四章後編クリア推奨
ネタバレ注意


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今回のイベスト、壊れたユッキーが大好きです。





とあるドームの取引

夕闇の雑踏の中、女が一人、歩いている。

行く先が決まっているのか、きびきびと歩く。

着古したシャツ、薄汚れたジーンズ。

それと似合わない透き通るような白い肌と、碧髪と呼べる程の美しい黒髪。

それでも、周囲の人間は、気にも留めない。

時折、振り返る人間もいるが、すぐに日常へと帰る。

女は歩いているが、他の人間は走っている。

もうすぐ、セラフ部隊の放送が始まる。

皆はそれを見に、広場へと向かっている。

夕食を終え、近所に声を掛け、友達を誘い、手を繋ぎ、足早に向かっている。

女は、同じように広場へと向かっているが、どこか雰囲気が違う。

広場に着くと、画面のよく見える場所は、ほぼ残っていない。

外の情報を欲しているのか、娯楽を欲しているのか…。

恐らく、娯楽を欲しているのだろう。

自分達が、そのように仕向けているのだ。

娯楽や文化は、平和の副産物である。

寒さを凌ぐ服がないのに、誰が宝石を欲しがるのか?

飢えを凌ぐ食物がないのに、誰が絵画や演劇に金を出すのか?

身の安全が保障されないのに、誰が音楽に耳を傾けるのか?

その点、この放送は、十分な役割を果たしている。

軍が財産を守ると叫び、キャンサーを撃破するという演劇を観せ、キャンサーの出没情報で住民達に自衛させている。

よく出来た娯楽であり、プロパガンダだ。

女は、薄く嘲笑う。

それは、軍に対してか、自分に対してか。

女は、広場を見渡し、住民の顔を確認する。

…いない。

まだ工場の方にいるのだろう。

広場のそばの工場へと、足を向ける。

工場の中に入ると、オイルと鉄と焼けた臭いがする。

工場といっても、ベルトコンベアや、製造の為のロボットがいるわけではない。

そこここに転がる家電。

エンジンのようなもの。

タイヤ。

鉄筋。

スプリングの飛び出しているベッド。

奥には、ガムテープて補修されたパーテーションで囲われた一画がある。

女は、パーテーションに向かって歩く。

恐らく工具を片付けているのだろう。

がちゃがちゃと、音が聞こえてくる。

 

「すまないねぇ。もう店閉まいなんだよーん」

 

男の声を無視し、女は歩を進める。

 

「明日、また来て欲しいねーん」

「それは、無理ね」

 

女の声に、男は振り向く。

いつも垂れ下がっている目尻が、更に垂れ下がる。

 

「…珍しいお客さんだねーん♪」

 

そう言いながら、ソファに促す。

申し訳程度の応接セット。

今の情勢下で、どれ程使われているのか、疑問に思う。

 

「早速だけど…」

「まあまあ、そう急ぐことないよーん」

 

いつの間に持って来たのか、酒瓶とグラスをテーブルに置く。

二つのグラスに酒を注ぐと、片方を女の前に置く。

 

「…任務中よ?」

「まあまあ♪固いことはなしよーん♪」

「…」

「ねーん♪」

「…」

「…飲めよ」

 

表情は変わらず、目の光と口調だけが鋭くなる。

ふっと、息を漏らし、女は酒を呷る。

男も、一気に呷る。

作業着のポケットから、煙草を取り出すと、かちり、と火を点ける。

女に勧めるが、首を振り、拒否する。

火の点いた煙草を咥えたまま、二つのグラスに酒を注ぐ。

女は、ゆっくりと味わうように、一口飲み込む。

 

「いい酒ね」

「爺さんの秘蔵っ子だ」

「勝手に開けていいのかしら?」

「こんなもん、生きてる人間が飲んでなんぼだ」

 

そう言って、紫煙を燻らす。

どこか、諦めとも自嘲とも取れる言い方をする。

いつものお調子者な口調でなくなっている。

 

「相変わらずの捻くれっぷりね」

「こんなクソみてぇな時代なんだ。自然とこうなる」

 

男も、一口飲む。

 

「で?軍のエラいエラーい司令官様が、こんなとこに何の用だ?」

「この子を、気に掛けておいて欲しい」

 

そう言って、一枚の写真を見せる。

 

「やっぱり面倒事じゃねえか」

「あら?面倒事以外、あなたにお願いしたことあったかしら?」

 

女が、いたずらっぽく笑う。

男は、苦々しそうに舌打ちする。

 

「…見返りは?」

「話が早くて助かるわ。ドーム住民への食料二年分よ」

「…随分と気前がいいな」

「そのくらいの価値があるのよ」

「まあ、こっちは助かるがな」

 

余計な事は、聞かない。

その方が、利があることを、男は知っている。

写真を手に取り、また一口飲む。

 

「あともう一つ」

「まだあんのかよ!?」

「この人物の情報が欲しいの」

 

見せられた写真には、三十代半ば程の女が写っている。

どことなく、一枚目に写っていた少女に似ている。

 

「だいふ前の写真よ。三十年くらい前になるわ」

「おいおい、勘弁してくれよ。そんだけの情報で、人探せってか?」

「長い付き合いよ?代々、この辺の顔役のあなたなら、人脈くらいあるでしょ」

「好きでやってるわけじゃねぇ。さっさと子供作って、引退してぇよ」

 

言いつつ、写真をじっくりと見る。

また一口、酒を含む。

 

「他のドームにも声を掛けてくれていいわ。有力な情報なら半年分、保護したドームにも半年分」

「ったく、ある所にはあるもんだな」

 

吐き捨てるように言い、煙草をもう一本取り出す。

じっと、写真の女を見る。

三十年前の威勢の良さそうな女。

その顔の不変の部分を憶える。

人の顔は、変わっていくものだが、不変の部分が必ずある。

占いの人相見などは、そこを見る。

男も、同じように、そこを憶える。

やがて

 

「は!はははははは!」

 

突然の笑い。

女は、特に動じることなく、グラスに口をつける。

 

「おい、うちのドームに三年分頼むぜ」

「何故かしら?」

「簡単な話だ!コイツは、うちのドームにいる!」

 

女の眉が、ぴくりと動く。

男を見つめ、嘘の挙動がないか探す。

…ない。

 

「分かったわ。すぐにでも準備するわ」

「期限は?」

「二週間以内」

「オーケー。よろしく頼むよーん♪手塚司令官様♪」

「ええ。受け渡し場所の指定をお願いね、スクラップ屋さん」

 

男は、にっと笑う。

女は、その顔を見ることなく、工場をあとにした。






ベタベタテッパンネタ大好き夢枕悪です。
現場でも汗ベタベタですが、こっちは嫌いです。
エアコンの効いた部屋に、引き籠もっていたいです。

今回、四章後編クリア後、ずっと温めてきたネタを形にしました。
お調子者とか飄々としたキャラが、実は…的なベタベタテッパンなストーリーとなっております。
忙しくて、連載が止まってたり、お題イラストの方も手つかず状態ではありますが、ご容赦ください。
ぼちぼちと、そちらも書いていきますので、ゆっくり、まったり、じっくりとお付き合い頂ければ幸いです。

昼間の日射しが痛く、気温も上がっています。
夜でも救急車が走り、熱中症の危険があります。
水分、塩分の補給に気を付け、この夏を乗り切れますよう、熊本の地より願っております。

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