今日は風が強い、洗濯物を外に干していたら遠くに飛ばされることだろう。
まあ 私は鎧を常に着ているので風を肌で感じることは無いのだが。
季節の変化をあまり感じないというのは利点でもあるが何だか少し寂しい気がする。
テントの端と地面を繋ぎ止めていた金具を取り外し、野営を引き払って再び王都へ出発する準備を整える。
しっかりと焚き火に土を被せ、残り火すら残さずに消すことを忘れない。
火元から森が近いわけではないので山が全焼するなんてことは起きないだろう。
しかし、一度何処かに延焼すると何かしら大惨事になるのは簡単に予想できる、なので二重三重に火の扱いには警戒する。
用心して損はないのだ、ならばたくさん用心した方が得だろう。
「そういえば、アルトリアは何で王都にいくんだ? あたしは新しい武具がないか見に行くんだが、あんたは別にそういう理由じゃなさそうだよな」
相変わらず整備されていない凸凹の土の道を進み、居眠りをするには人外にも等しい強靭な精神が無いと寝れなそうな揺れに揺られながら馬車の外を流れる自然豊かな景色を眺めていると、武具談義で語り合った日からすっかり打ち解けることができたヴィーラが王都に行く理由について聞いてくる。
もともと王都に行く理由はチームに関して考え続けて煮詰まった思考をほぐす為の観光、そしてその共に冒険する仲間について考える為の情報を探す事だった。
しかし、共に冒険する仲間に関してはもうすでに昨日の夜の時点で解決したのだ。
「あんたの冒険にあたしを入れてくれないか?」
あの日、ヴィーラが私の冒険のチームに入れてくれと真剣な表情で頼まれた時、最初は断ろうと思っていた。
何故ならヴィーラは当初仲間に求めていたものの回復、魔法、遠距離攻撃のどの役割でも無かったからだ。
しかも 私と同じ前衛で物理攻撃しかできないため役割がほとんど被っている、それによってチームのバランスも悪くなってしまうとも考えていた。
チームのバランスが悪ければ不得意な依頼や敵も出てくる、さらにはその明確な弱点があることで不利益を被るかもしれない。
しかし 共に冒険する仲間に必要なことは適切で最適な役割でも、チームのバランスでも無い。
共に冒険する仲間に真に必要なこととは良好な人間関係が作れるかどうかなのだ。
最終的な目標が何であれ、共に冒険するということは長時間顔を合わせ協力し続けるということ。
仲が悪ければ極力顔を合わせないようにするだろうし当然協力的には殆どの人がなれない。
そんな状態でいつまでも冒険をしていたら遅かれ早かれそのチームは解散、最悪の場合は崩壊することになるだろう。
現に人間関係のもつれや悪化によって解散した冒険者チームを幾つも聞いたことがある。
私が出来ないことを補う為仲間を集めようとした、しかし出来ないなら出来なりに工夫しても良い。
前衛の役割が被っていると言ってもお互いを支え合えば並の前衛では出来ないこともできるようになるだろう。
そしてそのチームの弱点が不利益になるかもしれない、だが不確定の未来を考えても意味は無い。
故に 私はあの夜、最初の初めての仲間へこう答えた。
「私の目指している冒険は遥か遠くにあり、朧げで、想像よりも遥かに小さいかもしれない」
「少なくともその道は厳しく険しい、しかし今更この夢を止めることなど出来ない」
「それでも良いのなら、これから共に冒険する仲間としてよろしく頼む」
仲間を探すことについて悩む必要がほぼない現状、理由のもう一つである息抜きの為の旅行も意味が薄くなった、純粋に旅行を楽しむでも良いのだが、せっかくなので今から王都へ行く理由を新しく考えてみよう。
まず、王都の一番の特徴として錬金術の発達と発展により生まれた国のためその発祥地とも言える王都では錬金術が非常に盛んなことだろう。
そして国の中心のため様々な地方の技術や知識が集まり、その集まったものと錬金術が融合し独自の発展を遂げている可能性があることだろうか。
まず王都に行ったら見るべきものと言ったら錬金術になるだろう、しかし特に私の興味を引かなかったので気が変わらなければ見に行くことは無い。
他に錬金術と同じくらい発達したものとして鍛治を挙げることができるのでは無いだろうか。
今、私が装備している一張羅とも言える優れた防御力を持ちそして重すぎる鎧を作ってくれたボルカのおっさんが元々いた場所で、その源流とも言える本元の鍛治技術はこの国最高峰だと考えられる。
ちなみにこの国はあくまで錬金術が一番優れた技術であり、鍛治技術に関してはもっと優れている国が他に存在する。
なので私が王都へ行く理由とするなら鍛治を見に行く、または出来るなら何か依頼することになるだろう。
故郷の村では作れなかった道具や武器も鍛治の本場である王都でなら幾つか作れるかもしれない。
「この鎧を作ってくれた鍛冶師はちょうど王都出身だったんだ、だからその鍛治技術を見ることが目的になるかな」
「おお、ならあたしも一緒に見に行くよ、その鎧みたいな凄いものが見れるかもしれないってことだからね」
先ほどの何故王都に行くのかという質問に答える。
しかしこの鎧の設計にはこの私、具体的には前世の記憶が大きく関係しているからここまで凄い変な鎧はないと思うけど。
いや、もしかしたら王都には鍛治に全てを捧げたような変態的な技術を持った鍛冶師がいてこの時代に相応しくないオーパーツ気味なものを作ってるかもしれない。
宇宙戦艦とか人型決戦兵器とか。
そう考えるとものすごく王都に到着するのが楽しみになってきたな。
それからも馬車は順調に晴れ時々曇りな空の下、凸凹の大地の上に敷かれた道を王都へ向かって進んでいく。
初日に遭遇した狼の群れ以外には特に襲撃に遭うことは無く、安全すぎて退屈な残り二日間の馬車の旅だった。
商人によるとこの道は大変治安が良く初日のように複数に囲まれることの方が珍しいらしい。
いよいよ王都の選ばれし精鋭騎士たちが人類に仇なすものを原因から根こそぎ滅ぼし尽くしている説が濃厚になってきた。
仮に魔王とかが現れても勇者要らないのでは? とりあえず王都の騎士達は敵対したり怒らせないようにしとこうと心に誓った。
あまりにも強すぎる王都の騎士達に恐怖しながら馬車に揺れていると、王都が近いてきたようで道行く人も多くなってくる。
王都を囲う宿場町で見たものとは比べ物にならないほど大きく堅牢な作りをした城壁が遠くからでも見える。
しかも驚くべきことに城壁の一部は神々しく光り輝いているのだ、物理的に。
そんな摩訶不思議な城壁に驚きながら城門の検問を受け、馬車は何の問題も無く通り抜ける。
今まで活動していた宿場町カスケードも沢山人がいたが、王都の人の多さは比べものにならないほど多い。
「ここまで三日間ありがとうございました、また機会があればまたお願いしますね」
定型のようなお礼を商人から貰い別れる、またの機会と言っていることから戻る時に依頼を貼り出すのだろうか。
報酬を貰うためにも王都にあるギルドへ向かい、護衛依頼の達成を報告しに行く。
途中一回だけだが襲撃があったのでその分が上乗せされた報酬を受け取る、チームメンバーとなったヴィーラと二人で分けてもなかなかの金額だった、キングベアの報酬もまだまだあるので財布がかなり重い。
ちなみにキングベアの報酬は一年遊んで暮らせる量があるので実際に財布に入れて持ち運ぶのは現実的に無理だ、ちょうどギルドが冒険者限定で銀行のような役割も持っているのでそのほとんどを預けている。
「あ そうだ、あたし王都に来たら用事があったの思い出した、すまんアルトリア、鍛治を一緒に見に行く約束だったけど一人で行ってくれ」
「わかった、別に構わないよ。ぜひ用事を優先してくれ」
「あたしの予定が終わるまではこの宿で待っててくれないか? 武具屋は一緒に見て回りたいんだ」
ここまで一緒について来ていたヴィーラが共に行けないことを謝罪し宿の場所を書いた紙を渡してくる。
元々当初から一人でも行く予定だったのでなんら特に問題は無い。
ただ王都に詳しそうだったので道案内でも頼もうと思っていたのだが、頼れないのは残念だ。
そういう訳でヴィーラと別れて王都では別行動することになった。
王都は人が多く混雑している道もあり流れも速い、仮にスリなどがいたら土地勘のない私では気づくことも追いかけて取り戻すことも出来ないだろう。
だが、そのスリにあう心配はしていない。
何故なら全身鎧を着ているせいか若干周りから距離を空けられているのだ。
この状態のまま仮に人混みの中に入ればモーセの海割りの如き様相ができることだろう。
周りが避けてくれるおかげでとても歩きやすい道を進みながら目的地へ向かう。
私が向かっている目的地は鍛治技術を沢山見ることができる所、煙が立ち昇る工業地区にある。
錬金術が関係しているのか、色々な色の煙を見ることができ、見ていて飽きない。
ただ自然への影響が気になるところだ。
王都はいくつかの地区に分けられており、工業地区の他に様々な地域のものが集まる商業地区、貴族や王族が住む上層住宅地区、それ以外の住む中層住宅地区などが存在する。
そして光あるところには必ず影がある、きっと下級住宅地区に相当するスラム街なども私が知らないだけであるに違いない。
社会の闇について考えながら歩いたらいつの間にか目的の場所に到着していたようだ。
目的の場所とは、工業地区の中でも一等地に存在する建物、鍛治技術を集めた王都の工房である。
年季の入った扉を開けて中に入る、特にアポとかは取っていないが受付も電話もないのだ、そのくらい別にいいだろう。
すると当然突然の訪問者に視線が集まる。
しかも私は顔も見えない全身鎧なのだ、不信極まりないだろう。
「おい、誰だか知らんがここは工業地区、武器とか防具みたいな商品を買いたいなら商業地区にある店で売ってるからそっちに行きな」
「ああ 知っている、だからこそ高い技術の源であるここに来たのだ」
「知っているなら尚更何故こっちに……」
門前払いなりされると思い屁理屈でもなんでも並べ立てて意地でもここに残ろうとする覚悟を決める。
生きていく上で大切な鍛治技術を簡単には見せてはくれないだろう。
そう思っていたら此方を咎める鍛冶師の言葉がすぼんでいき、最後には硬直した。
「お前さんが着てる鎧、もしかしてボルカの野郎が作った奴か?」
「え そうだ、ボルカが作った鎧だな、設計に関しては私も関わっているからボルカ一人で全て作った訳ではないが」
心底不思議そうに、それでいて有無を言わさぬような気迫で質問されたためつい正直に答える。
するとその答えに鍛冶師は納得し、まるで長年の疑問も解けたように大きく頷いている。
「なるほど、どうりで ボルカの野郎は人を傷つけるものはとてもじゃ無いが作れねぇつって出奔したんだが……人を守る鎧を作る、それがあいつの出した答えか、設計はお前さんの手を借りたみたいだが技術は十分だ」
ボルカのおっさん、王都から何故あの村に来たのか以前聞いても答えてくれなかったがこれが理由とは知らなかった。
意外と色々なことを悩んでいたんだな、父と酒を飲みまくってるだけかと思ってた、見直したぜボルカのおっさん。
故郷の村の鍛冶師への認識を改めていると先ほどの鍛冶師が大声で他の鍛冶師達を呼ぶ。
「ところで、お前さんがこの鎧考えたんだろ? ここの特徴的な部分はどういう意図が?」
「このデザインなかなかいいな、これにも何か特別な意味があるのか」
「他にも何か考えていることは無いか? ここでなら俺たちもいるし実現できるからなんか言ってみてくれ」
ぞろぞろとたくさんの鍛治職人達が集まり様々なことを質問してくる。
それに答えれる質問にだけ答えている内にだんだんとここの人達のことが分かってきた。
彼らは浪漫を求めている、時代や方向は違えど根幹は私と同じ浪漫を追求する者だったのだ。
そのことに気がついてから同じ浪漫を求める者として私は鎧について思うことを思う存分語り鍛冶師達と意気投合することができたのだ。
工房のおやじ達と意気投合した後は私も気分が乗り、前世の記憶から様々なアイディアを出して協力を惜しまない。
「この電磁砲って武器、ここの銅に通すのを電気じゃなくて魔力に変えて、その魔力を通すためにこの金属に変えるのはどうだ」
「剣から大槌に変形する変形機構は面白いな、ついでに射撃武器にも変形できたらもっと面白くなるんじゃないか? ちょっとやってみようぜ」
「魔力を使わずに動く自律人形って発想はすごいが、個人的には色々足りないな、具体的には腕にもっとシルバーを巻くとかさ」
様々なアイディアを出すとそれに応じて様々反応が鍛冶師達から帰ってくる。
ただ出されたアイディアをそのまま再現したり実現不可能だと諦めたりするわけでは無く、どこをどう改善すれば実現できるか考えたり、設計図から改良案を即座に発案するなど流石王都の鍛冶師達だ。
さらに発案するだけでは無く実際に試作品を作り上げるのだ、ものの数分で作り上げるものもあり技術力の高さを感じられる。
ただ何かの作業をほうってまで試作品作りに熱を上げている者までいるのだが、期限とかは大丈夫なのだろうか。
共に冒険する仲間について考えるために王都へ旅行しに来たわけだが、その道中で目的の仲間は見つけることができ、王都の鍛治集団にも縁ができたと言える。
なかなか良い旅行になったのでは? 肝心の王都の観光は全くしていないが。
ただ特に鍛治以外で他に見たいものも王都にはなかったので、ヴィーラの用事とやらが終わり次第、共に王都の武具屋を見て回ったら宿場町に帰るとしよう。
それに王都へはいずれまた冒険者として訪れることになるだろうし、尚更だ。
しかしヴィーラの用事がいつ頃に終わるのか聞いとけば良かったな。
もしかしたら数日かかるかも知れない、数日間も宿で過ごすなんて時間の無駄でしかないだろう。
そんなことを考えながら夕焼けに染まる空を後ろに紙に書かれている指定されていた宿に向かった。
後書きが無駄に長かったので修正
完結までエタらずに書いていきたい所存です