【▼・ᴥ・▼】子犬に転生したのでフリーレンに命の儚さを教えることにする 作:ニヒツ
この物語はフィクションです。
実在の猫や犬などとは一切関係ありません。
吾輩は犬である。名前はフランメ。
たぶんそうである。
少女が吾輩を呼ぶ際、繰り返しそのように発音する為、暫定でそう認識しているだけである。
だから、この『フランメ』という鳴き声は『吾輩の種族』を表す言葉かもしれないし、『ご飯』の合図かもしれない。
でも、そんなのはなんだって良い。
その言葉を発するたびに、少女は吾輩に微笑みかけてくれる。
だから、吾輩はそれに答えて彼女の顔面へダイブするのだ。
ワン
少女をひとしきり舐め倒して満足した吾輩は、ひとつ致命的な問題に気付いた。
笑い事ではない。
ここには吾輩と少女しかいない。
つまり、少女の名前を呼ぶ人間がいない。
吾輩は人間の言葉を話せない。
あくまで音と表情と匂いで彼らの感情を推測しているに過ぎない。
吾輩は誇り高き猫である。
受けた恩は返す。
受けた屈辱も返す。
『名前』という吾輩だけの特別な贈り物。
それと同価値のものを吾輩は知らない。
ただ適当に「ワン」と鳴いて少女のことを呼べば良いかもしれない。
でもそれは不義理なことだ。
家族のことを「おい」だとか「お前」だとかで呼ぶのと何も変わらないからな。
少女は犬の言葉を知らないから心配ないだと?
吾輩に学がないわけではない。
父母から犬語を習う前に生き別れたのだ。
誰か人間と犬と猫の言語がわかる鳥リンガルはいないものか。
まあ、そんな便利な者はいるはずないのだが。
しばらく共に過ごして分かったが、少女は元ぼっちである。
誰も彼女を訪ねてこない。
以前の同居人ですら『箱の中』にたくさん友人がいた。
でも今はぼっちではない。
吾輩がいる。
そして、発想を変えてみよう。
むしろ、これは吾輩が少女を独り占めできる最高の環境なのでは?
吾輩は天才なのかもしれない。
「フランメ、ご飯できたよ」
ワンワン 肉!!
吾輩と少女は肉を食った。
次の日
「フランメ、ご飯できたよ」
ワンワン 肉!!
吾輩と少女は肉を食った。
次の日
「フランメ、ご飯できたよ」
ワンワン 肉!!
吾輩と少女は肉を食った。
次の日
「フランメ、ご飯できたよ」
ワンワン 肉!!
吾輩と少女は肉を食った。
次の日
「フランメ、ご飯できたよ」
ワンワン 肉!!
吾輩と少女は肉を食った…
次の日
「フランメ、ご飯できたよ」
また肉!?
吾輩と少女は肉を食った…
次の日
「フランメ、ご飯できたよ」
ウゥ!!
吾輩飽きた。肉飽きた。
前世では同居人が毎日異なる贄を捧げてきた。
あと、たまにバチくそ美味いチュウチュウ吸うやつも食べた!!
だから、吾輩は家出した。
我儘!恩知らず!負け犬! ワンワン!
今の吾輩を見て罵る輩もいることだろう。
吾輩は人間に詳しい。
以前『この匂い』は嗅いだことがある。
とてもスパイシーな匂いだ。
前世の同居人が『シメキリ』だとか『テツヤ』とかひとしきり鳴いた後、急に倒れて動かなくなったことがあった。
猫である吾輩も流石に緊急事態だと感じ、身体を液化させて家から脱出したことがある。
吾輩は人間ではない。
つまり、あの倒れた同居人が不味い状態だとは分かっていても、助けることができない。
だから天才の吾輩はヒラメいた。
『ないなら他所から持ってくれば良い』
家から一歩外で喚き散らかし、他の人間の注目を集めた。
吾輩は知っている。
人間はうるさい音に集まる習性がある。
そしてそれは長く続けば長いだけ良い。
ピンポーン
「すみませ〜ん。おたくの猫ちゃんめっちゃ鳴いてますよ。ベランダに締め出しちゃったんじゃないですか? すみませ〜ん。ドンドン。あれぇ?電気付いてるしいるよね?テレビの音も聞こえてきてるし……えっ!?鍵開いてる。すみませ〜ん。鍵開いたままですよ。ってえぇッ!!倒れてる。救急車!110だっけ? もしもし?救急車来てください。えっ警察?事件?あっこれ番号違う119か! 違うそんなことより、警察の人! 救急車呼んでくれませんか? 隣の部屋で人が倒れてて!はい。えっ、なんでこの部屋にいるのかって?いやたまたま開いてて。いや彼女じゃないです。あ、空き巣でもないですよ。猫が鳴いてて・・・」
それから、吾輩の家にはたくさんの人間がやってきた。
そして同居人をどこかへ連れて行った。
吾輩は広い家に1人残された。
あの時、もっと早く異変に気づいていたら。
なにかもっとできたことがあったかもしれない……
吾輩は同じ過ちを二度も起こすような猫ではない。
同居人が倒れた時のような
そして、あの時の同居人も同じものをずっとずっと食べ続けていた。
お湯を注いでズルズル啜るやつだ。
健康だった時の同居人は魚や野菜を混ぜたり焼いたりして食べていた。
たぶん人間には『そういうもの』が必要なのだ。
だから、吾輩が肉以外に食べられるものを
今ならまだ間に合う。
そうすれば少女の匂いも少しはマシになるだろう。
だから待ってておくれ少女よ。
何か美味い食い物を我輩が取ってくるまで。
フリーレンは焦っていた。
フランメが見当たらない。
扉が開いたままだったので、家の外へ出てしまったようだ。
小屋の外には森が広がっている。
森には魔物も出る。
あの小さな身体では危険がいっぱいだ。
フリーレンは急いで家を飛び出した。
しかし、フランメは見当たらない。
習得した魔法の中に『迷子の犬を探す魔法』は存在しない。
「こんなことならフランメに首輪をつけとけば良かった。首輪のないあの子が相手じゃせっかく覚えた『首輪をつけた相手の位置をずっと感じる魔法』が使えない」
フリーレンは森の中を走る。走り続ける。
いや。
私はなんでこんなに必死になっているのだろう。
町でたまたま出会い、家まで着いてきてしまったから仕方なく面倒を見ていただけだ。
自分から出て行ったなら、放っておけば良いじゃないか?
フリーレンは足を止める。
自分の手を見つめる。
必死に草木を払い除け、切り傷までできている。
自分の服をみる。
泥だらけで、擦り潰れた草木の汁まで着いている。
服はこれ1着しかない。落とすのに苦労しそうだ。
自分の足を見る。
こんなに必死に走ったのは、マハトに敗れた100年ぶりだろうか?
靴擦れで足が痛い。
石に躓いて膝を擦りむいた。
100年前の敗北を思い出して震える。
もういいだろう。
これだけ探して見つからないんだ。
フランメは独り立ちしたのかもしれない。
犬のことなんてフリーレンにはわからない。
みんな彼女より先に死ぬ。
詳しく知ろうとしたところで無意味だ。
だからもう家に帰ろう。
子犬のことなんて忘れて魔導書の続きを読もう。
フリーレンの止まっていた足が再び動き出す。
一歩、また一歩。
しかし、それは前を向いていた。
フリーレンの家がある後側ではない。
『頭』ではこんなことをしても無意味だと分かっている。
それでも『心』はフランメにまた会いたいと願っている。
ワンワン!
この出会いで、救われたのはフランメだけではない。
フリーレンもまた救われていた。
彼女はエルフだ。
先代フランメと別れ、すでに500年は過ぎている。
その後、旅をして色んな人に出会ったが、先生といた時ほど長く親しい関係が続いた人物はいない。
心を許せるような人物はいなかった。
それをあの子犬フランメは1週間で、フリーレンの心の隙間に食い込んでしまった。
あの子といるのが楽しかったのだ。
ワンワンワン
だから、一緒に帰ろう。
帰ってきてフランメ。
ワン
幻聴ではない。
フリーレンの耳にも確かに聞こえた。
「フランメ!!」
フリーレンの目の前には、たくさんのキノコと果物をカゴに詰め込んだ『フランメ』がいた。
ぐるじぃ。
ギュッと吾輩を抱きしめて離してくれない少女。
少し目を離しただけで甘えん坊さんになってしまったらしい。
寂しい想いをさせたのであれば吾輩反省である。
しかし、見て見て大量の食べ物!
少女の家で見つけたカゴを持ってきて正解だった。
この森は豊かだ。
食えそうな草やら果物やら肉やらがたくさん転がっている。
吾輩のおすすめはこのネズミである。
吾輩、犬生初の狩猟成果である。
途中でお腹が空いたので、ちょっと齧ってしまったが、初の戦利品は少女に譲ろう。
咥えて少女の口に突っ込もうとするとガチめに拒否されてしまった。無念。
どうやら口に合わないらしい。
吾輩も猫から犬に変わって好き嫌いが変わっている。
人間はネズミを好まない舌なのだろう。
ふーむ、少し人間の身体にも興味が湧いてきた。
来世は一度人間になってみるのも良かろう。
あの図体のデカさならもっと大きいネズミも狩り放題だろうからな。
吾輩は色々考えながら、少女に抱えられて家に帰ったのであった。
ちなみに吾輩は翌日高熱でぶっ倒れた。
どうやら吾輩が取ってきたキノコの中に毒があったらしい。
咥えて引っこ抜いた際にいくらか摂取してしまっていた。
幸い大した毒ではないようで、少しばかり家の中で粗相をしてしまっただけで済んだ。
吾輩の粗相の後始末をしてくれた少女には感謝しかない。
面目ない。
翌日から少女は以前よりも撫でたり抱きしめたりする頻度が増えた。嬉しい。
尻尾パタパタ
少女の食生活も改善した。
吾輩が取ってきた果物や草を食べてくれたのだ。
後日お散歩がてら、少女にそれらの生えてる場所を教えて回った。
それを教えるたびに少女は吾輩を誉めてくれた。嬉しい。
なんやかんや吾輩は楽しい毎日を暮らしている。
ああ、それとようやく少女の名前問題に決着がついた。
分からないなら吾輩が新しく作ってしまえばいい。
吾輩から少女への唯一無二の特別な贈り物だ。
『名前』をもらったなら『名前』を返す。
完璧な等価交換だ。
今日から少女の名前は『
前世の同居人が嬉しい時に叫んでいた言葉だ。
つまり『とても良い言葉』ということだ。
……いかんなぁ。
前世の同居人に未だ未練があるらしい。
とは言っても、吾輩は前世でしっかり天寿をまっとうしている。
奴らもその後楽しく生きていることだろう。
吾輩は今世を『ヒンフリ』と共に楽しむとするさ。
■ 著者ニヒツのつぶやき
思ったより2話も評価がいいらしい。
だから、再び俺のところへ依頼が来た。
フリーレンからは「フランメはそんなこと言わない」と圧をかけられたが、俺だって犬の気持ちはわからない。
でもフリーレンを好きだったのは間違いないだろうさ。
まあ、俺が犬だったらこう立ち回ると考えながら書いてるので、ちょっとくらい俺に似てても許してくれよ。
ヒンメルは1話で感動し過ぎてリタイアした。
こいつは感受性が強過ぎるな。
魔族に同情して殺せなくなりそうで心配だ。
4話目ねぇ……『 お気に入り 』『 評価 』『 感想 』の伸び次第かな。
■ 著者ニヒツ
メイン作品『シュラハトくん見逃して』の登場人物。
物語を書いたり、フリーレンを餌付けしたりするヒンメルパーティーの騎士担当。
動物と暮らしていて、彼らとの別れを経験したことがありますか?
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ある
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まだない
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暮らしたことない
-
もうこの作品に満足した(続きは不要)