は沢山あって損はないので良い出会いだったと思う。

 次の大きな目標は鉄上級に上がり銀級に昇格することだろう。

 だがまずはその前にチームを組まなくては。

 そんなことを色々考えながら私はいつもの普通すぎる宿へと向かった。




書きたいことを書けば良いと気づいてからは難産が比較的解消した
やはり好きな事こそ最強!
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