雨の中私たちは宿場町への帰路についていた。
王都に行く時といる間は太陽がよく見える素敵な天気だったのだが、帰りの途中から雨が降り始め雨雲で太陽は隠れてしまい空は暗い。
森の中を走っているが楽しそうだった鳥の声は無く、ただ馬が濡れた大地を駆ける音のみが聞こえる。
馬車の屋根を打つ雨音は途切れることはなく、鎧を着ていても肌寒く感じた。
宿に帰りヴィーラの用事が終わるまで待っていたのだが、その日のうちに終わったようで次の日の朝、共に武具屋を見て回った。
見て回った後は他にやる事も特に無くなり馬車もちょうど出ていたこともあってそのまま宿場町に戻ることにした。
王都に滞在した期間がわずか二日足らずというトンボもびっくりの蜻蛉返りな訳だが、ヴィーラの方も武具屋に気になるものも買いたい武具も無かったのもあり、すぐ戻ることに反対どころか賛同さえしてくれた。
王都で買える物のほとんどが宿場町でより安く買えるのも一因かもしれない。
「雨、降ってるなぁ」
「この雨だと魔物も出てこないだろうし、いよいよ暇だな」
先ほどより雨が強くなった、この勢いではとてもすぐには止みそうに無い。
分厚い黒雲に覆われていて太陽の光は見えそうにない上暗いので気が滅入る。
馬車に揺られながら町に着くまでの暇をやる気の無い会話やうたた寝を繰り返した。
「ところで、今あたしらの乗る馬車はもうすぐ宿場町に着く訳だがアルトリアは何かやる事が決まってたりするのか?」
ふと 突然思い出したかのようにヴィーラが今後の予定を聞いてきた。
今後の予定か……行き当たりばったりで生きている私は町に戻ったら何をするか考えた。
おそらくワーカーホリック気味の私は暇潰しとランク上げを兼ねて何か依頼を探すだろう、しかしこの雨の中遠くで長時間労働するようなものは受けたくない、雨は体から熱を奪うのだ、それは鎧を着ていても変わらない。
それに王都から戻ってきたばかりなのにまた何処かに行くというのも面倒だ。
「雨が降ってなければ何か近場の依頼を受けようか考えていたが……止みそうにないからな、まあギルドの酒場か宿で一日過ごそうと思っていたから特にやる事は決まってないな」
「そうか、なら多少雨に濡れる事にはなるがたしか町内でできる依頼があったと思うんだ、だからそれを一緒にやろうぜ」
受けたい依頼があるらしい、このまま酒場で酔い潰れたり宿でふて寝するよりは健康的だろうし体力も有り余っている。
特に異議はないので素直に頷いておく、多少雨に濡れるらしいがどのくらいまでが多少か分からないので防水のマントを羽織り続けるつもりだ。
マントは村を旅立つ前から使っているものなのだがそろそろ防水性能がより優れた新しい物に変えるべきだろうか、しかし今より優れたものとなると自作しなければならない。
……まだ変えなくても良いだろう、だがスペアがあると何かと便利だし今度暇な時にでも一着ぐらい作るか買うかしておこうか。
装備の更新についてあれこれ考えているうちにいつの間にか宿場町に着いていたようだ。
天気は土砂降りと言える程ではないが雨が変わらず降っている。
土砂崩れや川の氾濫が起きないか気になる、美しい水の街とか誰かが言っていたので治水工事とかはしっかりとしてあるのだろうか。
雨が降っているのにも関わらず多くの人が大通りを忙しなく歩いていた、晴れの日と比べると流石に少ないがそれでも適当に走ったらぶつかってしまうぐらいには多い。
全体的に武器を持った人が多い気がする、雨の中わざわざ武器を持って行動するのは冒険者しかいないだろう。
「なんか騒がしい気がするんだが、雨の日はいつもこんなもんなのか?」
「いや、ここまで人が多いのは珍しいな」
私よりも普段の町の様子を知っているであろうヴィーラにこの町の様子を聞くが普段とは違うらしい。
何かを思い当たる事がないか思い出そうとしばらく唸るヴィーラ。
「まあ ギルドで聞いたら何か聞いたら分かるだろうしとりあえずはギルドに行ってみようぜ」
しかし特に思い当たる節はなかったのか考えるのを止めた。
実際に聞いた方が早いという事で本来の目標であるギルドに行くことにした。
町内でできる依頼とやらを受ける為と今この町で起こっている出来事について聞く為、ギルドまで来てみると駆け足で何処かに移動している冒険者の一団とすれ違った。
ギルド内でも完全武装の冒険者の集団がが幾つか見て取れる。
険しい顔の冒険者もいることから祭りなどでは無さそうだ、いや あの人は元々険しい顔の人だった気がする。
「おう戻ってきたか、思ったより早かったな。王都旅行楽しんできたか?」
出入り口の邪魔にならないところで周りの様子を見ているとレーヴェ先輩がこちらに気づき話しかけてきた。
「ええ 特に問題なくそこそこ楽しんできましたよ」
「おお それは良かった、王都はトラブルも多いから巻き込まれていないようで良かった」
王都で起きたことと王都に行っている間こちらであった出来事について会話を交換した。
私から提供できる話題は主に鍛冶師と意気投合したことぐらいなのだが、宿場町の方では特に変わりなかったらしい。
ついでに冒険する仲間が出来たことと仲間のヴィーラを紹介した。
全身鎧のどう見ても騎士で前衛な私と戦鎚を背負ったどう見ても戦士で同じく前衛なヴィーラを見てもレーヴェ先輩はチームの構成について特に疑問は感じないようだった。
もしかして前衛とか後衛とか考えてる私は珍しいのか? それにしても前衛二人はおかしいと思うのだが。
「ところでこの騒ぎは何か知ってますか」
「ああ 今、町の墓場の方で問題が起きてるらしくてな、それに関してギルドから特例依頼が出てるんだ。だからその影響だな」
「特別依頼?」
「墓場の……なんだっけ、確か負の魔力?だかなんだかが集まりすぎて不死者が定期的に湧くらしいんだ、それが今回は多めに湧いたからそれの対処の手が欲しいってことでギルドに協力要請が送られて特例依頼として出された感じだな」
特例依頼は緊急で対処すべき案件が該当するのだが、今回の不死者討伐は不定期だが度々あるらしい。
そのため慣れている冒険者はそこまで深刻に考えているものは居ないようだ。
不死者で出てくるのも下位種が大半でごく稀に中位種が出てくるくらいで心配はあまり無いんだとか。
「なるほど、教えてくださりありがとうございます」
「気にすんな、ちなみに依頼は誰でも受けられるし難易度も高く無いから稼ぎ時ってことでほとんど祭りみたいなもんだ。でも弱くても魔物だからな受けるなら油断するなよ」
「分かりました、では」
レーヴェ先輩と別れて受付にも話を聞きに行く。
ついでにヴィーラが受けようとしていた依頼についても聞いてみる。
「多分、定期的な不死者の討伐のことがあたしの言ってた依頼のことだと思う、だから今は無いと思うし特別依頼を受けようぜ」
「特別依頼ね、受けてくるから準備して待ってて」
「おう! ここで待ってるぜ」
ヴィーラが受けようとしていた依頼がまさか関係していたとは、この私の目をもってしても読めなかった……
とにかくアンデット討伐の特別依頼を受けるため受付へ向かう。
不死者と言っていたが歩く死体だろうか、それとも骸骨なのだろうか。
ヴィーラは戦鎚なので戦うことに問題は無さそうだ、そうなると私はどうしようか、投げナイフは死体相手に効きそうにない。
マチェットは斬撃なのでこれも効かないかもしれない………いや普通に殴ればいいのか。
死体を殴るとか衛生的に凄く心配だ、むしろ倒せるかどうかより病気にかかる心配の方が大きい。
依頼を受け、病気予防に効果があるのかよく分からん薬を買ってヴィーラと共に不死者大量発生キャンペーン中の墓場へ向かった。
墓場の近くの教会ぽいところの近くでテントがいくつも広げてある。
ちらっと見たところ人が横になっていたので野戦病院のような感じだろうか、となると教会が対策本部になるだろう。
教会はこの世界でも主に病院のような役割をしているようだ。
ただ一神教ではなく自然という不定形なものを崇めているのが前世との違いだろうか、反対に東の方では現人神が国を統治しておりその現人神を頂点とする宗教があるらしい。
さすがファンタジーというべきか神が実際にいるとは、個人的には魔法こそ信仰されそうなものだがそうでも無いのだろうか。
神官だろうか、白色の服を着たいかにも回復魔法を使いそうな見た目の人がいたので話しかける。
「すいません、ギルドから依頼を受けたのですが」
「あら 冒険者の方ですね、依頼の説明は担当の者がいますので教会の方へ向かってください」
教会へ行けと言われたので向かう。
中ではおそらく教会側の人と何人かの冒険者とギルドの人がおり、書類を書いたりしていた。
なんだか会社のオフィスを彷彿とさせる光景だ。
「……冒険者の方ですね、依頼について説明しますのでこちらで説明しますね」
なんか過労死しそうな見た目をした神父だ。
目のクマがすごい、しかも頭も回ってないのか最初虚空に向かって話していたぞこの人。
依頼の説明については報酬の分配方式はまだ分かるが教会の理念だとか建てられた理由とか、最後の方は教会の歴史について書類を見ながら話していた、過労死しそうなのは依頼に関係ない余計な説明をしているからでは?
とにかくこの依頼は不死者の大量発生がなくなるまで続くらしい。
そしてその日のうちに不死者を墓場から根絶しても次の夜には完全復活してしまうため墓場から溢れない程度の討伐で構わないそうだ。
つまり不死者の異常発生が収まったのが確認できるまでこの神父は教会に釘付けということ、なるほど神父が今にも過労死しそうなのは人員が足りてないのが原因か。
可哀想だが一冒険者でしかない私には何も出来ない、頑張ってくれ神父。
神父の死を無駄にしない為にも依頼を完遂しよう。
ブラック企業ならぬブラック教会には絶対勤めないと心に決めながら墓地へ向かう。
墓場は少し高めの塀に囲まれておりその上から中の様子を見ることができる。
ぱっと見ほとんどが骸骨でちらほらと鎧をつけた骸骨がいるようだ、鎧を着たものが中位種というやつなのだろうか。
しかし鎧と言っても鉄の帽子や胸当てだけで防御力は全身甲冑に比べて遥かに薄いので骸骨の耐久力は無いと言っていいだろう。
雨の中骸骨が歩いているのは前世のホラー映画やホラーゲームを思い起こす。
ただいくら曇りでもまだ明るい時間帯なのでとぼとぼ歩いている様子が遠くからでもはっきりと見える。
なんだかシュールな感じだ。
「なあヴィーラ、不死者は無限復活するらしい、だからその原因か何かあるんじゃ無いかと私は思うんだけど」
「ああー 確かに、じゃあせっかくだし原因を探してみるか?」
「この墓地は広いのか?」
「結構広かったと思う、少なくとも骸骨を対処しつつ原因を探しながらだと日が暮れるんじゃ無いか」
「なら原因探しは頭の片隅にだけ入れて、骸骨退治に集中しようか」
なんなら骸骨騒ぎが収まった後にでも原因探しをしても遅くは無いだろう。
そんなことを話しながら私達二人は墓地に足を踏み入れる。
骸骨達は目や鼻が無いのにどういうわけか私達の接近に気づいたようでわらわらと近寄ってくる。
生命力とか魂とかが見えてそれを頼りに近寄ってくるのだろうか、相変わらず謎は尽きない。
呼吸に一切の乱れなくヴィーラの戦鎚が骸骨の頭に向かって気さくな挨拶のように振り抜かれた。
骸骨は挨拶に反応することなくそのまま頭蓋を粉々に砕かれる。
頭が骸骨にとっての心臓部だったのか魔力で浮かんでいた骨の四肢が大地に落ち、それ以降その骸骨は一切動かない。
頭を砕いた勢いを乗せたまま他の骸骨に戦鎚が振るわれる。
頭蓋ではなく今度は豪快な音を立てながら胴体を両断した。
そのまま上半身は吹き飛ぶ、またしても骸骨は動かない。
「……なんというか、素振りしてる気分だねッ」
腰を落として全力の戦鎚で薙ぎ払う。
その一撃は何体かの骸骨をまとめて砕いた。
胸当てをつけた骸骨もいたが他の骸骨と共に粉砕された。
ここまでヴィーラが無双しているが私はまだ何もしていない。
討伐した数を競っているわけでは無いがこのまま何もしないのは気分が悪い。
「ちょっとくらい私の分も残してくれよッ」
素早く目の前にいた骸骨に向かって体当たりを繰り出す。
骸骨は鉄塊の体当たりを防ぐことはできずにそのまま粉々になる。
きっとカルシウムが足りていなかったのだろう。
「あんたの分が無いのは骸骨が脆すぎるせいさ、あたしのせいじゃ無いね」
戦鎚が骨を砕く、鉄の拳が骨を粉砕する。
どんどんと骨の山が二人の周りにできていく。
たとえカルシウムが足りていてもこの惨状は変わらないだろう。
「ふぅ、いい汗かいたね」
昼頃から骸骨を破壊し続けたはずだがいつのまにか西の空が赤くなっていた。
あたりの地面は真っ白でまるでここだけ雪が降ったようだ。
この世の骸骨は全て絶滅させたのでは? そう思えるくらいの量の骨の破片が散らばっている。
「こんだけ討伐したしもう居ないんじゃ無いか」
「……いや、あっちにまだいるみたいよ、ここほど多くは無いみたいだけど」
どうやらまだ絶滅していなかったらしい。
骸骨の他にも冒険者らしき人を見かける、骸骨が空を飛んでいることからかなり派手にやっているようだ。
「あっちは大丈夫だろうし私たちは帰ろう」
「そうだな……しかし特別依頼と聞いたが思ってたよりも簡単だったな」
「下級種の骸骨が大半だったのと私たち二人が打撃主体だったからだと思うけどね」
まったく苦戦しなかったのだが武器の種類によっては苦戦するのだろう。
……とてもじゃ無いが想像できない。
とりあえず宿に戻って身体中の汗を拭きたい。
雨もいつの間にか止んでいたがそのまま放置すると鎧がカビ臭くなりそうだ。
晴れて虹の掛かった空を二人で見上げ、他愛のない話をしながら宿へと戻った。
この骸骨討伐依頼は初心者向けの訓練になるんじゃないか、そんな話をしながら。
新作ゲームやったり復活したニコ動見たりして遊んでたら一週間経ってました
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